マシュー・バーニーというと、”今世紀最後の、カリスマ美術家”というイメージがある。
確かに、この映画を見ると、アート界のカリスマ性が、フィルムからのオーラで伝わってくる。しかし、奥さんのビョークとのやりとりや撮影クルーとの談笑などは、メディアで伝わる
一人歩きしているバーニーとは違う。
ドキュメンタリーとして、その対象を外野から捉えたこの作品は、マシュー・バーニーという
一人の人間をとことん教えてくれる。
また、この映画でわれわれ日本人が注目すべき点は、わが国の捕鯨文化に対するマシュー・バーニーの理解や考察が非常にわかりやすく描かれている点かもしれない。彼が欧米文化圏にありながら、わが国の捕鯨文化を感傷的に捉えず、古来からの民俗文化としてきちんとと受け入れている。『マシュー・バーニー:拘束ナシ』の中では,その捕鯨文化の中で伝承されてきた民俗芸能をベースにしたいろいろなパフォーマンスが見られるが、そこで登場する鯨は動物としてというよりも、アートと歴史的観点からみた鯨がうかびあがってくる。
その辺から、彼の当時の作品から一貫してコンセプトにあった「拘束からの解放」というテーマがより鮮明になったように思う。
それにしても、マシュー・バーニーファンには、若かりし頃の本人の姿や捕鯨船でのダイナミックな撮影シーンはファンにとってはうれしい映像だ。