映画『COMPLY+-ANCE』より、齊藤工監督のパート「COMPLY+-ANCE」
斎藤工が映画監督としての名義「齊藤工」で企画・原案・撮影・脚本・監督ほかを務めた映画『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』が現在アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺で上映中。webDICEでは総監督を務めた齊藤監督が製作の経緯を語ったインタビューを掲載する。
インタビューでも語られているように、この作品は、ある売れっ子女優の撮影現場をコメディタッチで猫写した齊藤工監督によるパートを基軸に、岩切一空監督が得意とするフェイクドキュメンタリー形式で映画撮影の裏側を捉えた「COMPLY+-ANCE 序説」、そしてミニチュアセットでハードボイルドな世界を作り出す飯塚貴士監督の「C.C.C.C サイバー・コンプライアンス・コップ・カルヴィン」の3部構成により、自主規制で窮屈になった現代社会をアイロニカルに描いている。そして、上映ならではの仕掛けも施されているので、ぜひ劇場で齊藤監督の意図を確かめてみてほしい。
「“コンプライアンス”というのは、映画制作に携わる人たちをはじめとする、多くの表現者たちにとって、今は、より“課せられていっている”テーマと言えると思うんです。そこで、本当に、いちファンの立場から、岩切一空監督と、飯塚貴士監督に、『同じテーマで作品を作ってほしい』ということでお願いしまして、“ビュッフェ・スタイル”でいこうと、最終的にこのような作品に流れ着きました」(齊藤工監督)
コンプライアンスはいま表現者に課せられているテーマ
──本作を制作したきっかけは?
とある10分の作品を撮る企画がありまして、その作品の制作が進行しないまま、企画用に書いていた脚本が浮遊している状態だったのですが、結果的に(その企画は)動かなそうだったので、10分とは言わないまでも、20分~30分の短編にはしようと思っていて、1年ちょっと前(2018年)末に撮影しました。そこで出来上がったものの尺が1時間弱くらいになってしまって、これでは映画祭にもエントリーできないというような“不思議な中編作品”が生まれてしまった。それで、自分が題材にした「コンプライアンス」というのは、映画制作に携わる人たちをはじめとする、多くの表現者たちにとって、今は、より“課せられていっている”テーマと言えると思うんです。そこで、本当に、いちファンの立場から、岩切一空監督と、飯塚貴士監督に、「同じテーマで作品を作ってほしい」ということでお願いしまして、“ビュッフェ・スタイル”でいこうと、最終的にこのような作品に流れ着きました。
映画『COMPLY+-ANCE』齊藤工監督 ©Takumi Saitoh
──他の監督の作品についてお伺いします。まず最初に上映される岩切一空監督「COMPLY+-ANCE 序説」についてはいかがですか?
“岩切一空の才能を買っている”という表現になってしまうとおこがましいのですが、岩切監督の『花に嵐』を観た時に、あまりの才能にちょっと絶句しました。はじめて園子温監督の作品を見たときのような監督とも違うのですが、とにかくヤバかった。清水(康彦)さんにも「すごい監督がいます」と薦めました。すると、清水さんは基本的に人を褒めないんですよね、ほかの才能を(笑)。なのにそんな清水さんも、食らってしまった。「ヤバい、会いたい」と。清水さんがそういう反応を示したということも、僕には大きかったですね。「だったらこの人と映画を作りたい」と言う衝動が生まれました。その後、僕がパーソナリティを務めるラジオに岩切さんにゲストで出演していただいた際に最近何をしているかを尋ねたら、その答えが「引越しをする」だったんです(笑)。「全然映画を作れていない」と。不時着した作品が何個かあって諦めすらあった様子でした。それで「コンプライアンス」というざっくりとしたテーマで制作をお願いしたのですが、正直これは、つぎに岩切作品がつづいてくためのブリッジ的なものでもいいかなと思った、というのが本音です。
映画『COMPLY+-ANCE』より、岩切一空監督のパート「COMPLY+-ANCE 序説」
──つづいて飯塚監督の作品「C.C.C.C サイバー・コンプライアンス・コップ・カルヴィン」は、コンプライアンスをストレートに扱っていましたね。
飯塚監督の作品は、過去に僕も声優をやらせていただいたりしていますが、飯塚監督の作品とのスクリーンでの最初の出会いがまず衝撃だったんです。というのも、エンドロールに出てくる名前が、彼ひとりだったんです。これは「最強だな」と思いました。この作品制作の姿勢へのリスペクトが本作『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』で僕の肩書がたくさん並んでいることにつながっています。飯塚さんは声も全役やっていますが、たまに演じ分けられてなくて(笑)。そういった面も含めて、作品を観た時にすごく「愛おしい監督だな」と思いました。声優のお話をいただいたときは自分がその世界観を壊さないかと不安だったのですが、その時は飯塚監督の側も新しいことに挑戦したいということだったので出演したんです。それで、本作にお声をかけたというのも、飯塚さんご本人は本当に穏やかな方なのですが、今までの作品に“毒っ気”がしっかりあったんですよね。だから、飯塚さんの世界のなかだからこそ生まれる生生しさと言いますか、“生身の人間には出せないモノ”が宿ったらいいと思ったんです。そうしたら、やっぱり湯水のように「コンプライアンス」が彼のなかから溢れ出てて、本作のなかでも最も理路整然と現代のコンプライアンス、とりわけ“映像を作る人間として”のコンプライアンスを感じる作品を生み出してくれました。
映画『COMPLY+-ANCE』より、岩切一空監督のパート「C.C.C.C サイバー・コンプライアンス・コップ・カルヴィン」
苦しいことは笑いで跳ね飛ばせる
──上映順は最初からこの通りにやろうということで両監督に依頼したのですか?
