webDICE 連載『アジアン・カルチャー探索ぶらり旅』 webDICE さんの新着日記 http://www.webdice.jp/dice/series/36 Mon, 16 Dec 2024 20:27:09 +0100 FeedCreator 1.7.2-ppt (info@mypapit.net) 「台湾アート界にはコミュニケーションが必要」ローカルに根ざし、挑戦的。現実を見据え奔走する台湾のクリエイター達 http://www.webdice.jp/dice/detail/3192/ Tue, 30 Aug 2011 18:04:05 +0100
台北を拠点に活動するサウンド・アーティストCHANG, Yung-Ta(張永達) photo 蔡欣邑



最終回:台湾編・本質を見極めるために、私は現地へ赴く



日本と台湾は「仲良し」だとよく言われる。3.11の震災後には多くの義援金が台湾から集まり、多くの日本人が台湾の人たちに心の底から感謝した。

確かに台湾に行けば、台湾の人たちが日本を好いてくれていることが良く伝わる。渋谷や原宿のようなファッションが集まる通りの美容室にはよく「日式」と看板に書いてあるし、台北市の下北沢とでも言うべき師大路というストリートには「日式カフェ」や「日式バー」も多く存在する。台北のアニメイトでは日本人が書いた日本語の同人誌が売られているし、台湾最大の書店「誠品書店」には日本の女性ファッション誌のコーナーが堂々と存在する。3.11から約2ヶ月経った5月上旬、台湾で2週間過ごし、日本政府の放射能汚染に関するはちゃめちゃな発表や会見と、「日式」が溢れる台湾の街を見比べて、やるせない気分になることが多かった。




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台北市の地下鉄中山駅真上の交差点。向かいに見えるオレンジの壁は実はスターバックス。



今の台湾では日本の文化やファッションが大流行している。それゆえ「日式」が街の至る所にある。台湾の人たちの多くは日本に対して愛情とでも言うべき親しみを持ってくれているようなのだが、この震災後の日本の泥沼も見てくれているだろうか。台湾の人たちに、本当の日本を見てほしいと思った。単なるファッション、流行のひとつの日本ではなく、日本の内情も見てほしいと。



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誠品書店の日本女性誌コーナー。


そして、逆に日本側から台湾について考える。日本では「台湾の多くの人は親日だ」というような発言をよく耳にする。私はそんな安易な表現には疑問を感じる。今の台湾にとって日本モノは流行のなかの1ジャンルと言えると思うのだが、それを「親日」とくくってしまうのか?「台湾の人たちは親日」というイメージを、中国に対しての攻撃材料にしてはいないだろうか。中国人も、台湾人も、香港人もタイ人も韓国人もフィリピン人もインドネシア人も、キューバ人も、誰もが一人の人間でただ単にその国家の枠組みの中で暮らしているだけだ。誰もが話し合えばわかりあえる可能性がある。しょっぱなから言いたいことをひとつ言うが、イメージで何かを判断することは安直で危険だ。本質を見極めるために、私は現地へ赴く。現地へ行くことが不可能なのであれば、当事者とインターネットを使って連絡を取る。あまりに情報が多すぎる今、私たちは情報の海に飲み込まれてしまっていないだろうか?



と、連載最終回の冒頭にいきなり語ってしまったが、あらためてこういったことを考えたのには、先日のサマソニ東京での経験が大きい。サマソニ東京1日目の台湾勢のステージには、500人程度のオーディエンスが集まっていた。2日目の北京勢のステージ、特に北京では絶大な人気を誇る2バンドQueen Sea Big SharkとRe-TROSのライブでは、ステージの前にはたった15人ほど。もちろん台湾インディーズは最近フジロックにも出演するし、台湾インディーズの情報の方が日本には浸透しているのかもしれないが、そこに、日本人が勝手に抱いている中国に対するネガティブなイメージも要因としてあったのではないかと思う。政治も社会状況も色濃く表れるのがアートやカルチャー。だが、政治を差し置いて交流できるツールも、アートやカルチャーなのだ。音楽や映画や本、アートを見るときに、中国だから、台湾だから、と、勝手な推測をすると、傑作との出会いを逃していく。だからこそ、私はOffshoreをたちあげた。今まで日本がアジアのピラミッドの頂点にいたかもしれない。でも、そんな時代はもう過ぎ去った。簡単に個人が情報をやり取りできる今だからこそ、私たちが今まで見向きもしなかったアジアに目を向けて、一緒に良いアートやカルチャーを広げるために協力していきたい。搾取構造にも似たピラミッドはもう存在しない。今後のアート・カルチャーに何が必要なのか。実は、私はそれを台湾で少し知ることができたのだ。では、長々と結末から書いてしまったが、台湾で今起こっていることを紹介する。



コミュニケーションやディスカッションを重要視するアートの現場「失聲祭(Lacking Sound Festival)」と「Taipei Contemporary Art Center」



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失聲祭が行なわれるギャラリー・イベントスペース、南海藝廊(Nanhai Gallery)。


南海藝廊 website http://blog.roodo.com/nanhai




今の台湾のアートを語る上で外せない重要人物が、YAO, Chung-Han(姚仲涵)だ。彼はサウンドアーティストでありながら、台北市の南海藝廊で毎月行なわれるサウンドアートイベント失聲祭(Lacking Sound Festival)のオーガナイザーの一人だ。私が運営しているOffshoreの初回記事としてYAOのインタビューを掲載した。Twitterを介してYAOと連絡を取り、私の台北滞在中にちょうど失聲祭の第47回目が行なわれたので、足を運んだ。入るなり驚いた。真っ暗な30㎡ほどの空間にぎゅうぎゅうに若者が集まっている。真ん中で小さい数個のライトがサウンドと連動し光る。緊迫感のあるビートとノイズ音と暗闇に五感を研ぎ澄まされる。アーティストはCHANG, Yung-Ta(張永達)という1981年生まれの若いアーティスト。




CHANG, Yung-Ta(張永達)website http://changyungta.blogspot.com/




[youtube:hUnZTYSr88A]
失聲祭オフィシャルビデオより、第47回失聲祭でのCHANG, Yung-Ta(張永達)のパフォーマンス。


演奏が終了すると、その日の出演者を囲み、アーティストトークが始まる。アーティストトークと言っても、一方的に司会者とアーティストがトークを繰り広げるのではなく、終始Q&Aが繰り返される。台湾人の若者も質問をするし、ちょうど当日来場していたアートライターも容赦なく質問する。「このパフォーマンスのコンセプトは何か」「なぜこのパフォーマンスをするのにこれらのデバイスを選んだのか」「今までどのような作品を作ってきたのか」「このパフォーマンスでオーディエンスにどのような影響を与えたかったのか」など。稀に若いアーティストが答えに詰まる時もあるのだが、それでも、最後には会場全体が和む。アーティストもオーディエンスも頭をフル回転しアートについて考えた後だ。連帯感というか、みんなが話し合ってすっきりとし全員から笑顔が生まれていた。良い意味でローカルに根ざし、挑戦的。アートをアートという抽象的な言葉で片付けるのでなく、人にどういった影響を与えるのかをしっかりと考えるためのアカデミックなイベントでもあるだろう。こんな素晴らしいイベントが台湾にあるのかと感動した。YAOとこのとき始めて対面して話した。彼自身もユーモアに富んでいて、人と会話を重ねることが大好きな一人の若者なんだと思った。



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第47回失聲祭でのアーティストトークの様子。私は、その時出会った失聲祭スタッフで筑波大留学歴のある女の子に、翻訳してもらいアーティストトークを聞いていた。言葉がわからずとも、参加者のアートに対する情熱が強く感じられる。


YAOは失聲祭のドキュメンタリービデオでこう語る。「今の台湾アート界に一番欠けているものはディスカッション。クリエイター達の間にあるマンネリはそれを妨げている。深いディスカッションの機会は起こしていくべきだし、起こさないとすれば、それは非常に残念なこと。」と。




YAO, Chung-Han(姚仲涵) website http://www.yaolouk.com/



Offshore : 台湾を代表するサウンドアーティスト・YAO, Chung-Han 姚仲涵 インタビュー

http://www.offshore-mcc.net/2011/07/yao-chung-han.html



[youtube:CB6DwywC7hU]
失聲祭オフィシャルドキュメンタリービデオ。英語字幕付き。今までの失聲祭の様子がダイジェストで見られるので、メディアアートに興味のある人はぜひ見て欲しい。



Taipei Contemporary Art Centerも同じくディスカッションを重要視するアートオルタナティブスペース。作家のエキシビションも行なうし、イベントやワークショップ、シンポジウムなども行なう。ここで働くMeiyaという30代前半の女性に聞いた興味深い話がある。4階建てのビル一棟がTaipei Contemporary Art Centerなのだが、彼らはあえて作家の発表の場となるエキシビションスペースを3・4階へ置いたのだ。わざわざ階段を多く上らないといけない上階にだ。もし、通りすがりの人にもエキシビションを見てもらうなら、より地上に近い階、1階や2階にスペースを置くのがベストだが、彼らはそうしなかった。では、1階や2階には何があるのか。1階にはスタッフのオフィスと訪問客が気軽に入れる中古本のマーケットやチラシ置き場、2階にはイベントスペースがある。MeiyaやTaipei Contemporary Art Centerのスタッフがアートにおいて重要視しているのは「アートを身近に感じるためにコミュニケーションをすること」なのだ。エキシビションは確かにアーティストの重要な発表の機会だが、それよりも今の台湾アート界には人同士のコミュニケーションが必要だとMeiyaは言う。彼らも失聲祭と同じく、人が話し合う機会を増やすべく、アーティストと観客が会話できるイベントを重ねている。



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Taipei Contemporary Art Center入り口ドア。


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当時貼ってあったポスターは、艾未未や核問題についてのトークセッションのポスター。アートから社会問題まで扱うコミュニティサロンとでも言うべきスペースだ。



台北當代藝術中心 Taipei Contemporary Art Center http://www.tcac.tw/




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これが知る人ぞ知る台湾版BIG ISSUE。左側、13号の表紙は濱田英明さんの写真。


そしてさらに台湾BIG ISSUEの功績も伝えたい。台湾では台湾版ビッグイシューが発行されており、それが日本のそれとはまったく別物とでも言うべき、クリエイティブに根ざした雑誌なのだ。巻末には台湾で行なわれるあらゆる音楽イベント、アートイベントなどの情報がマンスリー形式で紹介されており、先述の失聲祭もイベント情報のひとつとして掲載されている。内容は芸術家やデザイナー、クリエイター、またはクリエイティブにまつわるあらゆる事象の紹介が主だ。また表紙デザインも毎回美しく、イギリスや日本のビッグイシューと同じように毎回ハリウッドスターの肖像が使われるわけではない。第13号の表紙には、フォトグラファーであり音楽家でもある濱田英明さんの写真が使われている。台湾版は月2回発行でなく月1回発行であることからか、ボリュームも「雑誌」と堂々と呼べる100ページ弱。ベネトンが広告を出しているというのも重要なポイントかもしれない。日本版と台湾版で伝えたいことの本質は同じはずだが、とにかくアプローチの方法が違う。少しでもデザインやアート、カルチャーに興味のある人が台湾版ビッグイシューを見つければ、欲しくなるだろう。もし「ホームレスから物を買う」という行為に抵抗がある人だとしても、この洗練されたデザインと内容なら買ってしまうのではないか。



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毎回冒頭のページに現れる、コントリビューター紹介ページ。


いくら文面で伝えようと、この台湾版ビッグイシューのクオリティの高さは実際に手に取って紙の質感を感じてもらわないとわからないかもしれない。もし台湾に旅行に行くことがあれば、友人で台湾に旅行に行く人がいるならば、この台湾版ビッグイシューを手に入れてみてほしい。価格は日本と同等の100台湾元(約300円)。たとえ台湾の路上でビッグイシュー販売員を見つけられなかったとしても、困ることはない。なんと台湾版ビッグイシューは、バックナンバーに限り店舗で購入できるのだ。台北にあるインディーズミュージックショップ「White Wabbit Records」や、YAOもよく訪れ、先日来日していた台湾バンド透明雑誌のCDも販売している「ZABU」というカフェ、オーガニック系雑貨店など、クリエイター・アートファンが訪れるショップにて販売されている。台湾最大の書店、誠品書店の各店舗でも簡単に手に入る。また、この誠品書店も素晴らしい書店で、ちょうど青山ブックセンターを巨大化したような、アート・クリエイティブ関係の本・雑誌が世界から集まっている書店なのだ。台湾版ビッグイシューは「ホームレスを支援する」という本質はそのままに、完全なアート・クリエイティブ雑誌なのだ。頭の柔らかい発信方法に、台湾版ビッグイシュー編集部の戦略を感じるし、見習う部分が多いと思った。社会活動にアートやデザインを取り入れてはいけない、なんてわけがない。より多くに深くに伝わる方法を見つけていかなければ。



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台湾BIG ISSUEの販売員。地下鉄公館駅出口付近で。日本のようにどでかい赤い看板はなし。キャップとベストだけ着用していて、売り方もスタイリッシュ。



