骰子の眼

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東京都 渋谷区

2008-08-29 17:30


【DICE PHOTO GALLERY】“チカーノ・ギャング”を撮影した写真家名越啓介の視点とは?

転げまわる瞬間が一番おもしろいんですけどね。英語なのか何語なのか全くわからなくて、自分でも何やってるか分からん瞬間があって。
【DICE PHOTO GALLERY】“チカーノ・ギャング”を撮影した写真家名越啓介の視点とは?

撮り手の存在感を消して、限りなく被写体に近づき、撮影する写真家。実際に被写体の人々と寝食をともにして撮る。だからその表情、背景は圧倒的なリアル感で迫ってくる。2000年世界中のストリートを鮮やかに捉えた『EXCUSE ME』を発表した彼が、アメリカで最も恐れられているチカーノ・ギャングを被写体に選びこの度、写真集『CHICANO』(東京キララ社)を発表した。リアルであるが、その手法はいつも同じではなく、その場の状況で変幻自在に撮影する。 その辺のことを中心に写真家名越啓介に話を聞いてみた。

名越 啓介
写真集『CHICANO』、『EXCUSE ME』より 全13点



―写真家になろうとしたきっかけを教えてください。

10代で旅に出る時、たまたま知り合いからカメラを貰いました。旅の途中、サンフランシスコで、スクワッターと知り合ったんです。不法占拠者の集まりに入って行って。「なんだ、こいつら」みたいな感じで初めは見ていたんですが、気付いたらチョコチョコ撮ってたのがきっかけです。

―スクワッターに何か共感するものがあったからですか?

そうですね。今まで日本では見たこともなかったですから。それで何年後かにそこへ行った時に、一緒に生活しながら、ごみ漁ったり、飯を食ったりしてて、なんか楽しかった。2ヶ月くらい一緒に生活してましたね。

―最近、日本人はもとより観光客もめったによりつかないロサンゼルスのギャングのいる地域へ行ってチカーノギャングを撮影されてましたが、どんなきっかけで行かれたんですか?行かれたのは、ロサンゼルスだけですか?

ロサンゼルスとサンディエゴ、ティファナの主に3ヶ所ですね。経緯は釣崎さんから初め「チカーノに興味ない?」と言われ、それから出版社の東京キララ社の方を紹介されました。 本当は、「ムービーを撮って欲しい」という話で、写真集を出すことなんか予定になかったんです。でも、興味があったから初めは自費で行ったんです。 実際、今までチカーノを紹介する物もなかったし、大分ハードコアだとは思ったんですけど。 実際行ってみて、みんなちょっと正統派というか真面目だなと思いました。 ファンキーな部分とかはあまりなくて、今まで追いかけたものは屑みたいな(笑)、どうしようもない人ばっかりだったけど、あの人たちはキチンとしてるし、メキシコ系という影の部分があって、どこまでいけるか分からなかったんですが。 一人で行ってた時に段々打ち解けたからよかったんですけど。

CHICANO cover

―チカーノの撮影中、あちらサイドの抗争があって撮影場所が大変な事態になってしまった時でも名越さんだけは机の上に立って、そのシーンを撮っていたとお聞きしてます。いつでも、カメラマンとしての使命感が無意識に働くのですか?それとも、怖いけど撮らなくてはというような使命感で撮影されるのですか。

はい、そんなこともありましたね。 それは、あんまり刺されたとか伝えるべきことではなかったんですけど、全体の一冊の表現の中で強弱が欲しくて。あまりにも平坦になったり、反対に人間臭くなるとそれはそれで違うし、やっぱり現実だったので。 一番リアルだと思ったのが、周りにいる人たちは目の前で刺されても普通で、ああ、またかみたいな対応の仕方っていうか。ああいうのも結構、撮影したかったんですけどね。

『CHICANO』¥3,500+税(東京キララ社)

―その時の撮影は無意識で?

いや、もちろん怖いですよ。興奮して撮ってるわけじゃなくて。 ああいう事態になったら色んな人の表情が見えるから。 まあ、刺されたことがどうとかじゃなくて。 撮るの怖いけど、まあ、空気になりながら、移動しながらススッと。 パッパッパと撮って。その辺は逃げ足は速いんで、自信はあるんですけど。 こういうことは今まで培ってきたから。


―そういう時もイメージを沸かすんですか?

