webDICE 連載『ロッカーズ・ダイアリー』 webDICE さんの新着日記 http://www.webdice.jp/dice/series/28 Mon, 16 Dec 2024 20:18:46 +0100 FeedCreator 1.7.2-ppt (info@mypapit.net) 「晴れやかな表情をしたパティ・スミスが楽屋で待っていた。そこには運命と決意が充満していた」70年代NYアンダーグラウンドシーンの集成『ロッカーズ・ダイアリー』 http://www.webdice.jp/dice/detail/2558/ Sat, 24 Jul 2010 18:57:58 +0100
パティ・スミス(左)とバーニング・スピアー(右) (c) Ted Bafaloukos

1978年に制作されたレゲエ・ムービーのマスターピース『ロッカーズ』のセオドロス・バファルコス監督が、映画の制作現場そして今作にまつわる出来事をヴィヴィッドに綴るフォト・エッセイ『ロッカーズ・ダイアリー』。抄訳連載3回となる今回の章では、ジャマイカでの撮影前、ニューヨークに居を構え新しい表現を模索中であったバファルコス監督の交友関係の多彩さが明らかになっている。パティ・スミスやロバート・フランク、ジェシカ・ラング、後にドキュメンタリー『マン・オン・ワイヤー』でもフィーチャーされることになる大道芸人フィリップ・プティに至るまで、蒼々たるアーティストが登場する。バーニング・スピアーのライヴでリロイ・〈ホースマウス〉・ウォレスと出会う場面は今作のポイントとなる箇所であり、後に映画の主役を演じることになる彼へのファースト・インプレッションが臨場感たっぷりに活写されている。







第4章 『ロッカーズ』制作へ (抜粋)





これから述べる人物相関図を完成させるためには、演劇用語でいうところの〈五番目の役割〉、つまり重要な脇役となる登場人物も紹介しておかなければならない。その人物、エド・グラズダは、一ブロック離れたブリーカー・ストリートに住んでいた。エリザベスがセーターのデザインをやっていたおんぼろスタジオの隣である。風貌も立ち居振る舞いもほとんど東ヨーロッパの郵便局員といった感じの男だ。彼もまたRISDの卒業生で、世界トップクラスの写真家になる道を静かに歩んでいた。彼の師で伝説的写真家のロバート・フランクはヒッピー妻のジューンと一ブロック先のボワリーに住んでいた。




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ハリー・スミス(左)とプロデューサーのパトリック・ホージー(右) (c) Ted Bafaloukos



そして、エドが住む悲惨なロフトのワンフロア上(エレベーターなしの五階)にパコ・グランデが住んでいたことには、つくづく世界は狭いと感じさせられた。パコの父親はスペインの著名な医学者なのだが、フランコ将軍の統治時代に亡命生活を送り、ミネソタ大学で教鞭をとっていた関係で、パコとユージニーは幼なじみだったのだ。病気のせいで目はほとんど見えなかったが、私がこれまでに出会った中でも一番の読み巧者である。彼は当時まだ無名女優だったジェシカ・ラングと結婚していたが、その頃彼女はフィリップ・プティと熱愛中だった。プティというのは、それからしばらくして世界貿易センターの二つのビルの間にロープを張って渡った男だ。その綱渡り成功の一年後、今度はジェシカのほうがマンハッタンのビルを舞台に熱演を見せた。映画『キングコング』に出演して、キングコングに愛される美女を演じたのだ。パコのほうは、あるときは文化とコカと冒険を求めてペルーのクスコへ、またあるいは最高品質のマリファナやアヘンを求めてゴールデントライアングルにほど近いタイのチェンマイへ、かと思うと、失われることのない愛情とスペイン料理を求めてマドリードへ、という具合に、ニューヨークを拠点に、世界中のさまざまな文化や人々とのつながりをたどって旅をしていた。彼には盲目の写真家として活動していく計画があったのだ。