THE BIG ISSUE Taiwan http://www.bigissue.tw/

White Wabbit Records http://www.wwr.com.tw/

ZABU http://zabustudio.blogspot.com/

誠品書店 http://www.eslite.com/




では、この連載も最終回となった。今回は上海、香港、バンコク、北京、台湾と巡ってきた。それぞれの土地でクリエイターやアーティストと話してきたが、日本でも世界のどこでも、今の若いクリエイターが考えていることは、いかに世界に発信し、いかにインディペンデントにやっていくか。日本モノが流行している台湾でさえも、クリエイター達は幻想を見ず現実を見据えているし、今の自分達にできることを精一杯やって、自分たちの力で今の状況をなんとか良くしようと奔走している。日本人である私は、彼らの姿を見て叩き起こされた気もするし、同時に彼らと協力していくことが今の自分にできることだと思った。今後はOffshoreで様々なアジアの素晴らしいアーティストやクリエイター、スペース、現象などを紹介していく。9月中旬にはまた香港を訪れ、あらゆる人・出来事に会いに行く。何度も言うが、今、アジアに注目しないなんてもったいない。



アジアの最先端アートやアンダーグラウンドカルチャー情報を発信するサイト「Offshore」http://www.offshore-mcc.net/


(取材・文・写真:山本佳奈子)


私が今回の旅で訪れた場所をすべて網羅した地図をGoogleマイプレイスにアップしました。▼Discovering Art and Culture in Asia 2011




より大きな地図で Discovering Art and Culture in Asia 2011 を表示










■山本佳奈子 プロフィール


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webDICE キューバ紀行(2010.5.11~2010.8.16)


アジアや海外の最先端アートやアンダーグラウンドカルチャー情報を発信するサイト「Offshore」



1983年兵庫生まれ、尼崎育ちの尼崎市在住。高校3年のときにひとりでジャマイカ・キングストンを訪れて以来、旅に魅力を感じるようになる。その後DJ活動、ライブハウス勤務などを経て、2010年、念願だったキューバ旅行を実現させる。

世界のすべての人々の最低水準の暮らしが保証されること、世界の富を独占する悪徳企業が民主の力によって潰されることを切に願っており、自ら一つのメディアとなって情報発信することにも挑戦している。










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北京のロック・フェスティバルに潜入!荒削りながらもパワーのある面白いアーティストたちがここにはいる http://www.webdice.jp/dice/detail/3162/ Wed, 27 Jul 2011 16:54:32 +0100
今回Strawberry Music Festivalが行なわれたのは、北京通州运河公园。この門をくぐるとチケットブースがあり、その奥に入場ゲートがある。




当初の予定では、北京には行かないつもりだった。しかし、上海や香港で会う人の多くは、「アンダーグラウンドが見たいならどうして北京に行かないんだ。今このアジア一帯で一番北京が面白いのに。」と私に言った。そこまで言われてはせっかくの機会に北京まで足を伸ばさないのも残念なので、バンコクから中国南方航空で一気に北京へ飛んだ。気候の差が心配だったが、4月下旬から5月初旬の北京はダウンやコートもいらず、かつ暑くもなく、ちょうど日本の秋頃の乾燥した気候のようで過ごしやすかった。さらに、中国大陸では日本のゴールデンウィークと同じ頃に連休があり、イベントごとも多くラッキーだった。



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北京のバス車窓から。



私に助言をくれた人たちが言ったように、今の北京には荒削りながらも面白いアーティストやバンドがたくさんいる。膨大なそれらを紹介していてもきりがないので、webDICE読者の方々にぜひ知ってほしい場所や現象の情報をお伝えしたい。



北京の音楽を知るならこのレーベル
「Modern Sky(摩登天空)」



北京を拠点に世界に発信するこのレーベルは、中国国内最大のインディーズレーベルで、所属するアーティストも膨大な数だ。北京でCD屋に行き、中国インディーズコーナーを覗けば約半数がこのレーベルから輩出されたCDだろう。私が香港でライブを見て惚れた北京のHedgehog(刺猬)も、今年のSUMMER SONIC東京のISLAND STAGE -ASIAN CALLING- に出演するQUEEN SEA BIG SHARK(后海大鲨鱼)も、このレーベルに所属している。さらにModern Skyに関して紹介しなければならないのは、中国大陸内で音楽フェスも多数開催しているレーベルだということだ。私が北京滞在中に、Modern Sky主催の「Strawberry Music Festival(草莓音乐节)」というフェスティバルが開催されたので参加してきた。その様子をまずはお届けしたい。




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入場ゲートでは、なかなか厳しい荷物チェックを受けなければならない。飛行機に乗るときと同じようなセキュリティチェックを受ける。



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会場内の飲食ブース。日本のフジロックやサマソニほどではないが、10店ほど並んでいた。北京らしい羊肉串もあればサンドイッチもある。私が驚いたのはこの写真の生野菜、トマトとキュウリ。草莓音乐节だけあり、ヘタを取っていないそのままのイチゴも販売されていた。キュウリはさすがに丸ごとではなくカットして渡してくれているようだった。



[youtube:BNyEj3ppha8]
会場内の若者の様子。


私の下手なカメラワークではわかりづらいと思うが、説明すると最近の人気ファッションアイテムはサングラス、革のジャケット、細いシルエットのパンツ、もしくはレギンスなど。砂地や芝生のフェスだけれど高いヒールを履いた子もちらほらいたし、都会型フェスということがファッションから見てうかがえた。私はそういう格好はしないので結構浮いてました。女の子の髪型は重めのショートボブや前髪パッツンが多い。特に前髪を横に流す髪型は圧倒的に少ない。そして日本と違って黒髪が多い。



ステージは全部で5つ。日本の渚音楽祭ぐらいのステージ間の距離なので、それぞれの移動はさほど大変ではない。



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軍人に出くわすというポイントも、中国の首都・北京で行なわれるフェスの醍醐味か。


Strawberry Music Festivalは、ロック全般というよりもModern Skyが得意とするディスコロック・ポストロック・パンク・グランジ・シューゲイザー・ノイズ・エレクトロあたりの音のアーティストたちが出演している。日本からはMONOが出演していた。MONOのライブは日本ではなかなか見ることができないし、もちろんこの機会に見てきたわけだが、日本のMONOが圧倒的な人気を得ていたかと言えばそうでもなく、やはり歌があってメロディがあるロックのほうがウケはいいようだった。それは万国どこでも大衆を前にすると同じだろうか。だが、たった4人のMONOで紡ぎだされる繊細な音と音圧に圧倒されている中国の若者も多かった。

3日目のメインステージトリ前、Queen Sea Big Sharkの盛り上がりはすごかった。観客の数がもう彼らの人気を物語っていたし、みんなが曲を知っているようだった。現在Queen Sea Big Sharkは北京を中心に絶大な人気があり、どのCD屋でも店員にQueen Sea Big Sharkを薦められたほど。実は個人的には音源を聴いてもそこまでぐっとこなかったバンドだったが、ボーカルの女の子のライブパフォーマンスには中国の若者を引きつけるものがあるのだろうと思った。そう、特に日本と比べてアジアのバンドに多いのは、ブチ切れたライブパフォーマンスをできる女性のボーカルが多いということ。中国大陸や台湾のバンドには特に魅力的な女性ボーカルが多い。リズム隊の男性メンバーの前に堂々と立ち、バンドを引っ張っているのが彼女達だということがライブを観て一目で一音でわかる。日本からもいつか、パワーがあって観る者も男性メンバーも引きずりこむクールな女性ボーカルがたくさん産まれればなあと思う。


[youtube:vjRa4LT4n1I]
Queen Sea Big Shark(后海大鲨鱼)のStrawberry Music Festivalでのライブ。


北京にもマニアックな映画を上映している場所があった



それでは、webDICE読者の方々の一番の関心であろう、北京の映画情報を紹介したい。映画好きが北京に行くなら知っておいてほしい場所はこの2つ。

Broadway Cinematheque

叁号会所

Broadway Cinemathequeは香港編でも触れたBroadway Cinematheque(以下BC)と同じ企業。北京にもBCの映画館がある。そしてBCの目の前には、香港と同じく、アート本・雑誌・DVD・CD・カフェの店舗KUBRICK北京がある。



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MOMAと言っても現代美術館の略称ではなく、単にこの変わったビル群の名前。タクシー運転手にMOMAと言っても伝わらない。


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香港に本拠地のあるKUBRICK。もちろんここのスタッフのほとんどは英語での接客が可能。


香港ではほとんどアート系やマイナーな映画は上映されていなかったBCだが、北京のBCではほとんどがアート系映画やメインストリームではない映画のラインナップとなっている。特筆すべきは、ここ最近続けられている企画「青年导演新影像(YOUNG CHINESE FILMMAKERS)」だ。その名の通り、中国の若手~中堅の監督が撮った映画を放映している。数本観たのだが、その中でも特に面白かった2作品はこちら。



『碧罗雪山』(DEEP IN THE CLOUDS) 監督:リウ・ジエ(刘杰)

FILM BUSINESS ASIAによる作品紹介

中国の死刑問題を描いた『再生の朝に -ある裁判官の選択-』監督のリウ・ジエによる最新作だ。私が北京に滞在していた頃は、この企画の中で、さらに「村が政府の計画によって消失する」というストーリーをベースに進んでいく映画に絞られていた。この『碧罗雪山』も同じく、環境保護計画を理由に退去を迫られている雲南省のある村が舞台となっている。北京語ではなく雲南の言葉でストーリーが進むため、字幕には中国語と英語が並ぶ。村の信仰、村の若者の恋、行政との仲介を担う村長の孫の苦悩、村の結婚、貧しいがゆえの違法売買。小さなきっかけが連なり、退去を迫られる村がどんどんと崩壊していく……。非常に重い空気が漂いながらも、雲南の自然の美しさや伝統の業の美を見せられる。果たして、政府に対して疑問を呈するような映画を上映し続けても大丈夫なのだろうか。しかも、観客は少ないのだろうと思っていたが、満席。映画の上映が終了したとき、映画に対してはもちろん、こういった映画を上映し続けているBroadway Cinemathequeにも大きな拍手を送ったつもりだ。



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BCの2つあるスクリーンのうちのひとつ。上映終了後に監督が登場し、質疑応答が行なわれることもあった。


もう少し軽めなタッチでおすすめしたいのはこちら。

『トーマス、マオ』(Thomas Mao / 小東西 ) 監督:チュウ・ウェン(朱文)

(※2010年東京フィルメックス上映時の作品紹介

ファンタジーとユーモアが散りばめられ、現実と虚構が交錯する作品。しかし現実を描いていると予想される最後のシーンでは抽象的、揶揄的ながらも現在の中国を憂うような会話が繰り広げられる。もちろん、ユーモアは残したままだ。この映画に対して特筆すべきは、音楽をLi Chin Sungという中華圏を代表するサウンドアーティストが担当しているということ。彼の別名義「Dickson Dee」なら、大友良英氏とのコラボレーションなどで名前を聞いたことがある人はいるかもしれない。Dickson DeeことLi Chin Sungは実験音楽、電子音楽などを得意とするアーティストで、レーベルの運営やプロデュース、海外レーベルの香港や中国大陸でのディストリビューションも手がける。映画音楽はもとより、舞台音楽なども手がけており、アジアを代表するサウンドアーティストだ。

Dickson Dee(Li Chin Sung)

http://www.dicksondee.com/blog/



この「青年导演新影像(YOUNG CHINESE FILMMAKERS)」という企画はまだ現在も続いているようなので、もし北京に滞在することがあればぜひ1作品でも観ることをおすすめする。



そして、もうひとつのスポット「叁号会所」。ここは、紹介するべきかどうかも悩む場所なのだが、かなりマニアックな映画の上映会が開催されている。5月下旬にはバンクシーの『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』も上映された。6月下旬には『ザ・コーポレーション』も。私はここでモンサント社に関するドキュメンタリーを見た。叁号会所は、地鉄4号線人民大学駅から10分ほど東に歩いたところにひっそりとある、モダンな建物のサロン。スクリーンがぶら下げられていてプロジェクターで投影されるのはwindowsの画面!ということは、おそらく、違法ダウンロードした作品を上映しているのである。なので決しておすすめすることはできないのだが、北京にそういう方法でマニアックな映画を上映している場所があるということは驚きだった。

ちなみに映画に対する料金設定はなく、カフェの1ドリンクで観ることができる。香港でもバンコクでも、メインストリームでない映画を映画館で見ることは非常に難しい。だが、北京ではこの叁号会所でかなりマニアックな作品を毎週見ることができるのだ。みなさんは叁号会所についてどう考えるだろうか。中国大陸での著作権の無視は言うまでもなく世界で有名な話だ。中国大陸内でも著作権の法が整備されると同時に、良い作品には対価を支払うという習慣が成立することが理想ではあるだろう。いまや日本人でさえも中国大陸のサイトを通して違法アップロードされた音源や映画を違法ダウンロードする時代だ。シェアとクリエイティブコモンズとアーティストへの支援。無法地帯と化している中国大陸と周辺地域を見て、熟考するべき問題であると感じた。




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中はカフェのように椅子とテーブルが配置されている。



他にも、北京では舞台やコンテンポラリーダンスも見ることができるし、小さなアートギャラリーは山ほどあるし、ライブハウスやクラブだって日本ほどではないが点在し、それぞれ北京のアーティストと海外からのアーティストがうまく交流しており、クオリティもすでにインターナショナルなレベルに達している。実際に北京を訪れないとそれらの現象を知ることができないのだろうか。いや、それが実はそうでもない。インターネットをうまく使えば中国大陸内の情報を得ることも難しくない。ネット検閲があると言えど、大陸内ではfacebookやtwitterが使えず、一部のサイトがブロックされていて閲覧できないというぐらいで、それぞれの場所やアーティストの自サイトは中国語と英語のバイリンガルに対応しつつあるし、私のように中国語がわからなくても、ある程度英語が読めればなんとか情報を汲み取っていくことができる。例えば、Beijingerというこのサイト。



