2007年2月に撮影され、2008年に海外では公開されていた作品。
話題のヴァンパイア映画が、ついに日本に上陸した。
北欧の美しい雪国の風景、抒情詩のような映画でありながら、一方で、非常に残酷で哀しいヴァンパイアの悲運を見事に描いた作品。
ヴァンパイア映画とは、こうあるべきだ、と思えてしまう傑作である。
まず、子役の演技力が素晴らしい。
孤独な少年オスカーを演じるのはカーレ・ヘーデブラント。演劇にも出演をしている子役。
金髪の美しい少年。こちらが女の子か、と見まがうほどの子である。
一方、ヴァンパイアの少女エリを演じるのは、リーナ・レアンデション。
映画への出演は初めてだそうだが、見事に悲哀に満ちたヴァンパイアを演じ、表情や目の動き、さりげない台詞に息を吹き込める、大きな目が印象的な美少女。
この2人の初々しくもあり、恐怖に満ち溢れてもおり、でも止められない「初恋」の雰囲気が、純粋な愛で包まれており、温かく感じる半面、非常に厳しい現実がそこにはあり、悲哀に満ちた内容になっている。
ストーリーも非常によくできている。
タイトルや、チラシ等の絵柄からは、純粋な12歳という微妙な時期の少年、少女の恋物語を思わせるが、もちろんそんな雰囲気もたっぷり味わえる甘酸っぱい作品である側面もありつつ、ヴァンパイア映画としての残酷さや冷血さ、そしてヴァンパイアの背負う哀しい運命も見事に描いている、ある種のホラーでもある。
ヒューマンストーリーと、ラブストーリー、ホラーが一つになったような作品だ。
そして、映像が非情の美しい。
実は、この映画の舞台は1981年。
それがさりげなく映画のディテールに表わされる。
そこに気付けるかどうか、でこの映画の時代背景への認識が変わって来るだろう。
非常に細かい描写にも気を配られた作品なのだ。
暗い中で銀色にキラキラと輝きながら降り注いで来るダイヤモンドダスト、樹氷、雪に覆われたスウェーデンの白い冬。
時折出てくる血の赤が、その白と対照的に映し出される。
また、黒も印象的に使われている。
早い夕暮れ時を迎えるため、下校時間には夜になってしまっているストックホルム郊外の小さな町。
その夜の風景や、薄暗い部屋を映し出している点もみどころ。
最後に、音楽が極めて素晴らしい。
場面に合わせて、ギター、ピアノ、バイオリンなどの弦楽器を上手く使い分け、演出効果を高めている。
曲も非常にいいものを作っている。
また、音楽ではないが、音も非常に重要な要素をこの映画では持っている。
是非、その音も楽しんでもらいたい。
『トワイライト』でヴァンパイア映画ブームが到来したかのような今日だが、ある種無敵で極めて美しい幻想的な存在としてヴァンパイアが描かれ、思春期の胸が締め付けられるような恋心を描いた『トワイライト』シリーズも、傑作には間違いない。
熱狂的ファンをあれだけ世に作り出し、全4作が予定されているほどの巨編。
確かに、あれも面白い。
しかし、純粋なヴァンパイア映画としては、『ぼくのエリ 200歳の少女』の方が質は高いと感じた。トワイライトでも描かれてはいるものの、ヴァンパイアの宿命の物哀しさ、人間の血を吸うという本質、そういったものが、より一層深くリアルに描かれており、12歳という微妙な年齢、まだ大人にはなりきれない子供が主人公である点も、非常にストーリーに重みを持たせており、2人の通信手段であるモールス信号も印象に残る。
意味ありげなラストまで、美しくて切ない、抒情的でありながらも残酷、そして、温かい愛で包まれているようでいて孤独と悲哀を背負った運命の厳しさをも感じられる、非常に秀逸な作品。
こういう映画こそ、もっと大々的に公開してもらいたいと思う。
なお、ハリウッド・リメイクが決定しているようだが、北欧ならではの美しい情景をバックにした繊細な作品であり、これだけの味がハリウッドで期待できるか、と言われると、おそらくオリジナルの方が質の高さは断然になるのだろうな、と思える。
何でもかんでもハリウッドはリメイクするのをやめて、ハリウッドならではの規模や迫力ある作品を送り続けていればいい。
こういう抒情的な作品は、北欧スウェーデンに任せておけばいいのではないか。