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ボブ・マーリィ (c) Ted Bafaloukos


ジェシカは私たちの隣、つまりダグのロフトに数ヵ月間滞在していたことがある。ダグがその場所を又貸ししていたマリオンという美形の男性モデルが、ジェシカの親友だったのだ。彼女の友人の中にはジャマイカ人の有名パフォーマー、グレイス・ジョーンズもいた。短く刈り込んだ髪にアクセントのポンポンをつけ、ハチの扮装(黒と黄色の幅広ストライプが入った全身タイツ)をしたグレイスがものすごい勢いで駆け込んできて、「これからはもう日本のデザイナーの服しか着ないからね!」と宣言したときのことは、今もはっきり憶えている。私はジェシカが気に入った。私の知っている人間の中でも、彼女は最も分別があり、強い意思を持っていた。あのロフトで、ベティ・デイヴィス主演の映画をマリオンと一緒にテレビで観ていた彼女は、映画スターになることだけを考えていた。聡明で、現実的で、ユーモアのセンスがあった。非常に好感の持てる人物なのである。





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バーニング・スピアー (c) Ted Bafaloukos



それはバーニング・スピアーがセントラルパークでの野外コンサート、〈シェーファー・ミュージック・フェスティバル〉に出演するためニューヨークを訪れたときのことだった。お膳立てをしたのはバーニング・スピアーのプロデューサー、ジャック・ルビーで、私はリスターにプレスパスを用意してもらった。これだけの顔ぶれのレゲエ・ミュージシャンがキングストン以外で見られるのは初めてのことである。特にブラス・セクションがすごかった。トランペットのボビー・エリスとアルトサックスのハーマン・マーキーの二人は伝説のバンド、スカタライツのオリジナルメンバーで、他のミュージシャンより一世代上だったが、相変わらず第一線で活躍していた。彼らと一緒にプレイするのはテナーサックスのリチャード・〈ダーティ・ハリー〉・ホールだ。さらに、ベースがロビー・シェイクスピア、リードギターがアール・〈チナ〉・スミス、リズムギターがトニー・チン、オルガンがバーナード・〈タウター〉・ハーヴィー、パーカッションがコプシー、ドラムがリロイ・〈ホースマウス〉・ウォレス、そしてバックシンガーがルパート・ウィリントンとデルロイ・ハインズというラインナップである。

私は以前からバーニング・スピアーことウィンストン・ロドニーの大ファンだったが、このコンサートを見てからは他のアーティストが目に入らなくなった。夜の空気を突き抜けていくその素晴らしい声が、そのまま世界中へ響き渡っていくのではないかと思われた。その声がオーストラリアへ、そしてアフリカまで届いて、約束の地へやってきた同胞をエチオピア人が目をきらきら輝かせながら迎えている姿が私の脳裏に浮かんだ。彼がそのステージで見せたようなパフォーマンスは、その前にも後にも見たことがない。ものすごい集中力で歌い、彼の動きすべてがそれに欠かせないものに思えた。時折見せる両手を広げる仕草は、いまにも空に飛び立ってステージから消えてしまいそうな感じだった。彼をステージに留めているのは、始めた仕事は最後までやり遂げようという使命感だけだ。それはまさに英雄の姿だった。どれもこれも信じられないほど素晴らしい曲ばかりが、表現力の網を張り巡らせるように次から次へと飛び出してくる。バーニング・スピアーには私の作る映画にぜひ出演してもらいたいと思った。




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ホースマウス (c) Ted Bafaloukos





コンサート終了後には、晴れやかな表情をしたパティ・スミスが楽屋で待っていた。自分の同類を祝福し、迎え入れるため、アングラの女王が門戸を開いて待っていたのだ。そこには運命と決意が充満していた。

私はステージ上のホースマウスにも注目していた。軍の作業服にキャップというスタイルで、高い台の上に置かれたドラムの向こう側に座り、まるで銃を発射するようにスネアのリムショットを打っていた。印象的で無駄のない、凄みのあるリズムだ。レゲエの古典というか。白黒映画というか。余計なものや飾りが一切ない。動きの激しいアニメキャラクターがオーケストラの指揮をしているかのような彼の姿とは対照的なサウンドである。

その後、ホテルの部屋ではホースマウスのワンマンショーが繰り広げられた。引き立て役を務めたのはダーティ・ハリー。ガンジャをたっぷりキメたホースマウスが、自分自身のことを際限なくしゃべりまくったのである。見ていると頭がおかしくなりそうな激しい動きは、決して親しみの持てるものではないかもしれないが、そのファニーフェイスからは純粋な情熱が発散されていた。そして馬のような声で音楽のように繰り出す言葉からは、彼が深い認識を持った鋭い人間であることが感じられた。巧みに組み立てられたセンテンスにユーモアと皮肉がたっぷり込められているのだ。まさに生まれながらのショーマンだった。その夜のことでほかに憶えていることといえば、ギリシャの曲を聴きたいと言ったチナに、私が聖母に捧げるビザンツ聖歌を歌って聴かせたことぐらいだ。

