webDICE 連載『『瞳は静かに』とラテンアメリカの映画祭』 webDICE さんの新着日記 http://www.webdice.jp/dice/series/41 Mon, 16 Dec 2024 20:31:05 +0100 FeedCreator 1.7.2-ppt (info@mypapit.net) 中南米気質を体感ベンターナ・スール映画祭 http://www.webdice.jp/dice/detail/3337/ Wed, 07 Dec 2011 10:22:45 +0100
2011マーケット会場であるアルゼンチン・カトリック大学



いよいよ公開が12月10日に迫った映画『瞳は静かに』。昨年公開され高い人気を獲得したアカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞作『瞳の奥の秘密』と同じく、アルゼンチン軍事政権下の穏やかでないムードをテーマにした今作は、あどけなさを残す少年コンラッド・バレンスエラが持つ存在感もあり、アルゼンチンの人々の暮らしと、そこにある問題意識を鮮烈に捉えた内容となっている。公開にともない配給のAction Inc.の比嘉世津子さんがラテンアメリカの見逃せない映画祭を伝える当連載。キューバの新ラテンアメリカ国際映画祭、メキシコのアダラハラ映画祭に続く最終回は2009年からスタートしたアルゼンチン・ブエノスアイレスのベンターナ・スール(Ventana Sur)映画祭の模様をお届けする。



年に一度のマーケットは勇気と元気を与えてくれる




ぜ~ぜ~、連載はこれが最後!ということは、『瞳は静かに』の公開が迫っているということなのだが、現在、参加しているフィルム・マーケット、ベンターナ・スールより、最新情報をお届けします。








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2009会場内部



ブエノスアイレスでベンターナ・スール(Ventana Sur/南の窓、という意味。南は南米を意味している)が始まったのは、2009年。グアダラハラに遅れをとったとは言え、こちらは、もう「売ります!買います!」が主体のラテンアメリカ初の純粋なフィルム・マーケット。



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スクリーニング会場



2010年以降に制作されたスペイン・ラテンアメリカ映画のスクリーニングは、プエルト・マデロという、ちょっとスノッブな地区にある8スクリーンのシネコン(Cinemark)で行われるが、一般公開はされず、マーケット参加者だけが観る。このマーケット、まだ3回目なので、毎年、場所やしくみが変化している。

第一回目は、開催期間が11月27日(金)~30日(月)。場所は、経済危機で破綻したまま放置されていたデパートHARRODSで行われた。IDカード発行にえらく時間がかかって、事務局前に長蛇の列ができていたほど。ちょうどハバナの映画祭前に行われたので、終了後にハバナに行く人も多かったのだが、第二回目からは、1週間ずれてハバナの映画祭と全く同じ時期になってしまった。でも、手続きはずっとスムーズになり、マーケットの場所もCinemarkの横の巨大テントになった。




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カフェテリア





今回の第三回目は、また場所が変わり、プエルト・マデロにあるカトリカ大学のオーディトリアムになった。何だか、これまで以上にアカデミックな雰囲気になったのは、マーケットと共に、毎日、ありとあらゆるテーマで会議が行われているからだ。ラテンアメリカ映画の未来について、はたまた、EUとメルコスール(☆)加盟諸国の映画共同制作をスムーズにすすめるための法的、税的整備から、中米、カリブ海諸国の映画制作の現状まで。

政治的な話も、からんでくるので、壇上のパネリストたちにも熱が入る。聞いていて思うのは、誰もがみな、しっかりとした政治信条を持ちながら、自由に発言していることだ。

「日本では、政治と宗教の話をしたらケンカになるから避けるべき」と言われたことがあったけど、ラテンアメリカで政治と宗教の話は、避けて通れない。でも、ケンカにならないのは、「ひとり1人が違う」ことが大前提だから……。こういったことまで考えさせてくれる年に一度のマーケットは、息苦しい日本で生きていく勇気と元気を与えてくれる。



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プエルト・マデロのレストラン(高い!)




webdice_商談フース(つい立てて遮られている)

商談ブース(つい立てて遮られている)





配給会社同士で交流ができるのもマーケットの醍醐味




もちろん、映画の話も直球だ。最初は、あれやこれやを薦めてきたセラーも、こちらの意向が分かるとセレクトしてくれる。「今回は、あなたのところに合うものはないかもしれないけど、これは観てほしい」という風に。

