2010-04-28

あなたは本当にあのサビーヌなの?——映画『彼女の名はサビーヌ』—— このエントリーを含むはてなブックマーク 

 昨晩は、優れたドキュメンタリー映画を観る会主催で上映されている作品の一つである『彼女の名はサビーヌ』(原題“ELLE S'APPELLE SABINE”、監督・脚本・撮影:サンドリーヌ・ボネール、フランス、2007年)を観に下高井戸シネマへ、小雨の降る中いつも通り往復ウォーキングで。

 http://www.uplink.co.jp/sabine/top.php

 上映開始五分前に到着。既に日本でもDVDが発売されている作品なので、『マイマイ…』の時のような心配はないだろうと思っていたら、入り口で満席の可能性が云々との話をされてビックリ。実際に既に90パーセント前後の座席は埋まっており、いつも座っている最前列の通路側は勿論もうダメでした。

 本作はフランスの女優サンドリーヌ・ボネールが、一歳下の「自閉症」の妹サビーヌの過去と現在を撮ったドキュメンタリーです。サビーヌは「自閉症」の子どもとして、学校でイジメに遭い自傷行為に走ったりしたことはあったものの、大勢の兄弟姉妹に囲まれて自宅で落ち着いた生活を送り、読書を楽しみ英語を自習しピアノを習い家族のために編み物をするなど、映像から判断する限り障碍を感じさせませんでした。しかし家庭環境の変化に対応出来ないサビーヌは、徐々に家族に暴力を振るうようになり、やむを得ず精神病院に入院させられ、そこでの拘禁や向精神病薬の投与で、外見も中身も変わり果ててしまいます。現在のサビーヌは、僕(38歳)と同年代とは思えない程ブクブクに太り、目は虚ろで口を半開きにし猫背で、敢えてこういう言い方をしますが、とても…とても醜いです。そればかりではなく、衝動的な暴力や罵詈雑言、疲れ易くすぐに横になりたがるなど、共同生活を送る施設の他の患者さん達の中でも、かなり扱い難い方のように見えました。

 しかし断続的に映される八ミリビデオの中の若きサビーヌには、どこにも奇異なところはありません。家の庭でバギーに乗ったり、波打ち際ではしゃいだり、海辺の街を歩いたりする様子は、とても敏捷で運動能力は健常者と比べても遜色ありませんし、会話も異常な繰り返し等一切無くスムーズです。その表情にも異様な要素は全くありません。何よりも髪が長くスラッとしていて、とっても美人さんなのです…今の姿からは想像出来ない程に!

 色の好み(赤と紫が好きなよう)などから僅かながらの連続性が伺えるものの、本当に悲しくなる程五年間の入院が彼女を壊してしまったようです。作品の最後で入院前の自分の姿を映した映像を観ながら涙を流すサビーヌの姿が、自分が失ったもののの大きさを彼女自身が痛感しているように感じられ、とても痛々しかったです。

 僕自身は、サビーヌのような精神疾患を患う人と密接に接した経験はありません。ですからこの映画を観て、「自閉症」をはじめとする精神疾患を患う人々の置かれている状況等については、公式ページでのボネール自身や専門家によるコメント以上(以外)のことは言えません。ただ最近考えていること、すなわち、業績原理や競争原理によらない人間理解、と言うか自己理解について、例えば老子が言うような(悪しき意味での)社会的な次元からではない自己理解について、何か考えさせられるようには思いました。

 帰宅後シャワーを浴びてから、大根とがんもどきの煮物、うどん、人参のピリ辛洋風サラダを肴に熱燗で日本酒。最近久しぶりに日本酒づいています。

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知世(Chise)

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