思ってても、撮ってるときはスポーンと飛んじゃってるから。 悲惨なとこはあんまり撮りたくないっていうのはあります。 そこは、リアリティあるものが必要かなって思ったし、チカーノのイメージが悪くなってもいけないんですけど、日常に起こったっていうのは、リアルに一杯あるので。 スクワッターの撮影してた時、友達が死んじゃったことがあって、色々知り合ってるけど、泣くわけでもないし、客観的にも見れないし、この距離感は計れませんね。 今回は、野球のスタンドだったら、外野席の奥の方から見てる感じでわざと傍観者的な視点で撮ってたから。

―名越さんのスタイルは被写体に身も心も近づいて撮られるようですが、今回チカーノの撮影も同じスタイルだったのですか?

いや、今回は同じスタイルで撮ってないですね。 ある程度の距離感じゃないと撮れないと思いました。 アジアのストリートギャングみたいな奴はなかなか心を開いてくれないけど、一緒に転がっていたらなんとかなるんです。 けど、チカーノは組織もあるし、カッチリしてますし。一回信用されると仲良くさせしてもらえたりしたんです。 先日、撮影に協力してくれたチカーノ達が日本に来たんですが、「写真集おめでとう」って言ってくれたり、仲良くしてくれたんです。 自分はギャングじゃないから、一枚の写真として、今回は勝負したいなと。そこのところはカッチリ決めて、撮影したっていうのもありますね。

―テーマは撮影に行くまえから決めてるんですか?

いや、いつも現地に行ってからですよ。 現場はセッティングされてないので、 どう作っていこうか考えますが、作りこみ過ぎるとその人たちが映ってないから難しいんですが。

―今回の『CHICANO』を見ていると、もちろん危険な写真もありますが、ギャングとか危険な人とかいうより、人間の触れ合いと絆や背景が浮かびあってくる気がします。それは、現場で人の生き様や背景とかを感じて?

題材はチカーノだったけど、10代の若者だったり、ギャングのボスにも家族がいたりして、日曜はどんな生活してんのかなとか考えると、ギャングという見方はやめて単純に一人の人として見ていました。 一瞬の光の部分を撮ろうと思ったんです。今回出会った人たちは、ギャングだったから、格好よく撮るというか、なんていうのかな、彼等の魅力が伝わったらいいと思って撮ったのはあります。

―このソファでくつろいでいる写真とか哀愁が漂ってますね。

その写真はどうしても入れたかったんです。はじめ、省かれちゃったんですよ。 けど、やっぱり何人か日本人でもずっとチカーノの所で生活してた人がいるんですが、編集の林さんが、そういう人に見せに行ってくれて。 やっぱり出てくる車であったりとか細かい刺青のディテールってわからないじゃないですか。 プロデューサーのKEIさんとは別の人で10年位チカーノと一緒に居た人がいて、その人に見せに行ってくれたら、これだけリラックスした表情は見たことがないから、やっぱりこれも入れようってことになって。意外とみんな、格好つけたりとか構えちゃうんですよ。 普段ビシッとしてるからだけど。でも、夜になるとみんなだらしなくなっていったりとかして。これは、その極地ですね。

―今までの中で気に入った作品は?

完全に満足はしてないですけど、スクワッターですかね。 一番最初に撮ったスクワッターのやつは頭にも残っているし、いいのが撮れたかな、みたいな。

―スクワッターは初めて撮った対象ということで、今後も撮り続けていくのですか?

一番始めのきっかけだし、一番いい写真だった気がします。 あのスタイルが結構基本になってます。 6年ぐらいずっと追いかけてたからっていうのもある。それも、ビームスギャラリーで発表しました。

―ビームスギャラリーで展示されていたのは、先程おっしゃった亡くなられた方の写真ですか。あれはどこですか?

