映画『ミッドナイト・スカイ』
Netflix映画『ミッドナイト・スカイ』が12月23日(水)全世界独占配信に先駆けて12月11日(金)より全国のイオンシネマほかヒューマントラストシネマ有楽町・渋谷、アップリンク吉祥寺・京都にて日本劇場公開される。監督・製作・主演を務めるのはハリウッドを代表する名優ジョージ・クルーニー。過去にも多くの作品で監督も務め高い評価を得ている彼が、作家リリー・ブルックス=ダルトンによる〈『インターステラー』×『渚にて』〉と称される小説『世界の終わりの天文台』を原作に映像化した。クルーニー監督はiMaxでの上映も想定し、65mmデジタル・シネマカメラARRI ALEXA 65で撮影を行った。
これまで俳優としてスティーブン・ソダーバーグ監督がアンドレイ・タルコフスキー監督の名作をリメイクした『ソラリス』(2002年)や、アルフォンソ・キュアロン監督の『ゼロ・グラビティ』(2013年)といったSF映画に出演してきたクルーニーが、監督としてどのような世界を描くのか、注目が集まっている。
webDICEでは『ミッドナイト・スカイ』の劇場公開にあたり、アメリカのメディアに掲載された情報やクルーニー監督の発言などから、作品の魅力についてまとめた。
■ストーリー
地球滅亡を⽬前にしてもなお、北極に残る孤独な科学者科学者オーガスティン(ジョージ・クルーニー)は、任務を終えて地球へ戻ろうとする宇宙船の乗組員サリー(フェリシティ・ジョーンズ)らの存在を知り、交信を通じて帰還を止めようと奔走する。果たして、宇宙船の面々を救うことはできるのか?そして、オーガスティンが地球に残り続ける衝撃の“ある理由”とは…?
原作は〈『インターステラー』×『渚にて』〉
本作の原作はポートランド在住の作家リリー・ブルックス=ダルトンによる小説『世界の終わりの天文台』。日本では〈きょうで世界が終わるなら、あなたは誰と過ごしたい?『インターステラー』×『渚にて』のSF感動作〉というキャッチコピーで2018年に東京創元社より刊行された。[※『渚にて』は作家ネビル・シュートが1957年に発表した第三次対戦後の世界が舞台のディストピアものSFの古典で、1959年にグレゴリー・ペック主演で映画化した]。
『世界の終わりの天文台』書影
『ミッドナイト・スカイ』はこの小説『世界の終わりの天文台』を原作に、ジョージ・クルーニーが監督と主演を務め、Netflixが配信配給することが2019年6月に発表された。8月にフェリシティ・ジョーンズが出演することが決定したが、その後彼女が妊娠したことが明らかになった。クルーニー監督とプロデューサーのグラント・ヘスロフは代役を立てたりポスプロで修正することも考えたが、最終的に『ファーゴ』(1996年)のフランシス・マクドーマンが演じた妊婦の警察官に触発され、彼女の変化する体を受け入れることを決め、ジョーンズが演じるサリーを妊娠中の設定に脚本を書き換えることを選んだ。
映画『ミッドナイト・スカイ』撮影中のジョージ・クルーニー監督(中央)
撮影は2019年10月から2020年2月まで行われた。地球上のシーン、そしてクルーニーが関わるシーンは2019年に撮影終了。宇宙でのシーンはその後に撮影された。
「私が脚本を読んだとき、今の世界がどれほど二極化しているか、お互いに連絡を取り合うことが困難かという、一般的な問題を描いていると思った。そして撮影終了後、新型コロナウィルスのパンデミックが発生し、実際にお互いに連絡を取り合うことや場所を共有することが物理的に不可能になり、誰もが家にいようとする状況になった。残念ながら、タイムリーな内容になった」(ジョージ・クルーニー監督)
また、映画『渚にて』へのオマージュがささげられたシーンもあり、若き日のオーガスティンを『渚にて』主演のグレゴリー・ペックの孫、イーサン・ペックが演じている。
「脚本を読んで現代版『渚にて』だと思った。ただ、『渚にて』 はエンディングが非常にニヒリズム的で希望がないのに対し、この作品には生命があり、贖いがあり、希望がある。今観るべき物語だと思った」(ジョージ・クルーニー監督)
映画『ミッドナイト・スカイ』
これは何かの終わりではない
撮影は北極のシーンをアイスランドで、そして宇宙のシーンをロンドンで敢行。『コントロール』(2007年)『ラスト・ターゲット』(2010年)で知られ、クルーニーが出演するHuluのシリーズ『Catch-22』でも撮影を担当したドイツ人の撮影監督マーティン・ルーエを起用し、iMaxでの上映も想定し65mmシネマカメラARRI ALEXA 65で撮影された。多くのSF映画のシャープなルックに抵抗し、カメラフレア(光が反射することで、画面にカブリやムラが出る現象)を使ったより粒子の粗いアプローチを採用した。
「氷点下40度のアイスランドの撮影は凍えそうだった 10月中旬だったので11時30分から2時30分か3時くらいまでしか太陽が照らず、速く撮らなければならない。現場で時間がないのが分かっていたので、我々は6ヵ月かけてすべてのショットをマッピングして準備した。65ミリのカメラはほんとうに重くて大変だった。そしてロンドンの撮影は事前にバーチャルで準備した。VRヘッドセットを使い、仮想の宇宙船を歩き周りショットを作っていった」(ジョージ・クルーニー監督)
▼ARRI社のFacebookより
The Midnight Sky | Trailer Take a look at "The Midnight Sky" trailer. "The Midnight Sky" was shot by DP Martin Ruhe...