それから一年後、私はジャマイカで映画の撮影をしていたが、そこで一緒に仕事をしていたのも、プロデューサーのジャック・ルビーも含め、この夜のメンバーとほとんど同じ顔ぶれだった。




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デリンジャー (c) Ted Bafaloukos



(写真・文:セオドロス・バファルコス)











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『ロッカーズ・ダイアリー』


写真・著:セオドロス・バファルコス

訳:浅尾敦則

2,990円

ISBN978-4-309-90876-2

菊判変形/ハードカバー/272ページ

発売中

UPLINK



『ロッカーズ・ダイアリー』公式サイト

http://www.webdice.jp/rockersdiary/



UPLINK WEBSHOPでは限定の特装版、1980年に全米公開された際のポスターとのセットや、映画『ロッカーズ』の貴重なスチールを集めた写真集『ロッカーズスタイル』とのセットなど販売中です!

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「まさにジャー・ガイダンス」Likkle Maiが語る『ロッカーズ・ダイアリー』とレゲエの運命的吸引力 http://www.webdice.jp/dice/detail/2542/ Thu, 15 Jul 2010 14:24:08 +0100
バファルコス監督と交流のあるLikkle Maiが監督のサイン入りサントラ盤を持参して登場


ギリシャ人の青年、セオドロス・バファルコスがニューヨークへ渡り、レゲエに魅せられてジャマイカで映画『ロッカーズ』を制作した記録を綴った『ロッカーズ・ダイアリー』の刊行を記念して、7月9日(金)にアップリンク・ファクトリーにて記念上映とLikkle Maiさんをゲストに迎えたトークイベントが行われた。



映画『ロッカーズ』が制作された1970年代後半は、現在でもレゲエの全盛期として語られる時代。トークゲストとして登場したLikkle Maiさんにとっても、たくさんのレゲエ・スターが登場するこの映画は特別な意味をもっているそうだ。4年前にはセオドロス・バファルコス監督に直接インタビューする機会があり、そのおおらかな人柄が印象的だったと語る。イベント当日は、その際監督にサインをしてもらったという『ロッカーズ』のサウンドトラックCDを持参し、会場の観客に披露した。



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『ロッカーズ・ダイアリー』より、バーニング・スピア


『ロッカーズ・ダイアリー』にはジョー・ギブスやキング・タビーなどの名立たるレゲエ・プロデューサー/エンジニアの作業場も監督撮影の写真で登場するが、過去キング・タビーとレコーディングをした経験をもつLikkle Maiさんの目にも当時の現場は魅力的に映ったという。そしてジャマイカという秋田県くらいの面積しかない国の小さなスタジオから、世界を魅了する音楽が生まれたことに改めて感慨を覚えたそうだ。また、映画『ロッカーズ』についても、ジャマイカ人のお気楽な気質を的確に捉えていることやネズミ小僧のようなストーリーが印象的で、今でもお気に入りの映画として挙げることが多いという。



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『ロッカーズ・ダイアリー』より、リー・ペリー


ボブ・マーリィによって世界に波及したラスタファリアニズムの神とされる「ジャー」にちなんだ、「ジャー・ガイダンス」という言葉がある。レゲエという音楽に関わっていると、まさに「ジャー・ガイダンス」と呼ぶにふさわしい、不思議な出会いや思いも寄らない偶然の出来事が起こることが少なからずあるそうだ。著者であるバファルコス監督がニューヨークで、誰のコンサートかも知らずに訪れたライブ会場にてボブ・マーリィのパフォーマンスを観たこと、その後いろいろな縁があってレゲエの映画を撮るに至った事実、4年前と同じように自身が再びアップリンク・ファクトリーにて『ロッカーズ』のイベントに出演していること(Likkle Maiさんは2006年に『ロッカーズ』25周年記念DVDのリリース時にもアップリンクに招かれ、イベントに出演している)、そして今回のイベントの司会が旧友であったことにも「ジャー」の導きを感じたと語った。




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『ロッカーズ・ダイアリー』より、ドクター・アリマンタド


バファルコス監督が辿った『ロッカーズ』完成までの軌跡を文字と写真で追っていくと、読者は旅に出たいという衝動や何かを始めたいという気持ちに駆られる。Likkle Maiさんも多くの人にこの本を読んでもらい、新しいことを始めるきっかけにしてほしいと述べた。



