2010-04-15

部屋干し絹子さん このエントリーを含むはてなブックマーク 

祖母の姉は、私が生まれる数年前に離婚したらしい
大きな平屋に一人で住んでいて、庭には青唐辛子や白粉花が地面を覆い隠すほどに茂っていた
物心ついた頃からマンション族だった私の目には、風が吹くと歌う引き戸や鼈甲色に熟した柱が、非常に新鮮に映った

彼女の住む家までにある長いトンネルを抜ける車の中で、今日は裏戸の縁に座ってツインクルを食べようとか、ダイアル式テレビのつまみを回そうとか、母の憂いた声を無視して心躍らせていた

ブリキの机の上のクッキー缶の中で、万年筆や色鉛筆が沢山寝そべっている
アメピンで綺麗にまとめたうなじに揺れる、灰色の後れ毛が妙に色っぽくて
こんな風に歳を重ねてゆけたらどんなに素敵だろう、と
カンバスの上を撫ぜる彼女の右手を眺めながら、いつも思っていた

当時あまり身体の強くなかった私から、アルミニウムのシートを奪い取って
薬を飲むと、情悪が溜まって良く無いといって、母を酷く非難する姿に
私の知らない鼻歌を口ずさみながら絵を描く、奔放で芯の通った西の魔女は無く
大好きな母を罵る、黒くて弛めない恐ろしい東の魔女が在った

彼女の描く絵が大好きだった
クリムトよりも、 石田徹也よりも、高校時代の友人が描く絵よりも、今でも一番好き

キーワード:

/ 部屋干し / ダイアル


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hyakusoku

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“嘘つく振りをするのは、本当はどうでもいいからで、 体裁や同情を以て動く私はツマランやつです”


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