2009-09-12

ジム・オルーク『The Visitor』レビュー このエントリーを含むはてなブックマーク 

音響作家ジム・オルークの約8年ぶりとなるニューアルバム「The Visitor」。「インシグニフィカンス」や「ユリイカ」の流れを汲んだ、全一曲のインストゥルメンタルアルバムである本作は、完璧主義者であるジム・オルークが、孤独な作業をひたすら繰り返し、8年間という長い年月を経て完成に至った経緯を鑑みても、そのクオリティは我々の期待に充分応えてくれるものであり、新たな可能性を示唆してくれるという点で、良い意味で期待を裏切ってくれる作品だ。他人のペースで制作するのではなく、永遠に続くとも思える試行錯誤の果てに辿り着いた絶対的な強度がこのアルバムを完璧なものとしている。過度の商業主義に侵されることなく、あくまでも自身が信じる音のみで構成されたこの作品に、添加物が含まれる余地は一切なく、一つ一つの素材がジムの演奏を通して有機的な世界を描き出している。一秒の無駄もない濃密な時間が支配するこのアルバムは、間違いなくジム個人にとっても重要な節目となる作品となることであろう。全ての作業を自らが行うというスタンスは過去の作品からもみてとれるが、これ程までに他人に触らせたくないという強い意志を徹頭徹尾貫いた制作スタイルは、現代の音楽ビジネスの世界において実現されることが稀であるが、それ故にジム・オルークという音楽家の価値は作品そのものだけでなく、彼の生き方にも表れていると言えるだろう。

キーワード:


コメント(0)


yui onodera

ゲストブロガー

yui onodera


月別アーカイブ