素晴らしい絵画というのは、私にとって心を豊かにする鑑賞物であり、先人が遺してくれた遺産と考えてきました。しかし、ある人にとっては投資対象、また他の人にとっては交渉のための道具かもしれないことを、この映画で気付かされました。
映画「消えたフェルメールを探して/ 絵画探偵ハロルド・スミス」が扱うのは、1990年にボストンのイザベラ・スチュワート・ガードナー美術館で起こった、フェルメール「合奏」を含む絵画13点の盗難事件。絵の買付け当時(19世紀後半)と、盗難絵画の捜索(1990年代-)を交互に見せる構成で進められます。
ボストンの富豪に嫁いだイザベラというご婦人は、美術商を使ってヨーロッパ絵画を競り落したアメリカに持ち込みました。彼女の趣味であるイタリアのパラツィオ風建築を美術館(4Fが自室)とし、その中の絵画選択・配置等をすべて自身で決め、ボストンに遺贈。「みんなに見せるように、作品を動かしたり置き換えたりしないように」と遺言を残したらしいのです。素晴らしいではありませんか!「平凡な顔」と表現される肖像画からは上品でかわいらしい雰囲気が感じられ、一方で手紙の中にみられる美術品に対する情熱とのギャップに魅力を感じました。女性という点でも非常に興味深く、この美術館は(盗難品は戻ってきていませんが)是非行ってみたいと思います。その空間へ行けば、きっと彼女の思いがより感じられるはず。
絵画捜索のパートでは、眼帯をつけたハロルド・スミス探偵が慎重に仕事を進めてゆきます。しかし、序盤は少々退屈。それは、この映画がドキュメンタリーという理由からでしょう。絵の中に解決の糸口があるある!とか、美術館に蛍光塗料っでメッセージが…というエキサイティングな展開は見られません。しかし実態はつかめないものの、どうやら思ったよりもスゴイことが裏にあるらしいのです。
何だか悲しくなってきました。
フェルメールは素晴らしい作品で、数も少ない(映画中では35点としている)というのに、誰かが独り占めして、保存状態もよくないかもしれない。映画中関係者の言葉が心に響きます。「イザベラ(の肖像画)の目の前で盗まれていくのを、彼女はどう思ってみていたことか…」。
映画にはフェルメール研究者、小説「真珠の耳飾りの少女」の作者等のフェルメールファンふぁ登場し、いかにフェルメールが素晴らしいかを熱く語ります。フェルメールのよいところは「瞬間の切り取り」「静寂」「曖昧性」。そうそう!とうなづいてしまいました。私自身も大学の教科書をきっかけに、フェルメールの世界に夢中になり、ヨーロッパ赴任中には精力的に美術館を回りました。彼の故郷のデルフトを訪れ、今も変わらないその雰囲気に包まれたのは、良い思い出のひとつです。
懸賞金を無視して絵画を切り裂いている可能性は低いはず。イザベラさんの遺言通り、それはみんなが共有すべき宝物なので、絶対に見つけ出して欲しいし、何年でも待っています。by フェルメールファンより