今日は1日映画を観るぞ、ということで昼過ぎに自転車で阿佐ヶ谷まで。初夏の阿佐ヶ谷近辺の緑に囲まれた住宅地を自転車で走るのは心地良い。
まずはラピュタ阿佐ヶ谷で『一万三千人の容疑者』(☆☆☆★★)を観る。CSでも観たし、そんなに大した映画じゃないだろうとよく言われるのだが、誘拐映画好きとしては、吉展ちゃん事件の映画化というだけで良い。昨年、ようやく『戦後最大の誘拐 吉展ちゃん事件』を観たので、本作も劇場で見返したかった。いつか2本立てで観たい。確かに、オーソドックスに事件の概要を映画化したものなので、犯人の小原(映画では小畑)の背景も描かれていないし、かといって警察側から描いたというにしても、現金受け渡しの際の警察の失態も綺麗ゴトでしかなく、被害者宅で刑事たちが食事を要求したり、かなり態度が悪かったことも描かれていない(事件解決後の翌年に製作されたので、そのあたりの実態が明らかではなかったのかもしれないが)し、取り調べの際に小原が猿の真似をして電灯にぶら下がったり、狡猾さで粘りに粘り、平塚八兵衛の取り調べに遂に落ちる過程もあっさりしているので食い足りない。それでもこの作品の最大の魅力は実際の事件と同時代に作られているという強みで、別にロケを多用しているわけでもなく、ごく普通にセットとロケが併用されているに過ぎないが、現在から観れば、新橋駅前の場外馬券場での現金受け渡しのロケシーンなど再現不可能な素晴らしさだし、劇場で観て発見したが後ろに若松孝二の『血は太陽よりも赤い』のポスターが貼られているのも良い。『戦後最大の誘拐 吉展ちゃん事件』との関連で言えば、小原の情婦が両作共に市原悦子だとか、平塚を共に芦田伸介が演じているとか興味深い。やはり2本立て上映で観たい。
電車で池袋に出て新文芸坐で『花と嵐とギャング』と『いれずみ突撃隊』の石井輝男2本立てを観る。
『花と嵐とギャング』は前半でフィルムが切れてしばらく上映が中断したり、かなりブツ切れのプリントだったので眠くなってきたし、DVDも出ているので中盤寝て、終盤だけ眺める。
続いて、今回の特集で最も楽しみにしていた『いれずみ突撃隊』(☆☆☆★★)を観る。快作。翌年には『網走番外地』が控えており、キャストもWっているだけにその原型を見ることもできるが、観る前は『兵隊やくざ』をパクったなと思っていたが、製作年度は本作の方がわずかに早いことにも驚く。例によってキャラクターありきの話なので、話自体はどうということがないが、一等兵の高倉健が軍服を脱ぐと刺青が鮮やかに見えるのには高揚する。中盤で健さんと敵対している上官の安部徹が中国兵に狙撃されて死んでしまって以降は、匿名的な敵一団との戦いになるので、途端に失速気味になるのが残念だった。やはり個と個の女をめぐっての対立という構図が終盤まで持続すべきだったのではないか。それでもラストの周りの仲間たちが次々と戦死する中、健さんが上半身裸となって軍刀片手に敵軍に単独向かっていく後姿のラストには涙する。
石井輝男らしいのは、終盤の敵からの砲撃止まぬ中、機関銃が熱で動かなくなった際にかける水が無いと言うや、健さんがズボンを下ろしてスグサマ放尿するくだり。緊迫感あふれる最中の放尿だけに異物感漂う。
池袋の古書店で時間潰しをして大島渚の『戦後映画 破壊と創造』が千円だったので購入。『大島渚集成』のお陰で旧作が安くなってきたか。ついでに『カイエ・デュ・シネマ・ジャポン No.7』が650円だったので購入。元が2000円だなんて、とんでもない価格だ。
中野に移動して、ブロードウェイへ。タコシェで『Trash up VOL.3』を購入。どっしりと重いので驚く。季刊誌として取扱いも大きくなった影響か、濃密さが増してすごいことに。巻頭のアルジェント特集も素晴らしい。歯抜けにしか観ていないので、この雑誌を片手にちゃんとフィルモグラフィーに沿って見直したいなと思う。
吉祥寺へ移動して、ようやく初参加の爆音映画祭へ。上映の1時間前に到着したのに整理番号が既に50番台なのに驚く。ともあれ席を確保して、西村潔の『ヘアピン・サーカス』(☆☆☆★★★)を観る。CSでしか観ていない作品だったので初の劇場で、しかも爆音で観たが、作品の評価を根底から変えてしまう程の衝撃を受ける。爆音で観る為に作られた映画なのかと言うほどに魅了される。勿論、これまでも傑作とは思っていたが、体にエンジン音を響かせて観ると、この作品の無機質さがより際立ち、ガラス細工のような冷たく、機械仕掛けの世界がより先鋭化されて視覚と聴覚を満たす。シネマスコープの画面で視覚全体が覆われ、目も耳もその世界に没入していく。圧倒的な映画体験をもたらしてくれたことに感動する。勿論、かなりとんでもない映画なので、諸々突っ込んで観ても楽しいのだが、今回は音で圧倒された。
爆音映画祭のパンフレットを500円で購入して帰宅。
- TOP
- モルモット吉田の日記
- 詳細