2009-02-23

まず、サムありき・・・? このエントリーを含むはてなブックマーク 

自分が“メイプルソープ”という名をはじめて耳にしたのはいつ頃だっただろう?
というのは、今回、試写会に参加させていただいて、その感想などを周囲の知人に話したときに、意外に写真好きな人達でも彼の名を知らなかったので、驚いたのだったから。
自分で明確に意識しているのは、アップリンク社社長の浅井隆氏がメイプルソープの写真集を巡って裁判で争っている件を知ったときである。その時には既に彼の名声を知っていたため、裁判の成り行きに注目し、遂に最高裁で無罪を勝ち取った際には、心の中で快哉を叫んだようおな気がしたものだった。その後、同写真集を購入しては、装丁の頑丈さと本の重みと作品のボリュームに圧倒されて、ページを繰る度に満足感と圧倒感を感じるのであった。
今回も、再び写真集を開いてみると、確かに“サム・ワグスタッフ”のポートレートが、1枚だけ見出せた。
それまで、メイプルソープは、彼自身の才能と運とで「自然に」あの地位と名声を獲得したものだととらえていたが、考えてみれば、どんな分野の芸術でさえ、なんとんく自然に名だたる地位が確保できるものではないことに気付かされた。どんなに高尚な芸術であっても、この世にある限り経済活動が伴うものである。そして、誰かが「人」や才能を見出し、種々のバックアップを行って、はじめて世に出されるのである。
メイプルソープの場合は、サム・ワグスタッフであったというわけである。
サムは、たぐいまれなるハンサムであり、富豪であるばかりでなく、芸術に対する素晴らしい審美眼を持っていた。魅力的な顔立ちも、長身も、財力も、頭脳も、審美眼等…自分とは比べるべくもない素晴らしい存在の彼であり、きっと誰もが惹かれ、羨むようなほどの人物であった。
現在、一般に、写真が大切な芸術作品の一つであると認知されているが、映画を観る限りに於いて、コレクターとしてのサムの功績こそが写真をその位置にまで引きあげたととらえられるのである。そして、メイプルソープの名を永久に留める役割を担った。しかし、映画の中でも語られていたが、そうした数々の功績があるにもかかわらず、サムの名が表舞台に出ることがなく、世間の人々の記憶残らないまま、彼のことがすっかり忘れ去られてしまう可能性がある。監督・製作者・配給会社等の関係者によって、彼の功績が改めて広く、また後世に伝え残されることになると信じる。
この度の作品は、メイプルソープが世に出るその大きな功績を果たした人物の紹介と、メイプルソープとその初期に於いて大事なパートナーでもあったパティ・スミス、そしてサムとの奇妙な三角関係も語られる貴重なドキュメンタリー映画であった。
また、本作品が画期的だと思う点は、サムとメイプルソープの関係性だけではなく、上述したように、芸術家や芸術作品、芸術活動とそれに関わる人物との関係の普遍性をも物語り、見る者を理解させてくれることにもあると感じた。

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坂井

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