ARRI Rental EUさんの投稿 2020年11月25日水曜日
クルーニー監督は「映画的なルックがほしかった」とその狙いを説明。そして尊敬するクリント・イーストウッド監督のように撮影に3テイク以上かけることはなかったという。
「30パーセントは1テイクだった。俳優が最初から30テイクかけられると思っていたら『何をやってもいいんだ』となんとなく演技を初めてしまうだろう。でも1回しかやらないと決まっていたら、ほんとうに真剣になるものだ」(ジョージ・クルーニー監督)
( 【IndieWire】George Clooney’s ‘The Midnight Sky’ Could Bring Netflix to the Oscars ? Here’s Why)
「再撮影はしない。自分がほしい画を確実に手に入れたい。現場に戻ってそれを再現するのは難しい。そして編集者にはつねにカットするように指示している。最初の粗編集版は撮影が終了してから4日後、現在のバージョンから20分長いだけだった。自分がどんな画を持っているか把握していたからね」(ジョージ・クルーニー監督)
( 【IndieWire】George Clooney’s ‘The Midnight Sky’ Could Bring Netflix to the Oscars ? Here’s Why)
映画『ミッドナイト・スカイ』
音楽は『シェイプ・オブ・ウォーター』などを手掛けるアレクサンドル・デスプラを起用。デスプラの手腕をクルーニー監督は絶賛するとともに、レコーディングの苦労を次のように語っている。
「アレクサンドルはいつも素晴らしい。面白いことに、脚本を送ると彼は『シンセサイザーを使うべきだ』と主張したが私はそれに反対した。今作は彼にとって本当の挑戦だった。勇壮さから静寂さまで、実に多くの異なる要素が盛り込まれた、本当に難しいスコアであり、長い時間がかった。そして、それを録音するのはクレイジーだった。私たちはアビーロード・スタジオでロンドン交響楽団の演奏を録音したのだけれど、アレクサンドルはイギリスに入国することができなかったため、パリからZoomを介して指揮したんだ。私たちは(時差の関係で)午前4時にスクリーン・ルームに座って、Zoomを左において、アレクサンドルと話をしながらスコアを聞いた」(ジョージ・クルーニー監督)
「150人のオーケストラの構成だったものの、一度に15の楽器しか録音できなかっため、パートごとに実行していった。 だからその場では『オーケー、これがうまくいってるかはすべて繋ぎ合わせてみないと分からない』とぼやいていた。うんざりするような時間だったのだが、バラバラの音源をいかに編集するか、ほんとうに興味深い現場だった」(ジョージ・クルーニー監督)
映画『ミッドナイト・スカイ』
最後の仕上げを行う1週間で、製作チームはウェストウッドの映画館ビレッジの大画面で上映して確認を行った。最終的なカラコレとサウンド・ミックスは、ワーナー・ブラザースのプロトコルを使用。クルーニーが演じるオーガスティンの声と、若き日のオーガスティンを演じるイーサン・ペックの声をブレンドした。クルーニーは「スカイウォーカー・サウンドは何千ものピースを混ぜ合わせてブレンドした。私の声が1オクターブ高かった30年前に戻るのは複雑なプロセスだった」と述懐している。
完成した作品についてNetflix 共同CEO兼最高経営責任者のテッド・サランドスは「『ミッドナイト・スカイ』は、クルーニーの史上最高の監督作品かもしれない。彼のパフォーマンスも素晴らしいですが、信じられないほど完成されている」と称賛している。
「この作品は1億ドルかけた作品ではない。多くの予算を費やしたように見えるのは製作した私たちにとってよいことだけれどね。実は、当初の想定を約500万ドル下回っていた。映画とは、限られた予算のなかでやりたいことをやることができるアートフォームなんだ。私たちには、合意した予算内で作品を作り上げる責任がある。COVID-19がすべてを変えた」(ジョージ・クルーニー監督)
「Netflixと一緒に仕事をするのは本当に楽しかった。しかし新型コロナウイルスの影響で誰もが『劇場よ、さようなら』と恐れているように感じる。私はそれが真実だとは思わない。配信と上映、両方あるべきだと思っている。これまでもテレビやVHS、DVDなどで映画を観てきたからね。これは何かの終わりではないんだ」(ジョージ・クルーニー監督)
「こんな状況でも私たちは時々外出する必要がある。Netflixはこれを数百の劇場で公開する予定で、私たちは65ミリフィルムで撮影し、明らかに劇場で上映されるように設計した。意図したデザイン通りに大画面で上映されないのは残念だ。私の映画が大画面で見られないことよりも、世界には非常に大きな問題がたくさんある。でも、Netflixがあることで機会を得られた。またすぐにでも一緒にやりたい」(ジョージ・クルーニー監督)
映画『ミッドナイト・スカイ』
一部劇場にて12月11日(金)より公開
12月23日(水)よりNetflixにて独占配信開始
監督:ジョージ・クルーニー
出演:ジョージ・クルーニー、フェリシティ・ジョーンズ、デヴィッド・オイェロウォ、デミアン・ビチル、カイル・チャンドラー
製作:ジョージ・クルーニー、グラント・ヘスロブ、キース・レッドモン、バード・ドロス、クリフ・ロバーツ脚本:マーク・L・スミス
2020年/アメリカ/122分
原題:MIDNIGHT SKY