ワクチンを追え!(ミャンマー編)
★プロローグ(1)
http://www.webdice.jp/diary/detail/2088/
★プロローグ(2)
http://www.webdice.jp/diary/detail/2094/
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★不気味な夜
ミャンマーのことも、この国の文化のことも、果たしてミャンマーって危険な国なのか安全な国なのか、結局のところ何もわからないまんま、出発当日を迎えてしまった・・・・。
ミャンマーの玄関口“ヤンゴン”には、タイ・バンコクを経由して約1時間程度で到着した。
朝の内に東京を出たはずなのに、あたりはもうすっかり真っ暗闇だ。
空港にはカンボジアと同じく、日本の中古バスを再利用したバスが迎えに来ていた。
窓には大阪の地名なんかが書かれていて、カラーリングも昭和のまま。
なんとなく懐かしい。でもボロい。
ほどなく、そのおんボロ・バスはゆらゆら発車し、ヤンゴン市内を駆け抜けていった。
車窓から見える闇の中に浮かぶヤンゴンの街は、街灯の少なさも相まって、なんとも薄暗く感じる。
ボーッと窓の外を眺めていると、道路に沿って灯る街灯が、暗闇の中光の尻尾となって残像として流れていく・・・・。
まるで、タイムトンネルを抜けて、どこかの知らない不気味な世界に入っていくようだ・・・。
今夜泊まるホテルは市内のヤンゴン中央駅近くにある。
さほど大きくもなく新しくもない・・・むしろ、古びたホテルだが、これがミャンマーでは一般的なレベルなのかな?まぁ、自分には十分すぎる。
ホテルに到着すると、明日の予定などの説明があってスグに解散となった。
時計を見ると夜の9時くらい。
寝るのにはまだ早い。
横にいたこのツアーのカメラマン“ジミー(仮名)”と、街を徘徊してみようということになった。
ホテルは一応、駅近く繁華街のそばにあるはずなのだが、どうにもあたりは薄暗い・・・。
建物の物陰から、いきなり人の顔がヌッと現れ、その時点でやっと人がたくさんたむろしているということがわかるくらいだ。
勢いで外に出たのはいいが、初めての国の初めての街ということでどうにも要領を得ない。
カメラマンのジミーはそんな不安をよそに、カメラマン心が揺さぶられるのか、その辺をバシャバシャ撮りまくっている。
見るもの全てが新鮮だ。
看板にかかっている文字も丸と点でウネっている。
匂いといい、道にゴミが散乱してたり、デコボコしてたりと、いかにも東南アジアの街角という感じだ。
しかし、どこか、この暗闇と、闇に浮かび上がる人々の鋭い眼光とで、どことなく不快感を感じる・・・。
しばらく歩くと、大通りに出た。
遠くに、金色に輝くパゴダが綺麗にライトアップされているのが見える。
ヤンゴンの、この明かりの少ない夜にボーッと蜃気楼のように浮かび上がっている。
ここまで来ると目もだんだん慣れてきた。
小さな商店やレストランもいくつか開いている。
よく見ると、どこもそこそこ人が入っているようだ。
その中の一人がこちらに気づくと、ニヤニヤとしながら英語で声をかけてきた。
「ドコカラ来タンデスカ?」
「イイ店シッテマス」
日本人を見ると物を売りつけたりする、外国でよくある光景だ。
面倒くさいので、適当にあしらっていたが、しつこくどこまでもついてくる。
そんな人懐っこいのかウザいのかわからない初めて会う現地ミャンマー人を無視して、とにかく歩いて先に進むことにした。
ふと横を見るとジミーが興奮しながらシャッターを切っている。
周りをキョロキョロ見回している。
どうやら絶好の撮影ポイントを見つけたようだ。
「あの歩道橋の上に登って、パゴダを撮ってみたい!きっと、スゴく綺麗にパゴダを撮影できるはずだ!」
そう言われて見上げた歩道橋は、いつ造られたのかわからない程ボロボロで朽ちかけ寸前の歩道橋だ。
階段のコンクリートも所々剥がれている。
しかも隣は人が住んでるのかわからない廃墟然としたビルだ。
いや、裸電球が遠くで点いたり消えたりしているが見えるから、きっと誰かが不法占拠とかして住んでいるのだろう。
自分の経験上、外国では夜の人気(ひとけ)のない場所というのは危険だ。
たいていそんな場所は、浮浪者が住んでいたり、麻薬取引の現場になっていたりするからだ。
しかし、ジミーは臆することなく、崩れかけの階段をキヤノン砲のようなカメラを携えて駆け上がっていった。
仕方なく、自分も恐る恐る階段を登っていった。
途中崩れた穴ボコに足をとられないように注意深くそーっと・・・。
上まで登っていくと、それまでの心配をよそに、スゴく幻想的な光景が待っていた。
綺麗に区画された道路の先に浮かび上がる、黄金のパゴダ・・・。
まさに、この国が、「黄金の国」と呼ばれる所以だ。
キャノン砲のようなカメラをパゴダに向けてシャッターを切るジミーのシャッター音がバシャバシャとだんだん速くなっていった。
その瞬間・・・・!
