2009-05-27

待望の映画化「重力ピエロ」 このエントリーを含むはてなブックマーク 

原作を読んでいた時から「映画化になればいいな」と思っていたら、本当に映画化されてとても嬉しかった。
「空から春が降ってきた」というナレーションに被りながら、春が校舎の二階から飛び降りるところをスローモーションで描くオープニングがとても印象的だった。

物語は、現在起こっている連続放火魔を春と泉水の兄弟が犯人捜しをするところから始まる。そして、次第に兄弟の家族が抱えていた重い過去が明かされていき、それに関連した15年前の連続暴行事件と兄弟の家族の歴史がカットバックで明るみになる中で、次第に真相が表れていく構図となっていた。

森監督が本作に込めた思いは、「本当に深刻なことは、陽気に伝えるべきなんだ」ということ。原作の伊坂作品自体が、独自の軽いタッチが持ち味となっているから、そこを殺さないために小日向文世を父親役に起用したのは的確だと思った。
子どもたちには、「俺たちは最強の家族だ」と言い聞かせ、家族の元気の素のような存在を満面の笑顔で演じている。しかし、実はこの笑顔の裏には、常に哀愁をも漂わせているのだ。

正志の次男として生まれた泉は、妻梨江子がレイプ魔によって犯されたとき、身ごもった子供だったのだ。妊娠が明らかになったとき、正志は戸惑いながらも出産をすすめる。そのなんともいえない優しい顔つきにぐっときてしまった。小日向が言うには「人間は憎しみを越えて、人を愛していくことで、いろいろなことを変えられるのではないか―その理想郷がここにはあるんだと思います」。思わず感情移入してしまった。

重い内容の作品の中で、コミカルさを発揮するのが、春をストーカーのようにつけ回す夏子。そのしつこさと美人なのに僻んでいるところが度を超して可笑しさを誘う。事件の真相を明るみに導く重要な役どころでもある。彼女の存在によって、ほっとできるところがあった。

そして、春と泉水。原作の伊坂氏は絶賛したそうだが、小地蔵には不満が残った。確かに兄弟の固い絆は感じさせるが、泉水は血の繋がらない弟であることを知っていたので、なおさらだ。だが、ラストのサーカスでピエロが重力にも負けずに、飄々と空中ブランコを演じているところを梨江子と正志が万感の思いで、兄弟を抱え込みながら見ているという、本作のテーマ部分に繋いでいくのには、痛みが軽すぎると思った。
泉が背負っているトラウマは、そんなに軽いものではなかったはず。心を抉られるような葛藤と悲しみが描かれてこそ、最後の重力ピエロのシーンが泣けてくるものになったと思う。

ラストには、どんでん返しがあるので、原作を読まずに観ても楽しめる作品だと思う。

キーワード:

重力ピエロ


コメント(0)


るきじ

ゲストブロガー

るきじ


関連骰子の眼

関連日記