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これは、北京に住む欧米人のためのカルチャー系ポータルサイト。英語で北京のイベントやアート・カルチャーの最新情報を簡単に集めることができる。さらに、中国大陸内のインディーズ音楽を知るには、Douban(豆瓣)がおすすめだ。Facebookとよく似たSNSである。中国大陸のバンドはFacebookページはやはりなかなか持っていないが、Doubanにはたいていファンページが存在する。それぞれの「ファンページ」=「小站」を「Like」=「喜欢」すれば、それぞれのアーティストがアップする最新情報を受け取ることができる。そしてfacebookと同じく音源のアップもできるようなので、わざわざMyspaceなどに飛ばなくても、Douban内で音源の試聴も可能。





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これがDouban(豆瓣)。これはサマソニ東京8月14日に出演する、北京出身の「Re-TROS(重塑雕像的权利)」というバンドのファンページ。強いて形容するなら北京のBattles。私はまだライブは見れていないけれどおすすめ。音・ライブとも定評あり。こちらも女性が活躍するバンドだ。



インターネットを利用することで北京への旅はもっと濃くなるだろうし、日本にいながら北京のアングラを押さえることだってできる。現に、北京で出会ったLA出身の旅行者は、HIPHOPが大好きで中国大陸をメインにアジアのHIPHOPアーティストを発掘していた。ガイド本で観光地を巡る旅も良いが、今は十人十色のアート・カルチャー探索旅をつくることがインターネットというメディアにより簡単にできてしまうのだ。



では最後に実際に私がGoogle検索やMyspaceやDoubanを使って見つけて見に行ったユニットWHITE+のライブの様子を。北京大学近くのD-22という実験的なハコにて。


[youtube:o-BetHSs43s]
(取材・文・写真:山本佳奈子)


私が今回の旅で訪れた場所をすべて網羅した地図をGoogleマイプレイスにアップしました。▼Discovering Art and Culture in Asia 2011




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■山本佳奈子 プロフィール


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webDICE キューバ紀行(2010.5.11~2010.8.16)


アジアや海外の最先端アートやアンダーグラウンドカルチャー情報を発信するサイト「Offshore」



1983年兵庫生まれ、尼崎育ちの尼崎市在住。高校3年のときにひとりでジャマイカ・キングストンを訪れて以来、旅に魅力を感じるようになる。その後DJ活動、ライブハウス勤務などを経て、2010年、念願だったキューバ旅行を実現させる。

世界のすべての人々の最低水準の暮らしが保証されること、世界の富を独占する悪徳企業が民主の力によって潰されることを切に願っており、自ら一つのメディアとなって情報発信することにも挑戦している。




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『ブンミおじさんの森』の音響を手がけた清水宏一さんに聞くバンコクのアート系映画とインディーズ音楽シーンの現状 http://www.webdice.jp/dice/detail/3121/ Tue, 28 Jun 2011 20:50:07 +0100
すでにタイでの生活がトータル10年以上にもなる清水宏一さん。







SOL、バンコク在住のアーティスト清水宏一さんの話から見える、バンコク・ユースカルチャーのこれから(取材日:2011年4月13日)



4月9日土曜夜、私はバンコクのSOLというスペースを訪れた。ノイズ系のライブイベントが行われており、海外からのノイズ系アーティスト2組と、タイの若手バンド・DJが出演していた。実はこのイベント「MACHINE II」は、日本人でバンコク在住の清水宏一さんがオーガナイズしている。清水さんはタイのCM音楽制作、SO::ON Dry Flower(ソーオン・ドライ・フラワー)というタイのインディーズレーベルのマネージメント、このSOLというスペースの運営をされている。香港で出会ったWhite Noise RecordsのGaryが「バンコクに行くならKoichiに連絡を取ってみて」と紹介してくれた。




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サイアムあたりを通るバス。まだまだ電車や地下鉄でカバーされていない所が多いバンコク。バスを覚えれば快適に移動できる。私が5年前に訪れたときには存在しなかった奥に見える黄色いバスは、AC付きで車内に液晶モニターが数個ぶら下がっていて、人気アーティストのミュージックビデオなどが流れている。


普段は何もなくて真っ白でフラットな空間、SOLでは、今回のイベントのように清水さんが月一回オーガナイズしているライブイベントや、Max/MSPやJitterのワークショップ、その他エキシビションなどが開催されている。イベント開催時しかオープンしていない。SCホテルの近く、プラチャーウティッ沿いにあるライブレストランの向いの空き地の小道をまっすぐ200mほど進めば、東南アジア風だけれどモダンなこじんまりした小屋の集まりが右手に現れる。一番手前の白い壁が目立つ建物が、SOLだ。



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MACHINE II当日のSOL前。白い壁の建物がSOL。20代前半頃と思われる若者達でにぎわう。



[youtube:UV51F9KFSaE]
当日のリハーサルから本番の様子がまとめられた動画。ノルウェーのMoHa!の轟音ノイズ、最高でした!


イベント当日は清水さんと少ししかお話することができなかったが、後日、タイ全土がソンクラーンで休暇となる頃に時間をいただき、SOLと同じ敷地にある清水さんのオフィスにて、改めてインタビューさせていただいた。日本のアンダーグラウンド事情と比較検討すると非常に面白く、NY、東京、タイと場所を変えても音楽を続けてこられた清水さんの視点や考え方には私も感銘を受けた。日本に住むクリエイターの方々にもぜひ読んでもらいたい。




タイでアート系映画はまだビジネスにはならない




──実は清水さんはSO::ON Dry FlowerとSOLのマネジメントだけでなく映画音楽もされてるんですよね。



普段はプロダクションでタイのCM音楽や映画音楽の仕事をしてます。映画に関しては僕が担当した映画監督は3人しかいないんだけど、アピチャッポン(・ウィーラセータクン)監督、ペネック(・ラッタナルアーン)監督、あとは若手のアーティット(・アッサラット)監督と。





──どういう経緯でタイで映画音楽を作ることになったんですか?



タイに来たときに自分のデモ音源を配ってて、まずはタイのCMの仕事が来たんですよ。しばらくはフリーランスでやってたんですけど、今はプロダクションを立ち上げて、ここ(SOLの隣)のスタジオで仕事しています。このスタジオで一緒に仕事しているパートナーの恋人がペネック監督のエディターで、自然と「やってみる?」と映画音楽の話がきて。その流れでアピチャッポン監督なども紹介してもらって。最近ではアディッヤ(Aditya Assarat)監督の『ハイソ』という作品に参加しています。まだタイでは上映してませんが、東京国際映画祭やベルリンで上映されました。今年はタイでも上映されるみたいです。あとアピチャッポン監督の『ブンミおじさんの森』にも参加しています。だいたい素材を何時間分か作って、それをエディターやサウンドデザイナーに渡して編集してもらうという。なので最終的なミックスとかには立ち会ってませんけど。





──ちなみにタイの映画館をちらちら見たんですが、アート系映画って上映してないんですね。



極端にわかれています。タイで人気がある映画と言えば、下世話なラブコメディだったり、アクションだったり。アピチャッポン監督とかアート系の人は、また別の世界で、いわゆる一般のタイ人が見る映画ではない。さすがに『ブンミおじさんの森』は普通の映画館でも上映されましたが、すごく短い期間でした。でも最近は映画を勉強する若い子が増えてきたので、以前に比べればアート系映画を見に来る人は増えていますが、まだビジネスにはならないでしょうね。



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ショッピングセンターにもよく映画館が入っている。リッチな内装。上映作品はハリウッドやタイホラーが多い。


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こちらは比較的マイナーな映画を上映する映画館。RCAにあるHOUSE。『ノルウェイの森』が上映されていた。右はタイのホラー映画。



ハイプは過ぎ、本当にこういう音楽を好きな人が来てくれる時期



──この敷地内には清水さんのCM音楽制作などをするスタジオやSOLなどがあるということですが、これらの施設を建ててどれぐらいですか?



オープンして3年ですね。SOLも3年です。



──SOLはアートスペースとしてバンコクで認知されつつありますか?



イベントとかワークショップをやっている場所っていうので認知されてきていますかね。小さいシーンの中にいる人たちの間ではそこそこ知られるようにはなったかな。



──前回のイベントのとき思ったんですが、みんながお互い顔見知りのようで、こういう音楽やアートが好きな子たちが集まる場所になっているんだなと感じました。客層はだいたい何歳ぐらいですか?



最近はみんな若いですよね。前回の「MACHINE II」のような音楽のショウケースのイベント始めたのが2003年、8年間ぐらいやっています。最近世代が入れ替わって、俺はお客さんのことぜんぜん知らない。一応顔見知りですけど、実際一緒に遊んだりする人たちではないですね。前回のはだいたい20代前半だね、大学生だったり。



──2003年当時は別の場所でイベントされてたんですか?



元々はチャイナタウンにあるアバウトカフェっていうギャラリーで始めたんだけど、そこはもう権利者がいなくなって使えなくなって。ホームグラウンド的な感じで2年ぐらいやってました。タダで場所貸してくれてて、機材だけ持っていって。



──2003年からだと8年も経ってるんですね。でも日本だったら当時の大学生が8年後でも同じジャンルのライブに行くってあり得ますよね。



こっちは結構ないね。仕事を始めちゃうとぱたっと来なくなる。



──日本だと仕事始めても、むしろみんなライブに行きたいがために有給休暇取れる仕事にしたりとかしますよね。



やっぱり日本とはぜんぜん違いますね。そういうライブにかけるお客さんの意気込みとかが。自分の人生を捧げちゃうぐらいのヘビーな感じはない。若い時にみんなと遊べる場所、というスタンスで来てくれる。やっぱり仕事始めると急に見なくなるね。仕事を始めても、いわゆるクラブとかDJパーティーとかは行くとは思うんだけど、こういう実験的なイベントからは遠ざかってますね。実際こういう音楽が好きで来ているのか、興味本位で来ているのか、微妙だからね。本当にこういう音楽が好きで来てくれる人もいるけど、そういう人は本当にごくわずか。友達のバンドが出てるからみんなで行こうとか、そういうノリのほうが強いかな。できるだけローカルの子をブッキングしないと、お客さん来ないからね。



──日本じゃローカルのバンドをブッキングしても人集まらなかったりしますからね(笑)。



日本はいろんなことが起こってるから、拡散されちゃうんだよね。でもバンコクも俺たちが始めた当時に比べればだいぶ人を集めるのが難しくなってきた。当時はfacebookもなかったし、新聞とかにちょこっと載せるだけで300人とか400人とか集まったけど、今は100人集めるのも結構大変だからね。あと、バンコクの子たちが変わったジャンルに興味を示さなくなってきたのかも。そういうハイプみたいな時期が過ぎちゃった。始めた当時は「よくわかんないけど行ってみよう」みたいなノリでいろんな人が来てくれたけど、今はもううちらがやってることもみんなわかってるし、「どうせ行ってもうるさい音楽ガンガン流してるだけでしょ」みたいな(笑)。だから昔みたいなノリではないですね。最近は本当にこういう音楽を好きな人が来てくれる感じかな。



──まだバンコクはこれからこういった音楽が広まっていくのかと思っていました。



ただこの前のイベントを見て、若い子たちがこういう音楽にちょっと戻ってきている印象を受けた。うちらが始めた2003年頃の雰囲気がちょっと感じられたので、新しい動きが起こるんじゃないかな、と。こないだ出てくれたバンドのメンバーもみんな若い。20歳とか。plotのメンバーが一番年上で23歳とか。



──え!一番年上で23歳!若い。



そう。そういう若い子たちがまた出てきてるんで。タイもしばらくバンド系の音楽がつまらなかったんですよ。マンネリ化してて。だからこないだのイベントで、新しい子たちが頑張ってるな、と思った。



──タイの若いバンドを見て、ヨーロッパのノイズやディスコパンクあたりを良く聴いてるんだろうなと思いました。タイは、若者の間でメタルも流行ってるって聞きますけどどうですか?



メタルは根強いよ、タイでは。メタルのイベントが一番多いんじゃないかな。ただ、お客さんの層がちょっと違うみたい。



──前回のイベントはノイズでしたが、轟音のノイズが鳴るなか、会場の外に出ずに耳を押さえながらも頑張って会場内にいるお客さんがいました。だから「これはメタルで鍛えられてるのかな?」とか思ったんですが(笑)。



ここに来るお客さんは逆にメタル系はあんまり聴かないかな。メタルの客層って若くて、あまりお金持ってない子達が多い。その反面ここに来るお客さんはどちらかというと比較的裕福な層の子たちなんですよ。



──なるほど。確かにそういう雰囲気は感じましたね。



以前メタルのバンドを一緒にブッキングしたことがあったんだけど「お客さんミックスするのは難しいかもよ」ってタイ人に言われたね。メタル系のお客さんと、こっち系のお客さんをミックスするのは大変かも、って。お互いがお互いを敬遠しちゃうというか。メタル系の子はダイブとかモッシュとか激しいし、こっちに来てる子はそういうの好きじゃないかもしれない。その時もメタルのバンドの子たち、演奏してるときはちょっと遠慮がちでしたね(笑)。ちょっとおとなしかったというか。



──確かに街を歩いていても感じますが、バンコクは経済格差がすごい。そうなるとやっぱり文化やカルチャーにも棲み分けが現れてきますよね。



そうだね。結構はっきりしているかもしれない。あとは普通のポップス聴いてる子たちもまた別の層だし。




結局続けないと何も生まれないし成長しない。





──レーベルは一人で運営されてるんですか?