もともとそうで、岩切監督に先制パンチを打ってもらい、中継ぎというのもおかしいですが、飯塚監督が続くという。ただ、作品が出来上がってきたら、あまりにも僕以外のお二方の監督作品のテーマ性やクオリティが高かったので、そのあとにピントのやや合っていない僕の作品がくるっていうのは「ちょっとまずいな」と思って、じつは二つ前のバージョンでは、最後に岩切さんの作品がきていたんです。でも、僕のパートはコメディなので、「客観的に笑っていることが笑えなくなってくると言う風になったらいいな」という意味合いでは、最後でいいんじゃないか?と思いました。
──さらにその後に仕掛けがある作品ですね。
はい。この映画は、体感することが大事だと思っています。自分のことなんだよということを見ている人に突き刺したい。ある種の衝動で作ったものではあるんですけど、時代が日々リンクしていくようなところがあるというのでしょうか、日増しに意味深くなっていく作品と言えると思います。その点で、このタイミングで公開できることは嬉しいですね。2019年から実験的な試写も経て、物語の構成も組み直したり前後したり、本当にその度に編集・プロデューサーの清水康彦さんや小林有衣子プロデューサーを泣かせてしまいながら、それでもこの作品を妥協なく作っていくことにすごく意味があって。公開されているものは一番いい状態になったんじゃないかな、とは思っています。ただ、この作品はこれからも進化していく作品なんです。
映画『COMPLY+-ANCE』より
──衝動から始まった作品を日々進化する作品に昇華させていく、その根幹にはどういった思いがあるのでしょうか。
雑誌「映画秘宝」で僕は10年以上連載させてもらっていて、おなじく江頭2:50さんが連載していましたね。連載陣はキワモノの人が多かったんですけど、僕を含め(笑)。そのなかでも突出していた江頭2:50さんは(「映画秘宝」休刊後に、Youtubeで)「エガちゃんねる」を開設しました。そして僕は『COMPLY+-ANCE コンプライアンス』を作った。そのことが、どこか日本映画に対する“憤り”みたいなモノになっているような感じがします。ただ、それは“憤り”というのは、ものを作るときの「はじまり」になるんだということを同時に強く感じるきっかけでもありました。スムーズで平穏な日常を描く作品も僕は嫌いではないのですが、映画史を振り返ってみると、「何かに抗う」ということが、それこそ僕が本作を作るにあたって意識していた黒木和雄監督の『原子力戦争』のようなATGの時代の映画もそうですし、ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』をはじめとするアカデミー賞関連の作品にしても、つねに時代の不具合にポイントを置いて作られてきている。
今後この作品がどうなっていくかはわからないですが、はじまりとしては意外に健全な衝動だったと思います。“個人コンプライアンス”といえるものが、いま、誰しもの日常にもあると思うんです。ですから、この作品をご覧になったお客様の日々の自由/不自由さと、この作品がどこかでつながって、“出口という名の日常への入り口”から皆さんがそれぞれのコンプライアンスと向き合うきっかけになったらいいと思います。それから、“苦しいこと”ってたくさんあると思うんですけど、“笑い”という角度で跳ね飛ばせる。今回この映画の、とくに僕のパートではギャグにしちゃうという、モンティ・パイソンやスネークマンショーのような角度というのは、意外と“希望”なんじゃないかと学びましたし、今後も、真面目さを見せながらも、ときに鼻をほじりながら、映画を作って行きたいと思っています。
齊藤工(さいとうたくみ)
パリコレ等でのモデル活動を経て2001年に俳優デビュー。主な出演作に、『昼顔』(17/監督:西谷弘)、日仏シンガポール合作『家族のレシピ』(18/監督:エリック・クー)、『麻雀放浪記2020』(19/監督:白石和彌)などがある。企画、製作、主演を務めた『MANRIKI』(19/監督:清水康彦)が11月29日公開。俳優業の傍らで映像制作にも積極的に携わり、齊藤工名義での初長編監督作『blank13』(18)では国内外の映画祭で8冠を獲得。HBOアジア放送のクー監督の企画第二弾「FOODLORE」に前作「TATAMI」(18)に引き続き監督として参加。また白黒写真家としてパリのルーブル美術館での学展に参加し銅賞を受賞。劇場体験が難しい被災地や途上国の子供たちに映画を届ける移動映画館「cin?mabird」を主宰するなど、マルチに活動している。
映画『COMPLY+-ANCE』
アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺にて上映中
企画・原案・脚本・撮影・写真・声・総監督:齊藤工
出演:秋山ゆずき、平子祐希(アルコ&ピース)、大水洋介(ラバーガール)、古家翔吾(元・曇天三男坊 現・TCクラクション)、華村あすか、中井友望、川島直人、山元駿、半田美樹
監督:飯塚貴士、岩切一空、齊藤工 and more!!!
音楽:狐火、GARI
脚本:はしもとこうじ
プロデュース:小林有衣子
プロデュース・編集:清水康彦
制作プロダクション:イースト・ファクトリー
配給・宣伝:SPOTTED PRODUCTIONS
2019/日本