骰子の眼

cinema

東京都 ------

2008-08-14 15:35


伝説だけで終わらないレス・ポールの実績と人生の素晴らしさ『レス・ポールの伝説』クロスレビュー

世界中のミュージシャンに愛され続けるエレキギター「レスポール」の生みの親、レス・ポールの人生に密着したドキュメンタリー、8月23日(土)より公開!
伝説だけで終わらないレス・ポールの実績と人生の素晴らしさ『レス・ポールの伝説』クロスレビュー

音楽評論家の萩原健太氏より、本作へのコメントが寄せられた。1999年6月にニューヨークへ出かけたときに、たまたまレス・ポールのライブを見たときの話である。

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「開演前、店がある地下へ向かう階段に並んで、順番に予約を確認しつつ店内へ。50人ほどで一杯になってしまいそうなこぢんまりした客席に案内され、飲み物などをオーダーして開演を待つ。たまたまその夜はレス・ポールの誕生週に当たっていたため、店内にはバースデイ気分満載の飾り付けが……。誕生日を祝って駆けつけたカサンドラ・ウィルソンや、彼女のバンド・メンバーたちの顔も見える。いつの間にか満席になった観客の年齢層はさすがに高いけれど、誰もが子供のように目を輝かせながら主役の登場を待っていた。知らない者どうし、目を見交わしては「楽しみっすね」って感じで微笑み合っちゃったり……(笑)。

(写真)キース・リチャーズとレス・ポールのセッション風景

と、そんな中、ステージ上にトリオの面々が登場。御大レス・ポールもさっそうと姿を現し、愛機レスポール・レコーディングを抱えて椅子に腰をもたらせ、演奏がスタート。その瞬間、おじいちゃんの老後のゆったりしたプレイを楽しむつもりで座っていたぼくは、いきなりとてつもない一撃を食らった気分になった。耳がそばだった。最初の数フレーズでノックアウトされた。それまでレコードやCDで聞き続けてきたレス・ポールの深く、優しく、切なく、ウィットに富んだ凄腕プレイそのものがぼくの耳めがけて飛び込んできたのだった。あの一瞬の衝撃は忘れられない。

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もちろん、往年のスピード感や押しの強さは影をひそめていたけれど。豊かな歌心はばっちり健在。そして何よりも、音だ。トーン。誰にも真似できないレス・ポールならではのギターのまろやかな音色がぼくの涙腺を思い切り刺激した。本物だ。本物の音楽家が、真の伝説が、今ぼくの目の前で生で演奏してくれている。泣けてきた。演奏だけでなく、トークのほうも絶好調。ベーシストが一所懸命ソロをとっている間じゅう、目の前のお客さんとくっだらない会話を交わしてげらげら笑って。しばらくしてから、ずっとソロを弾き続けていたベーシストのほうを向いて「あ、まだ弾いてたのか!」とびっくりしてみせる、みたいなおきまりのギャグも炸裂。下ネタも連発。ゲスト出演したカサンドラ・ウィルソンのバンドのギタリストがストラトキャスターを持っているのをめざとく発見して、やれやれとばかり首を振りながら「フェンダーか……。安物だな」と、大御所にしか言えない毒舌を繰り出してみたり。


その後もひょうひょうとギターを弾きまくり、誕生日ケーキのセレモニーも思い切り楽しみ、と思ったら突然「眠くなった。もう帰る」とひとこと(笑)。ギターをその場に置き去りにして客席へ。通路でうれしそうに観客に手を振って、退場。とことん自由な老人力全開の一夜だった。繰り返しになるが、当時すでにレスは80歳代。この機会を逃したらもう見ることができないかも……とイリジウムに出かけたぼくだったけれど。今回こうして日本公開された映像ドキュメンタリー『レス・ポールの伝説』を見ると、あれから10年を経た今もなお、当時と何ひとつ変わらずにレス・ポールは大好きな店で、大好きなギターを、アット・ホームな観客の前でひょうひょうとプレイし続けているのだった。すごいじいさんですよ、まったく」

(萩原健太/『レス・ポールの伝説』パンフレットより抜粋)


他、多くのミュージシャンの方からコメントが寄せられた。

レス・ポール氏の功績の大きさを改めて感じた。レコーディングスタジオに神棚を設けて、たてまつってもいいぐらいの人物だ。そういうタイプの人ではなさそうですが。あなたが音楽好きを自認するのであれば観るべし!です。
●堀込高樹(キリンジ/ミュージシャン)

