2012-02-01

『生きてるものはいないのか』クロスレビュー:静かなパンクロック このエントリーを含むはてなブックマーク 

 今から30年以上前の学生時代に友人に誘われて『爆裂都市』という映画を観た。監督は若き鬼才、石井聰亙。全編に渡り繰り広げられる若者の狂気。暴動を描いたというよりは、映画が暴動を起こして、観客を置いて突っ走ってしまった感があった。まだ十代だった私には衝撃的ではあったが、よい映画とはお世辞にも言えなかった。
 その後、石井監督の作品と向き合う機会がなかったが、この度『生きてるものはいないのか』を監督自身の挨拶も含めて観る機会を得た。
 病院を附設した大学のキャンパスが舞台。BGMは最低限で淡々と物語は進む。登場人物たちが突然苦しみの末、ひとり、またひとり死んでいく。病院の地下で米軍が開発したウィルスが原因なのか。実はそんなことは問題ではない。突然の死が登場人物たちに、いつどのように訪れるのかが物語の中心になっていく。生きゆく課題も将来の夢も家族の絆もすべてが唐突に意味がないものに変わる。ラストシーン、絶望感を描き出した監督の演出に拍手!CGを使った短いシーンが効果的だった。
 石井監督は変わっていなかった。この映画はスローで静かなパンクロックだった。30年経って、監督の主張が胸に響いてきた。
 80年代から90年代に流行した小劇場ブームを知っている人にはこの映画は馴染みやすいだろう。原作は岸田賞受賞の戯曲。ほぼ完全に舞台が巧みに映像化されていると思う。独特の間やセリフ、不条理なギャグも演劇っぽい。たいへん若い役者さんたちは決して演技が上手いわけではないのだが、それぞれ絶命するシーンに焦点を合わせて、それこそ死に物狂いの演技をしている点に心を動かされる。彼らの今後の活動に期待したい。

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zenmal1110

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