この映画は、ポールマッカートニーが主催した、9,11テロ事件の為のチャリティーコンサートのドキュメンタリー映画で、ライブをやろうとポールが発案し最後ライブ当日という流れを時間と共に進んで行くというストーリーで、いってみれば記録の様に撮影したポールの日常を起きた順番に流しただけでストーリー的にはシンプルなのだが、その映像のまとまりが良いので実に観易くテンポがいい。このチャリティーライブに向けて動き出したポールを、ニュースの密着取材の様に同行のカメラが追っている。その活動の最中にテレビ出演、ラジオ出演、アルバムレコーディング、ライブの打ち合わせのシーンがあり、そしてライブ当日の楽屋での会話、ライブ参加ミュージシャンとのやりとり、といったポールの様々な姿とその裏が見れるのだが、その映像のまとめ方(編集)が、時間軸をばらばらにせずに時間通り進んで行っていたので観ていて判り易かった。これは一体なんのシーンなんだろう?と疑問に思う事が全く無い。ドキュメンタリーとしてそこはとても重要だ。ロック映画にありがちな、ドキュメンタリーにも関わらず、芸術性を狙った無駄に長いシュール(ゴダールの様な)な映像が入っていると、内容が入って来ない。ドキュメンタリー本来のリアル感も損なわれる。
さらに特筆すべき点として、テレビ等の出演の収録前、収録直後のポールの素の様子が、撮った素材そのままの状態で上映されていてファンにとっては嬉しい。この頃のポールはドライビングレインという傑作を製作していて、この取材中にレコーディングシーンがほんの少し出てくるのだが、From A Lover To A Friendのレコーディング(作曲?!)シーンで感激が止まらなかった。せっかくの取材映像素材を、上から音楽を当ててポップに編集されて台無しにするという事無く、生のリアルな間や、スタジオの廊下での雑談、エレベーター内でのぼやきなどが惜しげも無く使われていて、人柄や本音など人間・ポールマッカートニーが映し出されていた。監督としての能力がもの凄く高いと思った。ジョージのドキュメンタリーもアルバートメイスルズに作って欲しかった。ドキュメンタリー映画としてとても上質で実に見応えのある内容だった。
大物アーティストが何気なく出てくるのもこの映画のすごい所で、大物アーティスト達の裏の素顔の様子がしっかり映し出されている。ビリージョエルの様子やピートタウンゼントのあの雰囲気。エリッククラプトンの堅実な姿勢、などなど、彼らとポールの関係性が良く解る。その出てくる人々の全てがポールへの尊敬の気持ちが表れている姿なども映し出されている。これまで殆どなんの映像にもそういう姿を見た事のないスター達の会話シーンもとても見物だ。
映画のハイライトはライブ当日であり、その部分もとてもいい。ライブ本番の舞台のシーンと、その同時間同場所の楽屋でのシーンが交互にでるのだが、そこにおけるリアルタイム感がたまらなかった。ライブがいよいよ始まったその時のポールの様子出てきたり、フーの演奏が始まったら、楽屋でモニターを見ているポールがフーについてなにか話しているのが出てくる。この映画を見ている観客が、ついに始まったライブシーンを観ていると、映画に出ているポールがそれを解説してくれているというシンクロする時が多々あった。まるで自分もそこにいるかの様に錯覚した。ボンジョヴィファンというポールの娘のステラがステージに観に行ってポールのもとに帰ってきた時のフーに対する言葉がとても素敵で僕は共感できた。
どうしてポールマッカートニーがこのライブをやろうとしたのかという理由を、全編を通じて本人が様々な取材や、またはバックステージでの立ち話などで話すのだが、その度にポールの中に介在している一貫した何かが映像から読み取れればこの映画をちゃんと感じれたという事になるのではないだろうか。映画としては事件の悲壮感や緊迫感は特にテーマでは無い様で、あくまでポールマッカートニーの動きに合わせて進んで行っていたが、全編モノクロにする事で忘れてはならない悲惨な出来事やあくまで楽観的な感情では無いんだという制作者のメッセージがあるのではないだろうか…ほんの少しだけ。
2011年12月 ラングアップレコーズ・マカロック