そうですね、基本的には全部1人だけどイベントとかリリースのときは手伝ってくれるスタッフがいます。



──レーベルのバンドのタイでの認知度はどれぐらいですか?



最近はDesktop Errorっていうバンドが頑張ってて広まってるね。彼らも若いんだけど、うちらが得意としてるギターがうるさいような音楽を取り入れつつも、タイのポップスを聴いてる子にも受け入れられるような何かを持ってる。高校生もファンになってくれたりとか。今まで出してきたアーティストとかバンドにそういうのはなかったんで。



[youtube:0Ey7mplOVGo]
Desktop Error in 森。これを見れば、あなたもきっとタイに行きたくなる。


──コンサートとかはどれぐらいの規模のところで?



まちまちだよ。大きいときもあるし。ただそれでメインはれるほどのバンドではないです。フェスとかでたまにトリになったりすることはあるけど。でも急に去年から人気出てきた感じです。こないだのMACHINE IIに出ていたplotもプッシュすれば結構人気出るんじゃないかなと思ってる。



[youtube:DhPtbPd5fVI]
PLOT ミュージックビデオ



──日本に輸出する、ということは構想されてますか?



日本というか海外はまだ何にもやってなくて、ディストリビューションもしてない。手が回ってないっていうのもあるし。海外に行ったのは、Garyが香港に呼んでくれたDesktop Errorのライブだけで。Garyとマカオのオーガナイザーが呼んでくれて。メンバーも飛行機乗るのが初めてで、彼らは楽しんでたね。



──Desktop Errorのメンバーは何歳ぐらいなんですか?



彼らはもう24歳とか25歳とかになってきてる。



──それでも若い!



インディーズ系っていうのは裕福な子たちが多いんだけど、彼らは庶民出身だね。



──やっぱり余裕がないと音楽なんてできない?



インディーズってあんまりお金にならない音楽だから、ある程度余裕があって他の国で何が流行ってるとか音楽の知識がないとできないと思う。でもDesktop Errorは結構庶民派。お金ない。それも支持される理由なのかな。そこらへんにいる兄ちゃんって感じだからね。ボーカルの子はイサーン(タイ東北地方)出身で、最近は実家に帰っちゃってて、練習やコンサートのときだけこっちに来る。ギターの子はここでCM音楽の仕事でギター弾いてもらったり。最近はコンサートでもお金もらえることが増えてみんな結構喜んでる。



──今レーベルは10アーティストぐらいでしたっけ?



出してきたのはそれぐらいだけど、今活動できてるのは3つぐらいしかいない。Desktop Errorとplot、あとはtalklessっていうデュオ。海外に留学しちゃう子も多くて。今NYに何人か、ドイツに一人、日本にも一人留学中。だいたいアルバム1枚出すと海外行っちゃうんだよね。



──音楽をするために海外に留学してるんですか?



音楽というわけじゃないね。映画関係の勉強とか写真とか。本当のミュージシャンっていう感じじゃなくて、アートスクール系の子たちが多い。実はDesktop Errorに人気が出た理由に関係していると思うんだけど、彼らはお金がないから海外に行けない。だからもうバンドで音楽やっていくしかない。だから団結力も強くて。そういうバンドって、今までうちのレーベルにいなかった。すぐ誰かがどこか海外へ行っちゃう。いつもバンドの子たちには言ってるんだけど、結局続けないと何も生まれないし成長しない。その点でDesktop Errorは逆に恵まれた環境にいるんじゃないかと思う。かといって切羽詰まって仕事しないといけない状況でもないし、音楽を続けていられてる。俺としても応援したいと。みんなそれぞれ事情はあるけどね。



──それにしてもこうやっていろいろアジアの都市まわってるだけで日本との違いや共通項に気づいて面白いです。例えば、香港ってライブハウス1軒しかない、っていう事実とか。



バンコクは純粋なライブハウスはゼロだからね。



──えっ!ないんですか?



良く聞かれるんだけどね、なんでバンコクでライブハウスやらないの?って。バンコクには、オリジナルの曲が聴けて若い子たちが出演すようないわゆるライブハウスっていうのはゼロ。需要はあると思うんだけど、今までそういうライブハウスやってちゃんと成功した人はいない。バーとかパブでは、いまだにバンドはカヴァーをやってる。やっぱり店の人に強要されるみたいだし、お客さんもそのほうが盛り上がるし、お客さんは音楽聴きにいってる人じゃないから、知ってる曲で口ずさめるとかのほうがいい。



──カラオケ感覚ですね。



そうそう。でも音楽を聴きたいっていう人もいると思うんだけどね。ただそれで商売が成り立つかどうかというのは今までに例がないからわからない。ライブハウス、やりたいんだけどね。これ(SOL)よりちょっと大きいぐらいで。お金もかかるしすぐにはできないけど、将来的にはいつかオープンしたい。機材とか揃ってる場所があれば、若い子も気軽にイベントができるようになって、コストセーブできるし。そういう要素が一番シーンを盛り上げるんじゃないかなと思ってる。今はどこも機材持ち込みとかになるから若い子がちょっとやりにくい。



──SOLも機材持ち込んでもらってやってるんですか。



自分たちのもあるけど、前回のショウケースみたいに外国からアーティスト呼ぶときとかはスペック高い機材を要求されるからレンタルしてる。小さいイベントのときは自分たちの機材でやってるけど。PAやってたのもPA会社の下っ端の子で。




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清水さん(右側)MONOバンコクライブのリハーサルにて。




ライブを見せられれば、アジアが繋がるかもしれない



──では清水さんの直近の活動は?



MONOのライブが5月8日(注:終了しました)、あとはこの前みたいなショウケースをSOLで月一でやってる。MAX/MSPとJitterのワークショップは年に2回ぐらいで、週1のクラスを計10回ぐらいでやってる。だいたい10人ぐらいが受講してて、大学生と社会人と半々ぐらい。ワークショップは僕のなかでも楽しい活動です。



──タイではまだデジタルアートが盛んでない印象ですけど、清水さんの活動でデジタルアート広まっていきそうですね。



うん。結構みんなProcessingっていうのがあるっていうこととかJitterとか知ってはいるんだけど、始めるきっかけがあまりなくて。ワークショップでは深いことを教えているわけではないけど、きっかけにはなっていると思う。JitterのワークショップはNYで勉強してきたタイ人の先生がやってて、ちゃんと授業やってる。MAX/MSPは僕がおしゃべりしながら適当に教えてるけどね(笑)。



[youtube:lmCruIzu-IA]
Bangkok Art and Culture Centreのエキシビションでたまたま出会った若いアーティストPor君のインスタレーション。Por君も、清水さんのMAX/MSPのワークショップの生徒だった。このインスタレーションでもMax/MSPを使用しているとのこと。


──それにしても、上海・香港・バンコクと旅してきて、日本のプロモーターももっとアジアの音楽に注目するべきじゃないかなと思ったんです。香港で北京のバンドを見てすごくかっこよかった。こういうバンドが北京にいるんだ、と全然知らなかったからびっくりして。日本以外のアジアのレベルもすごいなと。



日本って野外フェスが多いじゃないですか。そういうフェスで小さいステージでもいいからアジアのバンドも呼んでくれれば面白いのになとは思いますね。小さくてもいいから自主でやってるフェスの人たちでも何か始めてくれると面白いことできるんじゃないかなと。CDだと流通とかになってちょっと大変だけど。ライブを見せるっていうのは面白いと思う。そうなればアジアが繋がるかもしれないね。



──日本のアーティストたちも、よく日本以外のアジアでインスタレーションやコンサートをしています。今のアジアのアートが面白いっていうことはアーティスト自身は良く知ってるんですよね。



あと年配の実験音楽やってる方たち、吉田達也さんや内橋和久さんとかは良くタイに来てくれる。ヨーロッパツアーの帰りにバンコクに寄ってくれて、ギャラに関係なく「ライブやれるところない?」って向こうから言ってきてくれる。ああゆう方たちは当然アジアも視野に入れてる。大友良英さんもそうだし。実は日本以外のアジアはもう繋がってる。うちらも香港・マレーシアのアーティストとか気軽にタイに呼べるし。今、日本だけが別世界になってる。でもそのあたりの前衛的な音楽やアートはやっぱり日本が一番強いから、日本が繋がってくれれば面白くなる。ただ日本独特のカチカチした感じだと、アジアはちょっと引いちゃうんで(笑)。ゆるい感じでそうなっていけばいいですね。



──ありがとうございます。数少ないのバンコクでのクリエイティブな楽しい時間でした(笑)。



(笑)。他にもいろいろあるんだけど、新聞とかではなかなか見つからないからね。今はみんなfacebook。日本はまだ浸透してない?



──それもまた日本が別世界です。facebookはまだ浸透していないです。日本は圧倒的にtwitterが人気ですね。ただtwitterは情報が流れていってしまうので、後から情報を探そうと思ってもなかなか見つけられない。



うちらはもう宣伝は80%facebook使ってるね。広まるのが速いし、タダだし。日本も来るでしょう?



──徐々には浸透し始めてると思いますけどね。



ただmixiみたいに匿名性じゃないのがfacebookだから、いかにそれが日本に受け入れられるかってところだね。



──日本の若い子も少しずつ匿名性じゃなくてもOKという傾向になってきているとは思いますけどね。



そのほうが健全でしょう。名前も顔も出して言いたいこと言い合って、っていう。




[youtube:s0SL8uGFvQQ]
最後にDesktop ErrorのMVを。バンコクでのMONOのライブに彼らも出演。その時のプロモーション用ビデオ。清水さんがSOLで一発録りで録音。




(取材・文・写真:山本佳奈子)


私が今回の旅で訪れた場所をすべて網羅した地図をGoogleマイプレイスにアップしました。▼Discovering Art and Culture in Asia 2011




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■山本佳奈子 プロフィール


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webDICE キューバ紀行(2010.5.11~2010.8.16)



1983年兵庫生まれ、尼崎育ちの尼崎市在住。高校3年のときにひとりでジャマイカ・キングストンを訪れて以来、旅に魅力を感じるようになる。その後DJ活動、ライブハウス勤務などを経て、2010年、念願だったキューバ旅行を実現させる。

世界のすべての人々の最低水準の暮らしが保証されること、世界の富を独占する悪徳企業が民主の力によって潰されることを切に願っており、自ら一つのメディアとなって情報発信することにも挑戦している。





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香港サブカルチャーの現在をのぞく─インディーズ音楽市場、映画産業が抱える問題「家賃が60%も上昇!」 http://www.webdice.jp/dice/detail/3072/ Mon, 23 May 2011 19:45:13 +0100
あるブロードウェイ系列の映画館。



香港では情熱をもったクリエイターに出会うことができた。彼らは今の香港の社会問題を見据えながら、自分の信じる道を進んでいた。今回は香港の音楽人と映画人に聞いてみた香港のカルチャーを取り巻く環境について紹介したい。



音楽人編:香港の消費層とアングラCD屋の苦心、インディ音楽への反日運動の波及、香港クラブ事情(取材日:2011年3月29日)



前回の記事でも紹介したWhite Noise Records(以下WNR)のGary氏は、WNRのマネージャーであり、海外から香港にアーティストを呼びコンサートを開催するオーガナイザー。toeアジアツアーや、World's End Girlfriend半野喜弘などの香港でのコンサートをオーガナイズした。銅鑼湾(Causeway Bay)のビルの1室で「誰も聴いたことのない音楽」をメインに展開する彼に、「香港の実際のところ」を屋台で飲みながら聞いてみた。私が一番笑ったのは、彼が10代の頃某元おにゃんこ日本人アイドルのCDを2枚ずつ買っていたことを「笑わないでくれ!」と言いながら暴露してくれたことだった。こういう前衛的なショップのマネージャーは頑固なのかと思っていたが、ユーモアにあふれた彼との会話はとても楽しかった。




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エレベーターの19Fで降りる。これが入り口。隙間がちらっとあいてたら営業中。












──WNRで一番売れてるジャンルってなんですか?



ポストロックだね。最近のポストロックはエレクトロニカも含むし、いろんなスタイルがあるからジャンルとして枠が広い。その次に日本モノ。日本の音楽には面白いものがいっぱいあるし、WNRでもかなりのスペースを使って日本のアンダーグラウンドを扱ってる。



──確かに日本モノのスペース大きかった。かなりマイナーな日本のアングラ音楽も扱ってますけど、どうやって情報を集めてるんですか?



各レーベルやディストリビューターからのプレスリリースに加えて、日本のアーティストに限らず、ヨーロッパや他の国のアーティストもmyspaceをチェックすることが多い。最近は日本の60年代の音楽もチェックしてて気になってる。ポルノ女優だった池玲子とかすごい面白い音源がある。喘ぎ声とかだけで歌ってない(笑)。これを音楽ととらえると面白いよね。



──池玲子、知らなかった。チェックしてみます!WNRはいつ始められたんですか?



2004年にオープンした。だから今約7年だね。今の場所に移転してからは約1年。前はちょうどそこ(飲んでいた屋台のすぐ前のビル。現在のWNRから数ブロック離れたところ)。でやってたんだ。今よりもっと広かった。ソファもあって、お客さんに座ってくつろいでもらえるような空間だった。



──じゃあなぜ前より狭い今の場所に移動を?



