フェルメールの「合奏」の盗難を巡り、行方を追って奔走する人たちのドキュメンタリーである本作。とにかくこの作品に関わる人たちがいい意味で変人、しかも熱い心を持っている。まずはこの作品を撮ったレベッカ・ドレイファス監督。フェルメール愛好家をはじめ多くの人たちが「合奏」の盗難に心を痛めていると思うが、世界に名だたる美術品盗難の専門家にコンタクトをとってまでも行方をつきとめようとし、その過程をカメラに収めたのは彼女だけ。絵の魅力と謎にとりつかれての行動とはいえ、彼女の一途な想いがあってこそ、この映画を通じて絵と事件について広く知らしめることができた。それから「合奏」をはじめとするコレクションを展示していた美術館の創始者であり、米国でも有数の美術品コレクターであったイザベラ・スチュワート・ガードナー。数多くの大物に影響を与え、時には敵を作ることもありながらも、彼女の芸術に対する姿勢は揺るがない。「ガードナー美術館のどの作品も動かしたり置き換えたりしてはならない」という頑固なまでの遺言にも強い意志が感じられ、一度美術館を訪れてみたくなった。そして主人公となる美術品損害査定専門家のハロルド・スミス。アイパッチに山高帽でスーツを着こなすおとぎ話から抜け出たような姿も印象的だが、自分の仕事にプライドを持って生涯を美術品の回収に捧げているのが言葉の端々から伝わってくる。また捜査の過程に関わってくるハロルドの人脈筋もそれぞれ個性的だ(個人的には元美術品泥棒だったポール・“ターボ”・ヘンリー氏がキャラ的にも好き)。こうした情熱を心に秘めたプロたちの仕事をじっくりと楽しめる作品に仕上がっている。