この映画の存在を知ったのは、松崎康弘氏の「サッカーを100倍楽しむための審判入門">サッカーを100倍楽しむための審判入門」(←必読書!)で言及されていたから。以来、ずっと見てみたいと思っていた作品がこうして公開されたことは、本当に喜ばしいことです。
ひとことで言うならば、「W杯開幕前に見とけ!」ということでしょうか。わずか77分の上映時間ながら実に見どころ満載で、過不足なくまとまったすばらしい作品でした。これを見てからW杯南アフリカ大会をTV観戦すると、ひと味もふた味も違った見方ができるでしょうし、ごひいきチームが早期敗退しても(笑)最後まで楽しめることでしょう。
映画は、ユーロ2008のグループリーグに始まり、決勝で終わります。登場するレフェリーは、チャンピオンズリーグなどでおなじみの人ばかり。特にフィーチャーされているのが、イングランドのハワード・ウェブ。次に登場時間が長いのが、決勝の笛を吹いたロベルト・ロセッティ。
この作品には、ナレーションもモノローグも存在しません。そのときにあったことを記録し、ストレートに見せていくだけ。画面に登場するレフェリーの名がいちいち字幕で説明されることもありません。カメラは、試合中のレフェリーの動きを追い、ロッカールームやホテル、会議室の様子をレポートし、彼らの家族がTV越しに応援する姿をとらえていきます。
まず驚いたのが、レフェリーたちがつけているヘッドセットでの会話をそのまま聞けること! 彼らはどんな会話をしているんだろう!?とずっと疑問に思っていたので、長年の疑問への答えが見つかり、感動すらしてしまいました。試合を見ていると主審だけが目立ってしまいますが、副審や第4の審判を含めた「チーム」が「レフェリー」なんだな~と実感。
主審と副審は同国人からなるセットで試合に臨みますが、ヘッドセットでは何語で会話をしているのか、選手たちに話しかけるときは何語なのか……そんなこともしっかりわかります。ぜひぜひ映画で確認してみてください。
それにしても、レフェリーというのは何と過酷な職業でしょう。ひとつのジャッジがスタジアムの数万人の怒りと喜びを制御し、TV画面の向こうの数億人の感情にも火をつける……。それによって、まったく関係のない家族までもがとばっちりを受けることさえあるのです。
レフェリーの判定は、別の人間たちによって厳しく判定され、レフェリー自身の評価となって自分たちに戻ってきます。一瞬たりとも気が抜けない緊張感と、責任と孤独がレフェリーたちには常につきまとっているのです。
ユーロ2008はTVで見ていましたが、ハワード・ウェブのジャッジはあまり良くなかったという記憶があります。決勝トーナメントの笛が吹けなかったのも仕方がないかな~という無責任な感想の陰には、これだけの事実があったのですね……。実をいうと、あまり好きな審判ではなかったのですが、ちょっと見る目が変わってしまいました。
もちろん、レフェリーたちも日々切磋琢磨して進歩していきます。ユーロ2008では不本意な形で会場を去ったハワード・ウェブは、南アフリカではどんな審判ぶりを見せてくれるのでしょう。それ以前のチャンピオンズリーグ決勝の笛も吹くそうですから、ますます期待してしまいます。
それにしても、ロベルト・ロセッティさんはイケメンでした(笑)。
改めて、このような映画製作に全面協力するUEFAはスゴいな~という感想も抱きました。せっかくレフェリーについての映画を作るのであれば、その真実の姿を知ってもらおうととことん協力したのでしょうね。はたしてFIFAだったら、こういう作品をつくれるかな~!?とも思ってしまいました(FIFA協力映画といえば「GOAL!」シリーズですもんね~)。