原題は「LET THE RIGHT ONE IN」
「入っていいの?」
「いいよ」
家人に招かれなければその家に入れない
というのはヴァンパイア伝説のお約束。
そう、これって今巷に溢れる吸血ものとは一線を画した
正統派ヴァンパイア映画なのです。
「ぼくのエリ」という邦題からは想像できないスプラッターシーンも。
このカテゴリーを上映したことのない銀座テアトルシネマでの公開。
何も知らずに観に来ちゃうオバサマたち、
いるんでしょうねぇ・・
そういう「うっかり」観ちゃった、日頃「ホラーは苦手」という人たちから
きっとジャンルの垣根が外れるんじゃないか・・・
この作品にはその力があるような気がします。
ヴァンパイアに生まれついてしまったエリ。
12歳の少女のままで200年も。
誰かを頼らなければ一人では生きていけない少女のヴァンパイアが出会ったのは
いじめられっ子の孤独な少年。
二人の間に芽生えたのは恋と呼ぶにはあまりに切なく秘密めいた関係でした。
すぐに日の暮れるスウェーデンの冬。
しんしんと降り積もる雪と厚い氷が
色も、音も、おぞましい猟奇事件もすべてを覆いつくします。
ショッキングな連続殺人事件におびえる人々、
学校生活、カフェでの談笑、
旧ソビエトの脅威を伝えるニュース映像、
81年のストックホルム郊外の普通の公営団地の日常が
画面から伝わってきます。
ブラインドの上げ下ろし、床の軋む音、
服や毛布の質感、そしてエリからただよう強い金属臭まで
臨場感のあるリアルな描写です。
グロテスクなシーン、
吸血行為のエロチックな気配、
児童を扱う作品としてのデリケートな部分は
あえて強調しないものの、
ファンタジーでごまかすことなく
ストレートに現実のこととして伝わってきます。
ふたりが壁越しにメッセージを伝えあう「モールス信号」
原作本の邦題「モールス」はここからきているのですが、
作者のリンドクヴェストは映画の脚本にも参加しており、
この長編小説の詩情を損なうことなく、
細かいディテールを積み重ねて見事に映像化されていると思いました。
そして映画の方は、ラストにほんのりハッピーエンドの味付けが・・・
だけれど、永遠に12歳のままのヴァンパイアのパートナーとして
生きる道を選んだオスカー。
エリが「パパ」と呼び、悲惨な最期をとげる「あの彼」と同じ
末路しか彼には残されていないのに。
なのに、この幸福感はなんなんでしょう?
スウェーデンが生んだ、この奇跡的といえる
珠玉の作品が、たくさんの人の目に触れますように・・・