必要は発明の母!好奇心はレスポールの父!ギタリストを目指してたら発明家になっちゃったり、エレキを開発してたらB.B.キングやキース・リチャーズら伝説レベルの人達に神格化されちゃったり… どんな紆余曲折があっても「最高のギターで最高の曲をプレイする」信念にブレがない、まさにミュージシャンの鑑…人生のゴールに迷っている皆様エンダァ奥 様は…必見ドS!
●ヒダカトオル(BEAT CRUSADERS)

僕のオヤジはレス・ポールが大好きだ。彼のテーマ曲は「It's Been a Long, Long Time」、そしてギターはもちろん「Les Paul Gold Top」。そんなオヤジの息子の僕は、レス・ポールの音が全ての音楽形成の基礎なのかもしれない。と、いうか。そもそもレス・ポールの恩恵を受けてない音楽家なんて今は絶対にいない。オヤジなミュージシャンもコドモのミュージシャンも、みんなレス・ポールの「子供」です。
●ミト(クラムボン)

過去を遡れば、ジャンゴ・ラインハルト、チェット・アトキンス等々、ギターの神様は色々おられます。けれど、現役続行の生神様は彼一人。だから、彼の音楽の中には、いつも「微笑み」という御利益があるのです。
●ゴンザレス三上(ゴンチチ/ミュージシャン)

ギターのレスポールは素晴らしい!ギタリストのレス・ポールはもっと素晴らしい!さらに!もっともっと素晴らしいのは、彼が今だ現役だからである。奇跡や伝説を越えた存在…音の革命者のすべてがここにあった!
●高見沢俊彦(THE ALFEE/ミュージシャン)


『レス・ポールの伝説』8月23日(土)よりアップリンクXにてロードショー

監督・撮影・編集:ジョン・ポールソン
出演:レス・ポール、キース・リチャーズ、ジェフ・ベック、ポール・マッカートニー、エディ・ヴァン・ヘイレン、B.B.キング、トニー・ベネット、スティーブ・ミラー、ボニー・レイット、マール・ハガード、他
2007年/アメリカ/90分
配給:ポニーキャニオン、アップリンク


レビュー(5)


  • 小原かおりさんのレビュー   2008-08-05 22:48

    音楽を聴く映画

    すごく古い曲から少し古い曲までずっと音楽が流れています。バック映画としてじゃまにならない、真剣に見なくても楽しい映画です。もとろん音楽好きは夢中になるでしょう。   続きを読む

  • 小原昌浩さんのレビュー   2008-08-05 23:44

    レス・ポールの伝説

    映画を見るまではレスポールという人は、知りませんでした。 生涯現役といったところでしょうか? 日本人で言うと「田端義男」か「寺内タケシ」!  続きを読む

  • takeさんのレビュー   2008-08-08 02:13

    :『レス・ポールの伝説』レビュー

    ギターに興味がない人でもおそらく名前は聞いたことがあるであろうギブソンのレスポール だが、それが元々は製作者の名前で、それがどんな人なのかを知っている人は あまりいないのではないだろうか。 ギターを趣味としている私自身も、レスポールが創...  続きを読む

  • 山中英寛さんのレビュー   2008-08-08 04:47

    人生、それが伝説なり

     ギターで有名なレス・ポールのドキュメンタリー、という興味をそそられる映画だったことがきっかけで、試写を拝見することができたが、見終わったあと、自分の知識の無さを恥じ入るばかりとなった。  現在は、多重録音、オーバーダビングなど、シンセとパソコ...  続きを読む

  • 町田愼也さんのレビュー   2008-09-22 06:38

    ハートウォームなポールの人間味に、なんだか元気があふれてくる映画でした。

    レス・ポールはギターの名前と思っている人が多いようですが、実は実在する人物なのです。 エリック・クラプトンやキース・リチャーズ、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、スラッシュ、エドワード・ヴァン・ヘイレン… 名だたるミュージシャンたちに愛用され、エレキ...  続きを読む

コメント(1)


  • 町田愼也   2008-09-22 06:35

    レス・ポールはギターの名前と思っている人が多いようですが、実は実在する人物なのです。
    エリック・クラプトンやキース・リチャーズ、ジミー・ペイジ、ジェフ・ベック、スラッシュ、エドワード・ヴァン・ヘイレン… 名だたるミュージシャンたちに愛用され、エレキ・ギターの代名詞となった「レスポール」の産みの親なのです。、

     彼は元々がギタリストであり、現在までに50枚のシングルと35枚のアルバムを出している。今までに5度グラミー賞を受賞しているほか、 1988年には、後世のロックアーティストに影響を与えた人物に贈られる、ロックの殿堂のアーリー・インフルエンス部門に殿堂入りしている。累計すると合計3千万枚以上のレコードセールスを記録している。