家賃だね。60%も家賃が値上がりした。もし家賃が値上がりしてそのまま今と同じ商品を売っていくなら、確実に生き残れない。例えばRADIOHEADも入荷したり、もっと売れる音楽を扱わないといけない。でも、僕たちはそうはしたくなかった。それが移動した理由。今でもその選択は正しかったと思ってる。



──一気に60%も値上がり?ありえない。



そう。香港の家賃は社会問題。でも例えコマーシャルな音楽を売り始めたとしても売上を良くするのは難しいのが現状。だからショウのオーガナイズもやっているんだけど、簡単にはいかないよね。無料のコンサートと有名なアーティストのコンサートは香港人にもウケがいいけど。もうすぐMGMTが来るけどあれはもうチケットほぼ売り切れだしね。でもアンダーグラウンドなショウをやって客が入らないのは当然だから、オーガナイズを始めた当初は入場無料にして、徐々に香港の人たちにWNRが扱っている音楽を理解してもらうようにした。それから有料にして規模も少しずつ大きくしてきた。それでもなかなか黒字にならなかったんだよね。特にフェスティバルを組んだときなんかは本当に赤字で…。みんなでポケットマネーでなんとかした。そうやって辛い状況が続いたんだけど、toeのコンサートで初めてちゃんと利益を出すことができたんだ。



──toeのアジアでの人気は素晴らしいですしね。



うん。アジアではすごく有名。特にドラムの技術に惚れ込んでる若者が多いよね。今までtoeのコンサートのオーガナイズは2回やったんだけど、昨年10月のtoeのアジアツアーもちゃんと成功できたよ。いろいろと問題はあったけどね。尖閣諸島の問題があったでしょ?toeアジアツアー最初のライブが2010年の10月に上海であった。その頃ちょうど、尖閣問題で日本と中国の関係が悪いとき。「日本嫌いだから日本人のコンサートなんて行かない。好きなバンドだったけど日本人だ」って言ってた人もいる。あの問題がなかったらもうちょっとチケット売れたんじゃないかな。



──若い音楽ファンも、反日運動をしてたんですか?



そう、ライブに行くような若い子、学生たちも反日運動に参加する。チケット買わないだけならいいけど、ごく一部の人が日本人のライブに来て反日を叫んで暴力的な行動に出たりする場合もある。だからあの頃、関係者みんな悩んでいた。最終的には無事開催できて良かったけどね。その頃同じく中国ツアーをしていた日本のBUDDHISTSONというバンドは大変だった。武漢でライブをする予定だったんだけど、会場前ではすでに若者達が集まり「日本人は来るな!」と抗議している。宿泊先のホテルの前でも反日運動が起こっていたという話。すでにメンバーは武漢に到着してたんだけどライブはキャンセルに。toeの場合は幸運だった。上海は外国人が多くてインターナショナルな都市だし反日運動は大きくならなかった。今現在は中国大陸では尖閣諸島の問題よりも日本の地震のニュースのほうが注目されてるけど。



──インディーズ音楽にも尖閣問題が影響していたんですね。驚きました。じゃあ香港の現状について聞きたいんですが、香港のHMVとか大手のCD屋は売上良いんでしょうか?



香港のHMVは「ミュージックショップ」じゃないよ。あれは「エンターテイメントショップ」。音楽だけじゃなくて、Tシャツ、ヘッドフォン、スピーカー、周辺機器とか、プレステ、XBOXといったゲームも売ってる。ゲームも含むエンターテイメント全般。それに運営面で見ても、大きい会社だから僕がやってるような小さいショップと比べて何もかも有利。そういえば、日本にはTOWER RECORDSが全国にあって、チェーン店なのにかなりコアな音楽をそれぞれの店で売っている。あれにはかなりびっくりした。香港にも昔タワレコがあって、コマーシャルなインディーズ音楽は売ってたけど日本のように超アングラ音楽は置いてなかったね。



──日本のタワレコも何店舗か閉店して規模縮小しているようですけどね。それにしても、香港はすべてが大企業に支配されていてるように感じます。日本よりも資本主義が徹底されているというようなイメージです。問題が多いですよね。



ただもう僕たちにとってはこれ以上大きな問題になることはないんだよね。悪い状況が当たり前になってしまったから。香港の一般人にとっての音楽は広東ポップで、広東ポップはカラオケで歌われるためだけにある。僕は音楽って人間のパワーのようなものだと思ってて、ヨーロッパや日本ってそういう音楽が普段の生活にまだ近いところにある。日本でもJ-POPは面白くないだろうけど、まだ日本のほうがJ-POP以外の音楽も受け入れてる。



──なるほど。香港の若いアーティストに聞いたんですけど、香港の若者たちが常に考えていることは「次に何を買うか」つまりは消費することしか考えていない、と言ってました。服とか。



そう!服は一番大事。なぜなら、外に出かけたとき、服は外から見られる。けれど、外にでかけて、イヤホンでどれだけ素晴らしい音楽を聴いてても、どんな音楽を聴いているのか周りから見られることはない。香港の人にとって一番大事なのは「外見」。だからみんな服にはかなり気を使う。みんなiPodやiPhoneを持ってるけど、あれもファッション。みんな音楽なんて購入せずに無料でダウンロードしてる。ただ、iPodやiPhoneを持ちたい、というだけ。音楽が好きだからiPodやiPhoneを選んでいるわけではない。



──そうそう!MTR(地下鉄)乗ってても、道端でもみーんなiPhone触ってますよね!8割ぐらいの人がiPhone!あれちょっと異常ですよね。



みんなiPhone使ってニュース見たりしてる訳じゃないんだよ。ゲームするだけ。それだけ。99.8%ゲームでしょ(笑)。iPhone使って何してるのかなーと思って画面見たら、みっんなゲーム!がっかりだよね。ゲームしたいんだったらPSPで充分じゃない。でも、他の人に見せたいんだよ。「私、iPhone使ってます」って。iPhoneでfacebookやってる人も増えてきたけど、それでもまだまだゲームが主流。それに、facebookってゲームアプリあるでしょ。facebookにゲーム目的で登録している人もかなり多い。



──なんでそんなにみんなゲーム好きなの?



さあ。その辺でゲームやってる子に聞いてみたら(笑)?






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香港は歩けば必ずiPhone“カバー"のショップに出会う。ATMの数より多いかも。


──今日、日本のニュースで見たんですけど、大阪で2軒のクラブが摘発されました。どちらも飲食店許可のみでクラブ営業していたということで。日本ではまず飲食物を売るなら飲食許可、ディスコをやるならまずは風営許可取らないといけないんですよ。香港唯一のライブハウスHidden Agenda(前回記事参照)も違法だって言ってましたよね?



なるほど。似ているね。Hidden Agendaはどのライセンスも取ってない。消防法とかもクリアしてないし、アルコールを売る許可も取っていない。もしオーナーがHidden Agendaをもっと有名にしたいと思い大規模に宣伝を行なって集客とイベント回数を増やせば、より周りからの目も厳しくなる。今はあの隠れた雰囲気だから続けられてるんだろうね。難しいよね。まあ今は立地が工場地帯にあってアクセスが悪いから簡単に有名にはならないだろうけど。でも僕は唯一の香港のアンダーグラウンドなハコとしてあそこに存続してもらいたい。



──じゃあ香港にもクラブってたくさんあるみたいですけど、ああゆうのはちゃんと法的にクリアしてるんですか?



中環地区にたくさんクラブがあって、どこも合法のクラブだよ。あの地区自体がポピュラーだし外国人もたくさんいるし、リッチな場所。だからもちろん飲食許可や風営許可の料金を払える。もしHidden Agendaのオーナーにそれぞれのライセンス料を払えるお金があればそりゃ許可取ってると思う。ただ、コストが高すぎるだけ。

香港の人たちもHidden Agendaを知ってても「遠い」という理由で行かなかったりする。Hidden Agendaによく通ってくれているのは実際のところ、香港在住の外国人かもね。外国人が香港の音楽シーンを支えてくれている気がする。肝心の香港人は、バンドマンであっても他のバンドのライブに行きたがらない。日本だったら普通、営業とか勉強の意味でいろんなライブに行くよね?行かないくせに自分のバンドが一番だって思ってる。ほんとワガママ(笑)!もちろん香港のすべてのバンドがそうだとは言わない。一部のバンドやアーティストを除いてね。インディーズである程度有名なバンドこそ、他のライブに行かない。シーンを率先して盛り上げようとしてくれない。むしろもう音楽自体に興味がない。彼らがバンドで演奏する理由は「有名になりたい」ただそれだけ。だから音楽よりも何を着るかってのが大事。いつも服のことは気にしてる。



──えー!また見た目ですか。もうがっかり。



もちろん、全部が全部じゃないからね。なかには良いアーティストもいるから。



──じゃあ、どうやったら香港のシーンを変えられると思います?



変わらないね。



──え!?



そもそもWNRは僕含めて3人で始めた。その3人で店をオープンしたときの理念は「香港で手に入れることのできない音楽を集めて、音楽ファンたちへプレゼンしよう」というものだった。でも、間違ってたよね、完全に。たいていの香港人はいつも「すでに知っている・知られている音楽」を探してる。新しいものを発掘しようとは思ってないんだ。WNRとしてもいつもどうにか購入してもらうようにトライしてるし、イベントのオーガナイズもしてるけど、なかなか。

でもこれ以上考えすぎないように決めたんだ。僕らは店を開けて、香港の消費層が何を考えているのかは気にしない。そして絶対に今やっていることを止めない。香港のカルチャーを変えようと試行錯誤する時間はないし、我が道を行き、自分たちの最善を尽くすだけ。一般の人たちがWNRで扱ってる音源に興味がないなら仕方がない。少ないけれど来てくれる本当の音楽好きのために店をやっていこうと思って。ただ、正直、僕は自分の家族のことも考えないといけない。店を始めた3人のうちの僕以外2人は、今はレギュラーの仕事を持ってるから気にする必要はないんだけど、僕は今は独身じゃないし2ヶ月の娘と妻がいる。これからのことはわからないけど、とにかく自分の道を進んでベストを尽くすだけだね。













今回紹介した彼の話をネガティブに感じる方もいるかもしれないが、日本の状況ともかなり重なるところがあるように感じた。確かに、香港には選択肢が少ない。約700万人が狭い香港で住んでいて、充分に利益のでないアンダーグラウンドのために土地も時間も人も割く余裕がないのかもしれない。普段私は「東京で体験できるけど大阪では体験できないものがある」と不満を感じることもあった。ただ、香港の現状を見ると、大阪のほうが相当ましだ。Garyは「シーンは変わらない」と言い切り、悲観的とも言える超現実主義なのだが、彼は毎日のようにfacebookで自分が気に入った音楽を紹介し、海外アーティストの招聘も常に構想している。私から言わせてもらえば、彼ほど香港のこの大量生産社会に果敢に挑戦しているクリエイターはいない。



[youtube:KpsVLFyuLWg]
香港島名物のトラムはすべてが広告のペイント。バスもしかり。











映画人編:香港映画産業事情と社会問題、遅すぎた最低賃金制定、広がるデモ運動(取材日:2011年4月1日)



香港では香港国際映画祭が3月20日から4月5日まで行なわれていた。

http://www.hkiff.org.hk/





そこで、リンダ・ホーグランド監督の『ANPO』も上映されていたので見に行った。そのときの日記はこちら
このときに会場の外でリンダ監督とお話したときに出会ったのがエルビー。彼はHong Kong Film Archive(以下HKFA)で編集責任者として働いている。普段は広東語ー英語の翻訳やHKFAで手がける出版物の編集、そして現在は仲間と仏教雑誌を編集中。日本に1年間住んだことがあるため日本語も流暢。大学時代は日本の研究をしており、60年安保についてももちろん知っていた。日本映画も大好きで「ミーハーなんだけど、原節子が大好きなんです!」という彼。香港の映画人である彼に私が香港滞在中に疑問に思ったことをいろいろ聞いてみた。







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想田和弘監督作品も大好きなエルビー。香港国際映画祭では想田監督に直接インタビューをし、映画祭中に配布されるニュースレターに記事を執筆。











──日本ではTSUTAYAとかで映画をレンタルすることがメジャー。「映画館に行くよりもDVDが発売されてからTSUTAYAでレンタルしよう」と考える人も多い。そのほうが安いから。香港でそういうレンタルショップって見かけなかったけど、TSUTAYAみたいなサービスあるの?



昔は2、3軒あったけど、今はほとんどない。あるとしても、メインストリームの映画がほとんど。ある時期はレンタル流行ってたけど、中国大陸も香港もインターネットで海賊版を見ることが簡単なんですよ。だってなーんでも見れるんですよ!例えばこれ、(ロウ・イエ監督作品の話をしていた)マイナーだけどインターネットで探せば、大陸のどこかから違法ダウンロードできちゃうんだよね、タダで!だからそれもレンタルショップが潰れる大きな理由だと思います。それに香港ではもうほとんどがブロードバンドで、高速回線が普通。契約料金も高くない。




──ということは、日本では「高い入場料を払って映画館で見なくても安価でDVDレンタルできるから充分」と思っている人がいるのに対して、香港では「タダでダウンロードできるから充分」と?



