心臓をわしずかみにされたようだった。自分の中の生きることへの空虚感、焦燥感や弱さを指摘されているように感じたからだ。テジュが夜中に寝巻き姿、裸足で町を全速力で走る姿に自分の置かれた立場や生きることの閉塞感が伝わり胸を突かれた。そんなテジュにサンヒョンが靴をはかせる場面が最も印象に残っている。やむにやまれぬ思いがあり、猟奇的な場面であればある程、悲しみが大きい。ソン・ガンホは、「JSA」や「殺人の記憶」で見せた中年のギラギラした従来のイメージを覆し、体中の油がぬけたような聖職者姿で登場。それが何よりも作品にかける意気込みを感じさせる。どの俳優も目の演技が素晴らしい。特にソン・ガンホの苦悩の中悲しみを讃えた瞳に引き込まれてしまう。かなり生々しい場面が多いが、キム・オクビンの純粋無垢な瞳に救われる。また、韓国のオモニと言われているキム・へスクの意味ありげな表情やどんな役でも自分のものにしてしまうシン・ハギュンの見開いた目の演技が秀逸である。どこまでいくのかと思ったが、ふたりのたどりつく先が一緒であったのでハッピーエンドと言えるだろう。終演後なぜかショパンの旋律が心に静かに流れていた。これで良かったと思わせるエンディングである。「JSA」を映画館で観た時、韓国にはもの凄い監督がいると思ったが、この作品で、驚くべき実力を見せつけられた。