映画『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』
エイミー・アダムス、グレン・クローズらが出演し、全米ベストセラー回顧録を映画化したNetflix映画『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』が11月24日(火)からの配信に先駆け、11月13日(金)からヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺、アップリンク京都ほかにて日本劇場公開される。
現在劇場公開中の『シカゴ7裁判』と同じく、Netflixが2021年のアカデミー賞を狙って手掛ける作品で、『ビューティフル・マインド』で2002年アカデミー賞監督賞を受賞したロン・ハワードが監督を務め、これまで7回女優賞にノミネートされながらも無冠のグレン・クローズ、そして6回ノミネートされながらも受賞したことのないエイミー・アダムスがそれぞれ悲願の初受賞なるか、と注目が集まっている。
webDICEでは『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』の劇場公開にあたり、アメリカのメディアに掲載された情報やハワード監督そしてキャストの発言から、作品の魅力についてまとめた。
トランプ政権下のアメリカの現実を描く全米ベストセラー
『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』は3世代にわたる家族の姿を通してアメリカの現実を描く物語だ。アパラチア山脈の田舎に帰郷した名門イェール大学のロースクールに通う主人公のヴァンスをガブリエル・バッソ、薬物依存症に苦しむ母ベブをエイミー・アダムス、ヴァンスの育ての親である祖母マモーウをグレン・クローズが演じている。
本作の原作となるのは、『ヒルビリー・エレジー アメリカの繁栄から取り残された白人たち』。2016年にアメリカで出版され、 1年半にわたりニューヨーク・タイムズのベストセラーリスト入りを果たし、タイム誌は「トランプの勝利を理解するための6冊」の1冊に選定した。米大統領選まっただなかの現在、「トランプ支持者、分断されたアメリカの現状を理解するのに、最適の書」とあらためて注目を集めている書籍だ。著者は、トランプの熱狂的支持者が多いとされる「ラストベルト」(錆ついた工業地帯)と呼ばれる、オハイオ州の出身の弁護士、J・D・ヴァンス。貧しい白人労働者の家に生まれ、海兵隊、オハイオ州立大学、イェール大学ロースクールへと進み、アメリカのエリートとなった彼が、かつて鉄鋼業などで栄えた地域の荒廃、自分の家族も含めた貧しい白人労働者階級の独特の文化、悲惨な日常を描いている。
『ヒルビリー・エレジー』書影
ロン・ハワードが創設した製作会社イマジン・エンターテインメントは、2017年4月に原作の権利を獲得した。 ロン・ハワードが監督し、『シェイプ・オブ・ウォーター』の脚本家バネッサ・テイラーが脚色することも発表された。
映画『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』
ハワード監督は、この原作に出会ったときの印象を次のように語っている。
「私の母はとても小さな町の出身で、父は農家の生まれだった。この本を読んだ時、私は自分の感性を生かして、アメリカ文化のこの側面を伝えることができる物語を本当に探していたのだと気づいた。でも、犯罪物語やセンセーショナルなものにしたくなかった。それよりも、耐え忍ぶこと、生き続けること、そして世界が変化していくなかでナビゲートすることの方が重要だと思った」(ロン・ハワード監督)
家族の普遍的な対立、感情を表現する
2018年4月に、グレン・クローズ、エイミー・アダムスなどキャストが決定。2019年6月から8月まで撮影が行われた。
「驚くべきことに、私にとって色々な意味で違う映画製作だった。家族をテーマにした映画はあまり作ったことがなかったが、私は家族とつながり、家族に関連し、家族のことを本当に理解していると感じる。俳優たちがキャラクターに命を吹き込み、観客が映画を見ていることを忘れてその中に身を任せて、ターニングポイントの重要性を理解し始めるような機会を作るようなアプローチをしてみたいと思ったんだ」(ロン・ハワード監督)
映画『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』
撮影にあたりグレン・クローズとエイミー・アダムスは、実際にJ・Dの家族に会い、そしてホームムービーや写真、会話などを元にキャラクターを作るために全力を尽くしたという。
「最初にお会いしたのは夕食で、お互いの話し方や行動の仕方を見ることができて参考になった。オープンで寛大な雰囲気があった。彼らと個別に話をすることで、彼らのストーリーについての視点を確認することができた。そのおかげで、間関係や愛の複雑さが見えてきた」(エイミー・アダムス)
「J・Dと話すことはとても重要だった。私が演じたマモーウがどのように座っているのか、タバコの持ち方、声はどんな感じなのか、家はどんな風に見えたのかなど、すべてのことに加えて、写真やビデオを手に入れたことで、マモーウがどんな人なのかを知ることができた」(グレン・クローズ)
「グレンとエイミーの演技に虚栄心はない。同情的な人物ではないキャラクターを演じてもらうにあたって、そして彼らが直面している状況を表現してもらうために勇気のある俳優が本当に欲しかった。私はそれを手に入れたと思っている。それは、真実、正直さ、そしてこれらの瞬間とのつながりを明らかにし、どんなに痛々しいほど欠陥があるかにかかわらず、この役柄に命を吹き込んだか、ということだ」(ロン・ハワード監督)
映画『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』
「マモーウのキャラクターがこの作品を制作する上で本当に重要だと思った。撮影しているときは予想していなかったが、完成した試写を観て気付いたのは、この物語にある対立、感情が実際にどれほど普遍的であるかということだった」(ロン・ハワード監督)
( 【The Dispatch】A Conversation With Ron Howard and J.D. Vance)
映画『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』
この作品は、11月11日よりアメリカの一部の劇場でも上映が開始となる。新型コロナウイルスの影響により定員制限など十分な営業ができない状況のなか、ハワード監督はNetflixとのタッグについて次のように明かしている。
「『アイリッシュマン』や 『マリッジ・ストーリー』などのように、以前から劇場公開を予定していた。どのくらいの劇場がオープンするのかは分からないけど、11月11日に劇場公開される。もっと大きな公開になるはずだったんだけれど、仕方がない。実はテッド・サランドス(Netflix共同最高経営責任者)とは長い付き合いなんだ(※2013年から配信された[現在配信終了]『アレステッド・ディベロプメント』でハワードは製作総指揮を務めている)。絶対的なプロ意識、素晴らしいアイデア、そしてスタジオとの最高のコラボレーション。だから、私が考えていたこの物語の映画化への情熱は決して衰えていないと感じたし、とてもポジティブな経験になった」(ロン・ハワード監督)
映画『ヒルビリー・エレジー -郷愁の哀歌-』
11月13日(金)より全国ロードショー
監督:ロン・ハワード
原作:J・D・ヴァンス
出演:エイミー・アダムス、グレン・クローズ、ガブリエル・バッソ、ヘイリー・ベネット、フリーダ・ピント、ボー・ホプキンス、オーウェン・アスタ