2009-06-18

視ること:『それでも恋するバルセロナ』 このエントリーを含むはてなブックマーク 

ペネロペ・クルスにアカデミー助演女優賞をもたらしたウディ・アレンの新作。彼女を始めとする魅惑的な俳優4人が、バルセロナという魔性の街を舞台に、それぞれの恋愛観をさらけ出す。ウディの古巣・NYが舞台の『セックス・アンド・ザ・シティ』を思い起こさせもする設定だ。
洒落た恋愛処世訓を登場人物たちに語らせ、ブランド物の代わりにアートを散りばめるスタイリッシュさとスノッブさは、NYを離れても彼が永遠のニューヨーカーであると再確認させてくれるもの。でも『SATC』とは決定的な違いがある。これもまた大いにウディらしいことだが、主人公たちはまだ年若く、恋愛にも実はうぶだという点である。2人の対照的なアメリカ人女性にバカンス先で濃厚な恋愛を体験させ、そのことで彼女たちの内面にどんな化学変化が引き起こされるか……を、観察するのだ。ウディのミューズ、スカーレット・ヨハンソンも起用し、彼の筆は冴える。
クリスティーナは自己実現に邁進する理想主義者。ヴィッキーは冒険を嫌い堅実に生きる現実主義者。正反対の性格ゆえに恋愛でバッティングすることのなかった親友同士が、異国で情熱的な画家の誘惑に遭い、それぞれ翻弄されることになる。
意外なことにまずはお堅いヴィッキーのほうがこのアヴァンチュールに身を焦がす。在学中にもうウォール街で働く婚約者を持ち、安定した将来が待ち受けるばかりだった彼女が、初めて本能のままに男性を愛したことで人生に迷いを抱くのだ。
一方でこの恋愛競争に勝つのは奔放なクリスティーナ。でも彼女とて恋愛至上主義者では決してない。「芸術家の恋人」の座を夢見る頭でっかちな小娘だ。画家の元妻という予想外の強敵が現れるものの、彼女を含めたユニークな三角関係がかえってクリスティーナを刺激する。しかし3人の間に均衡が生まれると、彼女はまたそれを壊さずにはいられなくて……。スカーレットが、複雑な役を魅力満開で好演する。
恋愛の悦びと残酷さに目覚め、同時に大きな喪失感も抱えながら、ヴィッキーとクリスティーナはバカンスを終える。放心した表情で空港のエスカレーターを下っていくラストがなんともほろ苦い。

原題は“Vicky Cristina Barcelona”。2人の旅行者の名前と都市名とが同格として扱われるのがおもしろい。異形の街・バルセロナでのひと夏の体験は彼女らに大きな変化をもたらしたが、所詮アヴァンチュールの相手には記名性など必要ないということか。とは言えペネロペとハビエル・バルデムの破滅型カップルは、バルセロナの喧騒を擬人化したかのように強烈で印象深く、やはりこれでタイトルに名を連ねているということになるのだろう。

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深谷直子

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深谷直子

“ナオです~。”