     また、ソリッドボディのエレキギターの原型を製作した発明家としても有名です。自宅に録音スタジオを建設し、様々な発明をしています。
     レコードのカッティングマシーンを自作したり、多重録音を可能にしたり、アナログディレイマシンの原型を発明。オーバーダビング(多重録音)は現在のレコーディングには欠かせない方法であり、この近代レコーディングの礎ともいえる技術や方法を発明・開発した先駆者である。8トラック・テープレコーダーやギブソン・レスポールの功労により、ミュージシャンとして唯一「発明家の殿堂」入りを果たしています。

     但し小地蔵は、アメリカンオールディズやポップスに関しては疎いし、レス・ポールを語れば切りがないほどの文字数を必要となります。

     そこで映画に絞って、感想を述べます。
     
     ジョン・ポールソン監督は、レジェンドと化したポールの映画を作るとき、まず多彩な活動分野と長い音楽活動実績をどうやって90分に納めるのか悩んだそうです。
     そこで思い切って、伝記の部分よりも彼のいまの人間味にポイントを置いています。冒頭から、独自の毒舌や特に下ネタまで使って、スタッフをからかい、オーディエンスを爆笑の渦に巻き込む、お茶目なおじいちゃんとしてのポールの人柄が浮かび上がります。
     そこには決して伝説でなく、93歳を現役として生きる一人の人間の生き様が浮かんできて、とても親しみを感じました。

     ポールは93歳のいまでもニューヨークのJAZZクラブで毎週月曜日にステージにあがっているのです。ラストに感動したポールの言葉に、みんなが喜んでくれるために演奏しているのだと語ります。その喜びのため、JAZZクラブのステージに立つようになったこの25年間は、ほとんどノーギャラに近い条件で演奏し続けてきたそうです。ポールにとってJAZZクラブのステージは、自分のセラピーだというのです。決して人のためとは言わず自分のために演奏しているというところがかっこいいし、素敵だと思いました。

     ポールにとって、このステージに立つ前の1960年代は人生最悪の時期でした。ロックンロールの台頭とともに人気の低迷。デュオパートナーであり、最愛の妻メリー・フォードとの仲も上手くいかなくなり離婚してしまったのもこの頃です。
     一時は引退も表明しました。さらに70年には、友人の悪戯により耳の鼓膜が破れ、治療に3年を要したのです。

     それでもポールを現役復帰させたのは、音楽の喜びを多くの人々と分かち合いたいという彼なりの人間愛があったからでしょう。
     以来、純粋に音楽を楽しむためだけにステージに上がり続けている姿を本作では、生き生きと伝えてくれました。
     音楽のことはよくわからないけれど、画面で見るポールの生き生きとした姿を見て、なんて素敵な93歳なのだろう。自分ももし年老いても、夢も捨てずにポールのように自分が天命と思う仕事に現役として打ち込みたいものだと思いました。ポールが元気なだけに、お手本としてね、まぁ人生まだまだこれから充分に花開かせのだという勇気がわき上がってきますね。なんだか元気があふれてくる映画でした。

     伝記パートでは、ポールの精神力のすごさに触れることが出来ました。
     40年代に売れ出した直後、ホールは交通事故であわや右腕を切断かという大怪我を負います。けれども彼は右腕の不自由さをバネとして世界初のオーバーダビングレコーディングを開発。ギターリード・パートを除いた全てをレコーディングしリリースするという離れ業を見せたのでした。
     天才とは、自分の人生に決して言い訳しないで、創意工夫で道を自力で切り開いていくものなのですね。

     最後に音楽についても触れておきます。ポールの曲は、中には聞き慣れた曲も混じっていましたが、この作品で初めて聴きたのが多かったです。でも全然古さを感じさせず、親しみ安かったです。どの曲も音響的にチューニングされていて、音質が抜群によかったからかもしれません。またこの湿ったの夏のじとじとにポールのリードギターが心地よく響いたのかもしれません。
     でもポールの曲の魅力はポール自身にあるのだろうと思えました。エレキギターも達人が演奏すれば、とても円やかに、漂うような空気感を醸し出すものです。
     彼は、ギターの弦を響かせて、聴衆の鼓膜だけでなく、きっとハートまでウォーミングに振動させているから、気持ちよくなれるのだろうではないでしょうか。
     
     ぜひ皆さんも、この作品でポール爺さんの演奏に触れてみてください。きっと心地よくなれますよ。

     冒頭キース・リチャーズがポールとセッションします。ローリング・ストーンズのファンの人も必見ですね。