そう、そうです。うちのおばさんがそう(笑)。




──じゃあもちろん香港の映画館も減っていくよね。



そう。本当に違法ダウンロードが映画産業を壊す。中国大陸にはまだまだ著作権を守る法律がないし、中国政府にも大陸の一般の人にも「著作権」という意識はない。映画や音楽に限らず本やその他の作品に関しても堂々とコピーが作られる。大陸はなんでもアリなんですよ。映画や作品を作っている人に対しての尊敬がない。日本ほどではないですが、香港も少しずつ著作権に対しては厳しくなってきているんだけどね。著作権の無視があるから、なかなか創作活動で食べていけない。アート系ミニシアターは香港にも昔いくつかあったけど、そういう理由もあってほとんどなくなってしまった。だから映画祭でしか見れない映画も多くなってきて、香港での映画祭の価値はぐんと上がってる。




──日本の私の家の近くでは、この不景気の中、新しい映画館がオープンしました。(元町映画館を例に)本当に映画が好きな人が立ち上げた映画館で、スクリーンはひとつ、70席ぐらい。上映される映画はアート映画やドキュメンタリー、マイナーな映画を上映しているしやっぱり経営は苦しそう。でも。今オープンして1年ぐらいの映画館。たとえ経営が厳しいとしても、香港でそういうアート系映画館を作ることは可能?



それは尊敬します!香港ではできない!今、実際に映画館を作るには、大手のグループ会社、UAとかBroadwayとかの系列に入らないと不可能でしょう。例えば僕が映画のファンなので自分個人の映画館を経営したいとしたら、それはリスクが高すぎてとても実現できない話だと思う。考えられない!香港では家賃がとても高いというのも理由の一つ。本当に高い!東京よりも高いって言われることもあるし。現在社会問題にもなっているけど、家賃が高すぎることで人の売買力がついていっていない。若い人が一生懸命働いて貯金してもマンションを買えない。店舗用地も住居もどんどん高くなっている。だから大型チェーンの会社は物件を借りることができても個人事業で借りるということは相当厳しくなってきてる。住宅で言えば香港にも公共住宅はあるけど、条件が厳しいし、抽選のために5年ぐらい待たないといけないことが多い。




──5年経ったら世界が変わってるかもしれない!



そうだよね(笑)。香港人も不幸なんですよ。




──それにしても香港に来てアート系映画館がないのがショックだった。すべてが同じものになっていくように感じたし。そのほうが儲かるのかもしれないけれど、個性がない。



香港は今その傾向がすごく強い。すべてがひとつになってしまう。小さな個人経営店も大きなショッピングセンターのなかに吸収されてしまう。今そういう風に香港の社会は移り変わってきていて、個性が奪われていく。なので、さっき聞いた映画好きが作った映画館の話を聞いて、本当に良いなと思った。香港ではあり得ない。うちのHKFAだって、政府がお金を出さなければ絶対に存続できない。HKFAには香港映画の全歴史が詰まっているけど、一般の香港人に言わせると、あってもなくてもよいことかもしれないし…。




──日本と香港って資本主義の浸透具合とか社会で個性を出すことの難しさとか、いろいろと似ている部分があるように思う。一般の人の意識はどうでしょう?私は、日本人はあまり議論したがらない人が多いと思ってるんだけど。何かについて意見を出し合って話し合い吟味することが苦手。香港の人はどう?議論してる?



香港の人は日本人に比べれば割と議論しているほうだと思う。香港では6月4日の天安門事件の日、7月1日=香港返還の日にデモをするのが恒例。だいたいビクトリア・パークで集まり中国大使館や香港政府の庁舎を目指して歩く。2003年の7.1デモでは「香港基本法23条」の立法をめぐって100万人もの人が集まった。その法律とは、香港政府が中国政府からのプレッシャーを受けて制定しようとしていた、香港住民の自由を脅かすもの。大きなデモの結果、香港住民の反対が激しかったため、その法律の制定は一旦棚上げされた。これはうまくいった例だったね。もちろん、ピースフルなデモ。誰も負傷などしていない。

(注釈:報道では50万人デモとの公式発表だったが約100万人が参加していたとの市民リポートも多い)




──すごい。香港の人は行動を起こすことに慣れてるね。メーデーはどう?



メーデーに大きなデモをするというのは香港ではあまり聞かない。ただ、最近やっと最低賃金の法律ができた。とっても遅かった!




──え、今までなかったの!?



なかった。不思議でしょ?制定された最低賃金は時給28香港ドル(約291円)。ローカルなレストラン等で働いていた人たちは、それよりも遥かに低い賃金で働いていた場合もあると思う。その最低賃金の施行は5月頃から始まる。だから社員の雇用条件や契約を改定するために、今はどの会社も少し混乱している。最低賃金を上げる代わりに、今後休日出勤の分の給料がもらえないという契約に変えたり…。とにかくこの最低賃金に関しては、もう20年以上も議論されてた。どうも香港政府はお金持ちの味方をしたがるしね。香港住民の貧富の差もどんどん開いていく。香港だけでなく世界中の問題だね。それでも香港は中国大陸ほどの貧しさはないし、国際都市だし、まだ恵まれていると思う。ただ土地は狭く人口は多いし、競争は激しくなってきている。その競争が香港人にとっての一番の苦しさではあるかもしれない。




──ちなみに次の6.4デモはどんな感じになりそう?



最近の傾向としては、中国大陸から香港へ6月4日にあわせてやってきてデモに参加する人も増えてる。香港では天安門事件のことについて発言しても問題ないけど、中国大陸では決して言えないから。あと、天安門事件はもう21年も前の事件なので、今の香港の学生は天安門事件についてあまり知らない。そこで天安門事件を生徒に理解してもらうために、6.4デモに生徒を引き連れていく香港の先生も増えている。そういった要因から、ここ5年ぐらいはデモ参加者が増加している傾向。そして重要な事件だから、香港の人たちにとっても忘れまいという意識が強い。政府は経済の発展に目を向けさせて天安門事件についての記憶を薄くしようとする。でも香港人はまだまだそれを忘れないし、忘れるべきではないと思う。














香港では、創作活動と社会問題への意識は必ず繋がっている。芸術と政治が分離しているのではなく、ゆるやかに繋がっている。現在も香港では艾未未に関するアートを絡めた社会運動が広がっている。大多数の人が同じ商業映画を見てiPhoneを使ってファッションを追うんだけれど、この社会に対する問題意識の強さはなんだろうか。中国大陸が間近にあり中国政府に影響を受ける可能性のある特別行政区だからこそ、彼らは自由がないことの恐ろしさを充分に理解していて、今の自由を守ることに懸命になれるのかもしれない。




(取材・文・写真:山本佳奈子)









【関連記事】

[Offshore]香港Hidden Agendaが移動へ向けたライブを開催。Support Hidden Agenda!(2011.12.14)

http://www.offshore-mcc.net/2011/12/hidden-agendasupport-hidden-agenda.html












■山本佳奈子 プロフィール


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webDICE キューバ紀行(2010.5.11~2010.8.16)



1983年兵庫生まれ、尼崎育ちの尼崎市在住。高校3年のときにひとりでジャマイカ・キングストンを訪れて以来、旅に魅力を感じるようになる。その後DJ活動、ライブハウス勤務などを経て、2010年、念願だったキューバ旅行を実現させる。

世界のすべての人々の最低水準の暮らしが保証されること、世界の富を独占する悪徳企業が民主の力によって潰されることを切に願っており、自ら一つのメディアとなって情報発信することにも挑戦している。





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アジアン・カルチャー探索ぶらり旅【第2回】:大量消費都市・香港でアート・カルチャーを発信する場所 http://www.webdice.jp/dice/detail/3023/ Tue, 19 Apr 2011 15:10:00 +0100
香港と言えば!の頭上に突き出た看板。


[youtube:YZpgP4e_wo0]

香港の彌敦道を走るバス車内から。香港と言えば…、私は即「攻殻機動隊」を思い出したのですが、皆さんはいかがでしょう。


3/16から4/2までは香港に滞在していた。恥ずかしながら、上海-香港の便が国際線となることにいまさら気づいた。中華人民共和国と、香港特別行政区と、中華民国は、「中国」の2文字で済ましがちだが、まったく違う。中国大陸では見れないfacebookやtwitterがここ香港では見れるし、街中で「ジャスミン革命!」「アイ・ウェイウェイに自由を!」と言っても連行されないのが香港。そして旅行者には一番大事な、ビザなし滞在期間が違う。中国大陸には14日間しか滞在できないのに、香港には90日間も滞在できる!だからと言って香港到着を楽しみにしていたわけでもなく、アジアの中では物価が高いのでちょっと乗り気ではなかったのだ。

香港到着の次の日、さっそく気になっていた香港のレコード屋「White Noise Records」に行ってみた。マネージャーに「香港の現代音楽、実験音楽、エレクトロなどでおすすめのアーティストのCDはどれ?」と聞いてみると、相当困った顔をされ、「香港は、そういうのないよ。」と言われた。インターネットで調べていた感触では、香港には東京並みのアートシーンがあるんじゃないかと思っていたのに。私はがっかりし、1週間程度で香港を出てバンコクへ行こうかと考えていた。それが、いろいろな偶然により情熱を持った香港人たちに出会い、彼らと会話し意思を共有・理解していくことによって、香港での日々が素晴らしいものとなった。予定を変更して18日間滞在した。18日間の滞在を通して、レコード屋のマネージャーに言われたように、確かに香港にシーンはないと感じた。だが、出会えた人たちは、日本と同じくあらゆる人・モノの個性がなくなっていく香港で、その状況と向き合って戦っている人たちだった。今回の連載は1都市1回で考えていたのだけれど、香港はとても1回におさまりそうにないので2回にわけて書く。今回は黒川良一氏のオーディオ・ヴィジュアルコンサートの様子と、私が選ぶ香港オススメカルチャースポットを。次回は香港で出会った人との会話を中心に紹介したい。



2011年3月17・18日の2日間行なわれた「FLOW」というイベントに映像・音響アーティストの黒川良一さんが出演していた。場所は地下鉄MTR樂富駅近くの香港兆基創意書院(HKICC Lee Shau Kee School of Creativity)という学校内のMULTI-MEDIA THEATRE。

http://www.creativehk.edu.hk/new/index_en.html





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マルチメディア・シアターの前の広場、開場前の様子。ぞくぞくと人が集まってくる。


チケットは180香港ドル。約1,800円。20pmとフライヤーに書いてあったので、19:45ぐらいに到着した。少しするとかなりの人数が集まってきた。盛況している。集まっている世代は、20代前半から30代ぐらい。仕事帰りか、スーツを着ている人もいる。一人で来ている人もまあまあ多い。開場し並んでいた列が進む。誘導のスタッフも5、6人いて、席には中央から詰めるように誘導される。ほぼ中央、後方の席に座る。約300席ぐらいの客席がほぼ埋まっている。隣の女の子2人に少し話しかけてみると、特に黒川さんを知っていたわけではないけれど普段から芸術関係のイベントはチェックしていて今日のイベントを知ったとのこと。これだけ人が集まっているからには一般の人にもアートに関心があるのかと思ったが、彼女たちいわく「私たちは芸大卒だしアートに興味があるけど、一般の人はアートについてあんまり興味を持っていないし知らないよ」とのこと。ということは、アート好きに対しての充分なプロモーション・告知がなされているということか。私が日本から来たこと言うと、彼女たちはすぐに「家族や友人は大丈夫?」と心配してくれた。ありがたい。



最初は地元香港のNerve+npoolの公演。こちらも素晴らしかったので、世界のどこかでもし彼らの作品を見る機会があればぜひ。舞台転換のために一度観客全員が外に出され、10分ほどしてまた入場。そしてすぐに黒川さんのコンサートが始まった。今回のオーディオ・ヴィジュアルコンサートは3面スクリーンに映し出される「Rheo」。



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Still from "Rheo" (C) RYOICHI KUROKAWA


以下は私の所感。有機的で無機質。自然の風景とデジタルな線描が見事に調和している。言葉で表現できないとは、このこと。美しさと迫力、息を飲む繊細さに圧巻。香港のアートファン達も、この音と映像の斬新な美しさに驚いているように見えた。事実、後日出会った香港の若いアーティストも3月17日の黒川さんのコンサートを体験して「これほどにまで映像と音が融合した作品に初めて出会った。衝撃を受けた」と絶賛していた。原始的な自然風景が象徴的に映し出されていたが、最後にスクリーンに映し出された映像は、人間が作った人口の街のビルの風景だった。自然も人工もアナログもデジタルもすべてが並列化しているように思えた。その映像は間もなく消え、終演。最後に映し出された「pray for Japan」の文字。とても美しくて、涙が出そうになった。このような素晴らしいアーティストと同じ日本に生まれた事を誇りに思った瞬間だった。ひと呼吸置いて、大きな拍手が起こった。



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Still from "Rheo" (C) RYOICHI KUROKAWA




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Still from "Rheo" (C) RYOICHI KUROKAWA


そして、公演終了後の撤収作業中に、ヨーロッパ、アジア、そして全世界でインスタレーションをされている黒川さんにアジアのアートの状況について少し聞いてみた。










──お疲れさまでした。素晴らしいコンサートでした。少しアジアのアートについて聞かせてもらえますか。



実は香港にはシーンないみたいですね。中国(大陸)や台湾にもコンサートやインスタレーションで行ってるんですけど、そこで香港の話になると『香港はまだまだだよ』ってよく各地のオーガナイザーが言っています。





──そう、そうみたいですね。私も香港のレコード屋のマネージャーにそう聞いてがっかりしていたところです。シーンがないといえども、今日ほぼ満席ですよね。すごい。会場の設備のクオリティも素晴らしいですし。芸術にもしっかり投資されているように感じます。



そうですね。昨日も同じぐらいの客入りでほぼ満席でした。香港にはシーンはないようですが、これだけお客さんが入ったのはやっぱりオーガナイザーが頑張ってくれたんだと思います。設備に関しても、お願いしていた機材はすべて用意してくれましたし。この会場もファンデーションがしっかりしているみたいです。



──台湾のほうがもっとメディアアートや最先端アートのシーンがあるということを噂に聞いています。やっぱり台湾のほうがお客さんからの反響とかは大きいですか?



