映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』ジャスティン・カーゼル監督© PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019
イギリス最高の文学賞ブッカー賞を受賞した小説を原作に、19世紀のオーストラリアで権力と差別に立ち向った伝説の英雄を描く映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』が6月18日(金)より公開。webDICEではジャスティン・カーゼル監督のインタビューを掲載する。『1917 命をかけた伝令』のジョージ・マッケイが主人公のネッド・ケリーを演じ、ラッセル・クロウ、ニコラス・ホルト、チャーリー・ハナム、そしてニック・ケイヴの息子アール・ケイヴら豪華キャストが名を連ねている。カーゼル監督はケリー・ギャングたちの絆をバンドに見立て、メンバーに扮した俳優陣は、役作りのためにパンクバンドFLESHLIGHTを結成して役作りに挑み、彼らの演奏した楽曲もエンドクレジットで使用されている。
「仲間意識を手っ取り早く築くには、バンドかオーストラリアン・フットボールだと思い、ギャング役の4人にバンドを組ませました。バンドを組めば絆が生まれるという、自分の経験にも基づいてます」(ジャスティン・カーゼル監督)
純粋で無垢な少年が反逆者になっていく過程を描く
──ネッド・ケリーは英雄と言われる一方で、反逆者とも言われますが、監督にとって、ネッド・ケリーとはどんな存在ですか?
ネッド・ケリーは、私にとって謎に満ちている存在です。だから深堀して理解を深めたかったのです。なぜ、あんな子供が大物になったのか。彼の何が彼たらしめたのか。彼がオーストラリアの歴史の一部となるような存在として何を秘めていたのか、知りたいと思いました。
映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』ジャスティン・カーゼル監督© PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019
──そんなネッド・ケリーをこれまでの映画とは違う、一人の悩める青年として描いた本作は、オーストラリアでは公開時、どのような反応でしたか?
様々な異なる反応がありました。神話のようなアイコンであるネッド・ケリーのイメージがあり、その生涯を輝かしいと思う人が、更にこの映画でそう思えたという人もいれば、今まで真実と思っていたものと違うと怒る人もいました。ただ若い世代は自分に身近な存在だと感じる人が特に多かったようです。オーストラリア人の象徴がより身近になったという意見もあり、本当に多様な反応でした。
──長い原作を映画化するにあたって工夫したことはありますか?原作のどの部分に特に惹かれましたか?
本のすべてを活かすのは不可能なので、理解を深めた上で何を取捨選択するかということです。脚本家のショーンと話したのは、ネッドは運命から逃れようともがくが、暴力的な人生から逃れることはできなかった、そしてこの人物がどんな進化・発展を遂げるのか、ということです。だからチャプタ-を「少年」「男」「モニター艦」と分け、一人の人間がどう変革していくのかを描きました。純粋で無垢な少年が、周りが期待するような反逆者になってしまったのです。
映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』© PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019
バンドを組めば絆が生まれる
──「真実の歴史(トゥルー・ヒストリー)」というタイトルなのに、冒頭の「この物語に真実は含まれていない」という言葉で、観客は混乱しながら映画を観始めることになります。その意図を教えていただけますか?
混乱させようとしているわけではなくて、ただ通常は「現実に基づいた~」と出てきますが、監督や脚本家が書いたものであればその視点が入ってくるので、ドラマ化された時点でそれは真実ではないでしょう。本作の映像では「この物語に真実は含まれていない」が出て他の文字が消えた後に「真実」の文字が残ります。誰もその場にいたわけではないので、誰も知らないのです。オーストラリアではネッド・ケリーに関して様々な考察が書かれています。なので、この映画は「真実」という言葉を弄ぶストーリーで、ネッドが自分の歴史は他人に盗まれるので娘に残すために書く物語です。
映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』© PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019
──本編の画角についてですが、徐々に上下の黒みが広がって、画面が小さくなっていきますね。その演出の意図、心情反映を教えていただけますか?
これは撮影監督のアイデアなのですが、終盤に向けてネッドが追い詰められていって、ヘルメットの目の隙間から見える彼の視野で観客も観るようにそうしました。だんだん狭くなって閉所に追い込まれたような感覚になるように。
──映像がどのシーンもとても美しいですが、監督のいちばん好きなシーンを教えてください。そして、いちばん大変だった撮影はどのシーンですか?
いちばん大変だったのは、雪の中でドレスを着たギャングたちのシーンでした。本当に吹雪いてしまい、本来2日かけて撮るはずだったのを30分で撮らなくてはいけませんでした。印象に残っているシーンは、グレンローワン*でジョージ演じるネッドに、手記を書く手助けをしようと教師が申し出る場面で、ジョージがまるで何かに取り付かれたように別人に変化をとげ、私は鳥肌が立ちました。
*メルボルンから184km北東に位置する小さな町。ネッド・ケリー最後の地として有名。
映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』© PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019
──撮影地は実際にネッド・ケリーの痕跡を辿って撮影されたのでしょうか?
