音楽評論家の萩原健太氏より、本作へのコメントが寄せられた。1999年6月にニューヨークへ出かけたときに、たまたまレス・ポールのライブを見たときの話である。
「開演前、店がある地下へ向かう階段に並んで、順番に予約を確認しつつ店内へ。50人ほどで一杯になってしまいそうなこぢんまりした客席に案内され、飲み物などをオーダーして開演を待つ。たまたまその夜はレス・ポールの誕生週に当たっていたため、店内にはバースデイ気分満載の飾り付けが……。誕生日を祝って駆けつけたカサンドラ・ウィルソンや、彼女のバンド・メンバーたちの顔も見える。いつの間にか満席になった観客の年齢層はさすがに高いけれど、誰もが子供のように目を輝かせながら主役の登場を待っていた。知らない者どうし、目を見交わしては「楽しみっすね」って感じで微笑み合っちゃったり……(笑)。
(写真)キース・リチャーズとレス・ポールのセッション風景
と、そんな中、ステージ上にトリオの面々が登場。御大レス・ポールもさっそうと姿を現し、愛機レスポール・レコーディングを抱えて椅子に腰をもたらせ、演奏がスタート。その瞬間、おじいちゃんの老後のゆったりしたプレイを楽しむつもりで座っていたぼくは、いきなりとてつもない一撃を食らった気分になった。耳がそばだった。最初の数フレーズでノックアウトされた。それまでレコードやCDで聞き続けてきたレス・ポールの深く、優しく、切なく、ウィットに富んだ凄腕プレイそのものがぼくの耳めがけて飛び込んできたのだった。あの一瞬の衝撃は忘れられない。
もちろん、往年のスピード感や押しの強さは影をひそめていたけれど。豊かな歌心はばっちり健在。そして何よりも、音だ。トーン。誰にも真似できないレス・ポールならではのギターのまろやかな音色がぼくの涙腺を思い切り刺激した。本物だ。本物の音楽家が、真の伝説が、今ぼくの目の前で生で演奏してくれている。泣けてきた。演奏だけでなく、トークのほうも絶好調。ベーシストが一所懸命ソロをとっている間じゅう、目の前のお客さんとくっだらない会話を交わしてげらげら笑って。しばらくしてから、ずっとソロを弾き続けていたベーシストのほうを向いて「あ、まだ弾いてたのか!」とびっくりしてみせる、みたいなおきまりのギャグも炸裂。下ネタも連発。ゲスト出演したカサンドラ・ウィルソンのバンドのギタリストがストラトキャスターを持っているのをめざとく発見して、やれやれとばかり首を振りながら「フェンダーか……。安物だな」と、大御所にしか言えない毒舌を繰り出してみたり。
その後もひょうひょうとギターを弾きまくり、誕生日ケーキのセレモニーも思い切り楽しみ、と思ったら突然「眠くなった。もう帰る」とひとこと(笑)。ギターをその場に置き去りにして客席へ。通路でうれしそうに観客に手を振って、退場。とことん自由な老人力全開の一夜だった。繰り返しになるが、当時すでにレスは80歳代。この機会を逃したらもう見ることができないかも……とイリジウムに出かけたぼくだったけれど。今回こうして日本公開された映像ドキュメンタリー『レス・ポールの伝説』を見ると、あれから10年を経た今もなお、当時と何ひとつ変わらずにレス・ポールは大好きな店で、大好きなギターを、アット・ホームな観客の前でひょうひょうとプレイし続けているのだった。すごいじいさんですよ、まったく」
(萩原健太/『レス・ポールの伝説』パンフレットより抜粋)
他、多くのミュージシャンの方からコメントが寄せられた。
レス・ポール氏の功績の大きさを改めて感じた。レコーディングスタジオに神棚を設けて、たてまつってもいいぐらいの人物だ。そういうタイプの人ではなさそうですが。あなたが音楽好きを自認するのであれば観るべし!です。
●堀込高樹(キリンジ/ミュージシャン)
必要は発明の母!好奇心はレスポールの父!ギタリストを目指してたら発明家になっちゃったり、エレキを開発してたらB.B.キングやキース・リチャーズら伝説レベルの人達に神格化されちゃったり… どんな紆余曲折があっても「最高のギターで最高の曲をプレイする」信念にブレがない、まさにミュージシャンの鑑…人生のゴールに迷っている皆様エンダァ奥 様は…必見ドS!
●ヒダカトオル(BEAT CRUSADERS)
僕のオヤジはレス・ポールが大好きだ。彼のテーマ曲は「It's Been a Long, Long Time」、そしてギターはもちろん「Les Paul Gold Top」。そんなオヤジの息子の僕は、レス・ポールの音が全ての音楽形成の基礎なのかもしれない。と、いうか。そもそもレス・ポールの恩恵を受けてない音楽家なんて今は絶対にいない。オヤジなミュージシャンもコドモのミュージシャンも、みんなレス・ポールの「子供」です。
●ミト(クラムボン)
過去を遡れば、ジャンゴ・ラインハルト、チェット・アトキンス等々、ギターの神様は色々おられます。けれど、現役続行の生神様は彼一人。だから、彼の音楽の中には、いつも「微笑み」という御利益があるのです。
●ゴンザレス三上(ゴンチチ/ミュージシャン)
ギターのレスポールは素晴らしい!ギタリストのレス・ポールはもっと素晴らしい!さらに!もっともっと素晴らしいのは、彼が今だ現役だからである。奇跡や伝説を越えた存在…音の革命者のすべてがここにあった!
●高見沢俊彦(THE ALFEE/ミュージシャン)
『レス・ポールの伝説』8月23日(土)よりアップリンクXにてロードショー
監督・撮影・編集:ジョン・ポールソン
出演:レス・ポール、キース・リチャーズ、ジェフ・ベック、ポール・マッカートニー、エディ・ヴァン・ヘイレン、B.B.キング、トニー・ベネット、スティーブ・ミラー、ボニー・レイット、マール・ハガード、他
2007年/アメリカ/90分
配給:ポニーキャニオン、アップリンク