映画『Mank/マンク』
ゲイリー・オールドマン、アマンダ・セイフライドらが出演し、デヴィッド・フィンチャー監督が『市民ケーン』の脚本家を描くNetflix映画『Mank/マンク』が12月4日(金)からの配信に先駆け、11月20日(金)からヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺、アップリンク京都ほかにて日本劇場公開される。
フィンチャー監督とNetflixの関係は深く、これまで『ハウス・オブ・カード 野望の階段』(2013年~2018年)で『マインドハンター』(2017年~)では製作総指揮といくつかのエピソードを監督、続く『ラブ、デス&ロボット』(2019年)では製作総指揮を担当してきた。現在劇場公開中の『シカゴ7裁判』『ヒルビリー・エレジー』に続き、この作品もNetflixが2021年のアカデミー賞を狙って手掛ける作品だ。
なお『Mank/マンク』はモノラル作品だが、劇場上映ではセンターのチャンネルにセリフ、左右のチャンネルにそのほかの音声の入った上映素材が使用される。日本ではジブリの作品がモノラルであることが有名だが、webDICE編集部がジブリの広報窓口を通してポスプロ担当の方に確認したところ、ジブリ作品はすべての音がセンターに入った1chで上映素材が作られている。『風立ちぬ』(2013年)は劇場公開当初から、『風の谷のナウシカ』(1984年)もDCP(デジタル・シネマ・パッケージ 現在主流の上映方式)化の際にセンター1chの素材になったとのことだ。
モノラル作品の放映の場合、ご家庭の一般のテレビやパソコンで片方のスピーカーからしか鳴らないという事故を防ぐためLとRの2chに同じモノラル音声が入っている。したがってフィンチャー監督の意図するモノラル音声を体感するには、映画館が最適と言えるだろう。徹底して1940年代のハリウッドを再現したフィンチャー監督のこだわりと意図を、ぜひ映画館で堪能してほしい。
webDICEでは『Mank/マンク』の劇場公開にあたり、アメリカのメディアに掲載された情報やフィンチャー監督そしてキャストの発言から、作品の魅力についてまとめた。
ピカソのように仕事がしたい
『Mank/マンク』はフィンチャー監督が長年温めてきた念願の企画で、2003年に他界した実父ジャック・フィンチャーが生前に執筆した脚本を基に描くモノクロ映画。名匠オーソン・ウェルズ監督による不朽の名作『市民ケーン』(1941年)の共同脚本家ハーマン・ J ・マンキウィッツを主人公に、同作の脚本執筆時の裏側に迫りながら、ウェルズとの間に生じた問題についても掘り下げていく。
▼撮影中のデヴィッド・フィンチャー監督とゲイリー・オールドマン
David Fincher and Gary Oldman on the set of 'Mank' pic.twitter.com/z1sknMaacN
— Lost In Film (@LostInFilm) November 15, 2020
これまでNetflixで『ハウス・オブ・カード 野望の階段』『マインドハンター』『ラブ、デス&ロボット』を手がけてきたフィンチャー監督は、今作製作のきっかけを次のように語っている。
「 『マインドハンター』を終えて初めて、シンディ・ホランド(Netflixオリジナル・コンテンツ担当)とテッド・サランドス(Netflix共同最高経営責任者)に『次に何をしたい?作りたいものはあるか?』と聞かれたので、「実はあるんだよ!」と答えた。家に帰って『Mank/マンク』の脚本を読み、『うわっ、これはずっと置きっぱなしにしていたけれど、大至急やらなければ!』と思った。彼らに脚本を渡すと『ぜひ作りましょう』と回答がきた」(デヴィッド・フィンチャー監督)
またフィンチャー監督は近頃、Netflixとの4年間の独占契約を結んだとフランスの雑誌Premiereで語ったことが各メディアで報道された。
「今回Netflixと契約したのは、ピカソが描いたような仕事をしたいと思ったからでもある。まったく異なることを試したり、スタイルや方法を変えたり、そうした創作の概念が好きなんだ。40年もこの仕事をしてきたが、たった10本の映画しか撮っていないのは不思議な感じがする。11本ですが、私の作品と言えるのは10本だ(注:彼が自分の作品として数えたくないのは、最終的にスタジオに再編集されてしまった『エイリアン3』のことと思われる)。客観的に、かなり恐ろしい事実だよ」(デヴィッド・フィンチャー監督)
( 【Playlist】David Fincher Says He Signed A 4-Year Exclusive Deal With Netflix)
映画『Mank/マンク』
『Mank/マンク』は2019年7月にデヴィッド・フィンチャーが監督を務めることが正式に発表され、ゲイリー・オールドマンがハーマン・ J ・マンキウィッツ役を務めることが決まった。
『Mank/マンク』はフィンチャー監督の3作目の長編『ゲーム』(1997年)に続く作品として予定されており、その後『ハウス・オブ・カード』に出演するケヴィン・スペイシーがマンキウィッツを演じることになっていた。しかし、モノクロ映画として製作したいというフィンチャー監督の思いのため、企画が頓挫していた。
“マンク”ことマンキウィッツはハリウッド黄金期で最も著名かつ高いギャラを誇る脚本家で、『市民ケーン』でのクレジットをめぐり監督のオーソン・ウェルズと対立。最終的にウェルズと共同脚本としてクレジットされることになった。
なお脚本を手掛けたフィンチャー監督の父ジャック・フィンチャーは、米LIFEの支局長を務めており、シカゴ・トリビューンのベルリン特派員、ニューヨーク・タイムズやニューヨーカーの演劇評論家を経て脚本家となったマンキウィッツにシンパシーを感じていたのかもしれない。
映画『Mank/マンク』
