2009-10-31

ワカラナイ このエントリーを含むはてなブックマーク 

小林政広監督の新作「ワカラナイ」を観る。またしても小林ワールドに背中からバッサリ斬られた感覚だ。主人公の高校生亮は病気の母親(恐らく末期ガンと思われるが)を抱え父親は早くに家を捨てコンビ二バイトで生計を立てる日々を過ごす。治療費、家賃、光熱費に追われ食べる事もままならず、やがてコンビ二で商品を盗み飢えをしのぐ日々を送る。乾いた物悲しい田舎の風景と必要以上の台詞がない映像はドキュメンタリー調の流れで亮の生活感を見事に、いや、哀し過ぎるほどにリアルに映し出している。盗みがバレてコンビ二をクビになり、やがて母も死を迎える。病院の椅子のシーンは象徴的だ。付き添いの事ばかり気にする看護婦、葬式の段取りと予算の件ばかりまくし立てる葬儀屋、入院費の支払い催促をする病院スタッフ。
たった一人の身内を失った高校生に大人は誰一人として慰みの言葉をかけることはない。自分たちの利害に終始するだけだ。ひどい。こんなに冷たい仕打ちがあっていいのか。亮はある決意を固めて母親との別れの儀式を済ませ、古い写真と東京の地図をもって旅に出る。小さい時に家を捨てた父の元に。前半のシーンと違って華やかな都会のシーンだ。ござっぱりした住宅街、マックに集まる若者、夜の街。亮の置かれた状況と正反対のようだ。雨に打たれて街を彷徨う亮に誰一人手を差し伸べる者もいない。明と案、光と影が対比されるようなシーンだ。警官に補導された亮の言葉。この作品の根幹とも言える亮の台詞は胸に堪える。娘の誕生日で早く亮を引き渡して仕事を終えたい警官の態度、これもこのシーンの見所だ。隙をついて逃げ出した亮は父との再会を果たす。普通ならここでこれから亮は父と幸せに・・・・のはずだが、さすが小林監督は厳しい。私はこの作品のラストが大好きだ。小林監督のエールとも取れる気がする。長い坂道をまっすぐ一人で歩いていく亮の後ろ姿、「それでもしっかり生きてゆけ!」そう語っているように思える。主人公亮を演じた小林優斗、まだまだ荒削りだが目線の冷たい強さがこの作品にぴったりだ。水道、電気、ガスが止まった家での生活シーンや、盗んだラーメン、パン、おにぎりを流し込むように食べるシーンはインパクトがある。握り締めた手のひらの小銭を確かめる哀しげな視線も心を打つ。将来が楽しみだ。くだらない作品でキャリアをつぶさないよう願うばかりだ。小林監督の父親役は予想通りだったが、年齢的に老け過ぎな感じだ。もう少し若作りして欲しかった(笑)
子供から見た大人や社会のエゴがあからさまに垣間見れた作品だが、娯楽大作に慣れた昨今こういったテーマの作品がもっと増えて欲しいと思う。小林監督の次回作に早くも期待して止まない。

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momotimu

ゲストブロガー

momotimu

“渋い映画が大好きです。”