5月25日に横浜でアフリカ映画の特集を見に行った。ドキュメンタリー3作品と短編を集めたもの1つだ。
短編はまあそこそこといった感じで、ドキュメンタリーの方はやはりつらい歴史を経てきたこともありすべて重たいテーマだった。ルワンダ内戦と第二次大戦の時の南アの兵士の話とインド洋にあるチャゴス諸島の話の3つで、後者2つはまったく知らない内容だった。
一番出来がいいと感じたのはルワンダ内戦のものだ。内戦経験者の証言を伝えながら、なぜ民族を分断するような考えが生まれてしまったのかを歴史的に検証するという割とオーソドックスな作りだったが、映像や音、編集がうまいので見ていて飽きない。ドキュメンタリー映画は「歴史に埋もれた真実を暴く」的な内容偏重で、説明的過ぎて映画的には単調なものもあり、実際チャゴス諸島のものはそうだったのだが、このルワンダのは映画としての表現に優れていたので唯一大画面で見てよかったと思えた作品だった。
1959年にもルワンダでは1度大きな虐殺事件が起きたらしいのだが、これは衛兵や聖職者など一部の権力志向のものが起こした権力闘争といった性格が強かったようだ。しかし94年の内戦は民衆を含めた大惨禍になってしまった。この監督(ちなみに監督は現地のルワンダ人女性で来日していたが、かなりエレガントできれいだった)は、ツチとフツの区別なんてはっきりしないし、ましてや両者が普通に暮らしていた時期もあったのになぜ94年は一般の人々までもがあれほど民族憎悪に狂ってしまったのかという思いがあるようだった。
映画はこの「なぜ我々はこれほどに愚かになったのか」という悔恨の念に導かれ、民族や人種などで人びとを切り分ける分断政策の世界の歴史を分析しながら、ルワンダで起こった分離政策とその理由の浅はかさを暴いていく。ベルギー人が占領政策を円滑に進めていくためフツとツチを強引に引き裂く狡知やフツ族が支配者としてその愚かな指標に基づいて教育レベルで分断を図ること。そういった政治が民族以外の視点を奪っていく過程を見せつけられると「では我々は政治がしでかす分離的政策に叛旗できる全うな倫理観を持っているのか?」とつい自問してしまう。証言の中にも「悪党だけならあんな悲劇は起きなかった」というような言葉もあり、なんでもないいわば無辜の民が悪党にまで成り下がることを示している。
そうならないようできることは何か明白にはわからないが、安易な単純化を忌避する明晰な知性やそういう知性に基づいた優れた芸術作品により多く触れる知的好奇心を保つことくらいならできる。やや受動的で消極的な姿勢かもしれないが、まあそれだけでも素っ頓狂な政治家の詐術的発言に引っかからないことにはつながるだろう。
少なくともこの3つのドキュメンタリーはどれもなかなか広い視野を与えてくれる作品であったということには違いなかった。
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