「ポール・マッカートニーだったよ。今の人。」と夫が耳打ちする。
2006年頃のパリ。私たちは華やかさを増したクリスマスシーズンのシャンゼリゼ通りにいた。ちょっと遅めのお昼の時間。
この街では俳優や歌手を見かけることはたびたびあっても、騒いだりサインを求めたり、写真を撮ったり。というのは見たことがない。
近くには最高級ホテルの「ジョルジュⅤ」がある。ホテルのツリーのデコレーションを見物に行くと、ベージュの質の良さそうなミディアムロングのコートにジーパン姿のポール・マッカートニーが見えた。そして彼は当時三つ星だったメインダイニングの「Le cinq」に消えていった。穏やかに見守る私たちに微笑んで。
以来、私の中でポールは「その人自身が最高のドレスコードなのだ」ということが忘れられないでいる。