骰子の眼

cinema

東京都 渋谷区

2020-04-13 23:30


「ミニシアター・エイド基金」無観客会見―休業要請があろうがなかろうが、お客さんがゼロの回もあった

深田晃司、濱口竜介、斎藤工、渡辺真起子のほか全国のミニシアター支配人がリモートで参加
「ミニシアター・エイド基金」無観客会見―休業要請があろうがなかろうが、お客さんがゼロの回もあった
「ミニシアター・エイド基金」記者会見より、斎藤工(中央)、渡辺真起子(左)、濱口竜介(右)

新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令され、補償が不明瞭な中、政府からの自粛要請が続き、全国の小規模映画館「ミニシアター」もまた閉館の危機にさらされているなか、クラウドファンディング「ミニシアター・エイド基金」が、4月13日(月)13時よりMotion Galleryにて1億円を目標にスタート。23時現在で3,200万円を越える支援が集まっている。本日16時からDOMMUNEにて立ち上げの記者会見が行われた。登壇したのは、深田晃司(発起人・映画監督)、濱口竜介(発起人・映画監督)、浅井隆(アップリンク代表)、斎藤工(俳優・映画監督)、渡辺真起子(俳優)、そして全国の劇場支配人も中継を繋ぎ登壇。感染拡大を防ぐため、配信のみとなり、全員モニター越しで、リモートでの出演となった。

「ミニシアター・エイド基金」は、4月13日の開始時点では62団体68劇場が参加。立ち上げ期間が短かったこともあり、4月17日まで新たなミニシアターの参加を受け付けている。支援者への特典には、基金に参加するすべての劇場で使用可能な映画鑑賞券「未来チケット」のほか、有志の参加劇場で使える「1000円パス」「フリーパス」など、コロナ禍収束後の未来に「ミニシアターで映画を見る」ためのコースが用意されている。

さらに、特別ストリーミング配信サイト「サンクス・シアター」では、片渕須直監督の『この世界の片隅に』の未公開ドキュメンタリーを提供。そのほか、空族・富田克也監督『バンコクナイツ』、新星・山戸結希監督の『おとぎ話みたい』など、有志の映画人たちが提供したなかなか観ることのできない作品が100作以上用意されており、支援の金額に応じてそこからチョイスして視聴することができるようになっている。


会見の最初に、発起人のひとりである深田監督は、「映画館が大変になっている理由として、自粛要請によりお客さんが家を出られないということがあり、オンラインでの記者会見を実施することになった」と経緯について解説。深田監督はこの1、2ヵ月を乗り切らないと危ないという映画館運営者の悲痛な声を知り、署名活動を通じて行政へ働きかける「SAVE the CINEMA」など、同時多発的にこうした映画館支援のアクションと連携しながら、より素早く支援できる方法をと、クラウドファンディングという方法を選んだことを説明した。

続いて濱口監督は、この日も登壇したシネマスコーレの坪井副支配人のインタビューを読んで、その大変な状況を知り、「極めて衝動的に、なにかしなければいけないと動き始めた」と立ち上げの心境を語った。そして深田監督と濱口監督は緊急性と重要性がポイントだとし、「シネマコンプレックスとは違い、経営基盤が決して大きくない映画館を映画ファンのネットワークを利用して支援しなければいけない」(濱口監督)「文化の多様性という面で非常に重要。行政からの支援も受けず、商業的にヒットするわけではない映画をコツコツと上映する映画館が日本中に存在することを海外の映画人に驚かれる」(深田監督)と訴えた。深田監督は多様性を守るという問題について、「例えば映画を通じて遠いイランの人の顔を見ることができるといったような、社会にとっていろんな文化や価値観にふれる環境がきちんと保たれていること、単に映画業界や映画ファンにとってだけでなく、多様な社会を維持していくために重要。つまり、ミニシアターがあることは社会の問題であるし、民主主義の問題である」と力を込めた。

本日の会見では、全国のミニシアターの支配人もZoomでリモート参加し、各地の窮状を報告した。

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アップリンクの浅井隆(右)、斎藤工(中央)、渡辺真起子(左)

アップリンク代表の浅井隆は4月16日にオープン予定だったものの5月21日に延期となったアップリンク京都の客席から登壇。東京の状況と、アップリンク渋谷とアップリンク吉祥寺の休館について説明した。アップリンクは都知事が週末に外出自粛要請を要請してから3月28、29日と4月の4日、5日を休館。4月6日に緊急事態宣言が出るだろうという情報から、東京のほとんどの映画館も8日から休館したが、都と政府のはちぐはぐな対応が続いた。

「4月の頭になるとお客さんが8割から9割減っていた。休業要請があろうがなかろうが、開けていても赤字の状態でした。8割の人との接触を落とせば急激に感染拡大は防げると、民間の僕らとしては“自主的ロックダウン”をしました」

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シネマスコーレの坪井篤史

12日まで営業を続けていたものの、本日13日より休館になった名古屋シネマスコーレの坪井篤史は緊迫した状況を訴えた。

「緊急事態宣言が出ていない段階からシニアの方がコロナに敏感になってまったく来なくなってしまった。衝撃だったのは、4月1日が映画サービスデーだったのに、お客さんがゼロだった」

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出町座の田中誠一(右)、渡辺真起子(左)

京都出町座の田中誠一はオープン時にもMotion Galleryのクラウドファンディングを用いていたこともあり、独自のクラウドファンディング・プロジェクトでも支援を呼びかけている

