骰子の眼

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東京都 渋谷区

2021-04-07 19:30


テーマよりも誰かの記憶に触る画を作っていきたい『三月のライオン』矢崎仁司監督語る

熱狂的に支持された伝説の名作 デジタル・リマスター版にて公開中
テーマよりも誰かの記憶に触る画を作っていきたい『三月のライオン』矢崎仁司監督語る
『三月のライオン』© Film bandets

矢崎仁司監督の92年の作品『三月のライオン』がデジタルリマスター版にて劇場公開中。webDICEでは公開初週にアップリンク渋谷・吉祥寺・京都で実施された矢崎仁司監督のオンライン舞台挨拶の模様を掲載する。

映画評論家トニー・レインズに「ジャン・コクトーの『恐るべき子供たち』以来の、近親相姦を描いた秀作」と言わしめた本作品は、1991年のベルリン国際映画祭出品を皮切りに、メルボルン、バンクーバー、ロンドン、ロッテルダム、ヨーテボリ、ヘルシンキなど世界各国の映画祭で話題を呼び、92年にはベルギー王室主催ルイス・ブニュエル「黄金時代」賞を受賞。日本公開時には10代の若者たちの熱狂的な支持を受け何度も見返す観客が続出した。


「描きたいシーンは、基本的に全カットです。説明のためのカットは全部切って、僕が好きなカットだけでもう一本映画を作るって感じです。皆さんに感じてもらうために映画を作っているんで、あるテーマを掲げて、それを正しいと信じて疑わずに表現するということが僕は本当に嫌なので。光景って言うんですかね、誰かの記憶に触る画を作っていきたいなと思っています」(矢崎仁司監督)


すごくカラカラ乾いた映画

【なぜこの映画を作ろうとしたのか?そのとき心に抱いていたことは?】

『風たちの午後』という映画で、女性同士の愛を描きました。それで次の作品では兄妹の愛を描こうと思いました。近親相姦を扱う映画って、最後は心中とか悲劇に終わるものが多かったので、すごくカラカラ乾いた映画が作りたいと思ってました。それで、エンディングはきちっと(その愛の形を)自分が肯定したいと思って、あのようにしました。
あの当時心に抱いていたのは……。既成の、企業から生まれてくる映画が本当につまらなくて、物語とか理解するとかそういうことばかりで、理解したりすることはそんなにすごいことか?!って。映画ってもっともっと、感じるものじゃないかなっていうようなことは、思っていましたね。

矢崎仁司監督
矢崎仁司監督

【キャストについて】

井筒和幸監督の『ガキ帝国』を観て趙 方豪さんに憧れていたんです。で、ヨコハマ映画祭で、僕が『風たちの午後』で自主映画賞、趙さんが『ガキ帝国』で新人賞を受賞して、会場で出会ったのが最初でした。その時はサインしてもらいましたけどね(笑)。そのあとすぐ大阪の映画祭で再会して朝まで飲んだ時に「僕の次の映画に絶対出てほしい」とお願いしました。それから7、8年くらいして、『三月のライオン』の脚本を渡しにいきました。
アイス役は、ものすごい数のオーディションを行ったんですが、なかなか趙さんの妹ってイメージを持てる人がいなくて困っていました。ある日、趙さんが「すごくいい子がいたからオーディションしてみたら?」と言って、今村昌平監督の『女衒』で共演した由良宜子さんを連れてきた。そうしたら、本当に素敵ないい芝居をする方で、とりあえず電話ボックスの横に座ってもらったら電話ボックスが一番似合っていた。というのが由良さんに決まった決定的な理由ですね。

映画『三月のライオン』
『三月のライオン』© Film bandets

【映画の中で一番描きたかったシーン、描きたかったことは?】

描きたいシーンは、基本的に全カットです。説明のためのカットは全部切って、僕が好きなカットだけでもう一本映画を作るって感じです。ですから皆さんがご覧になっているワンカットワンカットはすべて、好きなカットですね。
皆さんに感じてもらうために映画を作っているんで、あるテーマを掲げて、それを正しいと信じて疑わずに表現するということが僕は本当に嫌なので。光景って言うんですかね、誰かの記憶に触る画を作っていきたいなと思っています。

【大変だった、思い出深いシーンはありますか?】

出産のシーンですね。尊敬する深作欣二監督から褒めて頂き嬉しかったです。あの出産のシーンは、野本寿美子さんという実際の助産婦さんに演じてもらい、撮影も野本先生の産院で行いました。生まれたての赤ちゃんに出演してもらって、あんなシーンを撮ることができました。

