映画『ハニーボーイ』© 2019 HONEY BOY, LLC. All Rights Reserved.
『ワンダー 君は太陽』で知られるノア・ジュプが主演を務め、人気子役と前科者のステージパパとの関係を描く映画『ハニーボーイ』が8月7日(金)より公開。webDICEではアルマ・ハレル監督のインタビューを掲載する。『トランスフォーマー』のシャイア・ラブーフが自らの経験をもとに初めて脚本を手がけた半自伝作で、主人公オーティスの父親役で出演もしている。
この映画は『トランスフォーマー』シリーズでスターダムに上り詰めたあと、飲酒によるトラブルでリハビリ施設に入ることを余儀なくされたラブーフが治療の一貫として書き始めた脚本からスタートした。彼自身の幼少期のトラウマ、そしてリハビリ治療施設での体験を盛り込むことで、ラブーフのセラピーに役立ったという。物語は、若くしてハリウッドのトップスターに躍り出た主人公オーティスがPTSDの兆候があると診断され、過去の記憶を手繰り寄せることからスタートする。前科者で無職の“ステージパパ“ジェームズとの関係を回想するオーティスの葛藤を、ドキュメンタリー映画を出自とするハレル監督が生々しさと詩的で夢のような色彩の双方を組み合わせで描いている。
「構想中に抱いていたイメージは、“オーティス=ピノキオ”だった。ピノキオは『勇敢で、誠実で、自分勝手ではない』と証明した場合だけ、本物の少年になることができる。最後には、進んで父親を助けて、勇敢で誠実で自分勝手ではない行動で、本物の少年になれるの」(アルマ・ハレル監督)
主人公オーティス=ピノキオ
──シャイア・ラブーフによる脚本を読んだとき、どのような気持ちでしたか?
私が育った環境では、アルコール依存症やメンタルヘルスの問題など、多くの依存症を抱えた人が周りに数多くいた。それらを治すには時間がかかることを知る機会を与えてくれた。人生に対処するための新しい手段を見つけるには、時間がかかるもの。特にラブーフの人生は、俳優という職業やメンタルヘルスの問題、彼が耐えたトラウマなど、様々な面で非常に困難なものだということがわかった。
映画『ハニーボーイ』アルマ・ハレル監督 © 2019 HONEY BOY, LLC. All Rights Reserved.
観客は成長の物語を求めている。いわゆる「英雄の旅」(※映画や小説のストーリーは全て同じルールに従っているという理論)の物語が大好きなの。誰かがあらゆる困難に立ち向かい、何かを克服する方法を見つける物語を愛している。そして、人々はこの映画がおそらくラブーフに変容をもたらした芸術作品であると考えたいとさえ思っている。「彼はもう大丈夫なのか」とよく聞かれます。まるでセットの中で悪魔祓いが行われ、社会が期待するような形で社会に奉仕できる人間に変わったと思っている。しかし、答えは明らかにそれ以上に複雑なんです。中毒やアルコール依存症は、本当の問題を覆い隠しているに過ぎない。彼が自分自身に挑戦しなければならないのはこれが最後ではないと確信しているし、一生涯続く旅だと考えている。
──シャイア・ラブーフと初めて会った時の印象を教えてください。
初対面の夜から、本作について取り組み始めたようなものよ。私たちは夕食をとりながら、父親についてたくさん話したの。初めて会った時は、映画を作る話はしなかったけれど、すぐにあり得ないほどの親しみを感じ、お互いに共感し合ったわ。構想中に抱いていたイメージは、“オーティス=ピノキオ”だった。ピノキオは他人に支配されている少年よ。操り人形のワイヤーを外して本物の少年になることだけを望んでいるのに、嘘をつき続け、それで鼻がどんどん伸びていくのが、みんなにも見える。ピノキオは「勇敢で、誠実で、自分勝手ではない」と証明した場合だけ、本物の少年になることができる。最後には、進んで父親を助けて、勇敢で誠実で自分勝手ではない行動で、本物の少年になれるの。
映画『ハニーボーイ』© 2019 HONEY BOY, LLC. All Rights Reserved.
──大人になったオーティス役のルーカス・ヘッジズ起用の経緯は?
当初、シャイア・ラブーフに似た俳優をキャスティングして“大人のオーティス”を演じさせようと考えていたけれど、最終的にはそうしないことにした。もしそうしていたら、本物のシャイアをナルシスト的に映し出す映画になったかもしれない。実際、ルーカス・ヘッジズに会うまでは迷っていた。でも彼に会って2分もしないうちに、彼こそすべてに対する答えだとわかったの。
映画『ハニーボーイ』© 2019 HONEY BOY, LLC. All Rights Reserved.
──舞台となるモーテルのロケ地は、ロサンゼルスのサンフェルナンド・バレーの北東部にある労働者階級のコミュニティー、サンバレーだったそうですね。
モーテルに着いて見たら、その建物はピンク色だった。実際に、ピンク・モーテルっていう名前だったのよ! 私は、昔のサーカスのポスターのような色彩を使いたかった。その建物がジェームズの一部であるかのように描きたかったの。シャイアと父親が住んでいるのを想像できたわ。
映画『ハニーボーイ』© 2019 HONEY BOY, LLC. All Rights Reserved.
──「父が僕に与えてくれた唯一の価値は痛みだった」という台詞があります。素晴らしいアートには痛みが必要だと思いますか?
まだ答えはありません。私自身は、おそらく自身の痛みなしにアートを作ることはできなかったでしょう。この映画が私とシャイアに与えたのは、新しいツールを開発し、新しいペイントブラシを見つけて、アートを作り、痛みだけに頼らずになりたいアーティストになるための方法を見つけたいという願いです。映画制作とアートは私の人生を救ったと思います。アートにより、自分自身の感覚を見つけることができました。しかし、その一方で、単純な喜びだけでなく痛みや苦痛を経験した人は、共感的です。私は、痛みよりも共感に頼って前進していきたいと思っています。
(オフィシャル・インタビューより)
アルマ・ハレル(Alma Har'el)
1976年イスラエル・テルアビブ生まれ。イスラエル系アメリカ人の映像作家。2011年に発表したドキュメンタリー作品『Bombay Beach』は第15回トライベッカ映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を、2016年の『ラブ・トゥルー』はカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞をそれぞれ受賞。シュールで幻想的な映像表現を得意とし、ドキュメンタリーとフィクションの境界線を曖昧にする独創的なフィルムメイクが特徴。Filmmaker Magazine誌は「いま最も革新的で輝いている若手監督」として評し、「映画界のニューフェイス 25人」にも選出。また、コマーシャルディレクターでもある彼女は、コカ・コーラやシャネル、P&G等のコラボレーションCMで数々の称賛を受け、冬季オリンピックのコマーシャル「Love Over Bias」では、2018年全米監督協会賞にノミネートを果たす。本作では、サンダンス映画祭で審査員特別賞を受賞するほか、世界各国の映画祭・賞レースに多数ノミネートをするなど、次世代を担う新しい才能として注目が集まる。
映画『ハニーボーイ』
8月7日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
監督:アルマ・ハレル
出演:ノア・ジュプ、ルーカス・ヘッジズ、シャイア・ラブーフ
脚本:シャイア・ラブーフ
配給:ギャガ
原題:HONEY BOY
2019年/アメリカ/95分