1998年に『フェルメールの囁き』という、フェルメールの絵画にインスパイアされた夢物語を監督した安藤さん。名作映画とフェルメールの絵画の深い関係を語っていただきました!また当日は『フェルメールの囁き』のダイジェストも上映いたしました。安藤氏次回作は「合奏」盗難事件をモチーフにしたものになるそう。
映画監督から見たフェルメール
ジャン・リュック・ゴダールがカイエ・デュ・シネマの記者に「一番初めにインスパイアされた映像作家は誰ですか」と聴かれて「フェルメールだ」と答え、フェルメールは映画が始まる300年くらい前の人ですから、記者は、映画の父と言われるリュミエールと間違えた。そこでゴダールが「フェルメールは世界最初の映画作家だ」と言っている、という逸話があるらしい。ジャン・コクトーは「フェルメールの描いているものは、彼が描いていないものを描くためにある」つまり「見えないものを表現するという絵画をかいた」と言っています。 と言うように、フェルメールの作品は非常に映画的です。映画というのは、映像を撮って、その中にある人間のドラマ、愛情や悲しみなど、情念的なものを表現するもので、フェルメールの絵にはそれがあるんです。
また、ピーター・グリーナウェィはフェルメールのことを「きわめて写真的」とも言っている。 時間と光。時間というものを、止まった一枚の絵の中に描いた。振り向いた瞬間、手紙を渡されて「なんだろう」とふと見た瞬間の止まった絵なんだけれども、その動きの時間を感じる。まさに映画です。そして言語と音。絵の中に手紙がたくさん出て来たり、召使いと会話をしているような瞬間を描いていたり。楽器もたくさん出てきて、音楽を感じる。映像に音楽、言語が加わって映画になる、というのがまさにここにある。
映画の中のフェルメール
・ジャン・コクトー/『美女と野獣』(1946年)
美女と野獣の中でベルという主人公の女性がお姐さん達二人が着飾ってパーティに出かけると、彼女がうちを掃除している。そのときのベルの格好が、頭にターバンをまいている。もうおわかりかとおもいますが、コクトーは、「青いターバンの女」にインアスパイアされてあの髪型を作ったと言っている。モノクロですから"青いターバン"ではないですが。
・ピーター・グリーナウェィ/『ZOO』(1985年)
「婦人と召使い」がそのまま出てきますし、「絵画芸」「赤い帽子の女」の構図がそのまま、シチュエーションを作り替えて登場する。そして、フェルメール愛好家の外科医の名前が、バン・ミーグレン。有名なフェルメールの贋作家、ファン・メーヘレンのことですね。また、グリーナウェイは「フェルメールの手紙」というオペラを演出しています。
・パトリック・ボカノフスキー/『天使』(1984年)
「牛乳を注ぐ女」をモチーフとして、この格好をした女が、牛乳を注ごうとしてこぼし、また牛乳を取りに行って、注ごうとしてこぼす、その繰り返し。アバンギャルドなので、フェルメール的ではないかもしれませんが。
・トニー・スコット/『ハンガー』(1983年)
「音楽のレッスン」がモチーフになっているシーンがあります。少女が、ヴァージナル(家庭用の鍵盤楽器)ではなくバイオリンのレッスンをしている。その向こうに「音楽のレッスン」の絵がかかっている。そこに、忍び寄ってくるデビッドボウイの吸血鬼、という構図になっているのですが、もうひとつ。「音楽のレッスン」の中のヴァージナルの裏蓋に「音楽は喜びの伴侶、悲しみの薬」とかいてある。つまり。少女が弾くバイオリンの音楽は喜び、そしてボウイにとっては、今から血をすう喜び、快楽。悲しみ=ボウイの老化と少女の死、を感じさせる二重構造。そして、「音楽のレッスン」は、絵の中にある鏡にフェルメールが描いているキャンバスの足が写っている。それを匂わせるように、映画では、ボウイがこちら側にいるのがうかがえる。
安藤 紘平(あんどうこうへい)プロフィール
1944年 北京生まれ。 パリ留学後、寺山修司主宰の劇団・天井桟敷に在籍。映像作家・TBSでの勤務を経て、現在、早大教授とともに、日本映画監督協会理事を務める。作品に、 69年「オーマイマザー」(オーバーハウゼン国際映画祭入賞)、71年「息子達」(トノンレバン国際映画祭グランプリ)、94年「アインシュタインは黄昏 の向こうからやってくる」(ハワイ国際映画祭銀賞)、98年「フェルメールの囁き」(モントルー国際映像祭グランプリ)など。
作品解説
一体誰が盗んだのか?フェルメールの名画『合奏』をめぐり、絵画探偵、美術収集家、美術品泥棒、フェルメール愛好家・・・それぞれの想いが交錯する美術/探偵ドキュメンタリー!
1990年に、ボストンの美術館からフェルメール作『合奏』ほか12点が盗まれた。フェルメール作品は全部で30数点と少ないため、被害総額はアメリカ美術品盗難史上最高額5億ドルにもなったという。10年以上経っても事件が解決されないことに業を煮やした監督は、美術の世界では高名な絵画探偵ハロルド・スミスとともに事件を追う。事件に関わった者として、有名な美術品泥棒、映画『ディパーテッド』のフランク・コステロ役のモデルと言われている、アイリッシュマフィアのボス、ホワイティ・バルジャー、そして米国上院議員、元大統領などの名があげられ、日本人コレクターによる依頼だという説もあったという。「合奏」に魅せられた人々と、事件の顛末、そして生涯をかけて『合奏』を追った絵画探偵ハロルド・スミスのドキュメンタリー!
『消えたフェルメールを探して / 絵画探偵ハロルド・スミス』
監督・撮影: レベッカ・ドレイファス
脚本:: シャロン・ガスキン
出演:ハロルド・スミス、グレッグ・スミス
2005年/アメリカ/83分
配給:アップリンク
字幕監修:朽木ゆり子
イベント情報
2008年10月18日(土)
ゲスト:滝本誠氏(映画評論家)×岡部昌幸氏(帝京大学教授)
「古今東西、絵画盗難をテーマにした映画~専門家に聞く!」
絵画盗難って何?本作『消えたフェルメールを探して』に出てくる事件はもちろん、映画の中の盗難事件の疑問点を美術専門家に聞く!
開場/開映:14:00/14:30
会場:アップリンク
入場料は、通常の映画料金に準じます。
一般:¥1,500/学生¥1,300/シニア¥1,000