2009-12-08

直視できないモノを見せるメディア このエントリーを含むはてなブックマーク 

 太陽を直接見ると、眼を痛めます。下着を路上で見ようとすると、法的制裁と社会的制裁という痛みを受けます。そのため、太陽も下着も、一般的にはメディアを通して見るしかありません。

 現役の精神科医でもあるタニノクロウさん主宰の劇団、「庭劇団ペニノ」。これまでも2008年、2009年に岸田國士戯曲賞の最終候補にノミネートされるなど、今注目の劇団です。その最新作は廃校になった中学校の体育館を利用した演劇空間で行われる「究極のパンチラを求めるスペクタクル」、「大人のための巨大絵本」という舞台です。

 演目のタイトル、まさに「太陽」と「下着」と言うキーワードに象徴される舞台でした。すなわち両者共に"直視できないモノ”の象徴として、直視できない舞台空間で、直視できないような人々のストーリーが繰り広げられるのです。

 体育館の高さのある空間を利用した二階建てのセットが舞台。一般的な舞台だと観客の目線に合わせて一階が、その上部に二階のセットが組まれるのですが、今回の舞台セットは、観客席より下の位置に一階が組まれているため、観客の中心的な目線は一階と二階の境界にセットされ宙ぶらりんの状態の置かれます。しかし芝居はその上下どちらかで行われるので、観客は宙ぶらりん状態から意識的に視線を持って行かねばなりません。

 また構成もTVのザッピングのようであり、観客も見ているようで見ていない状態に置かれます。そして舞台上でもエピソードが唐突に始まり唐突に終わり、また病院の内部のような状況下同じ時間軸・空間にいるのにもかかわらず、複数の男女による互いにかみ合わない会話が続けられます。

 つまり視線もエピソードも意図的に宙ぶらりんにされ、直視を拒むような展開が続くのです。しかし次第に断片的なエピソードが緩やかに繋がっていることが明かされ、そのことに気がついたとき、改めてタイトルの意味にフィードバックしていくという舞台。

 もちろんキーワードとなる「下着」も多数出てくるのですが、やはりそれは性的な象徴として、観客からは写真集を覗き込んでいるような、より卑猥さを醸し出すような見せ方です。

 その下着の見せ方の他でも舞台全体が非常に「写真集」に近い舞台のように感じました。一つ一つの写真に込められた意味と、全体が織りなす意図、その両方を併せ持つ舞台であり、それでいて時間軸が不可逆であるという舞台の特色を生かした作品、複雑で知的で性的で面白い舞台でした。

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tunes

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“いろいろ好きだったりします。”