2012-01-01

『ヒミズ』クロスレビュー: PG-12の青春映画、その縛りを補って有り余る程の被災地描写で園子温は観る者を押しきる このエントリーを含むはてなブックマーク 

 園子温監督の映画は直近の三作しか観ていないが、「愛のむきだし」や「冷たい熱帯魚」、そして現在公開中の「恋の罪」と、テーマやストーリーはどれも違えど観る者を凄まじいパワーで引きずり回し、上映後はぐったりする程の重量感+それぞれ何かを持ち帰らせる傑作揃いだ。良くも悪くも園子温ワールドにボコボコにされた者は、その映画体験に麻薬的な魅力を憶え、この作品に自然と寄せられるであろう。しかも今回、監督が自ら持っていったという原作はあの古谷実の漫画「ヒミズ」である。だが、監督本人が以前から幾度となく前置きしている「震災を受けて、これまでの作風から大きく転向せざるを得なかった、シナリオを大きく描き直さざるを得なかった」という発言から言い訳のような後ろめたさを感じており、作品の完成に不安を抱いていた。
 しかし、その不安はおそらく"史的にも貴重"であろう冒頭の被災地の映像で一気に吹き飛ぶことに…。ーこれは反則ギリギリである。劇中に幾度となく悪夢のように差し込まれる「圧倒的」過ぎる、「胸に刺さる」被災地描写は、PG-12で収まる(はずのない)暴力描写や原作と相対する希望的ラストへの疑問や不満を解消させ、染谷将太と二階堂ふみのエネルギッシュな演技は行き場の無い結末を感動に変え「マルチェロ・マストロヤンニ賞」を受賞させるに至り、友野など主人公周辺のキャラ設定を大幅に変えながらもストーリーはぶれずに原作を絶妙にアレンジしながら至極のエンターテインメントとして昇華、そして震災以降の日本人に確実に意識の「チェンジ」を迫るメッセージとして、堂々と押しきる。麻薬で例えるならハード・ドラッグ的である過去の三作品を未見の者は、ゲートウェー・ドラッグとして絶妙に調合された、このソフト・ドラッグ的映画を入口にして興味を持ち、フィードバック・中毒患者にさせられる事だろう。そして、その結果、園子温監督が現状の生温い日本のエンターテインメント業界に鉄槌を喰らわす重要人物であり、テレビ・広告資本の程度の低いゴミ映画を我々が「拒否」する意識に「チェンジ」させてくれる事を確信させる2012年の重要な作品である。

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taikimezaki

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