骰子の眼

cinema

東京都 中央区

2020-03-12 16:15


フラメンコの生ける神話、ロシオ・モリーナ降臨!異次元ダンスに迫るドキュメンタリー

ラ・チャナとのセッションシーンも!新作「カイーダ・デル・シエロ」初演までを追う
フラメンコの生ける神話、ロシオ・モリーナ降臨!異次元ダンスに迫るドキュメンタリー
映画『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』

スペインの天才フラメンコダンサー、ロシオ・モリーナの創作現場に迫るドキュメンタリー映画『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』が3月13日(金)より東劇にて公開(東京都写真美術館ホールは同館が3月15日まで事業休止・中止のため上映延期)、この春オープンするアップリンク京都でも4月17日(金)より公開される。webDICEでは、エミリオ・ベルモンテ監督のインタビューを掲載する。

タイトルにある「ダンサオーラ」とは、ダンサーとバイラオーラ(女性フラメンコダンサー)をかけあわせた自身を形容する造語。映画はフランス国立シャイヨー劇場での新作「カイーダ・デル・シエロ」上演までの日々を描いている。母ローラ・クルスが作中で語っているように、モリーナの高度なテクニックと、伝統を踏まえながらときにアヴァンギャルドと形容したくなるその振り付けは、並々ならぬ練習の積み重ねと努力の賜物であることをカメラは捉えていく。2018年にドキュメンタリー映画が公開されたフラメンコダンサーの重鎮、ラ・チャナはモリーナを「自分の孫になれる存在」と才能を絶賛しており、ラ・チャナとモリーナの貴重なセッションシーンも今作の大きな見どころとなっている。

なおこの作品で制作過程を追った公演の全編を収めたライブ映像作品『ロシオ・モリーナ LIVE-カイーダ・デル・シエロ』も4月11日(土)より名演小劇場ほかにて全国順次されることになっている(東京都写真美術館ホールは同館が3月15日まで事業休止・中止のため公開日未定。アップリンク京都にて近日公開)。


「ロシオ・モリーナの体には美しさと悲劇性が同時に宿っていると思います。ロシオは、パンツ姿でフラメンコを踊った最初の女性カルメン・アマヤの奇抜な道を押し広げ、それまで男性に支配されていた環境を撃ち砕きました。ロシオのダンスには、伝統と現代性が混ざり合っています」(エミリオ・ベルモンテ監督)


フラメンコの伝統とその革新の間にある巨大な亀裂を撮影する

──このドキュメンタリー映画を制作した意図はなんでしょうか?

「美しいものは、恐ろしいものの始まりであり、私たちはかろうじてそれを耐え忍ぶのである」リルケのこの言葉は、長い間私の心の中にありました。ロシオ・モリーナのパフォーマンスを見た後、私はそれについて考えていました。ロシオ・モリーナを追うことで、美しくて悲劇的なフラメンコの伝統とその革新の間にある巨大な亀裂を撮影できたら?
本作でロシオは芸術を創造する中心にいます。私は、ロシオの中に生まれたテンションが、ダンスとして表に現れる確かな瞬間を見つけたいと思いました。このドキュメンタリーで撮りたかったのは、彼女の純真なる無鉄砲さです。彼女は常にステージで未知の領域に踏み込み、危険に身をさらします。自分自身を失い、そして再び見つける。彼女はまるで石のように、固い意志を持ったアーティストです。「芸術は私が恐怖を知らない唯一の空間」と彼女は何度も繰り返します。私はこの勇気、このリスクを受け入れる様を撮影したいと思いました。
ドキュメンタリーに収めることで、21世紀を超えても彼女のフラメンコを人々が見ることを期待しています。その意味で、この作品はロシオ・モリーナのダンスを通して、私たちの時代の痕跡を後世に残すプロジェクトだと思っています。

映画『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』エミリオ・ベルモン監督
映画『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』エミリオ・ベルモン監督

──スペイン生まれのあなたにとって、フラメンコとはどのようなものなのでしょうか?

私は40年前にアンダルシアのアルメリアで生まれました。私の家はフラメンコ一家ではありませんでしたが、父はアマチュアとしてフラメンコをやっていました。70年代から90年代のフラメンコが、私の幼少時の芸術教育の基盤でした。今でもマヌエル・トーレの歌を聴くと泣けてきます。これらの歌は、共有された痛みの記憶です。そしてその痛みは、歌と美しさでのみ取り除くことができるのです。
私は23歳の時にフランスに来て、そのまま居つきました。そして他の音楽や文化に出会い、フラメンコから徐々に離れていきました。フラメンコは停滞していて、目新しさのないものだと思っていました。フラメンコについてはすべて見てきたと思っていたのです。しかし、ロシオは、イスラエル・ガルバンに続き、私のこの確信を根底から覆したのです。

映画『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』
映画『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』

最も尊敬する点は大胆さ

──あなたが考えるロシオ・モリーナの魅力とはなんでしょうか?