なので、当初、何十枚も持って帰って来ていたDVDは、10分の1ぐらいに減った。その上、データベース上にアップされている約400本に及ぶ作品は、映画祭終了後もしばらく観られるので、焦ることもない。





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外から見た商談の場



今年は、まだガツン!と来る作品に出会っていないが、昨年、観た中でやってみたい(ちょっと冒険?)作品があったので、そこに焦点をあてて交渉に臨んだ。「日本の会社は高値で買っても、DVDスルーにする」という噂が広まっているので、毎回、チラシやポスターを持って行くと、とても喜ばれる。



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2011マーケット会場内




今回も、11月に『瞳は静かに』のDVDをリリースした米国の配給会社が、日本版のビジュアルをみて、羨ましがっていた。(ふふふっ)しっくりくるビジュアルができなかったらしく、日本版のポスターをみて、「黒を使うなんて!」と驚いていた。同じ映画を配給する会社同士で交流ができるのも、こうしたマーケットの醍醐味だ。



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カフェテリア



こうして12月2日から5日までの4日間続いたマーケットは終了した。昼間は、スクリーニングとミーティング、夜は各国の映画協会が行うパーティで、大半が寝不足なのであるが、最終日はサン・テルモにあるEl Zanjonで、アルゼンチン映画協会主催のクロージングセレモニーがあり、皆、疲れを忘れて踊りまくっていた。




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2009マーケット会場



完全燃焼しきった感のある4日間なのだが、この後、大半の人々はバケーションをとる(アルゼンチンは夏に突入ですし……)ので、連絡がとれなくなるのが、タマに傷。でもまあ、慌てずにゆっくりいこう、と思えて来る。

今回は、『瞳は静かに』のブスタマンテ監督とも会って、次回作の話をした。

『瞳は静かに』の監督インタビューですでに何度か話していたこともあって、旧友に会うような感じだった。映画と日本の状況との共通点、家族のあり方を知ったことから、早速、次回作の構想を練った、という。しっかりとした視点を持った監督の話は、とても説得力があるので、何とか実現に向かえるよう協力できれば、と思う。



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2011マーケット会場、アルゼンチン・カトリック大学


映画だけではなく、人との出会いや、企画の第一段階から知ることができるチャンスにワクワクする。成田からアトランタ(約12時間)、アトランタからブエノスアイレス(約11時間)、乗り継ぎ待ち時間(約6時間)と29時間かけても、毎年、来てしまうのがVentana Surフィルム・マーケットだ。



(文、写真:比嘉世津子[Action Inc.])


(☆)メルコスール 南米共同市場。外務省は「南米南部共同市場」と言っているけど、何だかしっくり来ない。元々は、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイとブラジル(南米東部)から始まり、その後ベネズエラ(南米北部)が正式加盟。準加盟国はコロンビア、エクアドル、ペルー、ボリビア、チリ。つまりガイアナ、スリナム、仏領ギアナを除く南米諸国をEUのような経済圏にしようという試みで発足したもの。





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映画『瞳は静かに』

2011年12月10日(土)より、新宿K's Cinema渋谷UPLINKにてロードショー(全国順次公開)



1977年、軍事政権時代のアルゼンチン北東部の州都サンタフェ。やんちゃでイタズラ好きな男の子アンドレス(8歳)は、母の突然の死で、兄のアルマンドと共に、祖母オルガと父ラウルが住む家で暮らし始める。なぜか母の持ち物を焼き、家まで売ろうとするオルガとラウル、親しげに近づいて来る謎の男セバスチャン。好奇心旺盛なアンドレスは、大人たちを観察し、会話を盗み聞きながら、何が起こっているのかを探ろうとする。そして、ある夜、部屋の窓から恐ろしい光景を目にするのだが……。



監督・脚本:ダニエル・ブスタマンテ

撮影:セバスチャン・ガジョ

音楽:フェデリコ・サルセード

出演:ノルマ・アレアンドロ(1985年カンヌ国際映画祭主演女優賞)、コンラッド・バレンスエラ、ファビオ・アステ、セリーナ・フォントほか

製作:カロリーナ・アルバレス

原題:El Ansia Producciones

2009年/アルゼンチン/HDCAM/カラー/108分/Dolby Digital SRD

日本語字幕:比嘉世津子

後援:駐日アルゼンチン共和国大使館 協力:スペイン国立セルバンテス文化センター東京ほか

公式HP


▼『瞳は静かに』予告編



[youtube:4GZ8EGpc-wg]




