おととい京急の電車に乗っていたら「北海道・洞爺湖サミットのため特別警戒を実施しています」みたいなアナウンスが流れた。なんとなく自分が疎んじられているようでいやな気分になった。実際、28日にはオルターグローバリゼーションを掲げるスーザン・ジョージの講演にも行ってきたし、30日にはマイケル・ハートらの講演にも行ってきた。これらの講演に行くと入管で彼らがずいぶん嫌がらせを受けていたことがわかる(スーザン・ジョージは4時間空港で足止めを食らったらしい)のだが、自分がまるで将来テロ危険因子に扱われるのではないかと感じてしまう。
これが被害妄想や錯覚ならばいいがそうでもないかもしれない。あまり注目されていないが、合わせて開催されたG8司法・内務省サミットでは「Home Grown Terrorist」つまり国際的なテロ組織ではなく、先進国内部で不満を持つ若者が過激な暴力行為を行う恐れがあると統括宣言に盛り込んでいる。
サミット反対のデモにでも参加すればそれはもうテロリスト予備軍とみなされる一歩手前にまで来ているような気がする。
それが気のせいならいいが、いくつかメディアや自分のネットワークから得た情報からすると、警察権力が明らかに過剰に介入し、それにあまり一般の人々が興味を持っていないという構図が浮かび上がってくる。いくつかの例を示すと…
・来日予定だったイタリアの哲学者・アントニオ・ネグリを逮捕歴があるから「無犯罪証明書」を送るよう言いつけ、入国を事実上延期させた。
・映画「靖国」上映初日の前日に、以前映画館に街宣車を止めて抗議していた右翼の青年を微罪逮捕した。
・アフリカ開発会議で、人権活動家のトレバー・ングワネをネグリと同様の理由で来日を延期させた。
・大阪の釜ヶ崎で日雇い労働者の反乱が起こり、のちに支援団体が警察のがさ入れにあい生活保護の不正受給で逮捕された。
・グリーンピースジャパンのメンバーを鯨肉窃盗で逮捕した(書類送検ではなく)。
問題なのはテレビがこれらをほとんど報道しないばかりか、警察権力に迎合するような報道しかなされていないということ。「靖国」はTBSのニュース23が報じていたが、これはニュース23が以前に彼に単独取材しており、それがなかったら注目していたか怪しいところ。それ以外の局は「たいした混乱もなく上映されました」とかいっているがたいした混乱もないようにしたわけであり「たいした混乱もなくみせる」のが権力者の力学なのであって、そこに食い込んで権力作用を暴くのがメディアの仕事の本質だと思うのだが。
釜ヶ崎の件では「投石などの暴動が起こっている」ということを夜と朝のニュースでNHKと民放の数社が伝えていたが(金曜の夜と土曜の朝だから見ていない人も多いと思うが)当事者の声が全然伝わらない。なぜ伝えないのか不明だし、警察のコメントを流すだけ出し、追跡の取材や情報も関東ではなかった。しかし当事者や支援者団体いわく警察の暴力の可能性もあり、もうちょっとメディアは追求してもいいような気がする。NHKなんかこの件ではほとんど警察のスポークスマンにしかなっていなかった気がする。
グリーンピースはオレは捕鯨は別に生態系壊さなければいいんじゃないかと思うが、逮捕に関しては首をかしげる。すでに顔はあらわになっているし、逃亡の恐れもないし近々犯行を繰り返すこともなかろうし、身柄を拘束するのはいかがなものかと思った。重要なのは反対の考えを持った者であっても、彼らが不当な仕打ちを受けたらそれには反対すべきであって自分で言うのもなんだが、自分はそういうことに多少気をつけているつもりだし、だからグリーンピース逮捕の件もおかしいと思う。右翼の連中がイラク戦争反対のビラをまいた坊さんに罰金刑が下ったことを、彼らとは思想が違えどその判決には反対したのはそういうところからで権力の刃がいつ自分にも向けられるわからないという意識があるからだ。読売新聞はその辺の感覚をうしなっっているのか、法を破って行う正義とはどんな正義だというような論調一点張りで語り挙句の果てには「サミット会場の周辺を、怒号と混乱の場にしてはならない」という言葉で結び、なにかサミットに反対するものを十把一絡げに騒乱を起こそうとしているやからという印象を与えようとしている。彼らは相当恥ずかしい文章を書いているということに気づいていないのだろうか。
不気味なのは一般の人々にそのような権力への批判意識が希薄なことで、警察にしょっぴかれる人は騒ぐのが好きでなんか変わった人だから仕方がないというような感覚が社会的に醸成されてしまっている気がしている。駅に警備員が立っているのをなんの不自然もなく受け入れてしまっている人はその「自然さ」が「異常」かもしれないという問いを一度くらいは発していい気がする。