骰子の眼

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東京都 渋谷区

2008-09-08 18:54


関口義人:知られざるジプシー/ロマ文化を追いかけて

イランのジプシーを追い求めた旅を、貴重な記録映像とともに語るトークイベントがアップリンク・ファクトリーにて開催された。
関口義人:知られざるジプシー/ロマ文化を追いかけて
  • 貴重な映像とともにイランのジプシーを追う旅が紹介された

  • 関口義人著『オリエンタル・ジプシー 音・踊り・ざわめき』

  • トーク終了後、インタビューに応じる関口義人さん

ジプシー/ロマ研究家として世界を飛び回る関口義人さんは、著書『オリエンタル・ジプシー 音・踊り・ざわめき』を7月に出版したばかり。今回のトークでは、アラブ・イスラーム世界の中でもイランのジプシーに焦点をあて、旅の記録/記憶を振り返った。さらに今回はゲストとして、テヘランに在住し、イラン取材及び映像撮影にあたった吉武絵里子さんが登場した。

吉武さんがジプシーに興味をもったのは、幼少の頃からだという。意外にも女性の進出率が高いイランの地で暮らす中、社交儀礼を重んじつつ、人の家に招待された際にも京都のぶぶ漬け的な意味合いに対する用心が必要であったりと、独特のイランの文化を紹介した。

吉武さんは、イランのジプシーに関しては、「ジプシー研究の可能性が大きいとともに、取材がしにくいという課題が伴う。しかし同時に、ジプシーたちはある意味ではイランの文化そのものを表しており、イラン人に近い存在なのではないか」と語った。

熱気に包まれたイベント終了後、関口さんにインタビューを行った。

―― ジプシーに興味をもったきっかけについて教えてください。

1985年にパリで「ジプシー音楽祭」というのがあって、ジプシーの音楽に初めて触れたときに、一番初めの関心はあったと思うんです。だけど仕事で行っていたので、あまり音楽のことにかまけていられない状況でした。それからしばらくして、タラフ・ドゥ・ハイドゥークスが登場したり、ジプシー映画を観たりしてといった具合に、ほとんどみなさんと変わらないのです。1995~6年からジプシーを調べてみようかと思って、20年の駐在を経て帰国したのが1997年ですが、そこから10数年このジプシー行脚を続けているのです。今は仕事にもなっているのですが、そのような状況です。

―― 新刊『オリエンタル・ジプシー』では、ジプシーを非ヨーロッパの視点から見つめなおすという点が印象に残りました。 ヨーロッパでは蔑みの対象とみなされているジプシーが、アラブ・イスラーム世界では異なるアイデンティティをもった存在であるように感じられるのですが。

そうですね。国によっては蔑みも全然無くはないです。例えばトルコでは差別されていたかなり長い歴史があります。でもシリアとかヨルダンとか中東では、蔑まれているというよりはちょっと違った人たち、外国人のように見なされて、かといって制度的に差別されるということはあまり無いです。ただ、だからといって生きやすいかというと、市民権を持っていない人がいたりするわけで、生活がしづらい場合もあると思います。どの位の数がいるかによっても社会状況が違い、何万人もいればそれなりの力をもった集団にもなりますが、数百人とかばらばらに暮らしていると生活もままならない、水の無いところで暮らしているようなバルカン的なジプシーもいなくはないです。

曖昧なようでいて、ヨーロッパは白人が多いからジプシーが目立つのだけれど、アラブのように周りも浅黒い人がいるという中で、やはり見た目で人間は差別するんですよ。アラブでは生理的な差別感というのはあまり無く、むしろ近い感じがする。それがすごく大きいような気がします。ただ厳密に言えば、本に書いたようにひとつひとつの国で全然対応が違うので、こうですと断定すると殆ど間違ってしまいます。まとめては言えず、この国はこうです、というのが精一杯ですね。恐らくこれからもそうだと思います。