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メキシコ若手才能が集うグアダラハラ映画祭 http://www.webdice.jp/dice/detail/3333/ Mon, 05 Dec 2011 10:29:14 +0100
25回より、上映会場となった映画館シネポリスの会場マップ。20スクリーン中、8スクリーンで映画祭上映。



12月10日より公開となるアルゼンチン映画『瞳は静かに』。これまで『永遠のハバナ』 『低開発の記憶ーメモリアス』『今夜、列車は走る』といった作品を配給してきたAction Inc.の比嘉世津子さんは、良質なラテンアメリカの作品を日本の映画ファンに紹介すべく、たえず各国の映画祭を飛び回っている。前回のキューバは新ラテンアメリカ国際映画祭に続いて、今回は来年で27回目となるメキシコのアダラハラ国際映画祭の模様をレポート。出張中のブエノスアイレスから、注目のメキシコ映画やラテンアメリカ映画をいち早くチェックすることのできるこの映画祭に赴いた際の現場の盛り上がりを寄稿してもらった。






はじめてマーケットを導入したラテンアメリカの映画祭




ブエノスアイレスにいながら、メキシコの話を書くのもシュールなのだが、今回は、毎年、3月に行われるグアダラハラ国際映画祭について。

1995年から始まり、今年で26回を迎えたこの国際映画祭は、文化都市グアダラハラの名にふさわしく、グアダラハラ自治大学を中心に運営され、ラテンアメリカの映画祭で初めてフィルム・マーケットを導入した映画祭でもある。

ラテンアメリカの映画祭は、主に映画そのものをじっくり観て、評価する機会として捉えられていること、監督や脚本など、制作者に焦点をあて、新たな才能を見いだす場であると共に、配給やプロデューサーは、必要な相手を調べて勝手にコンタクトをとる、というラテンな感覚から、マーケットの必要性は余り重視されていなかった。





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26回より、EPOセンター正面



webdice_24回ホテル入り口

24回より、ホテル入り口



ところが、グアダラハラ映画祭が先手をきって、2002年にカンヌ映画祭のマルシェ(マーケット)と提携し、小さいながらもマーケットを開始した。当初ブースを出していたのは、各国の映画協会が主だったが、米国からバイヤーたちが訪れ始めると、資金のない配給やセラーのために、商談テーブルが設置され、ブースに出展しなくても参加できるようになった(今では60ものテーブルが並ぶ!)。

私が初めて参加したのは、2004年。フィエスタ・アメリカーナという高級ホテルの会場にできたマーケットは、宴会場1つ分ぐらいの大きさで、会議場3カ所でマーケットのスクリーニングを行い、コンペ作品はシネコンでの上映だった。




webdice_24回マーケット入口

24回より、マーケット入口



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24回より、マーケットの様子





それが、今年から巨大な展示場に場所を移し、Expotecと呼ばれるデジタル撮影機材や照明機材からソフトウエア、ポストプロダクション会社の最新テクノロジーの展示や商談、また、映画保険会社(天候不良でロケが長引いた場合や、スタッフのケガなどの労災用保険)から各国のフィルムコミッション(ロケ地の誘致)までがブースを出し、映画制作のために必要な情報が一挙に集結する場となった。仮説のシアターが2カ所に作られ、シンポジウムや上映も行われる。

なぜかジャック・ダニエルやコロナビールがスポンサーについて、会場やテラスでタダ酒(!)が楽しめるようになったのも大きな変化だ。

映画祭の規模が分かるものとして、2011年のデータを少し紹介すると、上映本数は45カ国から出品された306本。上映場所は市内シネコン30スクリーン。一般来場者は10万人突破。制作、配給、バイヤーやセラーの登録者は、3,372人で、そのほか、メディア235社、記者853人、賞金総額は、375,000USD(1ドル=80円計算で3,000万円!)。