イベントの最後にはアップリンクの代表であり、この本のプロデューサーである浅井隆が、去る5月にギリシャのアンドロス島に住むバファルコス監督に直接書籍を届けに行った際の様子を報告した。癌を患いながらも監督は元気に暮らしており、制作に5年かかった『ロッカーズ・ダイアリー』を感慨深げに手に取ったという。そしてアンドロス島のレストランで食事をしていると、監督がそのレストランの常連だと知った『ロッカーズ』ファンの現地の青年が待ち伏せしており、監督にサインを求めてきたそうだ。昨年はアテネで行われたレゲエのフェスティバルに『ロッカーズ』の主演であるホースマウスが登場し、監督とともにステージに立つなど、今でも1本の映画を介してその絆は育まれているようだ。




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『ロッカーズ・ダイアリー』より、キングストンのランディーズ・スタジオ



当日来場していた、『ロッカーズ』を日本で始めて配給したオーバーヒートの石井“EC”志津男氏と、『ロッカーズ』のプロデューサー、故パトリック・ホージィ氏の妻、チェリー・カオル・ホージィ氏にも賛辞を述べ、イベントは終了した。制作から32年の歳月を経た映画が、なぜ現在でも多くの人々に支持され、色褪せることなく輝きを放っているのかを証明するかのような時間となった。



(レポート・文:平井淳子)







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『ロッカーズ・ダイアリー』


写真・著:セオドロス・バファルコス

訳:浅尾敦則

2,990円

ISBN978-4-309-90876-2

菊判変形/ハードカバー/272ページ

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「これこそストリート・ファッション。パリ、ロンドン、ミラノ、ニューヨークがアマチュア同然にみえる」ジャマイカ文化の熱気を伝える『ロッカーズ・ダイアリー』発売 http://www.webdice.jp/dice/detail/2521/ Fri, 02 Jul 2010 12:35:48 +0100
(c) Ted Bafaloukos


レゲエ・ムービーの金字塔『ロッカーズ』(1978年)のメガホンをとったセオドロス・バファルコス監督がその制作の現場を綴ったフォト・エッセイ『ロッカーズ・ダイアリー』が発売された。

ギリシャ生まれのバファルコスは、カメラマンとしての夢をかかえアメリカに赴き、ニューヨークでレゲエに刺激を受け、全米ツアーを行っていたボブ・マーリィと出会うことで、本場ジャマイカで映画を制作することを決意する。連載第2回でご紹介する〈第3章 燃えるジャマイカ 〉は、友人のジャマイカ人とともにキングストンに旅行するチャンスを得るところからスタート。伝説のアーティスト、キング・タビーのスタジオやボブ・マーリィ宅を訪れたりといったエピソードとともに、色鮮やかなキングストンの街を描写している。

キングストンの中心部に位置するミュージシャンたちが集う場所、アイドラーズ・レストに乗り込む、バファルコス監督の観察眼の鋭さが感じられる場面だ。




第3章 燃えるジャマイカ 『アイドラーズ・レスト』より(抜粋)



その翌日、フィリップがやってきて、私たちをダウンタウンに連れていってくれた。キングストンの中心部である。これぞ正真正銘のキングストン。バス、車、バイク、騒音、埃、クラクション、そしてすさまじい数の人間。私たちを街角で下ろすと、フィリップはそのままどこかへ行ってしまった。路地と呼んだほうがいいくらいの狭い道に、車とバイクが数台停まっていた。ドレッドヘアの男が10人かそこら、日陰になったほうの壁に寄りかかっている。ランディーズ・レコードショップの隣にあるこの場所が伝説の〈怠け者の巣窟〉(アイドラーズ・レスト)だった。ミュージシャンや歌手、その追っかけ連中が毎日集うところだ。ここは個人事務所、臨時の職業斡旋所、PR会社としても機能していて、大勢の歌手やスタジオ・ミュージシャン、そしてミュージシャンの卵が音楽業界への手づるを探し求めてここにやってくる。隣のランディーズ・レコードショップでかかっている新しいシングル盤の音が雑踏の騒音と混じり合って、街角に響き渡っていた。