―― ジプシーというと、流浪の民というか漂泊するイメージがありますが、日本という民族はもともと土地に対する執着が強いと思います。それについてはどう思われますか。

もちろんそれは明らかにそうですね。ただジプシーの漂泊性というのは、いくらか幻想です。かつては漂泊していたけれど、20世紀後半以降のジプシーは殆ど定住化を強いられていて、国境を越えられなくなってしまっています。永住民が90%以上、今も漂泊している人もゼロではないけれど、極めて珍しい。そういう人を探す方が大変です。漂泊にみえても、ルートセールスのように同じ国の中で物を作って売って、次へ行ってとか、あるいは楽師みたいにあちこちで演奏したりとか、漂泊ではなく商業移動民というか、その範疇に今はむしろ近いです。だから完全なノーマッド、完全な漂流民幻想というのは勝手に現代社会が作り上げたもので、現実はそうはいっていない。彼らは本当のところはそうしたいのかも知れないけれど、そうなっていないのが現状ですね。

―― ジプシーの取材は、事前に把握できないことが多くて困難がつきまとっていると著書に記されていますが、フィールドワークを行う上で重視していることは何でしょうか。

まずきちっとした通訳の確保ですね。それも国によって全くやり方が違うので、バルカンの時は現地にロマのNGOがいてそこにコンタクトを取って、そこの学生と一緒に行ったりしました。でもアラブに行ってからは殆どそういったNGOや組織が無い。人権団体もあまりない。ということは現地に行ってから、ホテルで聞いたり、本屋へ行ったり、旅行代理店へ行ったり、色々な手を尽くして探すというケースもあります。それからドム・リサーチ・センター(DRC)というイスラエルに本拠のある組織があるのですが、そこは割とアラブのジプシーの情報を持っているんです。そこに連絡をして、今回もイランのある人物を紹介してもらって、その人からザルギャルさんにたどりついたりしているのです。そういう組織もあることはあります。

ただ絶対にそうすれば良いという方法は無くて、それどころか途方に暮れてしまうこともあるんですよ。誰も案内してくれない、一人では場所もわからないから全然無理ですし。ジプシーは住所も無いところに住んでいるので、知っている人と車で行かない限り、まずたどりつけない。交通手段ではとても行けないところなので、いつも車を自分で借りて、通訳を乗せて走る。ただしイランだけはレンタカーが借りられない、だからレンタカー無しで、車ごとチャーターして行くようなことをやったのは今回が初めてです。

―― 今年はまた海外に行かれる予定はありますか。

今年中かはわかりませんが、今度はアンダルシアに行きたいと思います。ジプシーのフラメンコを真正面からとらえるために、かなり勉強してから行きたいと思っています。本当はイランももっと突っ込みたいんですけれど、イランはなかなか壁が厚い。人を巻き込んでいくわけですから、危険を伴うわけにはいかない。その辺がやはりなかなか難しいですね。

ジプシー音楽に触れたことが無い人でも、関口さんの情熱的な語りと未知の音楽の調べにはきっと心を動かされるだろう。次回の関口義人の『ジプシーを追いかけて』は、9月20日、アップリンク・ファクトリーで開催される。ジプシー・スイングのミニアコースティックライブ付きの一夜に、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。

(取材・文:齋藤理恵)

■関口義人(せきぐち・よしと)PROFILE
東京生まれ。10代でアメリカへジャズ修行に赴き、20代後半から商社員としてヨーロッパに滞在。のべ60カ国を渡り歩く。ジプシー/ロマ研究、音楽評論、アーティスト招聘などに携わる。桜美林大学非常勤講師。早稲田大学非常勤講師。(有)音頭代表。
著書『オリエンタル・ジプシー 音・踊り・ざわめき』(青土社)『ジプシー・ミュージックの真実』(青土社)『バルカン音楽ガイド』(青弓社)など。

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関口義人著『オリエンタル・ジプシー』刊行記念イベント
関口義人の『ジプシーを追いかけて』
http://www.uplink.co.jp/factory/log/002743.php
日程:2008年9月20日(土)
会場:アップリンク・ファクトリー(東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1F)[地図を表示]
時間:18:30開場 / 19:00開演
料金:2,500円(1ドリンク付)
★全てのご来場者に関口さん編集のMix CDをプレゼント

いまだ十分に明かされていない知られざるロマ/ジプシー文化を、フィールドワークに基づき紹介し続ける関口義人さんが、『ジプシー・ミュージックの真実』に続く待望の新刊『オリエンタル・ジプシー 音・踊り・ざわめき』を上梓した。これを記念し、これまで全く知られていなかった”オリエント”で暮らすジプシーの暮らしと音楽をトークと映像/写真などで探っていきます。ジプシー・スイングのミニアコースティックライブも。お楽しみに!

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