『ジャンク・メール』 というノルウェー映画をご存知だろうか?
日本じゃ14年前の1998年春頃に公開された作品で、作風的に東京での上映はいかにもユーロスペースあたりかと思いきや意外にも日比谷のシャンテだったんだけど、ボクは当時まだ名古屋にいたので、観たのはゴールド&シルバー劇場というストリップみたいな名前の劇場だった。
映画は、まるで仕事をする気のない、配達物をみーんな自分の部屋に溜め込んでおくような自堕落な郵便局員が街で見かけた美女を着け廻していたら、彼女が関わっている犯罪にいつしか自分も巻き込まれてしまうという内容。
それをトボケたユーモアと北欧映画らしい質感で描いてゆくという、なかなか風変わりな味のする犯罪ドラマだった。
撮ったのは、ポール・シュレットアウネという当時新鋭だった監督で、その後日本じゃ名前を聞かなかったんだけど、寡作ながら今までに4本の長篇を撮っていて4作目の 『ベイビー・コール』 が現在各国の映画祭で上映されている。
この、いよいよ本日から始まる北欧映画の祭典、「トーキョーノーザンライツフェスティバル」の目玉品の一つであり、個人的には、最大のおススメである 『ネクスト・ドア/隣人』 は、そんなポール・シュレットアウネ、3本目の長篇作。
で、これがどんな映画かといえば、『ジャンク~』 のようなユーモアはなりを潜め過分にセクシャル&バイオレンスな、決して言いすぎじゃなくデヴィッド・リンチやロマン・ポランスキーを思わす面白いサイコ・スリラーだったものだから、これはぜひ今回の目玉にしたいと、上映実現を目指し自前で字幕を付けるなどしてようやくここまで来たというワケ。
物語は、恋人に棄てられた男が、“隣人”だという女性に部屋の家具を動かしてほしいと頼まれるところから始まる。
ちょっとドキドキして部屋に行くと中には彼女の妹もおり、しかし2人はなんと自分の別れ話を壁越しに知っていたと、彼の傷ついた心を弄び始め、そこから男の日常は、とんでもない方向へと歪んでゆく。
姉妹はいったい何者なのか。
ネタバレ厳禁なので内容にはこれ以上触れない。
ただWEBやなんだに紹介を書く関係で何回か観ているんだけど、もう観るたびにスリラーとしての巧妙な伏線の敷き方とか、非現実感を醸し出す秀逸な画面設計に唸るばかりだし、編集も音響も素晴らしくて、ストーリーはわかっているのにグングン惹き込まれいつもラストはため息をついてしまう。
それというのも演出ほか技術面だけじゃなく役者の芝居が実に見事だから。
主人公役のクリストファー・ヨーネルは、一見、知的な雰囲気だけど心の奥にドス黒い欲望を抱いているある種の男の内面を繊細に演じて本当に上手だし、対する姉妹を演じたセシリー・A・モスリとジュリア・シャハトも決して美女ではないんだけどいかにもエロくて蠱惑的。
中盤、妹役のジュリア・シャハトが主人公を誘惑するシーンが出てくるんだけどそこなんてもうどエロ(しかも巨乳!)。
こんなエロ姉妹が隣にいたらどうします?
因みにボクのリアル隣人は窓辺に鉢植を置くような心優しげな男性です。
正直、ネタ自体は決して新しいものじゃない。
勘のよい人は、きっと途中で“あの映画”や“あの映画”を想い出して、先を読んでしまうかもしれない。
だけど、リンチやポランスキーと思わせておいて、実はヒッチコックを狙ったと思しきオーソドックスな作風は(音楽も一部、バーナード・ハーマン風!)オーソドックスだからこそ自信と強度に充ちていて、先が読めても決して飽きることはないと思うし、ラストには異様な哀愁も漂って胸を締め付けられるのは間違いない。
よくよく考えたらこんなサイコ・スリラーらしいサイコ・スリラー、最近じゃチョット珍しいぐらいなんじゃないだろうか…?
…映画祭を主催する側の人間が1本の上映作品に対してここまで肩入れをするのは本当はよくないことかもしれん。
でも、本作があったからこそボクが映画祭を頑張って宣伝する気になったのも事実。
会期中、上映は3回。
由あって妙な時間割だけど、ぜひ 『ネクスト・ドア/ボクの隣の巨乳姉妹』 モトイ 『ネクスト・ドア/隣人』、観に来てください!!
ブログ「瓶詰めの映画地獄」 http://eigajigoku.at.webry.info/
「トーキョーノーザンライツフェスティバル2012」 http://tnlf.jp/
[2月11日(土・祝)-17日(金)]@渋谷ユーロスペース&アップリンク・ファクトリー