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(c) Ted Bafaloukos


その場にいた全員が一斉に、キングストンにいるたったひとりの白人──つまり私──に目を向けた。私が写真を撮りはじめるとリスターが、「レゲエ・シーンを記録しにきた売れっ子《「売れっ子」に傍点》写真家だ」と説明した。その言葉に、空間全体が活気を帯びてきた。突然、私の周りで華麗なショーが始まったのだ。ステップを踏むやつ、うろうろ動き回るやつ、身振り手振りをするやつ、ポーズをとるやつ。しかし圧巻なのは、なんといっても彼らの装いである。これこそストリート・ファッション。世界中のどこへ行ってもお目にかかれないような代物だ。これに比べれば、パリ、ロンドン、ミラノ、ニューヨークなんてアマチュア同然だ。ここ〈アイドラーズ・レスト〉に集まっている連中の全員が、カッコいいを超越したカッコよさである。ファッションには〈何を着るか〉派と〈どう着るか〉派という二種類の異なったこだわりがあるが、ここではそれが見事に調和していた。




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(c) Ted Bafaloukos


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(c) Ted Bafaloukos



もうひとつ、彼らを見ていてわかることがある。それは、服の善し悪しは値段の問題ではないということだ。ただし、靴は例外かもしれない。そこが金のあるなしを密かに示すバロメーターなのだ。ここでは〈正しい選択をすること〉がすべてを左右していた。それができれば、予算のあるなしとは関係なく、目を見張るほどエレガントになる。例えば、そこにいたひとりの男──頭のてっぺんからつま先まですべてデニムという、一歩間違えば悪趣味になりかねない若者ですら、際だってエレガントなのである。そのデニムの彼が私に近づいてきて、「ここで何をしてるんだ」と話しかけてきた。私が「写真を撮っているんだが、きみの写真も撮ってやろうか」といったら、10ドル寄こせときた。モデル代を要求してきたのだ。私が「貧乏だから金はない」と答えると、「それなら猿の写真でも撮ってろ!」と叫んで、げらげら笑いながら去っていった。



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(c) Ted Bafaloukos




リスターに目を向けると、この場所を離れたそうな顔をしていた。私に対する敵意がハンマーのように襲いかかってきたからだ。身振り手振りをともなった、宣戦布告のような饒舌な罵声が浴びせかけられた。残念なことに、そのほとんどは私には理解不能の言葉だった。みんながいきなり地元民になってしまったような感じだ。彼らがしゃべっていたのはパトワ語である。金を要求していると思われる怒気をにじませた言葉に混じって、ときおり英語の単語も聞こえてくる。人数が次第に膨らんできて、われわれは逃げ場を失った。そのとき、リスターがこう叫んだ。「ボブ・マーリィの写真を見せてやれ!」



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(c) Ted Bafaloukos


私はカメラバッグから、はがきサイズにプリントしたシカゴ公演の写真とニューヨークの街頭で撮影した写真を取り出して見せた。その途端、雰囲気がガラッと変わった。みんなが静まり返ったのだ。夢は実現するんだという証拠写真をみんなで見ようじゃないか──といった感じである。ジャマイカを征服した男の肖像をじっくり見よう。これぞ眼福だ。リスターと私がそこを脱出したとき、持っていた写真はあらかたなくなっていた。「ボブ・マーリィに渡さなきゃならないんだから」と説得して、かろうじて数枚回収できただけだった。



(写真・文:セオドロス・バファルコス)


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(c) Ted Bafaloukos







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『ロッカーズ・ダイアリー』


写真・著:セオドロス・バファルコス

訳:浅尾敦則

2,990円

ISBN978-4-309-90876-2

菊判変形/ハードカバー/272ページ

発売中

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『ロッカーズ・ダイアリー』公式サイト

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関連企画




『ロッカーズ・ダイアリー』刊行記念上映+トークイベント

トークゲスト:Likkle Mai



2010年7月9日(金)19:00開場/19:30開演

トーク19:30~/上映20:00~予定

渋谷アップリンク・ファクトリー

(東京都渋谷区宇田川町37-18トツネビル1F) [googlemaps:東京都渋谷区宇田川町37-18]

渋谷東急本店右側道200m右側

料金:1,000円(1ドリンク付)





『ロッカーズ』

監督・脚本:セオドロス・バファルコス

キャスト:リロイ・ホースマウス・ウォレス、リチャード・ダーティ・ハリー・ホール、マージョリー・サンシャイン・ノーマン、ジェイコブ・ミラー、グレゴリー・アイザックス、他