「営業はしているが、ほぼ開店休業のような状況。今日もお客さんがゼロの回が3回くらいある。自治体の判断によっては、明日明後日に自主的に閉めざるをえない」

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シネ・ヌーヴォの山崎紀子

大阪シネ・ヌーヴォの山崎紀子も危機感について明かしたものの、関西の映画館を支援するTシャツ販売のキャンペーン「Save The Loval Cinema」の取り組みなど、映画ファンのサポートが力になっていると話した。

「3月まではまだなんとか大丈夫かなと思っていたけれど、4月3日に史上最低の売上になってしまった。安全になったときに戻ってきてほしいと休館を決めた。「Save The Loval Cinema」により、参加している13館が1ヵ月休館しても存続は伸びたかなと思う」

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シネマ尾道の河本清順(右)、斎藤工(中央)、渡辺真起子(左)

現在も営業中のシネマ尾道の河本清順も厳しい状況のなか胸の内を明かした。

「2月、3月くらいまでは4割から5割の落ちでまだまだやっていけるかと思ったが、4月はお年寄りの方々が来なくなって、基盤がなくなっていくという状況。日々自問しているが、答えが見つからない。少しでも長く続けられるように努力したい」

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シネマ5の田井肇(右)、斎藤工(中央)、渡辺真起子(左)

コミュニティシネマセンター代表理事であり大分シネマ5の支配人の田井肇は、多くの地方が東京の1月遅れでロードショー作品上映されることから、東京でコロナ禍が収束した場合でも、問題が継続するのではないかと分析した。

「休館という気持ちはないが、お客さんの減り方をみると、来たいけど様々な事情で来られないお客さんが多いだろう。休館はひとつの選択肢にならざるをえないのではないか。東京で収束しても、地方でやれる映画がなくなってしまう可能性もある」


会見に参加した斎藤工は「ドイツの芸術支援をみていると、日本のミニシアターが置かれた環境がこれからどうなっていくか、先行きがみえない。長期戦になっていくと見越した場合、戻ってくる場という希望としてミニシアターは必要」と力説し、渡辺はミニシアターへの思いを「思春期に自分の居場所が見つからないときに自分を迎え入れてくれるところが映画館だった。そして俳優を始めたときに自分が信じられる作品に出たい、と思ったときに、たどっていった先がインディペンデント映画だった」と述懐した。

各地のミニシアターからの状況を聞き、斎藤は「ほんとうに切実な声を聞けて貴重だった。会見のYouTubeを同時に見ているが、コメント欄で視聴者同士が寄付の仕方を教え合っている。そんなふうに映画ファンはいつも支え合っているんです。ですから、活動プロジェクトを知らない映画館があれば、ぜひ教えてほしい」とアピールし、渡辺も「映画関係者でなくても『映画が好き』という人にたくさん会ってきた。人生のなかに映画が思い出としてある人でも、まだこの試みご存知がない人がたくさんいると思うので、まずこの活動があることを伝えていくことが必要だと思います情報の共有をよろしくお願いします」と協力を呼びかけた。

DOMMUNE
「ミニシアター・エイド基金」記者会見より、斎藤工(中央)、渡辺真起子(左)、深田晃司(右)

記者会見の後は同チャンネルでアップリンク配給作品『ソウル・パワー』を投げ銭方式によるフリー生配信も行われた。サポートはミニシアター・エイド基金とDOMMUNEの運営費、映画料に充てられる。

【Motion Gallery】
未来へつなごう!!多様な映画文化を育んできた全国のミニシアターをみんなで応援
ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金

会見では、プロジェクトに賛同する是枝裕和監督、片渕須直監督、河瀬直美監督からのメッセージも読み上げられた。

映画館は僕の人生の一部です。
こっそり泣いたり、自身を奮い立たせたり、観終わった後に街の風景を一変させられたり。
映画館は、そんな、無数の人々の無数の記憶を蓄積し、発酵させ、次の世代に受け渡していく場所です。
このような危機的状況の中でも、その場所を維持し、未来に継承していく為には、まずは、その場所を必要として来た人たちが、連帯する必要があると思います。
ミニシアターを中心としたその連帯を、映画産業に関わる全ての人へ、そして映画ファンの方々へ、更には、行政へと広げていく必要があると思います。
これは、その為の小さな、しかし、大切な一歩だと思います。

──是枝裕和監督

私が常々思うのは、映画とは、それを見て下さる観客の方の心の中で始めて完成するものだということです。そして、映画と観客との出会いを作り出してくれるのが映画館です。
ミニシアターという存在は、上映する映画を独自性もって選ぶ可能性を持つ場所です。
かつて私の映画も、町の小さな映画館で上映してもらえて、観客の皆さんと出会うことが出来て、救われました。 ミニシアターを運営するのは、平素からどんなに大変なことかもうかがっています。
今この疫病がもたらす困難によって、そうした存在が風前の灯のような状況に陥っています。
失われてしまえば、再興するのはさらに困難です。
どうか皆さんも、ミニシアターの維持にお力添えくださいますように。

──片渕須直監督

こつこつと自主制作を続けてきた私は、数々のミニシアターにお世話になってきました。
公開の時には、愛情深く自分の作品のように宣伝をしていただき、
私たち映画に関わる側とお客さんとをつないでくれました。

ミニシアターといわれるそれぞれの劇場には想いを持った“顔”があり、
その方々が選び紹介される作品は非常に多様でボーダーがない。
それは観る人の世界を広げ心を豊かにてくれます。

映画という芸術がこれからも楽しめる日本でありますように。

──河瀬直美監督

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