銃を抱え軍服を着た警官が、大声でまくし立てながら駆け上がってきた。
警官はカメラを見て何か大きな声でわめいている。
確かにジミーの持っているカメラはキャノン砲のようだし、武器にも見えなくない。
ああ、ボクたちはこのまま拘束されてしまうのだろうか・・・。
いくら政府の招待(*1)だからといって、勿論何やってもいいワケではないだろう。
一瞬の間にいろいろな事態が頭の中をよぎっていった。
次の瞬間、もう一人のミャンマー人が階段を上って来た。
さっきのポン引きだ!
軍服の警官と何やら話している。
数分後、警官は納得したような顔してボクたちの方を見た。
とにかく、ここからすぐに立ち去れということらしい。
ボクたちはすかさず先ほど登ってきた階段を降りていった。
なんだかわからないけど、ありがとうポンビキ君!
(*2)
当然撮影は中止した。
ポンビキ君がいて大事に至らなくて良かったが、このままむやみやたらに撮影を続行しない方がいいいだろうという判断になった。
とりあえずこの場を落ち着かせるために、近くにあった、とにかく人が多そうなバーに逃げ込むことにした。
ドアをあけると皆一斉にこちらを見た。
皆、眼光が鋭い。
正確に言うと、先ほどの件があったので“鋭く感じた”と、言った方がいいのかも。
視線をかき分けて奥のテーブルについた。
とりあえず、世界ビールコンクールで何回も入賞しているというミャンマービールを頼むことにした。
すぐにビールはテーブルに運ばれてきた。
緊張していて味なんて全くわからない・・・。
ジミーを見ると、でっかいキヤノン砲のようなカメラを足下の方によせて目立たないように隠している。
さすがに慎重になっているようだ。
ここもなんとなく落ち着かず、サッサとホテルに帰ろうということになった。
さて、会計することにしたんだが、ミャンマーの相場がわからないけど、少し高いように感じた。
たいてい、こういう途上国では日本人にはふっかけてくるって言うじゃない。
一応、ビール一本いくらか聞いてみることにした。
その時、横から聞いた覚えのある英語が聞こえた。
「この国では、普通の値段デス。」
あ!あのポンビキ君だ!
ここにもポンビキ君は現れた。
実は最初から最後までボク達の後を付いてきていたのだ(と思う)。
なぜ?最初から最後まで?
もしかして、この国で、ボク達は何か行動が制限されているのではないだろうか・・・?
部屋に戻って、ようやくホッとしたボクは、ドカッと古びたベッドに横になり、さっきまでの一連の出来事を思い出しながら、言い知れぬ不安を感じていた・・・。
(続く)
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●補足
(*1)政府の招待・・・ ボランティアの視察旅行なので、観光ではなくミャンマー政府の招聘ビザという形で入国した。
(*2)歩道橋・・・後で知ったが、偶然にも、カメラマン長井健司さんが銃撃された映像が撮られた場所であった。
上の写真は歩道橋からパゴダを望む。
車道の左側の角あたりが長井さんの銃撃現場。
道理でカメラには敏感になっているわけだ。ポン引き君がいなかったら、どうなっていたかわからなかったかも・・・。
ジャーナリスト・長井健司さん
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%95%B7%E4%BA%95%E5%81%A5%E5%8F%B8
銃撃の瞬間映像(多少ショックあり注意)
PHOTO : (c) Takashi Morioka, (c) Hiroshi Ito