1940年代作品のルックを完全再現
フィンチャー監督は40年代ハリウッドの世界を表現するために、撮影監督にエリック・メッサーシュミット、スコアにトレント・レズナーとアッティカス・ロス、プロダクション・デザイナーにドナルド・グラハム・バートと、これまでも彼の作品に多数参加しているスタッフを招集。撮影は2019年11月1から2020年2月4日まで行われた。
映画『Mank/マンク』
フィンチャー監督といえば、『ソーシャル・ネットワーク』(2010年)で、マーク・ザッカーバーグ(ジェシー・アイゼンバーグ)とガールフレンドのエリカ(ルーニー・マーラ)がダイナーで話す5分のオープニング・シーンに90テイク以上かけたという逸話が有名だが、今作でも完璧主義ぶりを発揮。マンキウィッツが酔っぱらうシーンに100テイク以上かかったと、共演のチャールズ・ダンス(メディア王ウィリアム・ランドルフ・ハースト役)とアマンダ・セイフライド(女優マリオン・デイヴィス役)は語っている。
「私たちは何度も何度もやり直した。オールドマンはある時点で監督に『デヴィッド、私はこのシーンを100回やったよ』と言った。するとフィンチャーは『あぁ、わかってるよ。これが101回目だ。はいもう一度!』と言ったんだ」(チャールズ・ダンス)
「本当にたいへんでした。でも同時に、トーンや感情を正確に表現できるという面では演劇のようでした。『恋はデジャ・ブ』(注:同じ1日を何度も繰り返してしまうというループものの名作)みたいでしたが、それこそが彼にしかできない創作スタイルなんです」(アマンダ・セイフライド)
フィンチャー監督はこのシーンの撮影のエピソードについて事実であると認めている。
「私は説教がましいので、オールドマンは最初疲れ果てていたと思う。『これはやりとげる必要があることで、このアイディアを実現するためにできる限り演じ続けなければいけない』。俳優たちに伝えるのは難しい。『マスターショット(基本となるショット)で完成度の高いすばらしいパフォーマンスがほしい。そして、もうひとつのマスターショットでも完成度の高いすばらしいパフォーマンスがほしい。そして肩越しのカメラからも完成度の高いすばらしいパフォーマンスがほしい。そして個々のカメラでも同じだ。それはあなたがいないところでこのシーンをカットしたくないからだ。うまくできなかった人のシーンをカットしなければならないことを知ったうえで、編集室に行きたくない』」(デヴィッド・フィンチャー監督)
( 【TotalyFilm】Mank cast on working with David Fincher: "It does feel like Groundhog Day")
映画『Mank/マンク』
撮影には8Kで撮影可能なデジタルカメラREDモノクロームを使用。40年代の質感を表現するために、フィンチャー監督は試行錯誤したようだ。
「この作品の音響について、サウンド・デザイナーのレン・クライスと私は、何年も前にUCLAの国立映画アーカイブからだったり、復元する途中でマーティン・スコセッシの地下室から見つかったように感じさせたいと話していた。すべてが圧縮され、1940年代のように聞こえるように作っている。音楽は古いマイクで録音した。古い名画座で観ているような感覚を観客に感じてほしかった。音のミックス作業は予定を3週間超えたよ」
「映像的には、私たちは超高解像度で撮影して、それを劣化させるということを考えていた。だから、ほとんどのものを外し、無茶苦茶なまでに柔らかくして、その時代のルックに合わせようとした。解像度を3分の2落として、小さな傷やタバコの跡などを入れた」(デヴィッド・フィンチャー監督)
今作は全米では11月13日より一部劇場にて公開。すでに作品を観た著名人からも絶賛の声が挙がっている。
「デヴィッド・フィンチャー監督の『Mank/マンク』を堪能した。黄金時代のハリウッドの物語を時間的なパラレルとともに楽しむことができる。キャストも素晴らしい。最大限に堪能するために『市民ケーン』との2本立てをお勧めする(そう言える映画は決して多くはない)」(エドガー・ライト監督)
Thoroughly enjoyed David Fincher’s MANK, a tale of Golden Age Hollywood to truly luxuriate in, but with some timely parallels to nag at you. Great cast too. Double bill with Citizen Kane for maximum effect (not many films you can safely say that about). https://t.co/Qq19Thd3AH
— edgarwright (@edgarwright) November 9, 2020
「『Mank/マンク』をいち早く観たが、素晴らしかった。今年映画を作ったひとりとして、今年のベストだと言いたい!」(ジャド・アパトー監督)
I saw an early screening of Mank and it is fantastic. It’s the best movie of the year and I say that as one who made a movie this year! https://t.co/3MHoHKnyLy
— Judd Apatow (@JuddApatow) November 2, 2020
映画『Mank/マンク』
11月20日(金)より全国ロードショー
12月4日(金)よりNetflixで独占配信スタート
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ゲイリー・オールドマン、アマンダ・セイフライド、チャールズ・ダンス
脚本:ジャック・フィンチャー
2020年/アメリカ/131分