ラテンアメリカに魅せられ、それまでのエリート人生を捨て南米に渡った日本人がいた。その名も早田英志。1975年、コロンビアでエメラルド・カウボーイ(=エメラルド原石屋)として第一歩を踏み出した早田は、命にかかわる数々の危険や苦難を持ち前の頭脳と度胸で乗り越え、1994年にはエメラルドの公的取引所「コロンビア・エメラルドセンター」を設立。2001年には自身のエスメラルデーロ人生を描いた映画『エメラルド・カウボーイ』の製作・監督・主演を務め、日本公開のときには「こんな日本人がいたのか!」と大きな注目を集めた。
いまやエメラルド王となった早田が、この度、書籍『死なない限り問題はない』(東京キララ社)を刊行した。人生のテーマとする「サバイバル十ヵ条」をもとに、夢を失った現代日本人に冒険とチャレンジ、ロマンに溢れた人生を指南する。この発売にあわせて早田がコロンビアから来日、本について話を訊いた。
冒険は恋人。いまだに本当の恋に到達していない
── この度は『死なない限り問題はない』の発売おめでとうございます。この書籍はどのような経緯で出されることになったのですか?
2005年に日本で公開した映画『エメラルド・カウボーイ』のプロモーションの一環として、さまざまな場所でお客さんを前に話す機会があったんです。そのときの内容を配給会社の若い有志たちが要約して、「サバイバル十ヵ条」としてまとめてくれたんです。これをDVDの特典としてつけましょうということで。つまり、映画で言わんとすることを十ヵ条としてまとめたのがきっかけで、それを見た東京キララ社の中村社長や、僕の冒険哲学に共鳴してくれている人たちが、この十ヵ条で本を書いてくれませんかとおっしゃったんです。それで講演会で話した内容をもっと鮮明に、その現場現場で捉えた話を本にしたんです。
(写真)映画『エメラルド・カウボーイ』より
── そうなんですね。そのときに「サバイバル十ヵ条」が生まれたんですね。
波乱万丈の人生経験から出てきた、輝ける十ヵ条なわけです。難しく言うと人生訓ですね。よく言えば、どこの社会にも通じる人間社会の苦難を乗り越える手立て、切り口ですよ。
── 本は初めて書かれたんですか?
15年ほど前に出した本にも、生き方の信条、苦労を乗り越えるという内容を書いていました。つまり、「サバイバル・ノウハウ」。今回の本はその完結ですね。
── 本の中では蛭子能収さんと根本敬さんの漫画や、釣崎清隆さんの写真が掲載されていますが、彼らとはどのようにして出会ったのですか?
みんな僕の考えに同調してくれて、協力してくれている仲間です。この十ヵ条に賛成して同意してくれる人は仲間だと思っています。
僕が一番嫌いなのは守銭ですね。お金は誰でも生活のために必要だから当然。でも、お金をつくるのが目的、これは元禄以前の哀れさですね。だから、僕はチェ・ゲバラを一番尊敬しているんです。のちに大統領になりそうな連中がボリビアの田舎に行って、実現性のない革命を起こそうとする。これですよ。大贅沢や富には全然興味がありません。貧しい農村地帯に入って革命運動をやるわけ。革命運動自体が良い悪いは気にしません。冒険に価値を見出すんですよ。
運命共同体で戦えば、恋も生まれるし、仲間の連帯意識も生まれる。人間はグループで生活しますからね。グループの中でお互いの考えを認め合ってしたがっていく。蛭子さんは快楽主義だとかって言ってますけどね(笑)。博打が快楽。僕と彼は同世代なんですが、僕とはまったく対極で面白いと思っています。
冒険者・早田英志の雄叫び! ユーモアのある気さくな人柄だ
── 『死なない限り問題はない』という言葉は、タイトルにしてはかなり重みがあるというかインパクトがありますね。
本の中にも書いてるんですが、それが僕の生き方にピッタリ合ってるんです。ここに僕が言いたいことが集約されているんですよ。(と、唐突に読み始める)
<『死なない限り問題はない』第二章 冒険は最もこの世で甘美なもの>より
鉱山の満月が私に語りかけた。
「お前はこんなところまでやって来て何をしているんだ」
「…」
「今頃、東京にいたら、暖かいマンションの一室で家族団らんの楽しいひと時を過ごしていただろうに。何のため、そんな厳しい苦労をするんだ」
「快適な生活を送ることが俺の人生の目的じゃない。人生にはそれ以上のものがあるのだ」
「それ以上のものとは何だ。東京にいたら航空会社で出世が約束されていたではないか。末は日本支社長のイスまで可能性があったのに」
「まだやってみなきゃ分からない<人生の可能性>というものだ。俺は決まった箱の中で先の見えた道を歩くなんて性に合わないのだ」
(中略)
「生きている限り、起死回生、大逆転、大成功の可能性ありというわけか」
「当然だ、人生死なない限り問題なしだ!」
コロンビアでは簡単に殺られるわけですよ。だから、殺されないように。殺すことがあっても殺されないように。これが哲学ですね。結局、死んでしまえば何もできない。生きていれば、いろいろな可能性や希望がでてくる。苦しいときになったら、これを読んでほしい。
── タイトルがまさに早田さんの人生哲学なんですね。
そうですね。生きている限り恋がある(笑)。
── 恋、ですか?
