こないだお台場に行ってきたんですよ。いつもはりんかい線で行くんですけど、ちょっと趣向を凝らして海路で行ってみよう、と。自宅から新橋まで行ってゆりかもめに乗り換え、日の出で降りると、水上バス乗り場がある。この水上バス、川上は浅草を起点としてお台場や豊洲にいける乗り物で、春は満開の桜を眺めながら川くだり、なんて風流な楽しみ方も出来るモノなんですな。しばらくすると船が来て、浅草から乗ったであろう大量の観光客が降りてきたんです。ああ、そうだね、観光旅行の一環としてて「水上バスに乗る」ってのがあったらウケるんだろうな、と思いながら彼らを見ていた。大半は外国人でね。現在国家規模で景気が良い中国人と、韓国人と、それから英語圏の人々と、年老いた日本人などが入り混じってワイワイと歩いてくる。そんな光景をぼんやりと眺めながら、私はお台場海浜公園行きの便に乗れるのを待っていた。
ビックリしたのはその中に、おそらく先ほど浅草の浅草寺あたりで購入したのでしょう、「一番」と書かれたハチマキを頭に巻いた屈強な男性外国人が混じっていた事なんです。あーあ、やっちゃったな、と。現代の日本ではおおよそ使われることのないハチマキ文化。「一番」という言葉はかのプロレスラー、ハルク・ホーガンがリングで良く使っていた日本語で、アメリカのリングにおいても「一番」と書かれたTシャツを着ていたり「イッチバーン!」と咆哮したりしていたので、多分それに影響されて、「よし、日本に行ったら「イチバン系」グッズを買ってやろう」とでも思ったんでしょうね。もう見ているこっちが恥ずかしいくらい、満面の笑みでハチマキを巻いたまま歩いていた。そこまでは良かったんです。
その「一番」と書かれたハチマキを巻いていたのは一人ではなかった。つごう三人降りてきたんです。屈強な体つきの一番が。もうみんな満面の笑みで。
一番が三人…それぞれが何かの分野で一番なのでしょうか。いや、違うだろう。そんな筈はない。もしこれが日本人だったら、誰かが「一番」を巻いていたら、残りの人間は「必勝」とか「玉砕」とか巻いてるはずじゃないですか。いや、「必勝」や「玉砕」なら複数人数が全員巻いていてもおかしくはない。だけど「一番」だけは、それを巻けるのは一人だ!と。
おそらくこの人たちは、「オレコソガ、ナンバーワンダ!」と漫画「プロレススーパースター列伝」に出てくる外人プロレスラーのような思考で胸をはっているに違いない、と私は直感したのですね。脳に必要なのは糖質、筋肉に必要なのはたんぱく質、というのを学校の授業で教わりましたが、ひょっとしたらこの人たちは今までの人生においてたんぱく質しか食べてこなかったんじゃないだろうか、なんて失礼な事を思ってしまったわけです。
で、何が言いたいのかというと、それだけ「一番」に愛着を持った屈強な外人三人が、旅行ついでにこの「アフロサムライ:レザレクション」を(その時はまだ上映されてませんけど、もし)観ていたとしたら……帰りの飛行機に乗っていたのは一人かもしれなかった、というホラーめいた事を想像してしまうくらいアツい映画だった、という事なんです。私は上映後、その外人たちの事をハッと思い出し、試写室を後にしてからもずっと考えていた。
一番は一人しかいない、そして一番であるがゆえに背負う因果があり、一番になった人間がその一番である事自体に虚無感を覚えたとしても、易々とそれを手放す事は出来ない。何故なら手放す時は死ぬ時だから……。そんな映画でした。
試写会参加以降、私は前述の外人たちが自国に帰り、この映画を観ていないといいな……彼らが血で血を洗う、悲しい羅刹の輪に巻き込まれてしまうから……でもよく考えたら「一番」のハチマキを何本も売っている時点でシャレって判るよな、と思い、新橋でビールを買って呑み、帰ってぐっすり寝ました。その日上映前に起きたいやな事をすっかり忘れるくらい、面白い映画でした!ありがとう、アフロサムライ:レザレクション!
【追記】
日本製だが英文の書かれているTシャツを買うとき、その意味を充分わかったうえで買う人はどのくらいいるのだろう。時折外人に指を指されながら爆笑される、文法も意味も無茶苦茶なTシャツを、郊外のファッションセンター的な洋服店で見つける事が多々ある。そう、そこでそういったTシャツを買う人は、まずそのデザインやタイポグラフィがかっこよくて買うという人が殆どではないだろうか。「アフロサムライ:レザレクション」は、そういったかっこよさを優先しており、いちいち画面に突っ込んでいたらキリがなく、そもそもヘンな部分は確信犯でやっている作品だ。なので友達とこの映画を観覧した際には、突っ込むのは終わってから居酒屋でわいわいと話すが吉。とりあえず上映中はニヤニヤしていよう。
日本の描写に関しては「江戸時代の文化」と「近年の秋葉系ハイテク文化」が混在していて、何かの祭り(「ベストキッド2」でいうところの「Bon Dance(盆踊り)」的な)が催されているシーンでは、やぐらにいるのがDJだったり、またそいつはターンテーブルを使っていたりする。イメージとしてはKen IshiiのPV"Extra"のような「文化のごった煮感」に近いと思っていただければよいのではないか。
あとこの映画を見る際に、「前作を観てなくても楽しめるか」という点は気にかかっていた。何でも三部作になるかもしれないとのことで、えっそれじゃあスターウォーズでいえば「帝国の逆襲」にあたるわけですか。主人公がいきなり血まみれになって、負け戦して逃げて、仕掛けたつもりが相手の手のひらで踊っていたに過ぎず、父親と称する人物が出てきて主人公が葛藤したりするわけですか、二作目から観た人は何の事だかわからない筋書きになってますか、とか不安になったのでツタヤに行って1作目を借りてきたのだが、いや、ここはひとついつもの勤勉な日本人的予習は止めて、「アフロサムライ:レザレクション」のみで楽しめるかどうか実験してみることにした。結果は全然大丈夫。面白かった人は帰り道にレンタルDVD店に寄って1作目をチョイス、という順番でも全く問題ないシロモノだった。そしてこれから一作目を観る!