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26回より、テラスレストラン


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26回より、マーケット入り口





先輩監督たちが後進を育てようという熱気がある



コンペの内容は、イベロアメリカ(編集部注:スペイン、ポルトガルの植民地だった国々)とメキシコ(ま、主催国だから)に分かれていて、長編・短編フィクション、長編・短編ドキュメンタリーとアニメーション部門がある。短編は24本、長編は14本が上映される。

その他、毎年、注目を呼ぶのは特集上映で、2011年はヴェルナー・ヘルツォークの50作品を一挙上映。ヘルツォークとウイリアム・デフォーの講演とトークに加えて、『世界最古の洞窟壁画3D 忘れられた夢の記憶』(原題“Cave of Forgotten Dreams”)のプレミア上映も行われた。

また、ベルリン国際映画祭のベルリナーレ・タレントキャンパスと在メキシコのゲーテ協会との協同企画で、監督、脚本家、撮影、編集、俳優から評論家を対象にした“グアダラハラ・タレントキャンパス”、資金が不足している企画のために、各国のプロデューサーとの出会いの場をつくる“エンクエントロ・イベロアメリカノ”やドキュメンタリー作品に焦点をあてて、ポストプロダクションから配給、宣伝までの協力を提供する“DocuLab”など、企画が良いのに資金がない若手監督たちのやる気を刺激する場が満載だ。




webdice_第25回シネポリス全景

25回より、会場となった映画館シネポリスの全景


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26回より、最終日閉会直前のマーケット内部


何と言ってもメキシコを初めとしてラテンアメリカに顕著なことは、先輩監督たちが後進を育てようという熱気があるところ。メキシコから出て、米国に製作会社「チャチャチャ」を設立し、ハリウッドメジャーと組んで作品を制作している監督トリオ、ギジェルモ・デル・トロ、アルフォンソ・クアロン、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(名前はすべてスペイン語発音通り)は、プロデューサーとして若手監督たちの製作に関わっている。また、グアダラハラ映画祭常連の俳優ガエル・ガルシア・ベルナルとディエゴ・ルナ、プロデューサーのパブロ・クルスがメキシコ・シティに設立したカナナ・フィルムズは、若手監督作品の配給・宣伝を行っているほか、“アンブランテ”というドキュメンタリー映画祭も行っている。

カナナ・フィルムズは、あくまでメキシコを拠点としてラテンアメリカ映画を振興する、という目的を掲げているが、そんな30代がいるからこそ、このグアダラハラ映画祭も盛り上がるのかもしれない。

メキシコは、実は、ハリウッドメジャーの素材を一手に引き受ける大手ラボが存在するので、3Dまでテクノロジー的には、米国にまったくひけをとらない。





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オープニング式典に登場したガルシア=マルケス(2009)



私も毎回、Expotecに顔を出して、どのぐらいの予算でどんなことができるのか話を聞いたり、日本語字幕をつける方法なんぞを一緒に試してみたりしている。低予算でも撮ろうとする監督や配給をバックアップするのを使命としているので、持っている知識を惜しげなく分かち合ってくれる。

ここに来ると、誰もが「ひとりじゃない、仲間がいる」と感じられる。出来上がった作品を評価するだけではなく、映画制作を考えるシンポジウム、はたまた、海外に売り込むマーケットまでを一貫して行おうという高い志を持ち、進化しつづけているのが、グアダラハラ国際映画祭なのだ。



(文、写真:比嘉世津子[Action Inc.])




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キューバの熱を知る新ラテンアメリカ映画祭(2011-11-28)

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映画『瞳は静かに』

2011年12月10日(土)より、新宿K's Cinema渋谷UPLINKにてロードショー(全国順次公開)



1977年、軍事政権時代のアルゼンチン北東部の州都サンタフェ。やんちゃでイタズラ好きな男の子アンドレス(8歳)は、母の突然の死で、兄のアルマンドと共に、祖母オルガと父ラウルが住む家で暮らし始める。なぜか母の持ち物を焼き、家まで売ろうとするオルガとラウル、親しげに近づいて来る謎の男セバスチャン。好奇心旺盛なアンドレスは、大人たちを観察し、会話を盗み聞きながら、何が起こっているのかを探ろうとする。そして、ある夜、部屋の窓から恐ろしい光景を目にするのだが……。