ロシオ・モリーナは、若くしてフラメンコの生ける神話となりました。彼女はフラメンコの芸術をコンテンポラリーダンスの領域へと推し進め、観客や批評家を魅了しています。初めてロシオが踊るのを見たとき、その信じられないほどモダンな身振りに魅了されました。
また、彼女の体には美しさと悲劇性が同時に宿っていると思います。ロシオは、パンツ姿でフラメンコを踊った最初の女性カルメン・アマヤの奇抜な道を押し広げ、それまで男性に支配されていた環境を撃ち砕きました。ロシオのダンスには、伝統と現代性が混ざり合っています。
彼女のダンスは私に語りかけ、子供だった頃に私を連れ戻します。彼女について最も尊敬する点は大胆さです。彼女のダンスは、伝統的なフラメンコのコードを破り、現代のメインテーマや現代的に翻訳された悩みに情熱的に向き合っています。

映画『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』
映画『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』

──非常に美しく、臨場感がある映像ですが、撮影はどのように行いましたか?

この映画は、3つのシーケンスを撮影しました。まずロシオのダンスで、即興、リハーサル、シャイヨー国立舞踊劇場のステージを複数のカメラで捉えました。次に、映画の流れを作るため、時系列に沿った主要なテーマを形成するクリップの撮影で、ロシオの舞台創造のプロセス、旅、実家、彼女を取り巻く人々との関係などを撮影しました。そして三番目は、ロシオや関係者のインタビューです。私たちは、固定レンズ、主に35mmと50mmのレンズを使用して、より映画的な画を意識しました。ライブシーケンスは、カウンターショットと固定フレームでいわゆる「ライブ」映像からの脱却を図りました。またダンスを撮る時は、2つの補完的なオプションを使用しました。 一つはクローズアップで、ロシオの動きを「その場で」観察し、もう一つは望遠レンズを使用したロングショットで、感情を捉え、彼女の身体に近づくことを狙いました。サウンドは、ロシオのサウンドエンジニアと協力して、最先端のサウンドデザインを追求しました。マイクを地面に置き、その場の空気やロシオの呼吸さえも録りました。映画の音楽は全てライブで録音されたものです。

映画『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』
映画『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』

──この映画を撮影するにあたって、ロシオとはどのような話をしましたか?

私たちが撮影を始める前にロシオに最後に会ったとき、彼女は私にこう言いました。「エミリオ、この映画を作るのなら、私たちは徹底的にリアルなものを目指す」。彼女の言葉によって、私の責任は大きなものとなりました。彼女の創作の旅において、そしてフラメンコの歴史において貴重な時間を彼女と過ごすことが私の責任で、引き受けるべきことだと思いました。そして、ロシオに対しての私の視線は、フラメンコという人類の共有遺産から生まれたものですが、それが一気に世界に向けられたのです。
最終的にこの作品は、イメージ、リズム、正確性、勇気を要するという点において、映画というよりもダンスに近いものになったと思います。

(オフィシャル・インタビューより)



エミリオ・ベルモンテ(Emilio Belmonte)

スペイン生まれ。監督、詩人。バレンシア大学で工学と文学を学んだ後、1999年にフランスに移住。テレビドキュメンタリーの監督となる。本作は彼の初の長編ドキュメンタリー。




映画『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』
3月13日(金)より、東劇ほか全国順次公開
※東京都写真美術館ホールは同館が3月15日(日)まで事業休止・中止のため上映延期

監督・脚本:エミリオ・ベルモンテ
撮影:ドリアン・ブラン&トーマ・ブレモンド
録音:シャビエル・アルヴァレズ
編集:マチュー・ランブリオン
出演:ロシオ・モリーナ、ホセ・アンヘル・カルモナ、エドアルド・トラシエラオルーコ、パブロ・マルティン・ジョーンズ、ラ・チャナ
2017年/フランス、スペイン/85分 /カラー/スペイン語/原題:Impulso  配給:トレノバ、ノーム

公式サイト


▼映画『衝動―世界で唯一のダンサオーラ』予告編

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