そうです。あれは、ロサンゼルスですね。

―撮影に行く先々で色々なトラブル(韓国、ロサンゼルスでの事件)が起きているようですが、どうしてなんでですかね。

はは。いやあ、なんかトラブルをは呼んじゃうんですよね。ひどい目には合わないですけど。 沖縄に行った時も軟禁されたり。チカーノの時もいっぱい人がいる中で人が刺されて、パターンパタンて倒れて、俺酔っ払ってるのかな、みたいな。近くで人が血噴き出してるし。 なんか韓国の時も僕が乗ってたバイクだけ、カブで。。。置いていかれて、挙句の果てタクシーに絡まれて、警察に捕まって。。。。 でも、やっぱりトラブルに巻き込まれれば、巻き込まれるだけネタ的にはおもしろいですよね。笑いに出来るっていうか。 チカーノに刺されたっていうのは笑いにならないですけど。

―やっぱり被写体に近づいて撮るから?

それもあると思いますね。時間かかるんですよね。 空気になるっていうか存在感ゼロで。誰かを撮影するってことになった時には、意識されると駄目なんで、存在感ある人とか、俺はこうで、こういうの撮りたいって構えられると大変なことになると思うんです。 サーってフェイドアウトできたらドキュメンタリーとしてはいいのが撮れるんじゃないですかね。

―そういうスタイルは『CHICANO』の時も同じような?

そうですね、一人で行く時は、いつものスタイルでやりながら、今までにない写真の表現方法をちょっと変えて。

―写真集や個展の時はそのためにテーマを決めますか?

それは、全然ないですね。一応題材的にアジアっていうのはあるけど。 特にない。毎回あるようでない。

―次はテーマを決めて行く予定はないですか?

そうですね、あんまりテーマが無いっていうのも問題ですけど、ある程度伝えるものっていうのがあった方がいいと思うし。 けど、あんまりそこをがっつり決めると今度は周りの風景が見えなくなるから。

―作品によって表現方法は違うと思うんですけど、スタイルは意識的に?

いや、結構同じことやりたくないんで。 今回のチカーノは自分の中では違うと思ってるんですけど、もっと色んなやり方が多分あると思うんで、難しいんですけどね。凝り固まってくると、オナニーになるじゃないですか。 別にギャング、ギャングって言いたいわけでもないし。 いろんな、違う方向で次やりたいなって思ってるんですけど。表現方法や、被写体も。光や影があるなら影の方ほう、貧乏人ばっかりスポットを当てちゃっているので。 同じ人として金持ちの中にも面白い人はいるんで。でも、行ったら行ったで、コロッと変わっちゃうんですけど。 転げまわる瞬間が一番おもしろいんですけどね。英語なのか何語なのか全くわからなくて、自分でも何やってるか分からん瞬間があって。 グシャグシャになってる瞬間がすごい面白い。 瞬間も最中もいいんですよね。 例えば、昔レイブとかで踊ってたら、段々気持ちよくなってすごいことになって、ちょうど気持ちいい瞬間ってなるんですよね

―その時がシャッターチャンス?

そうですね。

―被写体をずっと待って撮影する人もいるけど、名越さんは?

色々やります。今回『CHICANO』の場合はありえない場所に人立たせたりして、人の動きが交差してくる時まで待って撮影したり、わざとリアクション起こさせたりとか。 ドキュメンタリーでリアリティがあってフィクションというか漫画的要素を入れつつみたいな。 やっぱり、あり得ない空間とか世界っていうのは、単純に人に感動を与えると思います。一枚の写真見せて、オオーッみたいな。 一発ギャグというか。そういうのも面白い。まあ、チカーノはギャグにしたら殺されてしまうんで。

―その間も実は名越さんの中では転げまわってる?