香港はまだお客さんがこういったアートに慣れていない印象です。台湾のほうがこういうアーティストも多いんで、お客さんも慣れています。



──昨年のアルスエレクトロニカでのゴールデンニカ賞受賞後はどうですか?アジアに限らず全体として活動しやすくなりましたか?



いや、そう思うでしょ?それがそんなことないんです。有名でわかりやすい賞ですけど。まあ、こんなもんかと思って…。むしろ、あれから敬遠されてオファーが減った気もします(笑)。



──ではもっといろんな所で黒川さんのアートが体験できるように宣伝します(笑)。



ぜひお願いします!



──ちなみに、いろいろな国で活動されている黒川さんにぜひお伺いしたいのですが、アジアでアートを体験するのにおすすめの国や具体的な場所はありますか?






台湾も面白いですけど、シンガポールも面白いですよ。僕はまだ出演してないんですけど、2008年にはISEAというエレクトロニックアートのフェスティバルがシンガポールで開催されました(ISEA2008)。あと台湾でのおすすめは、95年頃から交流のある台湾人キュレーターが立ち上げたアート施設です。

台北當代藝術中心 - Taipei Contemporary Art Center( http://www.tcac.tw/

現代美術館で働いていた、まだ30代半ばの女性なんですが、独立して仲間たちと小さな美術館をオープンしました。台湾に行ったらぜひ行ってみてください。今日はバンコクからわざわざ見に来てくれたオーガナイザーもいますし、これからのアジアのアートシーンに期待ですね。










今回の素晴らしい企画は、香港のキュレーターOrlean Laiさんによるものだった。彼女は以前にも高木正勝氏や明和電機を香港へ招致している。

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黒川良一 プロフィール


視覚と聴覚を操り、新しい共感覚的体験を導く作品を制作するアーティスト。テートモダン、ソナー、トランスメディアーレなど著名な美術館やフェスティバルに招聘され、インスタレーションやコンサート作品を国際的に発表している。2010年アルスエレクトロニカでデジタルミュージック/サウンドアート部門でゴールデンニカ受賞。

http://www.ryoichikurokawa.com










ただ、前述の通り、香港ではこういった質の高いイベントが日常茶飯事に体験できるわけではない。そこで、私が選ぶ香港の“数少ない”オススメカルチャースポットを紹介しておこう。現時点では、これらを押さえておけば、アンダーグラウンドな音楽、質の高い映像アート、メディアアート、現代アート、映画、本・雑誌……そのあたりの情報を得ることができる。次回に具体的に紹介するが、香港はまさに個性を奪われた大量生産・大量消費都市。若者は一様にiPhoneを持ち歩き、若者に限らずみんなテレビが大好きで、広東ポップをカラオケで歌い、芸能人のゴシップが一番の話題。映画館はシネコンばかり。がっかりしながらも発掘した以下の名スポット!この狭い香港でインディペンデントにアート・カルチャーを発信しているスペースなんてごくわずかなのだ。そもそもそういうスペースやイベントが少ないので、香港のクリエイターたちが集まりやすいという利点もあるのだが。

webDICE読者の皆様、以下は自信を持っておすすめします。香港へ旅する機会がありましたらぜひお立ち寄りください!




・問答無用!アジアのアンダーグラウンド音楽はここで探せ!

White Noise Records( http://www.whitenoiserecords.org/



香港でただひとつのアングラミュージックストア。マネージャーのGary氏は日本の実験音楽からアイドルまでなんでも知ってます。彼と3時間半にわたり屋台で飲みながら話した会話は次回に紹介する予定。ポストロック、ノイズ、現代音楽、その他ジャンルに関わらずとにかく面白い音楽を。具体名を出せば、toe、大友良英、ボアダムス、J.A.シーザー、さらにはなぜか「さわやか3組」コンピレーションまで(もちろん日本以外のアーティスト、特にヨーロッパ・中国大陸ものもたくさんある)。



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実は最初なかなか見つけられずに迷った。でもビルの名前を確認してやっと見つけた。この入り口とビル名が目印。看板等は出ていない。


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狭い店内だが充分。昔、神戸の元町にもこれぐらいのサイズのレコード屋がたくさんあったな、と懐かしくなった。




・香港のクリエイター、若手アーティスト、香港カルチャーの傾向はここでチェック!本・DVD・映画関連グッズ・CDショップとカフェ

KUBRICK( http://www.kubrick.com.hk/



観塘にもあるようだが、私がよく行ったのは油麻地のKUBRICK。北京のMOMAや杭州にも店舗があるようだ。油麻地の店舗では、Broadway Cinemateque(百老匯電影中心ーブロードウェイというシネコン系グループの映画館─ http://bc.cinema.com.hk/en/main.jsp )の建物内にある。音楽・映画関係のショップと、カフェ・本のショップに分かれている。目の前はマンションで、学校帰りの子供が遊んでいたり、買い物帰りのお母さんたちが立ち話をしていたり、おじいちゃんが散歩していたり、のどかな風景。そんな風景を眺めながらカフェでポットティーを飲んでいると時間があっという間に過ぎる。コーヒーはフェアトレード、日曜日にはカフェ奥のスペースで朗読会、また、本のみならず若手アーティストの雑貨類も販売していて、発信することを重要視している店だと感じた。



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こちらは本・カフェの外観。


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DVD&CDショップ。DVDは超有名作品からマイナーなドキュメンタリーまで。CDもジャズからエレクトロまで様々。


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これが一番驚き。日本で公開された映画のフライヤーがここで販売されてます!一枚10~30香港ドル(約100~300円)くらい。UPLINKの『スプリング・フィーバー』も『未来の食卓』も発見。日本じゃ、タダなのに……。




・香港唯一(本当です)のライブハウス。

Hidden Agenda( http://hiddenagendahk.com/



定期的にライブがあるわけではなく、ライブのあるときだけ開いている。香港に来る機会があればぜひwebでイベントをチェックしてみてください。海外からも多数アーティストが来ている。ほとんどの人がここへ行くのに迷うらしい。私はそう聞いていたので地図をしっかり予習しておき無事たどり着いた。ビル名と通りの名前はちゃんと控えておいた方がいい。迷って人に聞こうにも工場街なので夜は人が少ない。



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Hidden Agendaは6F。この恐怖のリフトに乗る。階段の方が怖いのでリフトに乗りましょう。


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ここで行なわれた北京のバンドHedgehogのライブ。ちなみにこのバンドものすごくかっこ良かった!




・社会問題と向き合う気鋭のギャラリー

活化廳 - wooferten( http://wooferten.blogspot.com/



ウーファーテンは、映画『ANPO』が香港国際映画祭で上映されたときにfacebookを通じて知り合ったアーティストに紹介してもらったギャラリー。そのアーティスト、エリックは音楽制作をしておりError Wrong名義で活動している。先ほどのHidden Agendaにもインドネシアの音響系アーティストが出演した時にサポートとして出演していた。そして、このギャラリーで働く女の子、ヤンとも仲良くなり、香港滞在中にはエリックとヤンと3人で延々と「日本と香港の社会・アートの違い」を話した。このギャラリーのボスもヤンも英語を話すので、ある程度英語が大丈夫ならいろいろ説明してもらえる。天安門、今回のジャスミン騒動、香港内での問題など、いろいろ風刺にしていて面白い。さらには奥でせっせと竹と色紙で大看板「花牌(ファーハイ)」を作っている師匠がいて、この師匠はいまでは数少ない花牌の技術者なんだそう。盂蘭節という香港のお盆に不可欠なものだそうだが、昔は新店オープンや中国歌劇の祝賀兼宣伝看板として全長10メートル以上もの花牌も作っていた。今では製作依頼も少なくなってしまったそうだが、思考をこらして手のひらサイズの気軽なお祝いミニ花牌も作っている。師匠の仕事風景や、香港の社会事情、アーティストたちの社会・政治との関わり方が見たければ、ここは情報がたくさん集まったギャラリーとなるだろう。



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ギャラリーの外にも絵やポスターが飾られるwooferten。通りに面した外に貼られた「茉莉花運動」のポスター。


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花牌の一部。この花牌は中国全土ではなくの南中国の文化らしい。師匠はこのギャラリーで作業し始めてから「戦義為公而=the fighting for public」というような政治運動のための花牌も作っている!面白い!




・香港でメディアアートを見るならここしかない!

HongKong Arts Centre( http://www.hkac.org.hk/



香港にはギャラリーは多数あるが、そのなかでもメディアアートを重点的にじっくり見れるギャラリーとなるとここだろう。東京NTTのICCを10分の1ぐらいの規模にしたようなギャラリー。ただ常設展があるわけではないので、前もって企画展のスケジュールは確認しておいたほうが良い。あと、毎月第3金曜に1Fのロビーでフリーライブをやっている。これも毎回出演者やジャンルが変わるが、海外からアーティストを招くこともあるので要チェック。




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ふらっと立ち寄ったときにちょうど見れたメディアアートの企画展にて。



以上、香港第1回目のルポでした。バンコクに滞在しながらこれを書いていて、涼しく過ごしやすかった香港が恋しくなった。



連載に載せられなかった情報はexciteブログに少しずつ載せています。

http://yyyyyyy.exblog.jp/











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webDICE キューバ紀行(2010.5.11~2010.8.16)



1983年兵庫生まれ、尼崎育ちの尼崎市在住。高校3年のときにひとりでジャマイカ・キングストンを訪れて以来、旅に魅力を感じるようになる。その後DJ活動、ライブハウス勤務などを経て、2010年、念願だったキューバ旅行を実現させる。

世界のすべての人々の最低水準の暮らしが保証されること、世界の富を独占する悪徳企業が民主の力によって潰されることを切に願っており、自ら一つのメディアとなって情報発信することにも挑戦している。





























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アジアン・カルチャー探索ぶらり旅【第1回】:上海で衝撃を受けた日本のアニメの浸透度とライブハウス・シーン http://www.webdice.jp/dice/detail/2988/ Fri, 01 Apr 2011 18:53:24 +0100
これがアニメショップ街が連なる文廟前の通り。もちろん、軽食屋台もあり。



アジアのアート・カルチャーの勢いを見てみたくなった



今回は、カルチャーをテーマにアジアを旅行している。

再びこのwebDICEにて連載を始めさせていただくにあたり、軽く自己紹介しておこう。自分が今までどのようにしてカルチャーというものと関わってきたのかを簡単に。

高校時代にさかのぼると、当時新しく導入された総合学科(大学のように単位制で自分でカリキュラムを組む学科)に入学したも関わらず、ルーズソックスを履き、やれ透明ピアスだのやれ目を二重にしたいだの、フツーの女子高生たちにかこまれてうんざりしていた。そんな高校時代の私の楽しみは、放課後、定期券で途中下車して三宮や元町のレコード屋に寄って、訳もわからずハードコアを聴いてみたりフレンチポップを聴いてみたりすることだった。その頃流行っていた音楽は、Hi-STANDARD、GREEN DAY、SCAFULL KING……そんなバンドをみんなが聴いていた時代。もちろん私もそのあたりのライブにはよく足を運んでいた。その後ジャマイカのオールディーズ・スカに興味が移行し、高校卒業前にはジャマイカのキングストンを訪れてオールティーズのレコードを掘った。音楽専門学校に通い裏方の勉強をしていた頃に、UKダブ、テクノ、民族音楽、エレクトロ、ノイズ、実験音楽と幅広く音楽の世界を知り、バンドやDJも経験した。さらにはライブハウスのスタッフとして働いたこともあったが、うつ病になりうまくいかなかった。それからは、音楽にこだわらないこと、音楽以外のカルチャーも柔軟に吸収していくことを決め、実験音楽もメディアアートも映画もアニメもサブカルも現在のコミュニケーションツールにも興味を持っている。ひとつに固執せずに縦横無尽に飛び回って情報を集めているつもりだ。



今年も海外へ旅すること決めた私は、予算と興味を考え、アジアに行くことに決めた。幸い昨年のキューバ渡航によりマイル旅行で大阪─上海の往復チケットは手に入る。物価も比較的安い。そして重要なポイントだったのが、最近のアジアのアート・カルチャーに勢いがあるということだ。それはwebDICEを読まれている方ならもちろんご存知なようにアジア発の素晴らしい映画に代表されるだろうし、実は日本出身のアーティストもよく日本以外のアジアでエキシビションやコンサートを行っている。日本国内でのキャリアに関わらず、多数の日本人アーティストがアジアで活躍していることを知り、物理的距離は近いけれども具体的に見えてこなかったアジアの様々なシーンを見てみたくなった。今回訪れる都市は、上海・香港・バンコク・北京・台北。ジャンルを限定するのでなくやはりクロスオーバーしたルポにしていきたい。テーマは幅広く「カルチャー」としておく。美しいものであれ、滑稽なものであれ、小さいものであれルポしていきたい。どうか気軽に読んでもらえればと思う。

そして今回は、1週間滞在した上海での「アニメ」と「ライブ」を紹介しよう。






上海編/アニメ:「日本のアニメはほとんどインターネットで見ます」



連載のしょっぱながいきなりアニメになると、「萌え」や「オタク」に不快感を持っている人は今後いっさいこの連載を読んでくれないかもしれない。ということは、第一回目はやはりインテリジェンスでスマートでクールなカルチャーを紹介するべきだろうか?と、少し悩んだのだが、萌えもオタクもアニメもカルチャーの一部というのが私の持論。上海での日本のアニメの浸透度について書いてみる。

