2010-05-28

『ザ・コーヴ』クロスレビュー:アカデミー賞は受賞したけど… このエントリーを含むはてなブックマーク 

 日本で行われているイルカ漁を扱ったドキュメンタリーで今年のアカデミー賞を受賞したこともありとても興味があった。
 リック・オバリーは『わんぱくフリッパー』の調教師だったがイルカが死んだことからイルカ解放活動家になった。彼と撮影隊が和歌山県太地町で食用にするために密かに行われているイルカ漁をカメラに収めようとする。その課程はスパイ映画を観ているよう。ダイバー、特殊効果マン、軍経験者、素潜りチャンピオンなどエキスパートを集めて、綿密に作戦をたてて盗撮に成功する。入り江(コーヴ)に追い込まれて殺されたイルカの血で海が真紅に染まる映像は衝撃的だ。おそらくこれを観た人(特に欧米人)は嫌悪感を抱くと思う。
 捕鯨の問題と同じで(イルカも鯨と同種だそう)結局は水産資源保護と食文化の兼ね合いになると思うのだが、自分たちと異なる食文化を認めないという考え方は理解しがたい。劇中でリック・オバリーは“日本人のほとんどがイルカを食べているということを知らない。こんなものは文化ではない。”と発言しているが、たとえ日本の一部の地方、県、地域だけで行われているものであっても、伝統的に継続しているのであればそれは立派な文化ではないだろうか。
 監督はイルカの保護と同時に、イルカの肉には高濃度の水銀が含まれていて、食用とすることの危険性も訴えている。肉の各部位ごとの濃度の検査、食用としている地域としていない地域の住民の健康状態などを検証し、掘り下げていけばと思うのだがそれがない。監督は“問題提起をして考えて欲しかった”というように語っているが、結局は“イルカを殺すこと=悪”というプロパガンダ的な映画になってしまっているように思う。こんなものか、というのが正直な感想だった。

キーワード:


コメント(0)


ぶん

ゲストブロガー

ぶん