監督・脚本:ダニエル・ブスタマンテ

撮影:セバスチャン・ガジョ

音楽:フェデリコ・サルセード

出演:ノルマ・アレアンドロ(1985年カンヌ国際映画祭主演女優賞)、コンラッド・バレンスエラ、ファビオ・アステ、セリーナ・フォントほか

製作:カロリーナ・アルバレス

原題:El Ansia Producciones

2009年/アルゼンチン/HDCAM/カラー/108分/Dolby Digital SRD

日本語字幕:比嘉世津子

後援:駐日アルゼンチン共和国大使館 協力:スペイン国立セルバンテス文化センター東京ほか

公式HP


▼『瞳は静かに』予告編



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キューバの熱を知る新ラテンアメリカ映画祭 http://www.webdice.jp/dice/detail/3324/ Mon, 28 Nov 2011 14:20:57 +0100
ICAICの旧式映写機


70年代のアルゼンチンを舞台に、少年と家族の物語を通して軍事政権下の人々の営みを描く映画『瞳は静かに』 。12月10日(土)からの公開にあたり、Action Inc.の比嘉世津子さんに、配給することになった背景、そして今作品を探しだしたキューバの首都ハバナで開催されるラテンアメリカを代表する国際映画祭、新ラテンアメリカ国際映画祭について、町の熱気も含め綴ってもらった。



何でもアリな映画祭



この映画を初めて観たのは2009年、ハバナの新ラテンアメリカ映画祭だった。

あまり知られていないのだが、キューバの首都ハバナでは、毎年12月に、その年に制作されたラテンアメリカ映画が集い、劇映画、ドキュメンタリー、アニメ部門で、Premio Coral(サンゴ賞)を競う。今年で33回目。私は2003年から2009年まで、2006年を除いて毎年行っていた。(2006年は12月に日本でのキューバ映画祭を企画したもので行けず)お祭り的な雰囲気が好きなのと、マーケット(映画を売買する場所)がないので、セラー(複数の映画を売り込む会社)もミーティングも不在、純粋に劇場で映画を観るにはもってこいの場所なのだ。

気になる映画があれば、連絡先にメールするか、たまに監督や俳優が来ていることもあるので、直接話しができるし、何の不自由もない。これまで配給した『永遠のハバナ』『低開発の記憶』『今夜、列車は走る』も、ハバナの映画祭で配給権を買ったものだ。




2009年は革命50周年

2009年は革命50周年



事務局か

事務局があるナショナルホテル




コンペ作品はハバナ市内数カ所にある座席数800席から1,200席の由緒ある映画館約12カ所で一般公開される。映画館は「劇場」という名にふさわしく、なにしろ古い。ハバナの新市街とよばれるベダード地区にあるのは、3階席まであるヤラ劇場、キューバ映画芸術産業庁(ICAIC)のオフィスがあるチャプリン劇場、劇場入り口までが回廊のようになっているラ・ランパ劇場などがあり、旧市街はカピトリオ(旧国会議事堂)から道を隔てたところにあるパイレット劇場や、そのすぐ近くにルミエール劇場がある。





IMG_0053

ヤラ劇場






オープニングとクロージングは、郊外のカール・マルクス大劇場で上映される。

街中で映画を待つ人々の列もすごい。一応、一般券と映画祭参加者とに分かれて並ぶのだが、人気作には長蛇の列ができる。何で人気になるのか、というと口コミ。並んでいる時や映画が始まるまで、近くにいる人たちと、どんな映画を観て、何がおすすめか、語り合う。みな評論家なみの洞察力で、自分のおすすめ映画を宣伝するので、映画祭が始まって2、3日すると、人気作はあっという間に満席になることも、しばしば。



並ふ

ラ・ランパ劇場で並ぶ人



キューハ映画は満員

キューバ映画は満員


特にキューバ映画は、毎回、満席。監督や女優らの登壇があるし(それも大勢)、何よりもキューバのコメディを心待ちにしている人が多い。キューバのスペイン語は独特なイントネーションと独自の言葉使いなので、会場がどっと笑いに包まれる時、外国人たちは、目が点になる。なぜなら、新ラテンアメリカ映画祭で上映される映画は、その大半に英語字幕が、つかないからだ。必ず字幕がつくのは、ブラジル映画。当たり前だけどスペイン語の字幕がつく。



