2010-07-08

『ぼくのエリ 200歳の少女』クロスレビュー:ヴァンパイアの少女に恋した僕の選択 このエントリーを含むはてなブックマーク 

真っ白な雪に、赤い血飛沫が飛ぶ。繊細なのに、鋭く空気を切り裂く。クールなスタンスをとりつつ、心はほっこり温かくなる。相反する要素を内包するこの映画は、複雑な12歳の内面をそのまま表しているのかもしれない。少年少女の心の動きを繊細に描いたホラー。ジャンルの新鮮さもさることながら、映画を特別なものにしているのは、その映像・音楽・主演二人の演技である。

カメラは少年オスカーの生活を中心に追いかけてゆく。昼は学校・母親との会話、夜はエリとの時間。観客は自然とオスカーの心の動きに寄り添って、世界を見る。被写界深度の浅い映像は、白い雪に覆われた地域の閉塞感、オスカーの孤独を引き立たせると同時に、この世代特有の浮遊感を漂わせ、私たちの意識を集中させる。光の使い方、構図、音の効果など、丁寧に作りこまれた印象を受けるが、決して嫌味に感じない。もうひとつ気に入ったのは、二人の間にある親密な空気の表現である。性的な描写はほとんどないのに、官能的にさえ思える。二人の横顔を交互に映す。二人の息遣いが聞こえる。それだけで、距離の縮まりつつある独特の緊張感を観客も共有する。これに限らず、とにかく寄りのシーンが多い。エリの瞳の奥の悲しげな表情、髪についた水滴、少年の口の端の動き、肌の質感まで、丁寧に捉えていく。心の微細な動きが、じわじわ伝わってくると、もう血まみれの姿さえ愛おしい。

エリは、オスカーの孤独が引き寄せた鏡である一方、足りないものを持ちあわせた相補的な存在とも思える。色素が薄く、自己主張の少ないオスカーに対して、エリはエキゾチックな顔立ちに、強さや逞しさを持っている。エリはオスカーに対してポジティブな影響を与えるが、それはまず他者を招き入れるところから始まった。心の繋がりは、相手が何者でも、変わらないのか。相手を受け入れることができるか。まだ幼さの残るオスカーに、大変な課題が出される。

二つの世界を隔てる境界が随所に見られる。それは冷たい外気と温かい内。光と闇。私とあなた。人間とそれ以外のもの。過去と未来。時には反射で自身の姿を意識させる。モールス信号は二つの世界をつなぐ手段であり、広い世界の中でひっそりと肩を寄せ合う二人は、お互いの存在を振動で確かめ合っていた。このラストに安堵感をおぼえてもいいし、彼らの行く末を案じ薄ら寒くなってもよい。それでも人間は自分の居場所が必要なのだと確信したり、暗い社会や家庭環境に目を向けてもよい。ドラマに深みがあるため、単なるティーン向け恋愛映画にとどまらない魅力を持った作品だ。

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