製作:パトリック・ホージィ

音楽:ナイジェル・ノーブル

撮影:ピーター・ソヴァ

配給:アップリンク

1978年/アメリカ/99分/カラー




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■Likkle Mai(リクルマイ) プロフィール


DUBバンドDRY&HEAVYの元・女性ボーカル。在籍中に4枚のアルバムと1枚のリミックス・アルバムをリリース。05年、更なる飛躍を求めDRY&HEAVYを脱退しソロとして始動。06年2月アルバム『ROOTS CANDY』をリリース。07年7月セカンドアルバム『M W』を発表。サードアルバム『mairation』を09年11月にリリースした。この他ルーツレゲエのDJとしても第一線で活躍中。

公式サイト







【予約方法】

このイベントへの参加予約をご希望の方は、

(1)お名前

(2)人数 [一度のご予約で3名様まで]

(3)住所

(4)電話番号

以上の要項を明記の上、件名を「予約/ロッカーズ」として、として、factory@uplink.co.jpまでメールでお申し込み下さい。

アップリンク・ファクトリー予約ページ

http://www.uplink.co.jp/factory/log/003632.php










『ロッカーズ・ダイアリー』展



2010年6月30日(水)~7月12日(月)12:00~22:00

渋谷アップリンク・ギャラリー









レストランTabela『ロッカーズ・ダイアリー』発刊記念メニュー



アップリンク・ファクトリー、アップリンク・ギャラリーに併設されているレストランTabelaでも『ロッカーズ・ダイアリー』発刊記念メニューを展開中!







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ムサカ

(米ナスと牛挽き肉のチーズオーブン焼き) 580円



セオドロス・バルファコスの故郷、ギリシャの郷土料理。ヨーグルトから作るクーリームソースとブドウの葉のほのかな香りが特徴。



ムサカ










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ジャークチキン

(ジャマイカ風バーベキューチキン) 480円


ジャマイカの国民食とも言える代表的な料理。オールスパイスと数種類のハーブで、オリジナルに味付けしたタベラ自慢の一品です。



ジャークチキン



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「ステージのオーガスタス・パブロから出てくるメロディは、魔法をかけられたかのようだった」70年代レゲエの躍動を伝える『ロッカーズ・ダイアリー』7/2発売 http://www.webdice.jp/dice/detail/2472/ Tue, 01 Jun 2010 12:27:54 +0100
(c) Ted Bafaloukos


映画『ロッカーズ』のセオドロス・バファルコス監督によるフォト・エッセイ『ロッカーズ・ダイアリー』が発表となる。1978年に制作された『ロッカーズ』は、レゲエの中心地ジャマイカを舞台にレゲエ・カルチャーをリアルに描いた映画として知られる。バファルコス監督はこの本で、ボブ・マーリィーやリー・ペリーなど、数々のレゲエスターとの逸話や、主演のリロイ・ホースマウス・ウォレスとの出会いなど撮影の裏話を、臨場感に溢れた写真126点を交えて語っている。貴重なエピソードが満載のこの本は、レゲエとジャマイカ、そしてロッカーズを愛する人たちはもちろん、これから新しい世界へ旅に出る人への指標となることは間違いない。今回はその『ロッカーズ・ダイアリー』の内容の一部を発売に先駆けてご紹介する。

1946年、ギリシャに生まれたバファルコスは、ロードアイランド・デザイン大学に入学。卒業後はギリシャ陸軍に入隊しカメラマンとしての経験を積んだ。再びアメリカに戻り、広告代理店に入社した後、1973年から移住したニューヨークのクラブで、レゲエの洗礼を受けることになる。

連載第1回で抄録する〈第1章 ルーツ〉では、1974年、彼がブルックリンのナイトクラブ「トロピカル・コーヴォ」でオーガスタス・パブロのライブを目の当たりにしたときの驚きが、生き生きと綴られている。




第1章 ルーツ 『オーガスタス・パブロの衝撃』より (抜粋)



18歳の私は生まれて初めて飛行機に乗り、初めてテレビというものを観て、初めて木造の家に住んだ。私は異国にやってきたよそ者であり、就学ビザを持った移民だった。後に結婚すると、今度は永住権を持つ移民となった。私はグリーンカードを持っていた。いまだにアメリカを約束の地と考えている連中にとっては喉から手が出るほど欲しい貴重品である。たとえ、夢とはほど遠い現実しか手に入らない場合がほとんどであっても。





