2008-03-11

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レビュー 『おいしいコーヒーの真実』

『おいしいコーヒーの真実』は、タイトルの通り、私たちの暮らしに身近な「コーヒー」の、知られざる「真実」を描いた映画だ。

一杯のコーヒーから一日を始める私にとって、コーヒーは欠かせない飲み物だし、外出時、ちょっと一休みしたいな~と思ったときに探すのは、カフェであり、こう考えると、コーヒーを飲まない日のほうが少ないとも言える。

映画を見た今、コーヒーを飲むたびに、この映画で描かれていたエチオピアのコーヒー生産者の厳しい生活状況を考えざるを得ない。

コーヒーは年間800億ドル以上の利益をもたらす国際商品である一方で、コーヒー生産者は、食糧危機に見舞われるほどの危機に瀕している。「このパラドックスの顕著な例が、コーヒー原産地のエチオピアだ」(マーク&ニック・フランシス監督)

生産者が食べることも、子どもたちを学校に通わすことも出来なくなった原因は、2001~02年に起こったコーヒーの国際価格の下落だ。ここ30年のうち、最安値をまで落ち込み、「世界の2,500万人のコーヒー生産者が貧困にあえぐコーヒー危機」(京都大学大学院農学研究科・准教授・辻村英之氏)とまで言われた。

1989年までは、生産者に支払われる価格を支える仕組みとして、「国際コーヒー協定の輸出割当制度」があった。これは、「価格安定帯を設定し、国際価格がそれを下回らないように、生産国に対して輸出量の制限を課す制度」(辻村氏)だった。
ところが、世界貿易機構(WTO)は同制度を受け入れず、ニューヨーク商品取引所が決定するコーヒーの先物相場によって、コーヒーの価格は決定される。投機家は、この価格を基準に、「これだけの利益を得るためには、原料(コーヒー豆)は、この価格以下に抑えるべき」と利益をはじき出し、非常に少ない金額が、生産者の取り分となる。

映画のワンシーンである、バリスタのコンテスト会場には、誰一人として、コーヒー生産者の苦悩を指摘する者はいない。スターバックスの第一号店では、店長が誇らしげに「カフェは人と人が出会うコミュニティでもある」と語る。その言葉に嘘はないが、ナイーブすぎるのではないかと思う、と同時に、一般的なコーヒーに対する認識であることも確かだと認めざるを得ない。親睦の場を温めるコーヒーが、奴隷のような賃金しかもらえない搾取の労働に支えられていると知ったら、店員の笑顔に一瞬でも陰りが映るだろうか。そうであってほしい。

監督はインタビューで「綿花や石油、ゴムといった同じように農家が搾取されているものでも、この映画を作ることもできたことを指摘しておくことは重要だ」と言っている。

そして、映画は、2003年にメキシコのカンクンで開催されたWTO会議で、先進国による密室会議に怒りをあらわしたにした途上国代表者の声を紹介する。マラウイの代表は、「我々は貿易で自立したい」と訴えていた。

国際商取引でアフリカの取り分が1%増えれば、現在彼らが援助で得ている5倍の金額が生み出せるという。このような実現可能な解決策を脇目に、先進国や国際機関の代表者らは、一体どんな密談をする必要があるというのか。

映画を見て、いかにコーヒー生産者が搾取されているのかを知ってしまったら、何をすればいいのか。

「コーヒーの愛飲家が企業に倫理的なビジネスの仕方を求め、フェアトレードのキャンペーンをするよう要求することができたら、彼らも変化の手助けをすることができる」(監督)

「フェアトレード」は、ニューヨーク先物価格が下落しても、生産者に一定の輸出価格を保障するも貿易の方法だ。

確か2003年頃だったと思うが、スターバックスコーヒーが店内に設置している意見ボックスに、「フェアトレードコーヒーを扱ってほしい」と書いたことがある。その後、スターバックスは、フェアトレードのコーヒー豆を扱い始めた。
きっと、他からも同じ要望があったのだろう。要望を伝えたことだけが、スターバックスを動かした理由だとは思わないが、確実に言えることは、誰かが動かなければ、何事も変わらないということ。

日本は、米国、ドイツに次いでコーヒーの輸入が多い。
日本のフェアトレードシェアは、レギュラーコーヒー市場の0.2%。米国では、全コーヒーの約2%がフェアトレードだという。

私たちがすべきことは明確だ。

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奥田みのり

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