ヘミンク

ヘミングウェイが座るバー




それぞれの作品が、ハバナの劇場をまわるのだが、どこで何を上映するかが記載された映画祭新聞が、当日の9時半ぐらいにしか出ないので、スケジュールを組むのが大変。朝一番は、10時からだから、見逃す人が多いと思いきや、これも口コミでちゃんと人が入っている。突然の劇場変更やら、上映予定だったけど実は素材が着いていなくて急遽、他の作品を上映だとか、何でもアリ!な映画祭だ。




映画祭新聞

映画祭新聞プログラム貼り出し



映像にチカラがあれば、言葉が分からなくても面白い




そんな雰囲気の中で、『瞳は静かに』を観たのは、ハバナ唯一のシネコン(?)、インファンタ劇場。4スクリーンあるのだが、当時は、1スクリーンのみの上映で、何のために複数のスクリーンがあるのやら、と思っていたが、それでもハバナで最も現代的な映画館で、椅子も壊れていないし、何よりも客席に段差がついていて観やすい。

『瞳は静かに』は、すでに何度が上映されていたが、会場は満席立ち見だった。階段に座って、最後まで息をつめて観た。いつも上映中は、ブツブツつぶやくおばちゃんたちがいて(「あ~あ、そんなことしちゃって」とか、「その男は待っても無駄だってば」とか)、まわりもそれに返事したりするのだが、『瞳は静かに』は、ほんとに静かで、最後、エンドロールが流れて、一瞬おいてから満場の拍手が起こった。私もラストシーンで、驚愕していたので、何だか場内と自分がシンクロした気分だった。




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2009年のときのキューバ映画上映時のようす


一緒に観たスペイン語が全くわからない日本の友人が、面白かった、と言ってくれたのも、配給権を買おうと思った理由だった。映像にチカラがあれば、実は言葉が分からなくても面白いのが映画だから。『永遠のハバナ』は、その典型で、セリフがない。余りにも説明が多い映画を見なれると、能動的に映画を観ることを忘れてしまうような気がするが、ラテンアメリカでは、「観客の参加なくして映画は完成しない」という観点に立つ監督が多い。観客の目や想像力を信じているからこそだと思う。






『瞳は静かに』は、この映画祭で「我らのラテンアメリカ初号賞」を受賞。35mmフィルム1本のポストプロダクションに必要な技術または資金が授与された。

1979年から始まったこの映画祭。フィクション部門の初代審査員長は、ガブリエル・ガルシア=マルケス、ドキュメンタリー・アニメ部門は、サンティアゴ・アルバレスだった。コンペ作品ばかりでなく、毎年、ヨーロッパ映画や世界の監督の特集上映が行われ、コスタ・ガブラスやアキ・カウリスマキをはじめ、ハビエル・バルデムやベニチオ・デル・トロ、ガエル・ガルシア・ベルナルやディエゴ・ルナら、ラテンアメリカの俳優陣も訪れる華やかな映画祭だ。



タヒオ監督

ホアン・カルロス・タビオ監督の舞台挨拶



さて、ここで目をつけた『瞳は静かに』、次なるステップは契約交渉なのだが、それは、3月、メキシコのグアダラハラの映画祭で行うことになる。


 
(文:比嘉世津子[Action Inc.])











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映画『瞳は静かに』

2011年12月10日(土)より、新宿K's Cinema渋谷UPLINKにてロードショー(全国順次公開)



1977年、軍事政権時代のアルゼンチン北東部の州都サンタフェ。やんちゃでイタズラ好きな男の子アンドレス(8歳)は、母の突然の死で、兄のアルマンドと共に、祖母オルガと父ラウルが住む家で暮らし始める。なぜか母の持ち物を焼き、家まで売ろうとするオルガとラウル、親しげに近づいて来る謎の男セバスチャン。好奇心旺盛なアンドレスは、大人たちを観察し、会話を盗み聞きながら、何が起こっているのかを探ろうとする。そして、ある夜、部屋の窓から恐ろしい光景を目にするのだが……。