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(c) Ted Bafaloukos






ニューヨークのような超巨大都市では、新しい移民は社会全般になかなか馴染むことができず、故国への郷愁にがんじがらめになったまま、異文化の中で不安定な暮らしを送っている。政治家などはこのような都市のことを、〈虹〉や〈タペストリー〉といった言葉で婉曲的に表現したり、〈人種的多様さの調和のとれた融合〉と呼んだりするが、たいていの場合、そこは脱出不可能な監獄も同然だ。しかし、土曜の夜に近くのクラブに足を運べば、ほんの数時間は故郷に戻ることができる。私が足を踏み入れたブルックリンのクラブがまさにそんな場所だった。酒を何杯か飲み、タバコを何本か吸っているあいだ、そこはジャマイカ——彼らの言葉でいう〈ジャムドン〉なのだ。





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(c) Ted Bafaloukos






バンドの演奏が止んだ。頭のはげ上がった巨体のクラブオーナーがステージに上がり、マイクに向かって歩いていく。タートルネックに完璧な仕立てのスーツというスタイルできめた彼が、本日のメイン・アーティストをアナウンスした。みんな、ジャマイカからやってきたこの男を見るためにここへやって来たのだ。レディース・アンド・ジェントルメン——オーガスタス・パブロ!




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(c) Ted Bafaloukos





そのとき私がどんなアーティストを期待していたのか、自分でもよくわからないのだが、その紹介に続いて姿を現したような男でなかったことだけは確かだ。ステージにいるのは小編成のバンド——ドラム、シンセサイザー、ベース、リズムギター。それぞれのパートは見ればだいたいわかる。だが、ゲストとして登場したアーティスト、オーガスタス・パブロは違っていた。ポリエステルのズボンと地味なチェックのベストを着た彼が手にしているのはプラスチック製の、おもちゃ屋で見かけそうな代物だった。それがメロディカという正真正銘の楽器で、決しておもちゃではないということは後になって知った。



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(c) Ted Bafaloukos



長さが40センチくらい、幅が15、6センチくらいで、アコーディオンのような鍵盤のほか、端に吹き口がついている。ステージに上がった彼は、突然、何の前触れもなく、いきなり演奏を始めた。視線を下に向けたまま、体をまったく動かすこともなく、マイクの前でメロディカを吹きはじめたのだ。その瞬間、会場がしーんと静まり返った。バックのバンドですら、まるで真空状態の中で演奏しているみたいだった。聴こえてくるのは、プラスチックの小さな楽器から出てくる音だけ。それが次第に大きくなり、会場を満たしていった。



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(c) Ted Bafaloukos


しばらくの間、私は自分の仕事を忘れていた。写真を撮る手を止めていた。この場でこれを聴いていない人間に写真を見せたところで、いったい何が伝わるというのだろう? 私がどんな写真を撮ったところで、それには、おもちゃのみたいな楽器を演奏する無表情の若者が写っているだけなのだ。このサウンドを写真で表現することができるのだろうか? このサウンドを表現できる人間なんているのか? 出てくるメロディは、まるで魔法をかけられたかのような複雑なものだった。それが予想もしないような変化を見せて聴く者をハラハラさせるのだが、ジャズと違い、あらかじめ決められたフォーマットから逸脱することはない。独特のスタイルを持ってはいたが、それは間違いなくレゲエだった。決して小難しいものではないのだ。魅力的なメロディに気を取られなければ踊ることもできたが、踊っている者は誰もいなかった。みんなトランス状態に陥り、その若者が紡ぎ出す夢のような景色の中を漂いながら、次々に繰り出される曲に聴き入っていたのだ。結局、私は写真を何枚か撮ったものの、(当然のことながら)それらは雑誌に載らなかった。



(写真・文:セオドロス・バファルコス)







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『ロッカーズ・ダイアリー』


写真・著:セオドロス・バファルコス

訳:浅尾敦則

2,990円

ISBN978-4-309-90876-2

菊判変形/ハードカバー/272ページ

2010年7月2日発売

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『ロッカーズ・ダイアリー』公式サイト

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関連イベント



『ロッカーズ・ダイアリー』展


2010年6月30日(水)~7月12日(月)12:00~22:00


渋谷アップリンク・ギャラリー



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