2011-04-18

『ハリウッド・バビロン』クロスレビュー:それでもハリウッドは昇る このエントリーを含むはてなブックマーク 

 長らく絶版となっていたケネス・アンガーによるハリウッド・ゴシップ本が出版社を変え新装丁で復刊された。分厚さに少し慄いたものの、ペーパーバックサイズのおしゃれな装丁とふんだんに使われた写真とに、これは確かに心躍る本だなと思い、読むと怪書ぶりに夢中になってしまった。
 アンガーと言えば、実験的な映画を撮るサブカルチャー界の人というイメージを持っていたので、ハリウッドの映画史を綴るこんな大著を手がけていたことがまず意外な気がするが、彼はハリウッドで生まれ育ち、映画スターとなるのが夢だったのだ。だがそれは叶わず、彼はひとりで映画を撮り始める。代表作の『スコピオ・ライジング』は革に身を包みバイクにまたがる不良少年たちの映像にポップ・ミュージックを併走させるものだ。だが相性のよい音楽をBGMとして合わせているのではなく、柳下毅一郎氏が『Ⅱ』の解説で書いているように、音楽の歌詞を聴かせているところが画期的なのだ。例えばレザーを着込むシーンに「ブルー・ベルベット」の歌詞をかぶせて少年たちのフェティシズムをあぶり出すというように、それぞれの世界を持つ音楽と映像とが共鳴し、隠れている別の世界をチラつかす。他愛無く見えて、性や死の禍々しさがそこにはあるのだ。
 これは本書で彼が暴いたハリウッドそのものの姿ではないだろうか。大衆が憧れるスターたちは外から見る限りでは若々しくて溌剌としているが、1枚めくれば欲望がぶつかり合う世界で、彼らは乱痴気騒ぎの餌食となって闇の底へと堕ちていく……。
 おぞましさに震えたり気が滅入ってくるようなエピソードがこれでもかと披露され、ハリウッドとはなんて恐ろしいところなのだろうかと思うが、そうして撮られた映画がどれほど完璧に美しいかを考えると、やはりそこには魔術的な力が働いているのだと信じずにはいられない。
 チャップリンやジミー、ブラック・ダリアなど有名な人物や事件もあれば、まったく知らない人名も出てくるが、写真も多く興味を惹かれるものばかりだった。手元に置くとこれから映画を観るのに役立ちそうな、実用的な本でもある。

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深谷直子

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深谷直子

“ナオです~。”