監督・脚本:ダニエル・ブスタマンテ

撮影:セバスチャン・ガジョ

音楽:フェデリコ・サルセード

出演:ノルマ・アレアンドロ(1985年カンヌ国際映画祭主演女優賞)、コンラッド・バレンスエラ、ファビオ・アステ、セリーナ・フォントほか

製作:カロリーナ・アルバレス

原題:El Ansia Producciones

2009年/アルゼンチン/HDCAM/カラー/108分/Dolby Digital SRD

日本語字幕:比嘉世津子

後援:駐日アルゼンチン共和国大使館 協力:スペイン国立セルバンテス文化センター東京ほか

公式HP


▼『瞳は静かに』予告編



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「日常に恐怖を組み込んで生きる事を決めた人々の物語」アルゼンチン映画『瞳は静かに』 http://www.webdice.jp/dice/detail/3311/ Wed, 16 Nov 2011 11:58:37 +0100
『瞳は静かに』撮影風景


12月10日(土)から公開となる『瞳は静かに』は、アルゼンチンのとある町を舞台に、そこに住む8歳の少年の1年間の生活を通して、軍事政権下の市民への弾圧とそこから家族を守る人々の葛藤が描かれている。2001年の経済破綻を経て、あらためて1976年から82年にかけての軍事政権の問題が語られようとしている現在、この作品はサンタフェの町の家族の関係を通して、当時の不穏な空気がありありとかび上がってくる。今回は日本での上映にあたり、監督のダニエル・ブスタマンテにスカイプとメールで行ったインタビューを掲載。また高橋めぐみ、七里圭、アルベルト松本、星野智幸各氏によるコメントも紹介する。













この映画を初めて観たのは2009年、キューバの新ラテンアメリカ映画祭だった。満席立ち見の中で階段に座ったのだが、物語と映像にただよう緊張感とアンドレスの表情から目が離せず、ラストシーンまで一気に観た。これは軍事政権のことは知らなくても、サスペンスタッチで描かれた家族の物語として日本の人々にも伝わると思った。日常の中に潜む恐怖と不安に沈黙を選ぶことで家族を守ろうとした祖母オルガとそれ故に居場所を失ってしまうアンドレスの姿は、もはや遠い国のことではない、と配給を決めた。

──比嘉世津子(Action Inc.)












「輝くような瞳を持つ男の子を探した」

ダニエル・ブスタマンテ監督インタビュー




──平和なように見える町に軍事政権の反体制派への非合法な弾圧への恐怖が潜んでいた、というこの物語の脚本を書いたきっかけは?



数年前、あるテレビのドキュメンタリーで、軍事政権時代、私の故郷、サンタ・フェにも情報局の地下組織があったことを知った。そこに何ヶ月も監禁されていた女性は、長期にわたる監禁と拷問の結果、時間や空間の感覚を失ったが、ただ一つ、近くの学校のチャイムと校庭で遊ぶ子どもたちの声が、外の世界と彼女をつないでくれたそうだ。朝一番のチャイムがなるときに「あと1日生きる」と声高に自分に言い聞かせた、と語っていた。

その女性が、いつ、どこに監禁されたかを語ったときに、背筋が冷たくなった。近くにあった学校は、私が通っていた小学校だった。当時、私は小学4年生。彼女が聞いた子どもの声の中に、自分の声も混じっていたはずだ。そう思うと、頭から離れず、親族が集まった夕食会で、その話をした。

すると、親戚のひとりが言った。

「ああ、私たちは知っていたよ」と。

当たり前のように、サラッと言われたことに衝撃を受けた。

その時、これは物語だ、と思った。監禁された女性の物語ではなく、日々の現実の中に恐怖を組み込んで生きることを決めた人々の物語だと。それを書かずにはいられなかった。




Web

ダニエル・ブスタマンテ監督


──映画化に至るまで、どのくらいの時間を要したのですか?



脚本を書き終えてから、クランク・インするまで3年かかった。撮影までの費用は、脚本賞で得た賞金と、地元サンタ・フェからの支援、そしてプロデューサーとしての自己資金。ポスト・プロダクションは、キューバの新ラテンアメリカ映画祭で獲得した「ラテンアメリカ初号賞」(訳注:35mmフィルムの初号をつくるための制作費が支給される賞)の賞金。撮影に6週間、ポスプロに10週間かかった。



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『瞳は静かに』撮影風景



──主人公の男の子アンドレス役にコンラッド・バレンスエラを選んだ決め手は?



