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日程2022年06月21日 ~ 2022年07月10日
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時間12:00
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会場photographers' gallery
阿武隈川を挟んで東西に阿武隈山地と吾妻連峰が連なる福島盆地一帯は、平地・高地を問わず桃畑が広がる、日本有数の桃の産地として知られています。西にそびえる吾妻小富士の山肌に、残雪が兎の姿を形づくり春の訪れを告げる頃、桃園では蕾をひとつひとつ手で摘みとる作業が始まります。1本の枝にひとつかふたつの桃をたわわに実らせるためのこの間引きは、花の頃を過ぎても終わることなく、収穫直前まで続きます。並行して、際限なく生えてくる雑草の刈り取り、病害虫駆除の薬剤散布、花開く頃には受粉と、「桃の暦」に巻き込まれるようにして日々は過ぎていきます。
農作業は毎年、天候の変化を読みながら手探りで、しかしはっきりと順序立てて進められます。とはいえ農家でさえ、その作業ひとつひとつが桃の出来にどう関わっているのか、外から直接は知ることができません。
天候不順や病害虫にも左右され、実を結ぶかどうかあらかじめの約束は交わされないなか、人々は陽の光を浴びて赤く色づく桃の姿を思い描いて、黙々と作業をこなしていきます。そして夏の盛りに、結果として実った桃を手にしたときはじめて、それまでの作業ひとつひとつに思いを巡らせるのです。
米田は福島第一原子力発電所事故後の2011年8月に撮影を開始しました。「桃は待ってくれない」と原発事故のさなかも畑に出ていた人々の、誰に見せるためでもなく、ただ桃の実りに向かって作業する姿を傍らで見続けること。人々が拠って立つ土地と地名のもつ響きが書き換えられてもなお、誰にも奪われることのない「安住の地」はどこか。「Rest in Peach」にはその問いが反響しています。