いつもは転げまわってるんですけど、今回はさっきも言ったように引いて見てたんで、ある種違う頭というか、いつもは一対一で行くとこを思い切りぐっと引いて、人と周りの状況であったりとか、そういう引いた写真を色々考えて作ったんで、その時は転げまわってるっていう感じじゃないですね。 冷静にいきましたね。 例えば、チカーノの人たちが沢山集まって、自分も入れたかもしんないけど、同じ人種にはなれないんで、引いてその模様を観察してたみたいなとこがあるかも。 動物の観察というか、なるほど、こういう動きするんか、みたいな。 あの人たちすごい純粋だと思う。わかりやすいですよね、誰と絆がある、みたいな。

excuse-2

―前回の『EXCUSE ME』とは違った出来栄えですね。

今回は、アートディレクターの大橋さんていう人のセレクションの仕方が勉強になりましたね。一枚の写真の見せ方がすごい勉強になった。 写真集ってチームプレイなんで一人じゃやれないんですよね。 なんかバンドなんですよね。 デザイナーの方と三人でくしゃくしゃになりながら作って、まあ、『EXCUSE ME』の時もアートディレクターの人最高だったんですけど。 そこでもやっぱりくしゃくしゃになる瞬間があってウーッてなりながら。 いい写真と悪い写真というのはお互いみんな違うし、現場に行ってみて無かった何かがある。 逆にチカーノにすごい詳しい人だったら偏って専門誌みたいになるところが、一枚の写真としてちゃんとしてくれる。今回頼んでよかったなって。

『EXCUSE ME』¥2,500+税(TOKIMEKIパブリッシング)

―今回の写真集は、チームプレイで完成したという事ですね。

写真集って自分だけのものじゃないから。もちろん映っている人たちの背景もあるし、作る側もね、やっぱり色んなものがあるし。


―個展についてもチームワークみたいな

いや、個展はほんとに自分の好きな写真をやるっていう感じですよね。

―どちらが好きですか?

僕は写真集とか本が面白いですね。 普段、喧嘩しながら何か作るってあまりないじゃないですか。かしこまったり、言いたいこと言わなかったりしますし。 アートディレクターの人もお金で動くような人達じゃないから、写真集はある意味仕事じゃないと思ってます。

―次回撮影の予定はありますか?

フィリピンに行きますよ。やっぱりフィリピンは落ちつくんです。 スモーキーマウンテンとか、フィリピンもう一度キチンとやろうと思って。 あとは、インドに行ってジプシーのサーカス団を撮りたい。 そういう人たちを追いかけに行こうと思ってるんですけど。 うまいこと金が入ってきたら。行く時って金がないんですよね。 そこまで、写真集もバーンと売れる感じじゃないから。 あんまり、商売に出来るもんじゃないじゃないですか。下手したら赤が出るみたいな。

―だったら雑誌の取材とかやってたほうが?

お金にはなるからいいんですけど。おもしろい人と一緒に仕事してアホなこと言い合って出来るんならいいんですけど。 なんか別にいい車乗りたいとか、いい家に住みたいからこういうことやってるわけじゃないしみたいな。今の所は。

―結構、バンバン仕事入ってきているイメージあるんですけど。

いや、いや、全く。いつも崖っぷちがけっぷちですよ、全く。

―名越さんにとって写真とはなんですか?

生き方って感じじゃないですかね。ちょっとカッコつけると。「なんちゃって」ですけどね。撮ったものが全部反映するわけじゃないですか。 発表する時、自分が、自分が、ていうのは好きじゃないけど、活動してきた経緯とか、一応、自分が生きてきた証になる、その場に居たっていうのは。 写真に全部残るし、やっぱり生き方なのかなって、調子にのると。

―影響うけた人は?

(あえて好きな人を挙げると)ジョセフ・クーデルカって写真家の人。マグナムのメンバーなんですけど。ジプシーを撮っている人ですね。 でも、写真よりも音楽の方が影響受け易くてね。


名越 啓介 (ナゴシ ケイスケ) プロフィール

1977年奈良県生まれ。大阪芸術大学卒業。1996年よりLAにてスクウォッター(不法占拠生活をするパンクスたち)との共同生活による撮影を開始。被写体のコミュニティに交わり、彼らの流儀の中で、寝食をともにし、最短距離で撮影する作品からは、他には見ない程のリアルな息づかいが感じとれる。世界中のストリートを色鮮やかに切り取った作品が好評を得て、2006年9月1日にアジアのパンクスやストリートギャングなどを撮影した初の写真集『EXCUSE ME』(トキメキパブリッシング刊)を発刊。現在も様々な分野において活動中。

キーワード:

写真家 / ギャラリー / 名越啓介 / カメラ


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