主人公のエル・トポは、映画の中盤で最強ガンマンの称号を得るべく、強豪たちに決闘を申し込むが、それぞれ修行僧のような彼らと向き合ううちに、自分が信じていた価値観が崩れていく。
「他人に勝つこと、自分の欲望を満たすことより、大切なことがあるのではないか?」
そして、『エル・トポ』という映画もまた、観る者の常識を崩して、思い直すことを迫るような映画だった。
普通、映画のストーリー展開には何らかの意味が感じられるが、『エル・トポ』は予定調和を否定するかのように、先入観や常識を覆し続ける。
エル・トポのキャラもストーリーも頻繁に予想を外して変化していく。
善悪がはっきりと分かれた解りやすさはなく、「善行も悪行も相応の報いを受ける」といった、気持ちのいい展開もない。
これら予定調和をはずしていることは、人間の善悪とか本質に考えを及ぼすとき、この世は映画のようにドラマチックだったり、出来事に意味や因果関係があるとは限らないので、観る者の意識を狭い映画の世界から、より広い現実の世界に向けさせているのではと受け取れる。
こう書くと、『エル・トポ』って特殊な映画で、観る側も特殊で深い観方を要求され、苦行のような気分にさせられるのでは?と思われるかもしれないが、実際には重苦しさは無く妙にあっけらかんとした映画で、こだわりを捨てて映画を丸ごと受け入れる気持ちで観れば、より大きな世界に解放された自由な気分になって、気楽に楽しめる作品になっている。
そんな、大きく構えてないところが、この映画の一番の魅力だと思う。