午後まで雑用。夕方新宿で映画を観ようかと思ったが時間合わず、ディスクユニオンで若松孝ニの『17歳の風景 少年は何を見たか』が未開封で半額の1900円になっていたので購入してしまう。
夜、先週に続いて新文芸坐のオールナイトへ。今週は「巨匠たちが撮った 四谷怪談」。『四谷怪談』の4本立てという同じ話を4本も朝まで観てどうするとか、ゲンの悪い、“4本”立てというのがどうなんだとか周りにも突っ込まれたが、中川信夫と森一生以外の作品は観ていないこともあり、こういうミニマムな微妙な違いを楽しむというのも良い。大体、オールナイトなんだから気楽に楽しめれば良いので先週の中島貞夫といい、寝たけりゃ寝ても良いような取り合わせのオールナイトは気楽で良い。
以前来た際に前売り券を購入してせいで21番と若い数字なので早く来ることもなかったが、時間を持て余して開場1時間ほど前に来る。ロビーの空いてる席に座ろうとしたら、ジジイがウーと唸って除けという仕草。ああそうですかと、その隣に座るとそれでも何故か何度も唸ってくるが無視して読書。
開場後、毎度座る中央席に座って上映まで読書していると同じ列の少し離れたところから「モルモット!」と、例のデカイ声で呼ばれて恥ずかしいならそんな名前止めとけという名で呼ばれるのでフト見ると真魚さんだったのでビクッとする。ちょうど『戦う女たち』の彼女の書いた項を読み終わる頃だったので。
さっきの唸るジジイが直ぐ後の席に居るので上映中に騒ぐ可能性があるが、オールナイトだし大丈夫だろうというところで、1本目は中川信夫『東海道四谷怪談』(☆☆☆☆★)。DVDで年に一度は必ず観るほどだが劇場で観るのは初。新文芸坐のデカイスクリーンでシネスコで観るとまた印象が違う。76分に凝縮された1カットたりとも無駄のない演出に酔う。人物の後方に何気なく置かれた洗濯物や吊り提灯が微かに揺れるだけでも怖い。和室が一瞬沼に変わる瞬間、腕がストンと床に落ちる瞬間など、感嘆の連続。
2本目は三隅研次の『四谷怪談』(☆☆☆★★)。天知茂を観た後では既に年を食って顔もデカクで丸い長谷川一夫では見劣りするのは仕方ないにしても大スター映画のエゴか伊右衛門が善人なのは調子が狂う。お岩さんの仇を取るべく伊右衛門が活躍という展開にも乗れず。三隅研次だけに演出は良かったが、終盤の展開は食い足りない内に完が出た。
後の席の唸るオヤジ、1本目辺りから既に高鼾で、どうやら映画を観に来たのではなく寝る為に来たらしいとキャリーを引きずっているところからして察していたが、上映中にも唸るわ鼾も五月蠅いわで、浅草東宝のオールナイトなんかではもっと凄い人もいたからまあ良いかと思っていたら、流石客のマナー注意には定評のある新文芸坐だけに直ぐに従業員が注意している。寝るならロビーに出てくださいと言うとジジイ、大きく唸る。どうも耳が聞こえないか口が利けないヒトなのかと思っていると、従業員、紙に書いて注意しているので感心する。何せ館内放送で以前は観客からの鑑賞中の客同士のトラブルベスト5を発表したぐらいだから。
3本目は豊田四郎の『四谷怪談』(☆☆☆)。凡作。文芸映画の様に撮ってしまったせいか、何だこれはという代物。仲代達矢が予想通り冒頭から目をギョロつかせてオーバーに芝居しているのでウンザリするというより笑うが、しかし、うまくすれば徹底したピカロとして成立するだろうと期待するも、豊田四郎にそんな気はないらしく、またお岩さんの岡田茉莉子が汚れを嫌うのか品良く演じ過ぎでスケジュールの都合でもあったのかしらと思うぐらい冒頭から家出中なので出番も少なく存在感も薄い。後半になると仲代の影も薄くなり、直助を演じる先代の中村勘三郎のこってりとした芝居が持って行ってしまう。
それにしても恐怖演出に繊細さの欠片もないから、川から戸板のお岩さんが浮かんでくるくだりも無造作に水中から手を離してポンと浮かばせただけのような浮かび方でちっとも怖くない。しかし、唐突に顔の皮を剥いだ顔面を一瞬見せたり、川から浮かんだお岩さんの顔が一瞬で溶けて骨が見えたりと、野村芳太郎の『八つ墓村』の32人殺しのシーンみたいなもので、撮影所時代ならではの職人技が思わぬ効果を発揮するショットもあってその点は感心した。
4本目は森一生『四谷怪談 お岩の亡霊』(☆☆☆☆)。『白昼の通り魔』と並ぶ佐藤慶映画の最高峰。この佐藤慶は本当に無慈悲に無表情でお岩さんを殺す。仲代達矢と何かと対抗していた佐藤慶が、表情豊か過ぎる伊右衛門を演じた仲代へのアンサームービーではないかとも思いつつ観た。
4本続けて観ると監督の資質の違いは勿論、製作会社のカラーも窺えて面白かった。と、満足したところで帰宅。
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