キャスティングのために600人の子どもに会って、輝くような瞳を持つ男の子を探した。アンドレスの変化に従って、瞳の輝きが、徐々に消えていくような、そんなイメージでコンラッドを選んだ。



──アンドレスの祖母オルガ役として、アルゼンチン初のアカデミー賞受賞作『オフィシャル・ストーリー』のノルマ・アレアンドロが出演しています。



『オフィシャル・ストーリー』以降、軍事政権がテーマの映画には、二度と出たくないと言っていたことは有名だったので、期待はしなかった。脚本の最終稿ができたときに、読むだけ読んでほしい、とノルマに手渡した。出演を承諾してくれたのは、私にとって嬉しい驚きだった。




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『瞳は静かに』撮影風景




──まだやんちゃな男の子が1年間の出来事を通して変化していくというこのストーリーに、監督の子ども時代の自伝的要素は含まれているのですか?



私はアンドレスではないが、同じように友達と空き地や道路で遊んでいたし、何かが起こっていることは感じていた。両親の重い沈黙の中に、恐怖が見えたから。子どもが好奇心を持つことは、推奨されるどころか、逆に厳しく罰せられる時代だった。



──日本での上映を楽しみにしています。



私の映画に興味を持ってくださる方々に感謝したい。私たちの長所短所も含めて、アルゼンチンの歴史や社会への関心が高まることを心から願っている。




(構成・文:比嘉世津子)





暴力的なシーンや激しい台詞はあまり出てこないのだが、漂う不安感、緊張感は半端ではない。驚愕の結末まで息をつくことが出来なかった。そして、見終わってしばらくして、突然ストンとアンドレスの気持ちを理解した

──高橋めぐみ(カリブ・中南米音楽/アオラ・コーポレーション)



この映画は、アルゼンチンの軍事独裁体制下のある家族を描いたものだが、決して遠い国の他人事ではないと思う。三月のあの日以来、日本で暮らしていて、不安と怒りを覚えない人はいないはずだ…これから底知れぬ負の遺産を押し付けられる子供たちの中にはきっと、静かにこの理不尽を見つめているアンドレス少年がいる

──七里圭(映画監督)



アンドレスが映画の中で、あのように振る舞うのも何となく大人の言動を察知しているからであり、複雑な家庭及び社会環境の中で自分の居場所を求めているだけではなく、彼なりに駆け引きをしながら最大限に生存本能を働かせているのかも知れない。なぜなら、大人も日常生活を営みながらもすぐ近くで起きていることには蓋をし、黙認し、関与しないことが「安心、安全、良い市民」だということを自分自身に言い聞かせる必要があったのである。」

──アルベルト松本(「アルゼンチンを知るための54章」著者)



これは今の日本じゃないか!今の日本のリアルな現実そのままじゃないか!見終わった直後、私は胸の内でそう叫んでいた。あまりに衝撃的な結末は、私が今生きているこの社会の光景とそっくりだったのだ…アルゼンチンの軍政の歴史を知らない人にとっては、起こっている出来事が今ひとつはっきり見えてこないかもしれない。そんな観客は幸いである。なぜなら、主人公の少年アンドレスも、何が起こっているのか、はっきり知らされないのだから。アンドレスの置かれた立場を、そのまま追体験できるだろう。

──星野智幸(作家)













映画『瞳は静かに』

2011年12月10日(土)より、新宿K's Cinema渋谷UPLINKにてロードショー(全国順次公開)




監督・脚本:ダニエル・ブスタマンテ

撮影:セバスチャン・ガジョ

音楽:フェデリコ・サルセード

出演:ノルマ・アレアンドロ(1985年カンヌ国際映画祭主演女優賞)、コンラッド・バレンスエラ、ファビオ・アステ、セリーナ・フォントほか

製作:カロリーナ・アルバレス

原題:El Ansia Producciones

2009年/アルゼンチン/HDCAM/カラー/108分/Dolby Digital SRD

日本語字幕:比嘉世津子

後援:駐日アルゼンチン共和国大使館 協力:スペイン国立セルバンテス文化センター東京ほか

公式HP


▼『瞳は静かに』予告編



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