家が建っていた場所や、雪が降っている場所は最後の戦いの地グレンローワンで、馬が走っているシーンなども、ヴィクトリア州各地の実際の場所で撮影しています。
──役作りのためにバンドを結成させるというのはとても斬新な手法です。その発想はどこから生まれたのでしょうか?
仲間意識を手っ取り早く築くには、バンドかオーストラリアン・フットボールだと思い、ギャング役の4人にバンドを組ませました。バンドを組めば絆が生まれるという、自分の経験にも基づいてます。
──ネッド・ケリー役のジョージ・マッケイが本当に素晴らしかったです。家族思いの青年が反逆者へと変貌していく過程を繊細に演じていました。ジョージを起用した決め手は何でしたか?
元々は優しくて善の部分を持っている人物が、段々にモンスターになり、鉄のヘルメットをかぶって両手に銃を持つまで変革するまでを演じられる人、元々の善の本質を持っていることが決め手でした。描きたかったのは、人がどうやって腐敗していくか、元々持っていた美しい資質が暴力によって歪められるかということで、それを演じ切れるということ。そして物語の最後の方では、ジョージ自身の危ない側面も見せてくれた。それは役になりきっていたからだと思います。
映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』© PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION, ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019
──ネッドとフィッツパトリックは時代が違えば親友になっていたかもしれないくらい惹かれあっているように見えました。彼らの関係性はとても複雑だと思いますが、彼らを演じるジョージ・マッケイとニコラス・ホルトのコンビネーションは、監督から見ていかがでしたか?
まさにその通り、違う時代、違う場所であれば、彼らは親友になれたでしょう。お互いに尊敬の気持ちがあり、カリスマ性があったので、惹かれあっていたし、一緒にいて楽しい相手でした。でも警察と犯罪者でした。それが運命でもあるのですが、実はあの時代は、警察と犯罪者にはたいした違いはなく、線引きがあいまいな時代でした。
ジョージとニコラスに関して言うと、年が近く、野望ととてつもない才能を持っていて、そして俳優として旬で頂点を極めようとしている2人ですから、監督としてこの才能ある2人と仕事ができるのは光栄なことです。野望を持ちつつも、変なライバル関係になるのではなく、役に集中して、お互いにどうしたらベストの演技ができるのか、高め合ってくれました。
(オフィシャルインタビューより 通訳:松下由美)
ジャスティン・カーゼル(Justin Kurzel)
1974年8月3日オーストラリア・サウスオーストラリア生まれ。オーストラリアで舞台デザイナーとしても活躍し、その経歴は監督としての力強いビジュアルやストーリーテリングに活かされている。メルボルン大学の最も権威ある映画学校VCA Film & Televisionを卒業後制作した短編映画『Blue Tongue』がカンヌ国際映画祭の国際批評家週間や、ニューヨーク映画祭など、13以上の国際映画祭で上映され、メルボルン国際映画祭で最優秀短編賞を受賞。初の長編映画『スノータウン』(2011)はアデレード映画祭でプレミア上映され観客賞を受賞。更に豪アカデミー賞で最優秀監督賞を受賞し、トロント映画祭、カンヌ国際批評家週間で上映され、大統領特別功労賞と批評家週間賞を受賞。その後ヨーロッパでマイケル・ファスベンダーとマリオン・コティヤールをキャストに迎え『マクベス』(2015)を監督し、カンヌ国際映画祭パルムドールにノミネートされた。翌年には、ハリウッドで同じくマイケル・ファスベンダーとマリオン・コティヤールに加えジェレミー・アイアンズ、シャーロット・ランプリングという豪華キャストで『アサシン クリード』(2016)を監督。本作で豪アカデミー賞監督賞にノミネート。
映画『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』
6月18日(金)より渋谷ホワイトシネクイント、新宿シネマカリテほか全国順次公開
監督・製作:ジャスティン・カーゼル
脚本:ショーン・グラント
原作:ピーター・ケアリー「ケリー・ギャングの真実の歴史」
製作:リズ・ワッツ、ハル・ヴォーゲル
撮影:アリ・ウェグナー
音楽:ジェド・カーゼル
編集:ニック・フェントン
プロダクションデザイン:カレン・マーフィ
出演:ジョージ・マッケイ、ニコラス・ホルト、ラッセル・クロウ、チャーリー・ハナム、エシー・デイヴィス、ショーン・キーナン、アール・ケイヴ、トーマシン・マッケンジー
2019年/オーストラリア=イギリス=フランス/英語/125分/ビスタサイズ
原題:True History of the Kelly Gang
配給:アット エンタテインメント
後援:オーストラリア大使館