みんな恋を探している。恋人のために働いて、恋人との時間をつくって。猛烈に恋をするんですよ。外国はそういう感じ。結論が単純ですよ。女性と見れば男性と見れば、みんな恋をしますよ(笑)。恋の仕方は外国人の方が上手でしょう。人間の歴史の中でそうなっている。そういう一番人間にとって幸せなことを、東洋の社会ではお見合いや政略結婚とか、つまらない形式で殺してきたんですね。これが東洋人種のサノバビッチ! 一番くだらない。人間の一番楽しくて幸せなエモーションをそういう政策的なことでつまらなくしている、このサノバビッチな東洋人種が僕は大嫌いです。
── 東洋人はある程度の年齢をいくと情熱を失う民族です。やはり儒教が関係しているのでしょうか。
儒教はそうですね。西洋人は恋のために生きていると言うと大げさですが、東洋人と恋の位置づけが全然違いますね。西洋人は金がなくてもだましてでも、好きな相手を手に入れる。日本人の男性はある程度計画性があって、君の事は気に入ってるけど出世しなきゃ、用意しなきゃと。そんな仕込みをしている間にとられちゃうんですよ。そんなこと関係なしにバーッといって、「あなたが好きだから、あなたのために出世するから」と、出世は後のことでいいんですよ。でも日本人は律儀ですからね。
なにも色恋だけじゃないですよ。僕の恋は冒険ですから。冒険が恋人です。本の巻頭に書いてあるように、「私の人生は挑戦の連続。まさしく冒険という酒に酔いしれてきたヨッパライの人生みたいなものだ」。冒険にほれまくって、恋をして。本当の恋には、いまだ到達していない。いまだに口説ききれていないわけですよ(笑)。
冒険の行き着くところは革命。学生運動を仕掛けたい
── どちらかと言えば、若い人に向けて書かれていますよね。
そう。むしろ若い人の感情にピッタリかもしれないですね。冒険というか、なにかに挑戦することとかね。
── 昨今の日本の若者についてはどう思われますか?
自分が可能性のあることはきちんと計画をたててやろうとしますよね。でも、手の届かないことには挑戦しない。昔であれば、満州にいって馬族になってやろうという人がいっぱいいましたけどね。今みたいに何でもある時代だと、必要ないじゃないですか。だから、目標がないんですよ。
── 冒険をしようとする若者が最近はいないということですね。
動機がないからですよ。冒険はお金を得るとかそういうことではない。でも、この日本はお金で成功することに対して、みんながもてはやすでしょう。その道しかないんですよね。外国では、お金をつくることを目標、美徳とするのは一番軽蔑されるんですよ。「あなたの夢は?」と聞かれて、「お金をつくること」というと誰も口をきかない。お金作ることが目標というのが当たり前なのはサノバビッチな日本だけですよ。
── コロンビアの若者はどんな感じなんですか?
コロンビアの若者は貧しいから、泥棒しても襲っても何をやってもいいからお金をつくりたい。それは日本と同じです。ただし、女の子とデートしたりだとか、お金をつくった後の楽しいことが目的なんですよ。日本の場合、世の中お金をつくることが成功という価値観になっているから、それが間違いなんです。コロンビアの貧しい若者は、お金がほしいなんていう奴は最低だというのを知っていながらも言うわけですよ。俺は貧しいけど、悪いことしてでもお金がほしい、それでかわいい女の子と遊びたいっていう、そういう連続。でも、お金で成功したい、尊敬されたいという、もっと低俗な日本の目標よりはまだいいですよね。はっきりしてるから。日本人はそれに気づいてないわけですよ。お金を作ることが成功なんて、元禄時代に戻ってるわけ。元禄時代の町人はみっともない、金を得ることだけが目標で、武士道なんてもってのほか、人間性もない。だから、ゲスの町人だって蔑まれた。それが今の日本にある。
── いまではエメラルド王となった早田さんですが、今後の目標や夢はありますか?
