(ストーリー)
現代、ニューヨーク……郵便局殺人事件
1944年、フィレンツェ……消えた女神像
2つの謎を解く鍵は、1人の少年-
それは、不可解な殺人事件だった。ニューヨークの郵便局で働く定年間近の実直な男が、ある日カウンターに現れた男性客の頭にいきなり銃弾を打ち込んだのだ。彼の名はヘクター。犯行に使われた銃は、古いドイツ製のルガーだった。彼の部屋からは、行方不明になっていた歴史的に重要なイタリアの彫像も発見される。二人の間に何があったのか-?
謎を解く鍵は、1944年のトスカーナにあった。
ただ一人の少年を、あの戦場で守りたかった-
第2次世界大戦下のイタリア。アメリカの黒人部隊"バッファロー・ソルジャー"が、最前線でナチスと戦っていた。その最中、ヘクターを含む4人の兵士が、1人の少年を救ったために敵陣で孤立する。アンジェロという名の少年にはピュアな魂が宿っていた。少年の手当てのために、4人はやむなくトスカーナの小さな村に身を寄せる。まさか、この言葉も通じない土地で、人種の壁を越え、村人達と強い絆で結ばれるとは知らずに。そして、その絆が彼らの運命を大きく変えるとは思いもせずに……。
2大陸、2つの時代を結ぶのは、敵や味方、人種や言葉の壁を乗り越えて、一人の少年を救おうとした人々の願いが生んだ〈奇跡〉。現代アメリカに戻るラストシーンには、混迷を極める今日でもなお、"人の絆"に希望を感じずにはいられない、限りない解放感と希望が待ち受けている-
(チラシより抜粋)
名匠スパイク・リーが、第2次世界大戦後期のイタリア戦線におけるバッファロー・ソルジャー第92歩兵師団、ナチス、ファシスト党、パルチザン等を巧みにストーリーに絡めながら、しかも、各国の言語を訛りにまで気を使いながら仕上げた戦争ドラマであり、重厚なヒューマンドラマ。
この作品の重厚さ、そして、それぞれの立場の人々をいかに生々しく描いているか、それを正確に感じ取るためには、第2次世界大戦下におけるアメリカ、そしてそこに存在した黒人だけで組織されたバッファロー・ソルジャー、ムッソリーニが一旦脱落してからのイタリア情勢、ナチスによるイタリア北部侵攻、さらには、その時代のアメリカにあった黒人差別の問題……そういった歴史的背景をある程度把握しておいた方がいいかもしれない。
映画における各登場人物の性質や考え方、行動といったものをより深く理解できるのではないか。
僕自身は、自らの知識不足を少し悔やみながら、それでも試写会で配られたパンフレットで直前に読み込んだ背景を頭に置きながら映画を見ることはできた。
映画の中では、時代が1983年、1944年、1943年と入り混じりながら、謎めいた殺人事件の背景にある第2次世界大戦下のイタリア、トスカーナでの出来事を中心に、点と点が結ばれていき、徐々に徐々に一つの糸が紡がれていくように、ミステリーとしても見事に仕上げられている。
しかし、この映画の本質はミステリーではない、そう感じた。
生々しい戦闘シーンや、厳しい戦地に黒人だけの部隊を送り込み、理不尽な指令を下す白人上官といった構図、ナチス、イタリア駐留アメリカ軍、パルチザンの複雑な絡み合い、一般市民も巻き込んで容赦なく銃を乱射して残酷な殺し合いが描かれている辺りは戦争ドラマであるし、全体を通して描かれているのは、戦友同士の絆、思わぬ土地で出会った差別のない世界での温かい人間同士の触れ合い、信頼や裏切り……様々な事態が起こる人間関係や信頼関係、純粋な少年と心優しい兵士との言葉が通じない中での、それでも人間らしさを深く感じさせられる温かい触れ合い……そう、様々な絆、人と人との絆を色んな観点から、色んな関係を描き出した深くて温かみのあるヒューマンドラマではないか。
主役は敵陣で孤立したバッファロー・ソルジャーの4人。
性格も、考え方も、兵士となった経緯もそれぞれの4人であるが、奥底には深い絆を感じさせる。
母国ではドイツ人捕虜も白人であるがゆえにアイスを食べさせてくれるカフェがあるが、黒人は追い出される始末。
母国のために最前線で戦うことになる彼らに対し、あまりにも残酷な母国の異人種たち。
その4人が命を賭して守ろうとした少年。
不思議な少年の経験してきた、酷い戦争社会。
強引に入り込まれた面はあるものの、アメリカ軍兵士を受け入れたトスカーナ地方の小さな村の人々。
そこでは、母国で受けてきたような差別は何もない。
少年とは深い信頼関係で結ばれ、トスカーナの村人達とも言葉の違いを超えて、それぞれ通訳できる立場の者同士を通じて、その社会に溶け込んでいく場面すらある。
多くを語るとネタバレになってしまうので、この辺にしておこう。
これらの姿を見ていて感じさせられるのは、人は誰もが人を「人」として認め、「絆」を築き、それを大切にしていく先に、平等で平和な世界があるのではないか、ということ。
「人」はそれぞれ違いがあるものだが、その違いをお互いが受け入れ、認め合うことが大切なんじゃないか、ということ。
ストーリーは、終盤に差し掛かり、極めて悲劇的な戦争の現実を映し出す。
しかし、一筋の希望を描き、1983年に戻ってくる。
そこでも、一言も発しないヘクターの姿に、残酷な殺人事件に、貴重な彫像の保持という重大な事実が重くのしかかり、悲劇へと道を進んでいくように思わせられる。
しかし、最後の最後で、大きな一筋の希望の光が差し込んでくる。
そこで物語は一連の出来事、偶然が偶然を呼んだ出来事も含めて、壮大なヒューマンドラマは一つの絆に収束して、言いようのない感動の中で閉じられる。
様々なメッセージが込められている映画だろう。
そして、色んな側面から、実にディテールに凝った秀作。
語りようのない感動を覚える作品。
最後に、悲劇的な事件が後を絶たない現代であり、各地で紛争が未だに残っている地球上ではあるけれど、一人ひとりの人と人との絆が奇跡を生み、平和への希望をもたらしてくれる、そう期待することができる……人には平和へ進むことができる、平等で平和な世界を築く力がある、そう信じさせてくれる作品であった。