前にも日記で書いたことがあるのだけれど、もう一度主張しておこう。現在流行しているテレビアニメのクオリティは素晴らしい。確かに、最近のテレビアニメは一様にして登場する女の子のエロを排除しない。部員にバニーガールの格好をさせる女の子、生徒にメイド服のコスプレをさせる女教師、自ら男子高校生の前で下着姿になる女子高生。また、本編でエロがなくてもオープニングやエンディングで多少エロを強調する画が見られることは多い。だが、テレビアニメの場合はあくまでテレビ放送なので、さほど過激で不快な表現はない(不快になるとすれば、それらのアニメから派生して登場してくる非正規のグッズ類だ)。今のアニメをすべて出不精の男性のための性的欲求緩衝剤だと捉えていると、度肝を抜かれるだろう。すべてのアニメがそうではないにしろ、一部の作品に見られるすばらしく巧妙な脚本と細かい演出、背景美術の繊細な美しさ。ストーリーには伏線が至る所にはられ、登場人物の詳細な性格まで見えてくる。たった1秒ほどのカットの仕草、目線、行動で見えてくるキャラクターの性格。そしてその性格は複雑だ。正義のなかの悪も描くし、ジレンマ、二面性など、実際の人間のように葛藤する。正義感だけで突っ走れる人間などいないように、最近のアニメの中の登場人物は迷い、間違った判断や決断もし、逃げることだってある。宮崎駿アニメのように必ずしもハッピーエンドを用意することもない。

熱く語ったところで萌え嫌いの人に届くかどうかはわからないが、素直に日本のアニメブームを受け入れられないのはもしかすると日本人自身かもしれない。上海で、日本のアニメの浸透度を見て衝撃を受けた。



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上海で流行っているキャラクター・アイドルたち。よく見ると「けいおん!」唯ちゃんの肌の色が少し濃いので非正規だろう。





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どこだったか忘れたが、上海市内の地下鉄構内の改札外にあるフィギュア・プラモショップ。見えるだろうか。特大のアラレちゃん。日本ではもうほとんど見ないアラレちゃんグッズ、ここに健在。




上海ではいたるところで日本のアニメグッズを目にすることができる。地下鉄の駅構内に唐突にフィギュア・プラモショップがあることもある。道端にあるキオスクの多くには、ずらっと日本の漫画やアニメ関係の本が並んだりする。

今回の上海滞在において活用させていただいた上海ナビ( http://www.shanghainavi.com/ )によると、どうやら文廟という孔子をまつるお寺周辺のアニメショップ街がすごいらしい。有名どころのアニメは一通り予習した私が見た文廟周辺をルポしてみよう。






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団地が並ぶ閑静な街の道のキオスクに、ハルヒ本。確か50元(約600円)ぐらいだったか。ONE PIECEなども。


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さっきのキオスクの外側、アクリルの壁にずらっと漫画や雑誌が並ぶ。反射して見えにくいと思うが、左側の「大方」という雑誌、「村上春樹」の文字がある。


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文廟の最寄り駅、老西門を出てすぐ見えるのは、このようにいかにも上海チックな高層ビルの景色。


いざ、そのアニメ地区に入ってみると、秋葉原や日本橋というよりかは原宿か下北沢。いや、でも実は私は原宿も下北沢も過去1回ぐらいしか行ったことがないのでこの例えは不適当かも。通りの両側に露店や店舗がずらーっと並び、売られている商品はアニメのVCDやDVD、日本のジャニーズを含むアイドルグッズ、フィギュア、プラモデル、ぬいぐるみ、シール、携帯やPC関連グッズなどなど。ファンシーショップというのが私の世代の女子の間で流行ったことがあったと思うのだけれど、それに近い感じ。アニメにこだわらず、すべての世界中のキャラクターが網羅されている。写真には撮れなかったが、あるおばちゃんの露店は小さなワゴンにぎっしり日本の音楽CD・アニメDVDをつめていた。しかも全部日本語、どうもスキャンしてプリントしたような色合いなので、おそらく海賊版?露店ではなく店舗を持つ店は、それぞれたった4~6畳ぐらい。そして5軒に1軒ぐらいの割合で、いわゆる「萌え系」フィギュア・プラモショップがある。





006weimiaogirls

中学生ぐらいと思われる女の子たち。人が多そうな日曜日を狙って行って正解。この世代の女の子と、男の子はもう少し上の世代が多い印象。



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ガチャガチャ専門店もあり、みんな必死でガチャガチャしていた。1回300円前後で日本とあまり変わらない。フィギュア類の値段も日本と同等。ただ、日本ではもうネットオークションで高額になり始めている商品が、ここではほぼ定価で手に入るかも。




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相当見にくいですが、左:化物語、右:ぷちえヴぁ。ガチャガチャの中身を説明するポップは日本語で日本仕様。いちいち翻訳版は作らないようで、実は香港でもガチャガチャの説明はほとんど日本語。



サンリオやディズニーなどの王道を除き、多く見かけられたキャラクターは以下(順不同)。



・初音ミク ならびにボーカロイド系

・新世紀エヴァンゲリオン

・ワンピース

・ガンダム(ガンプラはだいたいどの店もベーシックに押さえている。)

・ドラえもん

・アラレちゃん

・とある魔術の禁書目録

・とある科学の超電磁砲

・涼宮ハルヒの憂鬱

・けいおん!

・銀魂

・黒執事

・俺の妹がこんなに可愛いわけがない

・化物語



多いと思ってたBLEACH、NARUTOは意外に少なかった。



店のスタッフに話を聞いてみたいと思い、数軒、店のスタッフにDo you speak English?と聞くが「は?」と反応される。

後から思えば、ここでは英語より日本語のほうがスタンダードだったかも。

あるフィギュアショップで何かを購入して出てきた2人組の男の子に、思い切って話しかけてみた。英語もしくは日本語話せますか?と。

1人が流暢に日本語を話せたので、少し話を聞いてみた。



私:あなたたちのあいだで人気な日本のアニメはどれですか?また、あなたはどのアニメが一番好きですか?



男の子:うーん、難しい質問ですね!たくさんあるので1つに絞れません。



私:今日は何を買ったんですか?



男の子:あ、これ。すーぱーそに子です。



私:あ、そうなんですか(すーぱーそに子って知らない。でも知ってるフリ)。ちなみに上海に他にこういうアニメグッズ売ってる所ってあります?



男の子:たぶん上海はここが一番だと思います。



私:社会人ですか?学生ですか?スーパーソニ子(約400元=約5,000円)、高くない?



男の子:学生です。うーん、そうですね、高いですけど、たまには買っちゃいます。たまにです。あなたは日本のアニメどれが好きですか?



私:難しい質問ですね (笑) 。私は『エヴァンゲリオン』はもちろん、『化物語』とか、今放送しているアニメでは、えーと、『魔法少女……



男の子:まどか☆マギカ』ですね!私も好きです。見ています。



私:え!?日本で今放送中なのに!(2011年3月現在。当時は第10話が日本で放送された頃)インターネットで見ているんですか?



男の子:そうですね。日本のアニメはほとんどインターネットで見ます。



と、今放送中のアニメをリアルタイムで追いかけているアニメ好きと話すことができた。彼らは照れくさそうにしながらも喜んで質問に答えてくれた。テレビアニメの著作権が守られていないのは残念だけれど、この日本のアニメ人気の凄まじさ。



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店内が狭いので、がんばって引きで撮ってもこれが限界。



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大量購入もちらほら見かける。



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携帯電話やPC関連のアクセサリショップも多い。




実はこの文廟の周り、アニメショップが数多く立ち並びながらも、古い家々が残っていて、人々の生活もある。一歩裏に入れば、おばあちゃん達が麻雀をしていて、おっちゃんは家の前で包丁で肉を切り料理をしていたり、子供は道端で遊んでいるし、タイムスリップしたような懐かしい様子の街が、そこにある。

そのギャップが面白く、上海に再び訪れる機会があれば、数時間かけて歩き回りたいお気に入りの場所となった。



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フィギュアショップの目の前に、古びた食堂。



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おばあちゃんたちの麻雀大会



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裏通りののどかな風景


上海編/音楽:アート・カルチャーの密集するDream Factory周辺



と、第一回目をオタク系アニメレポートだけで終わると自分としても消化不良なのでもうひとつ、音楽について紹介しておこう。



実は上海には海外アーティストが多数コンサートなどに訪れている。数日上海に滞在するなら、有名なアーティストを見ることはそう難しくない。

直近の上海で行なわれる海外アーティストのコンサートで、私が把握しているものを紹介すると、

4/2 World's End Girlfriend

4/8 ボブ・ディラン

4/9 石野卓球

など。

私は3/14にベルリンで活動するThe Whitest Boy Alive(以下WBA)のライブを見ることができた。

上海のライブハウス・ホールでは、育音堂やMao、Dream Factoryが有名。Eaglesのような超有名アーティストは、上海万博のときに建設された「メルセデスベンツアリーナ」で行なわれた。今回のWBAのライブはDream Factoryで見ることができた。

このWBAのコンサートは、北京・上海で同時開催されていた「JUE」というアートフェスティバルの一環で、他にもVITALICや多くの海外・国内アーティストが各地で出演している。

今回行ったDream Factoryは私の印象ではスタンディングでキャパシティ500人ぐらいのライブハウス。一番後ろにバースペースがあり、縦長の長方形。ステージは高め、後ろのほうでもステージ上のアーティストがよく見える。実はWBAは超人気なようで、この日はもうパンパンにお客さんが入っていた。おそらく600人以上!

そして驚くべきは、上海在住と思われる外国人の多さ!欧米出身と思われる人が5割ぐらい、地元の中国人と思われる人が5割ぐらい。そう、上海で行なわれているライブやコンサートは、地元っ子のためだけじゃなく、駐在している外国人にも向けているのだ。これぞ国際都市!なのでWBAのMCでも、「みんなどこ出身なの?上海だけじゃないよね?アメリカから来てる人!イギリス!ドイツ!韓国!」と手を挙げさせていて、「ベネズエラ出身は?」と聞くと明らかにアジア系の数人が手を挙げていて、「いや、うそだ!(笑)」と突っ込んでいたりもした。こんなMCも、上海独特。

ちなみにこのWBAのライブが行われたDream Factory、なんとBattlesや少年ナイフも来ているらしい!



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WBAライブ中。一番前から一番後ろまで満員で、かなりの盛り上がり。



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Dream FactoryのPAブース。




育音堂やMaoには行けなかったので比較はできないが、このDream Factoryの周りには他にもクラブやギャラリーが集合しており、こういったアート・カルチャーの集合地区となっているようだ。WBAのライブが終わり、外に出ると近隣のクラブからの重低音。まだ飲み足りない、遊び足りないという人はそちらへ流れることができるという仕組み。なるほど、と感心した。ちなみにShelterというクラブ(VITALIC出演のパーティーはここで行なわれた)の近隣にも欧米人向けのバーが数軒ある。



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Dream Factoryの隣のクラブ「MUSE」。こちらも日本人DJや海外からのDJがよく登場するようだ。



異国で海外のアーティストや日本人のアーティストのコンサートを見るというのはなかなか面白い体験だ。上海に行く予定のある音楽好きは、ぜひコンサートやライブ、クラブを上海で体験してほしい。日本より安い料金で見ることができるし、設備や音質のクオリティもなかなか素晴らしい。



今回名前を挙げたライブハウス・クラブのURL(公式webがない場合は、ポータルサイトなどでの紹介ページを案内しておく)

Dream Factory( http://www.cityweekend.com.cn/shanghai/listings/nightlife/bars/has/zhi-jiang-dream-factory/

育音堂( http://www.yuyintang.org/

Mao( http://site.douban.com/maosh/

Shelter( http://www.smartshanghai.com/venue/3174/The_Shelter_shanghai

あと、Eaglesやボブ・ディラン、石野卓球など有名どころとなれば、上海在住日本人のためのフリーペーパーや日本語サイトでも紹介されているのだが、VITALICやWBAなど少しマイナーになると日本語での上海ライブ情報は皆無だったりする。もちろん英語サイトではどんどん見つかる。

私のおすすめの上海カルチャー情報のサイトはこちら。

・SmartShanghai(英語のみ)

http://www.cityweekend.com.cn/shanghai/listings/nightlife/bars/has/zhi-jiang-dream-factory/

今回WBAのライブにご一緒させてもらいお世話になった上海在住かつ音楽通の日本人お二人のページを紹介しておく。上海でのライブ・音楽情報を日本語で知ることができるかも。

・yo-suke さん(ブログ)

http://blog.livedoor.jp/yosuke5426/

・Yasudaさん(LAST.FM)

http://www.lastfm.jp/user/syrsghf



ちなみに私は現在香港に滞在中。4/2にバンコクへ発つ。次回は、黒川良一氏の香港でのコンサートルポをお届けする予定。


(取材・文・写真:山本佳奈子)










■山本佳奈子 プロフィール


http://www.yamamotokanako.net/

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webDICE キューバ紀行(2010.5.11~2010.8.16)



1983年兵庫生まれ、尼崎育ちの尼崎市在住。高校3年のときにひとりでジャマイカ・キングストンを訪れて以来、旅に魅力を感じるようになる。その後DJ活動、ライブハウス勤務などを経て、2010年、念願だったキューバ旅行を実現させる。

世界のすべての人々の最低水準の暮らしが保証されること、世界の富を独占する悪徳企業が民主の力によって潰されることを切に願っており、自ら一つのメディアとなって情報発信することにも挑戦している。





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