冒険の行き着くところは革命ですよね。金持ちの子供は土地があるのに、貧乏人の子供には自分の座るスペースすらない。最初から全部決まってしまっている、がんじがらめで。まだコロンビアには土地がいっぱいあるから、山に入って自分の場所は確保できますからね。日本は貧乏だったら居場所もない。でも金持ちは全部あるんです。ふと東京中の建物を全部ぶち壊したいと思うことがありますよ。生まれてきたらみんな裸で、みんな平等の地位でスタートする。それが究極の私の目標です。今言ったことは理想的な社会主義の思想で、実際は難しいですけどね。
若者を先導して、「お前ら、悪徳資本主義階級をぶっとばしたいか」と運動を起こしたいんですよ。アナーキストじゃなく、理想主義者なわけです。冒険者はロマンチストですからね。究極の結論は、アナーキズムでもなければ共産主義でもなく、貧しい人に同調してるだけでなくて、社会主義…でも社会主義には夢はないでしょ、自由がないですからね。だから結局、矛盾してるわけですよ。冒険者も。だから冒険者の最後は悲惨でしょ、西郷隆盛にしてもゲバラにしても。冒険者はロマンチストにしかすぎないわけですよ。
── この本をどんな人に読んでほしいですか?
若くして迷える人とか信念がない人とか、まだ自分が固まってない人とか、ロマンチストとか、世の中を変えたい奴とか、ハレンチな奴とか、劣等な奴とか。結局、誰にでも読んでもらいたい。読んでもらいたくない人間は、一線を画して、東大にいって官僚主義に染まって、この日本のシステムにのっかって、あぐらをかいて、退職金を大量にもらおうとする官僚ゲス野朗とか、親の作った企業にのっかるバカ息子ども。こういう連中以外に読んでほしい。だから、世の中の害虫以外の人に読んでほしい。サノバビッチ以外です。
そして、僕は賛同者を集めて学生運動を立ち上げたいんですね。学生、若者だけが純粋ですから、日本が再び学生に力を与え、社会を改革すべき行動にでてもらいたいわけです。だから学生運動の仕掛け屋になりたいと思っています。これからは若い人にしか期待できないですからね。
(取材・文:牧智美/協力:東京キララ社)
■早田英志(はやた・えいし)PROFILE
1940年埼玉県熊谷市生まれ。東京教育大学農村経済学(現・筑波大学)を卒業後、渡米。ノースウエスト航空、パンアメリカン航空でラインメカニックとして勤務するも、会社という狭い世界で生きることに疑問を持ち退社。コスタリカ国立大学医学部に入学。ラテンアメリカに魅せられ大学を中退し、バーレストラン、コーヒー農園、不動産業を経てエメラルド原石業をスタート。1994年にはエメラルド鉱山、警備会社を擁するエメラルドの公的取引所「コロンビア・エメラルドセンター」を設立。偽エメラルド排除に貢献する。2001年、自身のエスメラルデーロ人生を描いた映画『エメラルド・カウボーイ』を製作。この作品はアメリカ、コロンビアの興行を経て、2005年日本でも公開され話題となった。現在は、本業の傍ら執筆活動や講演会を積極的におこなうなど、新たなことに挑み続けている。今秋には、初の私小説を新潮社より発売する予定。
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エリートの道を捨てコロンビアに渡ったエメラルド王、早田英志の人生哲学「サバイバル十ヵ条」。夢を失った現代日本人に冒険とチャレンジに溢れる人生を指南する。
著者:早田英志
巻頭写真:釣崎清隆
漫画:根本敬、蛭子能収
発行:東京キララ社
発売:河出書房新社
価格:1,890円(税込)
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戦場にも似た過酷なコロンビアのエメラルド原野で、サバイバルゲームを生き抜いてきた男、早田英志の生き様を描いた映画。本人が監督・主演をこなし、そのあまりにも波乱万丈な人生に話題を集めた。
製作総指揮・監督・脚本:早田英志
制作・監督・編集:アンドリュー・モリーナ
キャスト:早田英志、ルイス・ベラスコ、パトリシア・ハヤタ、他
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