『三月のライオン』© Film bandets
『三月のライオン』© Film bandets

音楽は空に一番近い音、空に届く音にしたい

【ロケーション ガードの上をあるくアイス】

あれは池袋なんです。あの場所を見つけた時、「ハイヒールでここを歩けないかな」って思ったんですけど、話の流れとしてもうビーサンに履き替えていたので、裸足で行こうってことになりました。非常に危ないシーンなので、多分一番ラストに撮影したと思います。

映画『三月のライオン』
『三月のライオン』© Film bandets

【ロケーション 線路の上に建つ団地】

助監督の溝部秀二さん東京中を歩きました。溝部さんが「ここは歩きました、ここは歩きました」って東京の地図に斜線を引いて、僕はその斜線を引いてない場所を歩くんですけど、終いには東京の地図が斜線だらけになりました。ある日いい場所があるって言うんで、そこに行く途中にたまたま見つけたのがあの団地なんです。「うわ!ここだー!」と思いましたね。

映画『三月のライオン』© Film bandets
『三月のライオン』© Film bandets

【ロケーション 解体現場】

脚本を一緒に書いた小野幸生さんが実際に解体屋さんでアルバイトしていて、解体現場にまつわるエピソードを書いてくれたんです。そこに住んでいた人の色々な記憶を、記憶を無くした男ハルオが、壊していくっていうのが面白いと思いました。
解体現場って実際に工事しているときは危険だから中に入れてもらえないんです。土日は解体作業が休みなので、東京中の解体屋さんに電話をして、土日をまたぐ現場があるかどうかを聞き出し、金曜にロケハンをして、気に入ると土曜日曜に撮影していました。金曜に「重機をこんなふうに置いて帰ってくれないか」とお願いしてね。晴れてないと室内も撮らないほど天気も大事にしてたので、天気も合わないとまた一週間伸びるという感じで、ほぼひと夏解体現場を回ったような感じですね。

『三月のライオン』© Film bandets
『三月のライオン』© Film bandets

【ロケーション おばあちゃんの家】

おばあちゃんの駄菓子屋さん、高層ビルが見えるような駄菓子屋さんは少なかった。お店のほうは中野富士見町近辺だったと思います。裏庭のほうはべつで、中野坂上だったと思います。いい感じの庭から、高層ビルが見えていたんです。問題は庭木が多かったので、植木を何本か移植しないと芝居場が出来ない。僕はアルバイトで造園をやっていたことがあったので、その家の人に絶対に枯らさないからと約束して、一本一本木を植え替えてあそこに空間を作りました。

映画『三月のライオン』
『三月のライオン』© Film bandets

【音響・音楽について】

スタジオで録音した音だと、箱の大きさがわかってしまい、どうしても嫌で。すべてスタジオの外で音を録ったと思います。
音楽は空に一番近い音、空に届く音にしたいなと思っていて、そういう感じの音楽を探した時にフォルクローレの笛の音に出会い、これが一番空に近いなあって。それで、その音楽にしたんですけど、オリジナルで作りたかったので、いろんなフォルクローレのバンドのライブに行って、ボリビアンロッカーズっていうバンドに出会い、お願いしました。

【ファッションについて/アイス、ハルオ、矢崎監督】

シナリオが進まないと原稿用紙に悪戯描きをするんですけど、その時に生まれたのがアイスの基本的なファッションでした。サスペンダーを逆につけるっていうアイデアは、ハワード・ホークスの映画へのオマージュです。アイスは胸に×を、ハルオは背中に×を付けるみたいなイメージで衣装を合わせていきました。世界に舌を出すみたいなタンクトップとアイスボックスのデザインは、風間志織監督が描いてくれたものです。

『三月のライオン』© Film bandets
『三月のライオン』© Film bandets



『三月のライオン』© Film bandets

映画『三月のライオン』
アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、アップリンク京都ほか全国順次公開中

監督・脚本:矢崎仁司
脚本: 宮崎裕史、小野幸生
撮影監督:石井勲
音響:鈴木昭彦
美術:溝部秀二
記録:青木綾子
助監督:石井晋一
編集:高野隆一、小笠原義太郎
製作:西村隆
出演:趙方豪、由良宜子、奥村公延、芹明香、内藤剛志、伊藤清美、石井聰互(友情出演)、長崎俊一(友情出演)、山本政志(友情出演)、他
1991年/日本/118分/DCP/1:1.33/カラー
配給・宣伝:アップリンク

公式サイト

キーワード:

矢崎仁司 / 三月のライオン


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